透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

私たちの繋がり

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「白というか、透明というか。」

そう言って少し思いを馳せる、エルバ。

私も自分のまじないの色を思い浮かべたけれど、あれを表現するのは中々に難しいと思う。


「虹色にも光るそれは、どう見たってディディに似ていたし何処から見ても高価な事は分かる。そのまま持たせるのは危険かとも思ったけど。きっと、あの子を守る為に石になったのだと子供の私はすんなり思ったんだ。使いの者は睨みつけておいた。子供のする事だから、無視されたかもしれないけどね?精一杯の抵抗だよ。大きくなってここへ訪れた時、きちんと持っている事を知って安堵したよ。本当に、良かった。」

そうして一気に喋ったエルバは、私のトレーの上の水を飲んだ。
どうやら話はひと段落したのだろう、大きく息を吐いてまたじっと私を眺め始めている。

その、視線は気にならなかったけど。
しかし、一気に情報が入ってきて私の頭は混乱していた。

それに。

自分の頭の中とエルバの言葉が、所々でごちゃごちゃになって現実なのか、どうか。
分からなくなって、いたのだ。

そもそも現実なんて事は、あり得ない。
だって、私は「あの子」じゃ、ないから。

でもあの時、私の中であの柔らかい手を取ってから。

やはり、私の頭の中のあの子が影響しているに違いないのだ。


どの話も重要で、どこから手を付けていいのか皆目検討もつかない。

しかし一番気になる部分を、私は見つけた。

「セフィラ、がここへ来た………。」

「そうだよ。でどういった扱いになっていたのか知らないけどね?ああ、女が生まれれば普通はそのまま貴石にいる筈なんだ。でも多分。あの男の、子供だったから連れて行かれた。それであの色だし、どうしたって目立つし何故だかバレたんだろうね。他人の口にはどうしたって戸は立てられない。狭い、世界だしね。母親が貴石だという事が分かったんだろう。「誰が」迄は知らなかったようだけど。訪ねてきたんだよ、ある日。」

そう言って少しだけ表情を緩ませる。

そうして遠くを見る様な目で、確かめる様に話し始めた。

「なんて、言っていいのか。感動とも少し違うし、驚きだけでもない。さっきも私、腰を抜かしたけどさ。でも二回目だから。まだ、良かった。は本当に。心臓が止まるかと思ったよ。まあ今より若かったから、大丈夫だったけどね。」

ここは笑っていい所だろうか。

一人クスクス笑うエルバを見ながら、体勢を変えて座り直す。
話の山場は越えたかと思い、懐から出る事にした。思えばちょっと、恥ずかしいからだ。

「そしてあの子は時々訪ねて来るようになった。私は迷っていたよ。もう、赤子のあの子では無いし、デヴァイの人間からは。私達は「人」扱いされていなかったからね。あの子が育っているのか見極める必要があった。手紙を、渡していいものかと。」

「そりゃね?あの子に宛てた、ものだから。渡してしまっても良かったんだ。でも、ディディがそれこそ、本当に命をかけて書いたものを。捨てられるわけには、いかなかったんだ。私は。」

「小さな頃は、そりゃ解らなかったよ。でも、ここで。沢山の男と女を見て、きた。そうしてね、やっぱり、思ったんだよ。「あんな二人は、後にも先にもいない」ってね。そりゃ、「色」の所為もあったかもしれないけど。あの二人の結びつきは、尋常じゃなかった。解ったんだ、どうしてディディが「仕方がない」と言っていたのか。多分、あの二人は二人で一つだった。お互いの事を、解り過ぎていたんだよ。いいんだか、悪いんだか、ね………。」


「二人で一つ」

その言葉がじんわりと自分の中に侵ってくる。

そうして覚えの無い満たされた感覚と、私の中にある金色が満たされた感覚がなんとなくリンクして何処かのピースがスッと、嵌った感覚がした。

ああ、それで。

エルバは私達を見て「また金色が二つ」と言ったんだ。

勿論、環境も、何もかもが違うのだろうけど。
きっとその二人の関係と私達の関係は、似たものだったのだと自分の中にすんなり堕ちた。

私達は、まだ手を取り合ったばかりだけど。


チラリと隣の金色を見上げる。
考えている事が分かるのだろう、しかし微妙な焔がチラチラと揺れる瞳は「やっぱりな」という様に細まってポケットを探り出した。

久しぶりに出た、あのハンカチ。

それを渡されて、既に前が見えない私。

そんな私を置いて、エルバの話は続いていく。

「もし。お前さんがあの男に会う事があれば。確かめといておくれ。どうして来なかったのか。ディディはいいと言ったとは思うけど、私は納得してないからね。いや、話が脱線したね。それでね?とりあえず結果的に、手紙はセフィラに渡した。あの子はどこをどう、やったのか知らないけど凡そデヴァイの人間で無いような素直な子に育っていた。誰が育てたんだろうね…?それもお礼を言っておいてくれ?」

