透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

シュマルカルデンの処分

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「うーん?取れたかなぁ?」


今朝、目が覚めたら何故だか涙が出ていた。

それも、多分何度か泣いたみたいに、流れている涙とカピカピになっている部分と、両方だ。

どんな夢を見ていたのかはぼんやりとしか、思い出せない。

「確かに、なんだか切ない感じはするんだけど、泣くって結構…………。」

ブツブツ言いながら、朝からシャワーをして鏡で確認している所である。


「うーーん?」

四角い鏡に近づいて、目元をチェックし保湿していく。
イストリアの店から貰った化粧水は入れ物も可愛くてそのまま一緒に並べてしまった。
今迄は二つしか無かった小瓶が四つになって、ちょっと贅沢している気分になる。

「中身混ぜられないしね………。」

くるくると蓋を閉めて、顔が終われば今度は髪をどらいやーで乾かしていく。

「今日は髪型、どうしようかな…。」

ここ、グロッシュラーではほぼみんながハーフアップのダウンスタイルだ。
この前、造船所へ行く時にポニーテールにしていたら神殿の人達には振り向かれていた様な気がする。反対に造船所ではみんなに褒められた。
やはり、邪魔にならない髪型はいいという事だろうか。

礼拝に出る予定はないが、今日の予定が分からないので無難に編み込みを始める。

「とりあえず図書室は、確定だし。」

サクサクと編んで、パチンとアキを付ける。



「さて、と?」

最終確認をして、洗面室の扉を開けた。


「う、ひゃあっ!」

「お前、それはどうなんだ?」
「ちょ、乙女の部屋に入る時は言ってよ。」

扉を開けた私の目に飛び込んできたのは、ダイニングで寛ぐレシフェだ。

朝、早い時間の一人お風呂タイム。
気焔は多分、まだ寝室だと思っていたので完全に油断していた。

「どう、したの?何かあった?」

パジャマを抱えたままの私は、とりあえず珍しく朝から現れたレシフェの用件を訊く。
きっと何も無いならば、こうして座っていない筈だ。

「いや、一応知らせておこうと思ってな?アリススプリングスが戻っている。まだ館にいるが、多分こっちに来る筈だ。シュマルカルデンの処分が決まったからだと思うが、下手したらまた祭祀までこっちにいると思うぞ?」

「え?えぇ~~………。」

「どうした?」

「いや、またあの人が来たんだって。まぁ、しょうがないけどさ………。」

寝室から気焔が出てきて、普通に会話に混ざる。
この人は、レシフェが来る事を知っていたのだろうか?

いや、お風呂の前に言うよね、それなら………。

ジトっとした私の視線を無視して、続けるレシフェ。

「いや、しかし今回はその方がいいかもしれないぞ?」

「え?なんで??とりあえず、支度して来る。図書室、行くの?」

「いや俺は行かないよ。知らせに来ただけ。白いチームに言っておけ。知ってるかもしれないけどな?」

「どうだろうね?」

そう言って寝室の扉を開け、支度を始めた。

隣からは二人の話し声、私はフンフンと鼻歌を歌う。

そう、レシフェを見て驚いたので、夢の事はすっかり何処かへ行ってしまっていた。






少しドキドキしながら食堂へ行ったが、まだアリススプリングスは神殿に着いていない様だ。

アラルエティーはニュルンベルクと食事していたし、いつもと同じ、落ち着いた食堂だったからだ。

お陰でゆっくりと朝食が食べられた私は、上機嫌で図書室への階段を上っていた。


図書室へ入り、本棚の森を抜け奥の白い扉を目指す。
時折振り返る青いローブを見ながら、やはり先に禁書室へ行くのだなぁと思っていた。

それなら丁度いい。
石についての自分のぐるぐるは未だ着地をしていなかったし、クテシフォンは「シュマルカルデンの対応によっても違う」と言っていた。
それを聞いてから考えればすぐかもしれないし、イストリアがいつ来るのかも、知りたい。

聞きたい事は、沢山あるのだ。



いつもの様にノックをして、そのまま開ける気焔。
予想通り、クテシフォンが長椅子に座っていてもう一人、白ローブの人が向かい側に座っている。

少しの違和感を覚え、部屋の奥に視線を投げるとやはりウェストファリアは奥の机の前だ。

白いローブ?
誰だろう?ダーダネルスじゃない…よね??

