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7の扉 グロッシュラー
夢
しおりを挟む「お湯!布は?!早く!!」
おばさんの焦る声、姉さん達が走っている。
ああ、どうやら。
もうすぐこの子とお別れのようだ。
私達の、可愛い子。
一目でも。
顔を見れたら、いいのだけど。
どうか。
幸せに、生きて。
気が付いたら、いつもの屋根裏だ。
お腹に感じる重みは、もう無い。
悲しくはなかったが、ただ。
涙が出た。
ずっと。
ずっと、ずっと。
「しばらくは誰も来ないから、ゆっくり休んで。」
そう、姉さんが言って。
食事を持ってきてくれる。毎日。
「誰も」来ない、とは。
どういうことだろうか。
考えたくない。
とりあえず、食べ物を口に運んだ。
可能性が少しでも、砂粒程でも、あるならば。
私は。
生きていなければ、ならない。
そうして初めの頃の生活に戻った私。
雲を眺め、食べて寝て、また食べて、寝る。
そんな、日々。
時折チラリと彼の持ってきてくれた本や小物を視界に入れたが、手に取る事はできなかった。
あれは。
危険だ。
そうしてどのくらい、経ったか。
おばさんが私の身体を確かめに来ると、満足そうに頷いて出て行った。
嫌な、予感。
そこから私の神経を使う生活が、始まった。
食堂へ行く度に、姉さんたちの会話に耳を澄ませ。
扉が開く音に怯える日々。
しかし一筋の希望は捨てきれずに。
まだ、息はできていた。
そう、まだ。
終わりではないと、思いたかったのだ。
そんなある日。
とうとう「今日、客が来るよ。」
そう、おばさんに言われてしまった。
「誰が」とは、訊けなかった。
聞くのが怖かったし、聞いたところで。
私に、拒否する事はできないからだ。
息を潜めて。
待っていた。
そうして扉を開けたのは。
一人の見知らぬ、男だった。
「ああ、これは、いい。」
その、声、話し方、目つきに動き。
全てに鳥肌が立ち、身体が固まる。
解っていた、つもりだった。
ここが、どこなのか。
そう、ここまできてやっと。
私は、幸せだったのだと。
夢を、見れたのだと。
解ったのだ。
ただ、私の胸の中を占めていたのは「この男は受け入れられない」よりも「この男が来たという事はあの人はもう来ない」ということだった。
「あの人はもう来ない」
その事実は。
どうやら私にとって、かなりの事だった。
男が近づいてきて、私の手を、取る。
ああ嫌だ。穢らわしい。触らないで。
ベットに転がされる。
もう。どうでもいい?このままぼーっとしていれば、大丈夫?
しかし、その、男が私の身体に触れた瞬間。
解ってしまった。
「私には、無理だ」と。
どうしよう
どうしよう
でもまじないは使えない
使ったことがない
使ったことがないけど?
使えないの?
わからない
わからないけど でも
これ以上は むり
心が壊れて
好きにされる前に
消えなきゃ いけない
こいつに 触れられた 身体では
あの人に もう 会えない
会えないけれど
今世じゃなくていいから
会いたい
それなら
どう する?
消えなきゃ
もう 駄目
ああ
せめて あの子を
守る
気が付いたら。
白い、森にいた。
なんとなく、ここがティレニアで輪廻の森だという事は分かっていた。
どうしてなのかは。
分からなかったけど。
でも、輪廻の森に来れたという事は。
あの人にも、いつかは会えるのだろう。
それなら、いい。
私が「どう」なったのかは、分からない。
でもきっと。
あの子の側に。
それだけは、願った筈だ。
どんなカタチかは、分からないけど。
私は、何のために生まれて。
どうして、死んだのだろうか。
死んだ、よね?
多分。
何故、人は生まれて。
死んでゆくのだろうか。
私は。
「人」であり得ただろうか。
生きている間は籠の中の鳥で。
「人」では、無かった気も、しなくもない。
ただ、一つだけ。
あの人を知って、あの子が生まれて。
ああ、一目だけ。
一目だけでも、見れたなら。
「人」の親の気分に、なれただろうか。
いつか、あの子にも会える事を願って。
ここに。
待っていることに、しよう。
ただ、静かに。
訪れる時を、願って。
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