透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

祭祀の足音

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この頃、ずっと考えている。


お風呂の時、あの白いリラックス空間でモクモクとした雲を出しながら。

朝の、お茶タイム。
窓から差し込む朝の光、これがもし、雲の無い空だったらもっと清々しいだろうか。
そんな事を思いつつ、カップの紅いお茶を目に映しながら。

図書室に入った瞬間、本の匂い、独特の空気感とあの包まれている雰囲気。古いものに囲まれる感覚を気持ちよく感じながら。

そんな中、同時に私の頭を占めるのは「どう祈るか」ということだ。


しかしながらそんな時でも否応無しにやってくる、翻訳や祭祀のあれこれ、デヴァイから来た人達の視線や、あの白の本の事。

そう、あの後「私達が」の件については、やはり、一旦保留になった。

私は勿論、どうしていいか分からなかったし。

みんなも、顔を見合わせて考えあぐねている様だった。


「どのくらい、残っていると思いますか。」

「どうだろうな。今度エルバの所に行ってくる。」

「お願いします。体感だと、どのくらいです?でも殆ど帰らない、あなたじゃ判らないですよね………。」

「まあ、そう言うな。ちと、伝手を調べてみる。」


多分、「この顔」に心当たりのある人間がどの位、残っているかそれを調べるつもりの三人。

私が考え得る対処法は、一つなのだけどそれはやりたくない。

私は私を偽ってまで、自分を安全圏に置きたいとは。
やはり、思っていなかった。

これまでにも、髪や、目は。
周囲の迷惑にもなるし、事情が分からなかった私には隠すしか無かったけれど。
ここまで来て、なんとなく事情を把握して危険もある事が分かって。
それでも尚、自分が隠れなくてはならない、その理由が思い付かなかった。


だって。
私、悪い事してないし。

なんで、

コソコソしなきゃ、いけない訳?

隠れるなら、悪い人、でしょ??


そう、考えて自分がやはり怒っている事に気が付く。

それは、そうだ。
でも。

ずっと考えていた、その「どう祈るか」の中に。

「怒り」は入れたくなかった。

分からない、でも結局、土壇場で怒りが湧いてくるかも知れない。
それならそれで、その時の「想い」を制限するつもりはないし、多分難しいだろう事も分かる。


でも、初めに持つ、私のスタンス。

祭祀へ臨む、その在り方として。


「静」「静かに」「静寂」


これを軸にして、祈ろうという気持ちが固まっていた。


怒りに任せて、力を振るう事は簡単だ。

悲しみで支配されて、沢山の雨を降らす事も、可能だろう。

憎しみで、その名前が挙がった誰かを殺めることすら。

多分、可能なんだろうけど。



「それじゃ、駄目だしね………。」


夜、こうして窓辺に座り暗色の雲を眺め窓枠の感触を確かめていると。

何気ない、この日常の積み重ねで日々ができている事がよく、分かって。

綺麗に端を揃えて畳まれた膝掛け。
お気に入り棚の配置間隔。
ベットカバーのピンとした、張りと整えられた枕、きちんと畳まれたパジャマ。

朝起きて飲む、お茶の選択、お湯の加減。
茶器を片付けて、今日の髪型を決めて。
図書室で何を先にやるか、誰が来るかを考えて。
誰に合わせて、何をするか大体決めておく。

