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7の扉 グロッシュラー
根回し
しおりを挟むそうして私がぐるぐるしている、間。
みんなは祭祀についてと、子供達の事について等色々な話をしていたらしい。
そんな中、私を現実に引き戻したのは、聞き覚えのある名前だった。
「………そうした方がいいじゃろうな?そろそろいい時期じゃろう?」
「そうですね。元々、もっと早く帰る予定だったのですが、なんだか面白いものが出来そうとか何とか。シェランが帰れば纏まりもつくだろうしな。」
「シェラン?!」
あっ。
思ったより大きい声が、出た。
パッと口を押さえている私を仕方の無い目で見ている気焔、驚いた様子の白ローブ三人。
少し考えたウェストファリアが、納得した様に口を開いた。
「そうか。お前さんはシャットにも行っとったか。」
「そうなんですよ。え?シェラン?帰ってくるんですか?ウフフ………。」
しかし浮かれた様子の私を嗜める気焔。
本棚の前から注意を飛ばしてくる。
「遊びに帰るわけではないぞ。」
「うん?」
行ってたから、戻って来るんだよね??
そんな軽い気持ちだった私に、説明をしてくれるクテシフォン。
よく考えれば、彼は力の教師だからシェランの事はよく知っているに違いないのだ。
「春の祭祀で警戒を増やさねばならない。もう、シュマルカルデンが前例を作ってしまったからな。表立ってはどうも無いが、こう言った噂は必ず伝わるものだ。それに今回は石の事も向こうに知れているだろうから、力ずくで何とかしようと思う輩も、いないとも限らない。」
「力ずく?何を?」
祭祀を?
何とか、するの??
祈りの場面で、何かを無理矢理どうこうしようという人が、いるって事?
首を傾げている私を見て、程度は違うが仕方の無い目をしている人が、三人。
おかしいな?
何で??
一人楽しそうなウェストファリアは、私を見ながら表情とは全くかけ離れた話を、始めた。
「まあ、簡単に言うと。お前さんを巡って争いが起こる、という事じゃよ。これ迄はまあ水面下、若しくは駆け引きでの攻防じゃったろうが。最悪の事態にも備えるという事だ。」
そう言って私の背後に視線を移した事で、気焔が側に来ていることに気が付く。
一つ、頷いて続きを話し始めたウェストファリア。
「そう、最悪の事態とは。力、戦闘訓練の活かされる場じゃ。お前さんは望まんだろうが、手配はせねばならぬだろうな。」
パッと、横を見る。
ゆっくりと頷くクテシフォンを見て、私の考える事が当たっているのだと、解る。
そう、子供達が戦うという事。
駄目駄目、落ち着いて。
きっと、何か方法がある筈だ。
ポンと肩に手を置かれて、気焔が移動した意味が解る。
その様子を見ていたイストリアが口を開いた。
「極力、そうならない様に考えよう。それは私達の仕事だ。もしそうなった時は、君の方が、怖いからな。」
クスクス笑いながらそう言って、私を和ませようとしているのが分かる。
しかし私は、今一つ自分が理解していない事がある気がして首を捻っていた。
「私、を巡って………?」
それって。
私が「青の少女」だから、って事?
バレてるから??
それとも、「石を創れる」事がバレてる?
それとも………?
なんだろう。
でも、そんな戦ったり人を傷付けてまで?
そもそも、私が嫌だって言っても?
攫われちゃうってこと??
なんだか、よく、分からない。
「あ、の?これ、私は解ってなくちゃいけない部分だと、思うんですけど。イマイチ、理解出来なくて。私を巡って争ったとして、勝った人に私、捕まっちゃうんですか??どう、なるんですかね??」
ぐるりと、三人を見渡して訊いた。
クテシフォンは曖昧な表情だ。
何と言っていいものか、考えている感じ。
イストリアは腕組みをして、チラリとウェストファリアに視線を投げた。
それを受け取ったウェストファリアは。
なんと、答えるのだろうか。
「そう、難しい事ではないと思うが。ただ、問題はお前さんが捕まる事では、無い。」
「え?」
余計に、分からない。
「まぁ大方、彼奴らが考えているのはお前さんを嫁にして都合良く使う事なのだろうな?なんでも思い通りにしてきた、これ迄と同じ様に。しかし。」
「そうは、ならんであろう?」
じっと、私の事を見ている青緑の瞳。
確かに。
私は彼らの思い通りになる気は無いし、そんなことになったら………。
もっと、恐ろしい事になりそうな、気がする。
その、アリススプリングス??
