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7の扉 グロッシュラー
手紙と本の関係
しおりを挟む「あの、その、ディディエライトという人が…………。」
どうやって説明、しようか。
私の、夢?記憶?感覚?
それだって、結構曖昧だ。
でも。
「この本」は実物で存在していて、中にあるのはディディエライトからセフィラへの手紙、多分それが、まじないで製本されているのだ。
そう、この本は。
ディディエライトが作ったものでは、あり得ない。
だって、そもそも「絵に祈る」って書いてある。
ディディエライトが健在だった頃は、きっと長もおじいさんじゃなかった筈だし(だよね?)、絵にもなっていなかっただろうと思う。
多分だけど。
セフィラがこれを、残しておく為に。
いや、もしかしたら。
「一緒に。してあげたかったんだよね………。」
どう、なったのかはっきりは思い出せないけれど。
あの夢の中で感じた、胸が引き裂かれるような気持ち。
セフィラは何を感じて。
これを、一緒にしたのだろうか…………。
「どう、します?呼んできましょうか。」
「そうだねぇ。でも捕まらないかも知れないよ?」
「確かに。あの人神出鬼没な感じがします。」
再び私が泣き出したので、二人は気焔を呼ぶべきか相談を始めてしまった。
早く「大丈夫」と言いたいのだけど、私の中の何かが膨らんで、まだ戻れそうにない。
でも、説明しなきゃ…。
仕方が無い。
とりあえずそっと、左耳に触れた。
「そろそろ、いいか?」
「う、ん。多分。」
もう少し奥にある、ラガシュのスペース。
まじないを張ってもらって、懐に入れられている所である。
「ごめんね、呼び出しちゃって。」
「いや。何かあれば、すぐ、そうしろ?手遅れになる方が困る。」
確かに。
頷きつつも、大きく深呼吸して気持ちを切り替える。
「どれ。」
顔を両手で挟まれ、確認される。
多分、この状態が気まずい事は分かっている筈の気焔は、少し楽しそうに私をぐるりと観察するとパッと手を離して、こう言った。
「ここは、部屋では無いからな。」
どういう意味?
再びあの「ちょっと嫌なものを見る目」をした彼はそのまま、まじないの外に出て気配を窺う。
私も髪やローブの乱れを確認して、外へ出た。
きっと二人は、まだ待っている筈だ。
あの本の、秘密を知る為に。
そうして気焔に送られつつ、テーブルへ戻った。
「何か面白そうな話になってるじゃないですか。」
そう言って話に加わっていたのはラガシュだ。
トリルの隣に座っていたので、私はイストリアの隣に座る。
気焔は「また迎えに来る」と言って、再び何処かへ行ってしまった。
本当に私を慰める為だけに戻ってくれたのだと思うと、なんだか顔が熱い。
「面白そう、ですか?」
両頬をピタピタしながらそう言うと、トリルに疲れた声で言われてしまった。
「待ちくたびれましたよ…最初に結論をお願いします。」
「うん?」
「そうだね。何しろ初めっから脱線していたからね。ハハッ。」
イストリアに笑われて、「確かに。」と自分でも突っ込む。
何しろここに座ってから結構な時間が経っている割に、全然進んでいないからだ。
トリルは私が何かに気付いた事が分かるのだろう。
ソワソワとしてペンを持っている。
言っても、いい、よね?
イストリア、トリル、ラガシュ。
座っている順に顔を確認して、口を開いた。
「えっと…結果、から言うとこの本はラブレターじゃなくて。その、ディディエライトからセフィラに宛てた、手紙です。それを、セフィラがこの本に、した。」
「ほう、ほう!面白いな。どうなってるんだ?」
「成る程………じゃあ返答の本は無い可能性が高いですね………。」
「見つからない様に、ここに、納めた………?」
三者三様の反応を、見ていた。
三人ともが全く違う所に反応しているのが面白くて、一人クスクス笑っているとラガシュにキロリと睨まれる。
「笑っている場合じゃありませんよ」という顔。
どうしてだろうか。
イストリアとトリルは私の言葉から、本の紙に興味深々で二人ともページを擦ったり透かしたりと色々試している。
うん、気持ちは、分かる。
しかし一転、ラガシュは厳しい声で話し始めた。
「この。セフィラという人はどうなりましたか?」
なんと、エルバと同じ質問が飛んできたのだ。
「えっ?」
「リン」と瞬時にまじないを張ったラガシュは、更に身を縮めて私を手招きする。
テーブルに向かい合わせの私達が、頭を寄せ合うと危険な言葉が聞こえてきた。
「もしかしなくても。亡くなってますよね?」
「多、分。」
「成る程。ヨルは知らないのですよね?」
「何がですか?」
「いや、大丈夫です。でも、これで確実だ。判らない筈だ。これはあなたでないと、判らないって事ですからね。」
「うん??」
いや、ラガシュが真剣で、何か大切な話をしてるっぽいのは分かるんだけど。
もっと私に解りやすい様に話してくれないだろうか。
そうして紙談義が終わったらしい二人が話に加わり出した。
「いや、これは素晴らしいね!私も全く、判らなかった。言われてみれば?そうか?くらいだよ。ちょっとあの子に解体してもらおうかね…。」
「やめて下さい。これは貴重な資料です。」
私が止める前にトリルに本が奪われた。
うん、これならきっと大丈夫そうだ。
「この本は、アレですよね、その、まじないを合わせて出来ているって事ですよね?ね?」
「そう、なるな。やはり親子だから出来る技なのだろうけど。しかし、珍しいな?色が同じなのだろう。」
イストリアに確かめた後、チラリと私を見るラガシュ。
一体、何がどうして何が分かったのだろうか。
訊いて、いいよね?