昼食でどのメニューを選んで、何を飲むか。
午後は何をして過ごすのか。
夕食は、お風呂の時の石の色は、パジャマは何を着るのか。


それを、「考える」こと、「考えられる」こと、「考える事が許されていない」人、そもそもの「選択肢がない人」のことを、考えること。


何故、生まれて。

どうして生きていくのか。

何の為に。生きているのか。

それを、「考える人」「考えない人」の違いは何か。

「与えられているもの」の違いなのか、それなら同量持っていれば皆、同じなのか。


わからないけど。

考える。

私には、それが許されているから。

考えることが、できるから。

それに、考えずには、いられないから。



いつか、大人になったら。

答えが、出るのだろうか。



夜の中にも一際、白い雲が流れてきて自然の不思議を思う。

色々な、想いがあって。
沢山の暗い色が横たわるこのグロッシュラーは、灰色に覆われている。

しかしこの、灰色の世界の中で。

私は、暗い色に囚われずに見つけなくてはいけない。

何処にも、行き場のないものたち、一つ一つ、全てを。

だから、強い感情に支配されずにこの大地を見つめる事ができなくては、いけないのだ。

旧い神殿から。
新しい、神殿まで。

島の端から端まで、ぐるっと裏まで漏らす事なく確認しなければならない。

置き去りに、ならないように。
忘れて、しまわないように。
取りこぼして、いいものなんて。

一つも、ないのだから。


静かに、耳を澄ませて。
隅々まで確認して、みんなを送る。

ああ、それならやっぱり。
扉は、必要だろうな。

すっかり、忘れたフリでもしようと思っていたけど。

あの、森へ、繋がる扉を。
開かなくては、ならないだろう。

そうか。そうすれば、みんな輪の中に戻れるよね?

オッケー、バッチリ。



一つ、解決を見た私のぐるぐるは一旦止まり、部屋の中の金色に注がれる視線。

窓の外を見ていたけれど、金色が部屋に入ってきたのは、分かっていた。

あの、ピンと張ったベットカバーの上に座っている。


美しい刺繍の白いベットカバーに座る、金色の彼。

今日はアラビアンナイトだ。
この格好が、一等好き。
私の作った服も、最高なんだけど。
この服は、「彼そのもの」な気がして。

いいんだよね、うん。

口に出そうかと思ったが、口を開くのは止めた。

この夜の静かな空気を、壊したくなかったからだ。


今日も静かに流れる夜の雲が、私たちの間の床を緩りと変化させ彩っていて。

金色の陰影が美し過ぎて、ただそれを、眺める。


この、感覚。

触れなくとも、チカラが少しずつ、増えるような、何か気持ちいいような不思議な感じ。

胸が、いっぱいになる気がして思わず胸に、手を当てた。



何を美しいと思うのか。

何を、よしとするか。

何を、して、何をしないのか。

何を見て、何を感じて、それを、するのか。


一つ一つの、選択が私を形作っていて。

その小さなことが、積み重なり私は大きくなっていくんだ。

それが、感じられるようになった、この旅。

多分、これまでの私の世界でただ毎日、学校に行って、みんなに合わせて。
やっていたら気が付かなかったであろう、この感覚。


自分を、「見る」ということ。

自分を、「知る」ということ。

物事を深く考えて、選択をすること。

「自分がどうしたいのか」きちんと考えること。


だからやっぱり。

今度の、祭祀ではみんなに、それを祈って欲しいと思う。

何が欲しいとか、どうしたいとか、その、前に。


「自分をいっぱいにすること」

それを、祈って欲しいと思った。


その、欲しいものを手に入れれば本当に自分が満たされるのか。
それは、誰かの目を気にしている結果の欲ではないか。

何故それをしたいと思うのか、それは「自分の」ためなのか。

複雑に絡み合ったこの世界の何かや誰かの為じゃ、なくて。

ただ純粋に、「自分を満たす」為だけに。

祈ること。


難しそうだな?
できるかな?

いや、やんなきゃ。

どう、する?
難しいよね、伝えるのは。
解って、もらえないかもしれない。

満たされる、ってどういうことだろうか。

欲しいものでいっぱいになること?
好きな人がいて、好きになってもらえること?
偉くなって、尊敬されることとか?



でも、それでも「ひとり」だったら。

少しでも「私はひとりだ」と「虚しい」と感じてしまったなら。

満たされてない、よね…………。


チラリ、視界に入れる金色。

うん。
何だろうな………。

見てる、けど。


いつもの様に、私のぐるぐるをただ、見ている金の石。
それはそこに、在るだけで美しい存在ものである。

私は、彼が好きで。
彼も、私を好き。
守ってくれるし。
チカラ、もくれる。

ぅぅ…………。

思考をギュッと、戻して再びぐるぐるの中へ逃げ込む。


満たされて、いると思う。

でも多分、それは最近で。
あの時、あの旧い神殿で彼が。

「私を」必要だと、言って。



ああ、そうか。


「私」なんだ。



自分に置き換えてみて、ストン、と落ちてきたこの感覚。

何だろう、自覚?自信?
納得すること?

