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7の扉 グロッシュラー
事件
しおりを挟む「それで、だ。揉め事自体は「これまで通り」にしたい派と「新しい形態」派で、まぁ言い争いをしていたらしい。だが、力を使った奴がいた。シュマルカルデンとエンリルだ。」
「力?」
そう首を傾げた私に、何と説明したものか迷っているのだろう。
しかし私が聞きたいのは「力」と言えば、そう、レシフェの様に撃ち合ったのか、という事だ。
多分、武器などは持っていない筈だ。
そうなれば力を撃ち合ったという事だと思うのだが、そうなればかなり被害が出たのではないか。
それが、心配だったのだ。
困っているクテシフォンを見兼ねたのか、珍しく気焔が補足してくれる。
「依るはシャットで多少、力も学んでいる。発するのは危険だが、防御はできるぞ。」
その言葉を聞いて再び目が丸くなったクテシフォン。
やはり彼は私の事を何だと思っているのだろうか。
ラピスから来たんだけど………お嬢様じゃないよ??でもラピスから来ても普通はシャットにも行かないのか………。うーん。
少し考えたクテシフォンは、とりあえずその話は横に置いておく事にしたのだろう、続きを話し始めた。
「で、だ。教室でドンパチ始めたもんだから、止めに入った様なんだが、そもそも始めに揉めてるのがシュマルカルデンだ。その時教室にいた一番身分が高いやつだからな。しかも、二人とも三年。他には一年と二年しかいなかった。」
「え?で、どうなったんですか??」
「結局、スラウェシがシュマルカルデンを抑えて、ああ彼は二年の黄の家だ。よく、やったよ黄の家で。しかしその部屋に二年の白はいなかった。後はランペトゥーザがエンリルを捕まえてウエストファーレンと抑えてたらしいけどな?だがしかし、問題は。」
ランペトゥーザとウエストファーレンの名前が出て私の目がキラリとした所で、話の方向が微妙になってきた。
なんとか、収まったのではないのだろうか?
そこで改めて、私の顔をじっと見るクテシフォン。
え?
ウソ?
私?が、何か??
少し眉を下げた彼が溜息と共に吐き出したのは、こんな話だった。
「いや、そこに止めに来たニュルンベルクなんだが。その、ネイアの石があれだと言うのは聞いているだろう?だから、個人で石は持っていないのが普通なんだ。ネイアは。」
「だからかどうか、仲裁に来たニュルンベルクにシュマルカルデンが少し反抗したらしい。その時。」
チラリと過ぎる、嫌な予感。
私は家格の差と個人の力、それがどのくらいのバランスなのか、よく分かっていない。
もしか、すると?
「そう、ニュルンベルクはやはり自分の石を持っていないから、シュマルカルデンを止められなかった。ああ、流石に直前に抑えたらしい、シュマルカルデン自身が。ネイアを攻撃するなんて大問題だからな。それこそ前例が無いから何とも言えないが………。そこはスラウェシがかなり頑張って止めた様だ。彼は黄の家の若者の中では主軸だからな。」
「…それって…………。」
大きな溜息を吐いて続けるクテシフォン。
「まぁ、大問題だ。そもそも、これまではこんな事は、無かった。…いや、君の所為ではないんだが、祭祀で力が増えた。単純に放ち易い状態になっているとは言える。まあ、それをやるかどうか、ってのはまた別問題だが。シュマルカルデンは問題になるだろうな。」
「だが、それと共に浮上したのがこのままではまずいという事だ。幸いその日の運営に参加していた者はそう、多くはない。箝口令を敷いてはいるが、早急に対応しないと不味いだろう。」
やっと、クテシフォンが私を見た意味が分かった。
やはり、ネイアには石が必要だという事なんだ。
ここ、神殿での力関係が逆転してしまう事。
そんな事は、あってはならない。
くるりと白い魔法使いを、見た。
私は勿論、配る事に依存は無い。
一応、確認のつもりで、その青緑の瞳を見たのだが。
返ってきたのは、もっと大掛かりな話だった。
「石を配るのも、そうじゃが。対応の仕方をもっと考えねばならんだろうな。祭祀も危険じゃろう。」
「危険?」
その私の疑問に答えたのはクテシフォンだ。
「そうですね。一度力を使ってしまったのであまり抵抗が無くなっているかもしれません。」
「そう。それに一度でもネイアより上位に立ったと認識したとすれば。厄介な事になったのう。」
厄介な事?
これからみんながドンパチ始めちゃうって事??
えっ?
そんな?
ぐるぐるしている私を見ながら、少し慰める様な口調でウェストファリアは言った。
「まあ、お前さんの所為では無い。遅かれ早かれ、こういった事態は起こるだろうとは思っていた。以前は力と家格はほぼ一致していたが、現在はそうでは無い。それが示す事とは、即ち。」
そう言って言葉を切り、暫く長い髭を撫でているウェストファリア。
しかし諦めたように、ゆっくりと口を開いた。
「まあ、都合が悪い奴もいるだろう。さぁて、どうしたものかな。しかし幸いにもお前さんがイストリアを引っ張り出す事に成功しておる。作戦は何とかしよう。石は………どう、するかな。」
最後はほぼ独り言の様になって、いつもの様に本の山をぐるぐる歩き出したウェストファリア。
私はその様子を見ながらも、最後の言葉をクテシフォンに訊ねた。
「私は勿論、配る事に賛成ですけど、どうなんですかね?」
ビロードの座面を撫でつつ、座り直してクテシフォンに向き直った。
「一旦、考えさせてくれ。実際問題、もう「持たない」事は難しいとも思うが、「持つこと」で実際どうなるのかは慎重に検討しないといけない。君の、扱いもそうだろうし祭祀についても。だが、そうのんびりもしていられない。それに。」
「?」
「シュマルカルデンの処分がどうなるのかでも、少し対応が変わるかもしれない。お咎め無しならば、持たぬ訳にはいかないだろうな。それにしても入手先を聞かれるか、どうか………。」
うーーーん?
隣で悩み始めたクテシフォンを見ながら、何かが引っかかる気がして私も考え始めた。
しかし、何が引っかかるのか。
自分でも、分からない。
石を、配る、全員に………。
ネイアと、セイア、祭祀に、礼拝………。
不都合が生じるとすれば、どんな場合か。
メリットよりもデメリットが大きくなる場合は、あるのか。
白い魔法使いは未だ部屋をゆっくりと回っていて、クテシフォンは一人ブツブツ言っている。
私はそれを見ながらも、本棚の前に立つ金色と、その肩に留まる玉虫色を眺めていた。
珍しく、目が合わずに金色の瞳は玉虫色を見ていたからだ。
色、まじない、石、ネイア。
何か、いい方法はないものか。
それをずっと考えて、いたのだ。
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