透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

交渉材料

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そうしてイストリアの計画が実行される日が、来た。


あの後造船所で「誰がいつ来るのか」、「銀の家の構成図に変化は無いか」等、私の知らない事を色々と訊いていたイストリア。

「任せておけ。」

私にはそう言って、詳細は教えてくれないのだけど。

何やら大掛かりになりそうな気配だけは、しているこの計画。
一体何が、行われるのだろうか。


そうして更にその、日取りは。

偶然なのか、計画なのかデヴァイからベオ様とリュディアが到着する、という日に決まっていた。





「もう、五月蝿いわよ。」

「だぁって。もう、そろそろかな?どうかな??普通に階段、降りて来ると思う?」

朝に注意されながらも、部屋で私がソワソワしているのは仕方が無いと思う。

そう、あの二人はデヴァイの人間だから。
あの、三階の移動部屋から来るらしいのだ。


そうは言うものの、本当は「あの館から」が正規ルートらしい、デヴァイからの訪問。
しかし今回は何故だか、この灰青の館から来るらしいのだ。

そうして更に、集合場所は禁書室なのである。

怪しい匂いが、プンプンするこの計画に私がソワソワするのも仕方がないだろう。うん。

「そうだよね?朝。」

「何がよ?とりあえず、朝ごはん食べてからでしょう?行くわよ。お腹空いた。」

「はいはい、その後直接行けば、いいよね?ベイルートさん、はもうあっちか………。」


この前私が言ってからは、ちょこちょこ帰ってくれる様になったベイルート。
朝起きた時はいたのだが、もう姿は見えない。

「行くぞ?」

ダイニングから呼ぶ声が聞こえて、いよいよ慌てた私は「待ってよ~」と情けない声を出しながら、まだ、忘れ物チェックをしていた。




廊下に出たら、もう澄ました表情だ。

「いつもそれで、お願いしたいわね?」

そう、言う朝のイヤミを受け流しながら鍵をかけ階段を下る。

意外とお嬢様のフリが身に付いていた私は、折角なので使えるものは有効活用した方がいい事に気が付いたのである。


そうして灰青の扉の前で待っていた気焔と合流すると、白い廊下を横切って食堂へ向かった。




そうしてどうやらかなり、ボーッとしてもいたらしい。

信じられない事に折角の美味しい朝食も、味が半分分からない状態でいつの間にか終わっていた。

「え………ウソ…。」

「何を言っている?片付けるぞ?」

そう言ってお皿とトレーを重ねてゆく気焔を見ながら、フォークの先を見つめていた私。

まだ、あると思っていたサラダのケルを、刺そうと思っていたらお皿が空っぽだったのだ。

「ガーン。」

「ちょっと待っていろ。動くなよ?」

私の手からフォークを奪うと、呆れた目をして片付けに向かった気焔。

私達はいつもの奥のテーブルで座っていて、誰かが近づこうとしたらすぐ分かるこの席を気焔は気に入っていた。
どうしたって、こうして私が一人になる時間は短いながらに発生するからだ。


食事が終わった私は目立たない様に気を付けながらも、ぐるりと食堂を見渡してお目当ての色を探していた。

そう、銀のローブ。
アリススプリングスとアラルエティーだ。

あの後、二人はなんだろうか。

実際問題、あの時、食堂で私を見て立ちすくしていた彼女の事が気になっていたのだ。

もしかして………。

恋愛相談したかったりとか………?しちゃったり、しなかったりしない?
私にも、エローラ的役割をする時が、来ちゃったのかも???


「コラ。行く、ぞ?」

「ひゃ…、」

慌てて口を押さえて、目だけで頷いた。

辺りを見渡していた私は、ちょうど背後に来ていた気焔に気が付いていなかったのだ。
お陰様でやや視線を浴びる羽目になってしまったけれど。

まだ、奥の席は見知った顔が多いから大丈夫だろう。


そう、少しずつだが館から許可を得た家のうち、灰青の寮に滞在できる者は既にこの館へ数人、到着していた。

男子部屋が、どうなっているのか分からないけど。
多分、黄や白の家ならば。
一人や二人は、余分に滞在出来るのだと、思う。
長期でなければ余裕なのだろう。

青や赤の家は、狭いらしいけれど。
青はラガシュ曰く「来ない」と言っていたし、赤はクテシフォン曰く。

「セレベス、ハーゼル、両方の部屋に来るのではないか?」とセイアよりも広さがある、ネイアの部屋に滞在するらしいのだ。
それはどうやら家の中で、身分が高い年嵩の者が来る事を意味するらしく、再びラガシュの「面倒くさい」を聞く羽目に、なったのだけど。