私の話、だよね?
その視線を受け取って、ラガシュは私達に禁書室へ移動する事を提案した。
確かにまじないを張っていると言っても、ここだと落ち着かない。
その提案に飛び付いた私達は、素早く片付けをして禁書室へ向かったのだ。
「いや、流石に私もそこまでの資料は持ち合わせてはいないが。確かにその、可能性は高いじゃろうな。」
早速白い魔法使いにまじないの色について確認したラガシュは、これが訊きたかっただけじゃないだろうか。
ディディエライトと、セフィラ。
二人とも大分前の人。
勿論、ウェストファリアも生まれた時からまじないの色を調べていた訳ではあるまい。
セフィラとは多少年代が被るかも知れないが、まだ小さい頃の事だろう。
て、言うか知ってるのかな?
青の家、ってラガシュは言ってたけど。その辺はどうなってるんだろう?
お昼の鐘が鳴って、トリルは先に食堂へ行ってもらった。
訳がスッキリしたので寧ろもう用はないとばかりに「では。」と本棚の森に消えたトリル。
それに苦笑して見送りながら、私はラガシュの言葉の意味をずっと考えていた。
「私でないと、判らない」のところだ。
一体、どういう事………?
「こりゃ、お前さんの家の本を早目に調べた方がいいじゃろうな?」
「そうですね………。持ち出し禁止とは言われましたが、あちらへ行く前に調べた方がいいでしょうね。なんなら僕が帰ろうかな………。いや、でも祭祀が終わってから………。」
「忙しくても、行ってきたらいいんじゃないですか?里帰りですよね??祭祀は、またやるだろうし。」
その私の一言に、顔が崩れているラガシュ。
イストリアがそれを見て笑っている。
「いや、すまない。フフ、それで?この本の作者と手紙と長の、関係が判った。それでどうしてヨルが?危険なんだ?いや、まぁ元々危険ではあるんだが。」
うん?そうなの?
「うちの方にも確認してからになりますが。そもそも、彼女の行方が分からなくなってから、うちよりも人数を動員していたのがあの家です。そうして、ある時からプッツリと捜索を辞めた。怪しすぎるけれど、証拠も無い。結局、その当時も親子だという事は公然の秘密だったけれど、確定はしていなかった。「そうだ」とみんなが思っていただけだったんですよ。それも、母親は全く判っていなかった。」
「成る程。これだけの違和感無く本を作れるという事は即ち。」
「そう、なんです。これで確定ですね。」
「は………ぁ………。」
絶妙な相槌しか出てこない。
それって、やっぱり?
エルバが、言ってたのと同じ事、だよね?
私の頭がまだ「??」のうちに、話は進んでゆく。
「それで?ウェストファリアはその時、何を?記憶は無いのか?」
「さあ?どうじゃろうな?」
「多分、僕も家に確認しないと分かりませんけど。少し、年齢的にはずれている筈です。それにウェストファリアは興味無かったんじゃないですか?多分、同年代なら名前くらいは知っている筈ですけどね。まぁあなたくらいですよ、そんなに無関心なのは。」
「ふぅむ。」
「しかし何しろ、親子関係は確定しましたがその後「どうなったのか」はまだ予測の域を出ません。とりあえずは慎重に行動しましょう。なんと言っても第一位、ですからね。」
そう、ラガシュが言ってみんなが黙り込む。
何か考え込んでいる、雰囲気。
しかし私は全く解っていなかったので、その、説明が聞きたかったのだけど。
「あの…?訊いても?いいですか?」
しばらく待っても誰も、口を開かない。
先に痺れを切らしたのは、私だった。
「はい、どうしました?」
「その、第一位とか、私が危険な理由?って何ですか?その、エルバも何だか私が追われてるって思ったらしくて。どう、なんですかね?」
そう、私が話したらイストリアが食い付いた。
「おや!もうエルバの所に行ったのかい?」
「あ、すみません伝えられなくて。………ちょっと、あの、まぁ自分の事でうわーってなって、気焔に連れて行ってもらったんです。それで、………。」
「追われてる?」
ラガシュの声が、怖い。
「うーん、最初に私達を見た時。驚いていたけどすぐ、解ったらしくて。とりあえず隠そうとしてくれたんです。でもイストリアさんの話とかをしたら、安心したみたいですけど。何しろ、気を付けろとは言ってました。何だっけ………その、あの「えくそ…なんとか」みたいな人の」
「エクソリプスか!」
「やはり………エルバは、何と?どうして、分かったのです?」
その人の名が出てからガラリと空気が変わった。
イストリアは鋭く私の言葉を遮り、ラガシュも警戒の表情だ。
エルバのあの時の顔も。
そう、「あいつはもういない、こいつは死んだ」と怖い事を言っていた時と同じ、厳しい顔だった。
「その、人やっぱり危険なんですか?エルバはその人がセフィラを狙ってたって……もしかしたら、………ううん、それは確認して下さい。私は何とも言えない。でもとりあえず、私達三人はそっくりだから。気を付けろとは、言ってました。」
え。
あれ。
二人の顔は固まって、くるりと顔を見合わせている。
流石にウェストファリアもチラリと私の顔を、見た。
そんなに?
まずい?
静かな禁書室、今日は私達四人だけのこの部屋はなんだか少し、寂しく感じる程。
それは、この空気の所為かも知れないけれど。
そうして私は、ドキドキと半分開き直りで、みんなの次の言葉を待っていたのだった。
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