そう、多分、どれだけ彼が、私に愛の言葉を囁いたって。

私がそれを、受け入れられなければ。
成立しないし、満たされる事も、ない。

私が自分を「「彼が好きなのは私」である」と、認めて。

自信を持って。
私が、私を認めて。

好きに、ならなきゃ駄目なんだ。

自分の事が嫌いだったら、どうしたって卑屈になる。
信じる事も、できない。
自分の事も、彼の事も、他人ひとの事も。


私は、私の事は好きだ。

そりゃそこそこ馬鹿だし、失敗もするし、能天気だし、すぐ泣くけれど。

でも、自分の嫌いな事はしないし、できないし、やりたいことをやる、きちんと考えて、進んでいる。
それには、自信が持てる。


それに何故だか、私は知っていた。

自分が、自分を見捨てたら。


それを拾う者は、現れないのだということ。


多分、親兄弟なら拾ってくれるかもしれない。
でも、いつまでもおんぶに抱っこじゃ、いられないし。
いつかは、ぬくぬくした巣から巣立たなくてはならない事を、知っているから。

他人に、無償の愛を求めることは、できないのだと。

、いたのだ。


「唯一人」を見つけられなければ。

が一生、続くということ。
「一人で立つ」ということ。

それは、当たり前だけれど。

「二人」なら、もっといい。

「一人」も「二人」も、何人でも、それを選択するのは自分だ。


でも、私は「二人」が良かった。


何故なのか。
どうして、なのか。

それは「あの人たち」の影響なのか、分からないけど。


その「唯一人」を求める為に、私はいけなかったんだ。



チラリ、と再び金色を見る。


それは、何処からなのか。

私が私を嫌いになりたくなくて、ずっとやってきたこと。
幸いにも自分を好きになれて、人を好きになる土台があったこと。
そうしてこの旅に出て、好きな人ができたこと。
その「想い」を交わすことができて、「唯一人」の存在に出会えたこと。

ディディエライトや、セフィラと、同じように。


もう一度、自分の胸に手を当てる。

「ここ」に、あるからなのだろうか。
二人の、「想い」が。


ジワリと染み込んだ想いが私の中を、巡る。



だから、みんなにも自分を好きになって可能性を広げて欲しいと思う。

一人が良ければ、一人でもいい。
でも二人が良ければ、二人でも、いい。
仲間なんて、何人いたって、いい。

それを、まず。
自分を認めて、いっぱいにして、好きになるところから。
始めて、欲しいんだ。


いやでもコレ…………。
結構、難しいな…………この世界で、でしょ?

何も思い通りにならなくて、敷かれたレールで、「自分のこと」や「自分が何が好きか」をわかっている人がどれだけいるだろうか。

いやいや、でもやらないという選択肢は無いのだよ。うん。


ま、とりあえず。
何事も、一歩から。

子供達も、変わってきた。意味は、あったんだよ。
大丈夫。
頑張れ、私。



そう、頑張るから。



再び、チラリと見た金色の彼は何やらさっきよりも燃えている気がするのは気の所為だろうか。


あれ?

れれ?


スッと立ち上がって私の所に歩いてきた金色は、やはり燃えていて、そこそこいい焔に包まれている。

無言で、ヒョイ、と抱き上げられた。

「?!」

ベッドに運ばれ、布団もかけられる。

「?大丈夫?どうした、の?」

あの「嫌なものを見る目」が酷くなっている気焔は、私をチラリと見ると「吾輩も解らん」と言ってスタスタと出て行こうとしている。

「え?どこ行くの??」

「………まぁ。大人しくしてろよ?すぐ、戻る。」

そう言って、溜息を一つ置いて出て行った。


えーーー?

ここから、癒しタイムじゃないの??!



ブツブツ、愚痴を言いつつも眠気には勝てないと眠りに落ちる頃。

ふんわりとした金色に包まれたのが分かる。

「遅いよ………。」

そう、呟いて眠りに落ちた私。


その後、彼が何かを呟いてたのかは知る由も無かった。





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