少し小さいその人が振り向くのと、私が口を開いたのは同時だった。

「やあ。」
「あっ!」

「そっか、そう、ですよね………えっ?今日からですか?」

そう、座っていたのはイストリアだ。
ぴょんと跳ねていそいそといつもの場所に座り、挨拶をする。

「おはようございます。なんだか朝からここで会うと不思議な感じがしますね………。」

「ハハッ、そうだね?しかしここには、そう来ないよ。基本的には造船所との往復だ。今日は一応挨拶と細かい打ち合わせ、あとはあの件だね…。君が行く前に事件が起こりそうじゃないか。」

「事件、ですかね………。」

チラリと隣のクテシフォンを見る。
その、シュマルカルデンの処分については知っているのだろうか。

私の視線の意図が解ったのだろう、頷いて奥を見ながら話し始めた。
この様子だとまだウェストファリアは聞いていないに違いない。
ウェストファリア、イストリア、気焔に視線を送りながら話し始めたクテシフォン。

その内容はやはりその、話だった。


「多分、内うちで収めるつもりなのだろう、正式発表は無い筈だ。だから周ってきたのだと思うが、とりあえず表向きの処分は厳重注意だ。祭祀迄のお目付役として戻ってきたのだろう。一応、それで納めろということだ。」

「厳重注意………。」

「まあ何しろ前例がないからな。」

「石を取り上げれば、いいんじゃないですか?ネイアだって持ってないんだし。」

そう、私の素朴な疑問。
そんな危険な事をする奴は、取り上げてしまえばいいと思う。
しかし私の意見の方が、この世界では奇異の様だ。

「あー、そうだね。君はラピスから来ているから思うだろうね。しかしだね?「石を持たない」という事自体が基本的にはあり得ないし、表向きはネイアも持っている事に、なっているんだよ。」

私の仏頂面に気が付いているイストリアは、「仕方がないんだ」と言ってふわりとローブを直した。

その、白い繊細な生地を目に映しながら。

「あり得ない状況が普通」の子供達のことを思い、石を吸収されているネイアの事も、考える。

「やっぱり、ネイアにも石は配りましょう。」

そう言った私に頷くイストリア、クテシフォンはまだ思案している雰囲気。

そこへやってきたもう一人の白いローブ。

空いている一人掛けの椅子に座ったウェストファリアが揃うと、私は白いローブに囲まれていることに気がついて、意味もなく楽しくなってきてしまった。

うーん。
もう一人、銀が来ればオセロになって、こう、パタパタと…………。
でも銀?ランペトゥーザかな?あ、そうだイストリアさんにお願いしなきゃ………。


そんな私のぐるぐるにウェストファリアの声がポンと入ってくる。

ひと段落したからこちらへ来たのだと、思っていたけれど。
どうやら、石についての話があった様だ。

「それなんじゃが。」

みんなの顔を見るウェストファリア。

「アリスも来た事だし、祭祀まで待たんかの?」



「石を配ることを、ですよね?」

みんなの「?」を代表してクテシフォンが訊く。

「左様。流石に今から配るとなると、どうしたってお前さんが石を創れると知れる可能性が上がる。始めは、それでもいいかと思ったんじゃが。こう、争いの火種が出来てしまっては武器としての使用を考える奴がいないとも限らん。今は、辞めておくのが無難じゃろうて。」

「?祭祀が終わったら、大丈夫なんですか??」

何が違うのだろうか。
自然と口を突いて出る疑問。

しかし流石にウェストファリアは作戦を考えていてくれた様だ。
それも、私の希望通りの、やり方の。

「さっき話を聞いたが。お前さん、あちらとこちらで祈りたいのじゃろう?丁度、いい。お前さんがあっちで祈り、殆どをこちらで祈らせれば。「祈りで石ができた」事にして、まぁ事実なのだが…祭祀の後に配る事ならば自然だろうの?」

「!確かに!流石ですね!」

キャッキャと浮かれる私に、しかし一つ難点が知らされる。

「問題は。誰か、が。必ずそちらにも行くであろう事じゃ。お前さん達だけ、と言うのは難しいじゃろうな。」

チラリと気焔を見て言うウェストファリア。
金の瞳は大きな変化は見せていない。

「それは………少し、厄介ですね。私、じゃ却下されるだろうしな。」

そう、クテシフォンが言ってドキリとする。

多分彼の言葉の意味する事、それは。


「銀の家の、誰か、って事ですよね………?」

恐る恐る、口に出してみる。

しかし、返ってきたのは全員のゆっくりとした頷きだけだった。


え、え~~…………。

ガックリ肩を落としたところで、「ポン」とウェストファリアが手を叩く。

「ま、その辺は何とか考えるしか、あるまいよ。それについてはまた、検討するとして。どれ、話を聞こうかの。」

そう言って祭祀の話を終わらせると、イストリアに向き直ったウェストファリア。


その二人の白いローブを見ながら、私は一人「銀、銀かぁ………。」と何かいい手はないものかとぐるぐる、していたのだった。


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