なんだか伝言係みたくなってきたけど、大丈夫だろうか。
私の脳みそはまだスローペースである。


「そうして手紙を調べたり、何やら神殿で色々やったりしてたみたいだけどまぁ来たり来なかったりで数年は過ごしていた。しかし、ある時からプッツリ。来なく、なったんだ。心配してた。世界を周るとは言っていたけど、いい人が出来たとかならいいが。まさか、捕まったのかと。」

「…捕まった?」

「そう、始めに話したろう?多分、あの子には結婚相手が決められていた筈だ。連れて行かれた様なものだろうよ。そして姿を見せなくなって、逃げ出して探されてるのかと思ったんだけど。違うのかね?でもお前さんがここにいる、という事は。」

「捕まってない?」

「そう、思いたいね?だって知らないんだろう?」

「そう、ですね………。多分、亡くなっているとは思うんですけど。確かおじいちゃんが再婚してるから………だよね?離婚は無いだろうしな………。」

「ふぅん?その、お前さんの父親?母親?どちらがなんだい?」

「お父さんですね。」

「兄弟は?」

「一人っ子だと思います。確か。」

「ふぅん。まずいね。」

「えっ?まずいですか?」

「そりゃ、まずいさ。あんたの兄弟は?」

「姉と兄がいますけど、この世界には居ません。元の世界に居るし、普通に仕事してるんじゃないかな………?」

「色は、どうだ?」

「色………?普通ですよ、黒い髪、目は少し薄いかな…でも、言われてみれば私が元々、一番薄いかも??」

「やっぱり要素はあるって事だろうね。何しろそっくりだし。その、姉さんはどうだい?」

「…………確かに。顔の系統は全然違います。なんでだろうなぁ。」

「とりあえずお前さんの姉兄に関しては大丈夫だろう。しかし、何しろ直系だからね。用心するのに越した事はないよ。その、ディディを消した男、それが。」

え?

「ずっと、ディディに執着していて自分の息子をセフィラと結婚させようとしていたんだろうな。その、セフィラがいなくなった後勿論、家の者も、探していたけれど。それよりもっと必死というかおかしな様子だったのがそいつらだ。「エクソリプス」覚えておきな。セフィラを探させていた家の名前だ。向こうの事は、よく分からないが名前はそれだ。」

「え、えくそ?」

「「エクソリプス」。息子の名は、何だったかな………。」

帳面をパラパラしながら考えているエルバを見つつ、「エクソリプス」という名を何度か反芻する。

メモ帳が欲しいな?

また頭の中がごちゃごちゃしてきた。
多分、祖父世代と曾祖父世代が混ざってよく解らない。図解が必要だろう。

「何しろ、上手く逃げて好きな事をしてたのならいいんだけどね。あの子こそ、「人」として生きて欲しかった。あの、二人の為にもね。」

あの、二人。

エルバは長の事は、知っているのだろうか。

「その、父親の方って………。」

「私も知りたいよ。何しろ偉い人なんだろうけどさ。もしかしたら向こうで嫁でも貰って、セフィラを迎えるのかとも思ったけど、違ったじゃないか。なってるんだろうね?私達の情報じゃ、限界がある。そもそもディディの事は公然の秘密だ。知っている者も少ないし、話す時は気を付けな。」

「しかし、お前さんは普段からなのかい?」

「?」

意味が分からなくて首を傾げていると、エルバは諦めた様に気焔に注意し出した。

「これだけ似ているんだ。「色」を変えた所で、見る奴が見ればすぐに判る。それにこの、雰囲気。いつもなのかい?あんた達がこれからどうするのかは知らないがね?気を付けな。しかし、どうしようも無いと言えば無い…………。」

最後にまた独り言になっているエルバ、隣の金色は硬い色になっている。


どうやら問題は私のこの似ている顔と、なにか雰囲気?の様なものらしい。

私の、見た目………?
でも、変装とか現実的じゃ無いしな?
それに、まじないで見た目を変えるのも、なんか負けた気がして嫌だし。
しかも雰囲気って、何。どうしようもない気がする。

それに、そんなに知ってる人いるのかなぁ………。


でも一度それについてはしっかり考えなくてはいけないかもしれない。
フローレスの事を思い出しながら、そう考えて、いた。
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