なんか、偉くて悪い人?って、どのくらい強いんだろうな………??
なんとなく、肩に置かれた手が熱くなってきた気がして背後を向くのは止めておく。
少し、金色の瞳を確認したかったけど。
多分。
この人が、本気を出したら。
あわわわゎ…………。
まずい。
多分、絶対、まずい気がする。
うん。
慌てて、二人に確認する。
「その、出来るだけそうならない方法、ありますよね?」
顔を見合わせていた二人は、「ああ。」と頷いてあれこれ相談を始めた。
どうすれば、銀の家を牽制できて祭祀で争いが起こらないか。
二手に分かれる際の分担は、どうするのか。
知らない名前が沢山出てきて、案の定私の頭がぐるぐるし出した。
チラリと隣のクテシフォンを、見る。
二人の会話に参加していないクテシフォンは何か考え事をしている様だ。
「クテシフォン、さん?」
真剣に考え込んでいる、彼の視界に入る様に手をチラチラさせて注意を引く。
それでも少し、帰ってこない。
覗き込もうとした所で、ぐっと後ろに引かれるのとクテシフォンが「ハッ」としたのが同時だった。
「ああ、すまない。大丈夫か?」
首を摩る私と気焔、両方を見ながら言う。
私が一瞬「うっ」と言ったのが聞こえたのだろう、一応チラリと恨めし気な目を向けておいたけど。
「どう、したんですか?」
「いや………その、シェランがな。」
「えっ?シェランがどうか、したんですか?」
何に悩んでいるのかと思ったら、シェランの名前が出たので再び前のめりになる私。
今度は近づき過ぎないよう、注意しながらだ。
「いや………そんな事が可能なのか…どうかは、分からないが。シャットから帰る際に、人を連れてきたい、と言っていたんだ。その、武器を一緒に作っていたから色々手伝うとか何とか。しかし前例も無いし、そもそも何処の誰なのか。そう訊いたら、デヴァイの人間だと言う。」
「えっ。」
それは?まさか………?
「まぁ何しろそう、なってくると私に決定権は、無いからな。そっちの家が、いいと言ったらいいのではないか、とだけ言っておいた。どうなるかは判らないが。どう、なんだろうな?」
最後は私に対しての問い掛けになっているクテシフォン。彼も混乱しているのだろう。
そう、私はその二人に心当たりが、ある。
それを考えれば、二人が何をしに来るのか、どうしてここに、来たいのか。
何となくは、分かる。
しかしクテシフォンは全く想像が付かないのだろう。
それはそうかも、しれない。
そもそもここは、デヴァイからしか人は来れない筈だ。
前例の無い、逆からの訪問。
それも、多分あの二人。
なんだかワクワクしてきた私は、俄然やる気になって張り切って言った。
「大丈夫ですよ!あの二人かぁ…あの二人がくればいいよね…ん?でも違う人かも?いや、無いか…。ん?待って?………それなら………??」
閃いてしまったかも、しれない。
多分、いや絶対。
ここに来ようなんて考えているのはベオ様とリュディアに違いない。
リュディアは多分、シェランと作ったものを試したいのだろう。本当にロウワが使うのならば、来てもらった方が直接教えてもらえるから、いい。
それに。
きっとベオ様は「本当のこと」を見つける手掛かりを探しに。
来る筈なんだ。きっと。
まぁ、半分くらいはレナに会いに来るんだと思うけど。貴石の事も、気にしてたしね………??
「いや、これは俄然面白くなってきましたよ、クテシフォンさん!それならあの人に頼めば、いいかもしれない。名案!」
「コラ。落ち着け。」
気焔に肩を抑えられ、ちょっと座り直してみた。けれどもまだまだ落ち着いていない私はソワソワしながら提案のタイミングを待っていた。
私の名案はきっとみんなも納得してくれる…と、思う、うん。
そうして色々な思惑を巡らせながら、二人の話が終わるのを、待っていた。
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