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7の扉 グロッシュラー
銀の家
しおりを挟むいつの間にか、本の山の上を玉虫色が移動している。
美しい階段状の凸凹をなぞっていくそのキラキラを目に映しながら、ボーッと二人の声を聞いていた。
あの二人の話は、まだ終わらない。
基本的に雨の降らないグロッシュラーは今日もいいお天気で、曇りながらに差し込む光は強めだ。
やはり、春に近づいているという事なのだろう。
なんだかこうして微睡んでいると、戦闘に関しての話をしているなんて、忘れてしまいそうだ。
そのまま半分ボーッとしつつも、さっき閃いた名案を検討し出した私。
その、名案とは。
そう、シャットからベオ様とリュディアが来るならば。
「兄上は女癖が悪い」
パッとその言葉が思い浮かぶ。
うん?
でも、そんな感じ、しなかったけどな??
以前、図書室で出会って話をした時も。
なんだか油断がならなそうな人だ、とは思ったけれどその「女癖が悪い」という部分は疑問に思った事を思い出す。
そもそも、チャラチャラした雰囲気がほぼ無い気がするブラッドフォードにそんな事があるのだろうか。
………うん、でもまぁ私にそれが見抜けるかって言うと、また別の話になるかも………?
チラリと目線を上げると、クテシフォンは既に二人の会話に参加していて、気焔は再び本棚の前。
いつもの布陣に戻っている。
私が一人、クテシフォンの隣で三人に囲まれながらぐるぐるしている構図である。
「………足りんだろうな。」
「結局、二手に分けるのが現実的じゃないんだよ。私達にも限界がある。」
「まぁな。………そうなるとやはり。どうやって決めるか、だが。」
「ミストラスに根回ししては?」
「それで首を縦に振るといいのじゃが。何か上手い手はあるかどうか…。」
「どちらに、どちらが行くのかを先に決めておくとすれば?それで後からヨルがあちらに決まったと言えば、いい。」
「うーむ。それだけだと直前で覆される危険は、無くもないな?何と言ってもアリスは最上位じゃ。」
私の名前が出て、何となく話が頭に入ってくる。
多分、あっちとこっちの神殿の話をしているのだと思うんだけど。
誰が、どっちに行くのか、って事だよね??
それそれ、私の名案はそれなんですよ………。
「あ、の………。」
唐突に三人の話へ入った、私。
そして多分、私の顔は怪しくニヤついていたんだと、思う。
チラリと飛ばした目線が、金色の溜息を映したからだ。
多分、私が何を言うのか大体想像が付いているのだろう。
三人はピタリと会話を止めると、じっと私を見ている。
クテシフォンだけは心配そうだが、後の二人は楽しそうだ。
それを見て、私はなんだか嬉しくなりながら手振りつきで話し始めた。
「その、どっちがどっちの、件で。私に名案があります!」
ドヤ顔で指を一本出している私に、咳払いを送ってくる気焔。
「迷案の間違いじゃないのか」的な顔をしているけど、スルーしておこう。
「あの、それなんですけど。ちょっと訊いてみないと何とも言えないんですが、協力してくれるかも、しれません。銀の家の、人が。」
ん、ん?
あ、れ?
三人とも、顔を見合わせている。
イストリアは「まさか」という顔だし、ウェストファリアは少し楽しそうな顔なのは変わらない。
しかし、クテシフォンが、いけない。
「この子はどうしてしまったんだ?」という顔をしているのである。
うん、クテシフォンさん私の事本当に何だと思ってるんだろ??
そう感じた私はとりあえず一番に疑っていそうな彼に、話し掛けた。
「クテシフォンさん、そのシェランが連れて来たい、と言っていた人の名前って聞きましたか?」
「あ、ああ。一人は忘れたが、もう一人はあの確かブラッドフォードの弟だろう。」
名前は覚えていないのかと突っ込みたかったが、人の事など言えない私。
とりあえず自分の推理が当たっていた事に小さく喜びつつも、話を続ける。
「その、弟さんなんですけど。私の、仲間なんですよ、フフ…。」
「「仲間?」」
イストリアとウェストファリアがハモっている。
「そうなんです。私達、「本当のこと」を探す為に協力する、約束をしたんです!だからきっと。協力、してくれると思います。………ああ、でもお兄さんが何かアレですけどまぁ兄弟だから何とかなりますよね??」
その、私の問い掛けに。
微妙な顔をした、三人。
ううん、これは、もしや………?
あの、レシフェが言っていた「家族よりも…」的な、話??
考え込むクテシフォン、チラチラと視線で会話する二人。
しかしそんな兄弟間の情報まで、知っているものなのだろうか。
少し、ドキドキしながら待っていた。
キラリと目の前で玉虫色が光を放ち、私に向かって飛んだのが判る。
ちょこんと肩に収まったベイルートは、耳元でこう言った。
「俺も、見ていてあの男は最終的には話せば解る、と思ったけどな?」
最終的には?
それって、どういう事だろうか。
「何か、条件とかがありそうって事ですか?」
「うーん、具体的には分からない。例えば何かを対価として要求するかもしれないし、気に入った奴なら協力するのかもしれない。しかし、何だろうな?ただ弟に頼まれただけ、では駄目な気は、するけどな?」
「えーー………。でも、確かに厳しそうだったもんなぁ………何かはよく分かんなかったけど。」
「ヨル?」
「あっ、はい?!」
そんな会話をしていた所で、ウェストファリアとイストリアの話が終わったらしい。
クテシフォンをチラリと見ると、考える事を止めたらしく、腕組みして私達を見ていた。
「とりあえず君がそう、言うならばやってみてもいいとは思う。だが、もしかしたら何か要求されるかも、しれない。ある意味それは当然の事だ。彼らにとってはな。」
「いつ、来るのじゃ?其奴らは。」
「どうでしょうね?シェランには手配出来次第と言う話はしていますが………。」
三人はやはりベイルートと概ね同意見の様だ。
フムフム頷きつつも、その話を聞きながらブラッドフォードの、あの検分する様な瞳を思い出していた私。
なんて言うか、あの人って…。
何か、対価を要求する、と言うよりは「私を見定めている」感が、強いんだよね…。
だから。
思ったんだ、確か。
「この人は、何か知っているのだろうか」
「私が青の少女だという事は、バレている」
そんな風に、思った筈だ。
「うーーーん?ベオ様に会えば、何か解るかも、ね?」
そう、ベイルートに話しかけてそう言えばシャットでは一緒じゃなかった事を思い出す。
訊くなら、レシフェかなぁ………?
「何にせよ。とりあえず私達の方でも何か、考えてはおくよ。さすがにそれだけでは協力してくれるかは、分からないからね。」
「それに、どっちにしろブラッドフォードよりもアリススプリングスの方が上位だ。それをどうするか、だな。」
「そりゃ中々の見ものかもしれんの?是非、此方に協力して欲しいもんじゃて。」
そうか。
でも確かに、お兄さんが主張したとしても通るのかどうかが、分からないってことなんだ。
うぅ~ん。
私がぐるぐるし出した所で、ノックの音がした。
勿論、白い魔法使いが返事をする前に開いたその扉。
入ってきたのは少し変な顔をした、ラガシュだった。
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