そんな事で、目立ってはいけないと普段よりも言われていた私はそそくさと気焔の後ろに隠れて移動する事にした。

危ない、危ない………。


いつの間にか、一緒に来た朝はいなくなっていて、もしかしたら先に行ったか、部屋へ帰ったのか。

少しだけみんなの足元へ視線を飛ばしながら、食堂を出て禁書室へ向かったので、ある。






「ねぇ?来てるかな?来てるかな??」

「………。」

はい。
ごめんなさい。

目だけで「五月蝿い」と言われてしまった私は、しょんぼりしたフリをしながら本棚の森を歩いていた。


図書室へ入ってしまえば、右側へ進む者は殆どいない。
大抵、左へ折れてセイアスペースへ向かうか右へ行っても奥の方の難しい本の棚だろう。
上級生になる程、その辺りでの遭遇率が上がるなぁと私の中では思っている。

右へ折れて、そのままほぼ真っ直ぐ進んでいる私達の視界に、人影は無かった。



途中、ラガシュのスペースで「あ、行きます。」と言っている彼を拾うと、禁書室へはすぐだ。

白い扉の前、既にボソボソと、室内からは何か聞こえてくる。

「♪、」

「待て。入ってからにしろ。」

既に浮かれ気味の私を抑えると、ラガシュに扉を開ける様に目で指示した、金色。

あれ?金だけど?
うん?中にいるのは………あの、二人といつものメンバーだから?
大、丈夫なの、かな??

その瞳の本気度に、一抹の不安を感じつつも多分中にいるメンバー的に危険は無いであろう事を一人反芻した私。

そう、私の想像通りの面子であれば大丈夫の筈だ。

扉を開けてくれたラガシュに目でお礼を言いつつ、半分気焔に取り押さえられながら部屋へ入った。



「!!」

「だから。落ち着け。」

多分、金色の予想通り、叫ぼうとしている私をしっかりと押さえつつ長椅子まで運ばれる。

私って、一体何扱いなんだろう………?

自分でも少し、そう思い始めた所でやっと金色の腕が、外れた。


「ヨル!」
「久しぶりだな!」

うっわぁ…………!

長椅子に先に座っていたのは見慣れた二人。
二人も私を見ると、すぐに立ち上がって待ってくれている。

とりあえずリュディアの胸に飛び込んで、ベオ様にはアイコンタクトをする。

こっちに飛び込むワケには、いかないからね…。

案の定、ベオ様は既に気焔の様子をチラチラ確認しつつ、挨拶をしていた。
あの、橙の迷路から帰って来た時の記憶が、どうやらまだ新しい様だ。

「なに?どう、だった?良かったね、ここに来られて!反対、されなかった?」

最後はリュディアの顔を見て、訊く。

ずっと、気になっていたから。
あの「家に帰れば敷かれたレールの上」と言っていたリュディア。どうやって、許可を取って来たのだろうか。

ベオ様と、一緒だから?

くるりと向き直って、視線で尋ねる。

一つ頷いたベオ様はチラリと本棚の方に視線を飛ばした。
いつも気焔が、立っている本棚の方だ。

そのまま一緒に、視線を追って行く。

するとそこには、ブラッドフォードが立っていた。

「あ。」

間抜けな声が、出ちゃったけど。

二人の事しか、目に入っていなかった私はやや気まずい雰囲気で「お久しぶりです」と、遅くなった挨拶をしたのだった。



そうして落ち着いて、白い部屋の中を見てみると。

午前中の明るい光の中、白い部屋の本の山の間にはいつもと違う景色が見える。
どうしてだろうか、別の部屋に来た様な感覚である。

その、理由は多分。
未だかつて無い程の人数が、部屋の中にいたからではないかと、思うのだけど。


まず、いつもの奥の机にはウェストファリア。
案の定、話が始まる迄は用がないとばかりに背を向けている。
今日は何を、調べているのだろうか。ここにいる人、みんなのまじないの色であれば、私も知りたいと思う。

そして一番奥の、窓の側に立ってこちらを見ているのは今日の計画者のイストリアだ。

みんなの様子を面白そうに見て、いる。

そして本棚の前にはブラッドフォード。
腕組みをして、ただ立っている。

まぁ、椅子が無いんだけど。
これ、私達座ってていいのかな………。

因みに今は、ベオ様、リュディア、私の順で長椅子に収まっている。
私達三人ならば、座れるのだ。うん。


そうしてブラッドフォードから少し離れた、やはり本棚の前に気焔。
いつもよりも入り口寄りに、立っている。

そして私達の向かい側、一人掛けの一つに座っているのはクテシフォンだ。
チラチラあっちの二人を見ているから、自分が座っていて良いものかと、思っている事が分かる。

そしてこの間と同じく、テーブルの横にラガシュ。

そう数えて行ったところで、いつもよりも三人多いだけなのだと気が付いたけれど、まぁ珍しい事には違いないだろう。


そうしてみんなが一息ついた所で、「さあて。」と言う声が聞こえる。

その、イストリアの声色、いつもと違うメンバー、それも隣がリュディア。

私のテンションは嫌が応にもうなぎ上りだ。

でも、チラリと確認した目の前の灰色と、青の瞳が私を見張っているのが解って座り直したけれど。


兎に角、何が始まるのかと。

ワクワクしながら、待っていたのだ。
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