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7の扉 グロッシュラー
準備
しおりを挟む最近、少し困っている事がある。
先日、イストリアの所から帰って来てからなんだか気焔の様子がおかしい。
いや、おかしい、と言うのも少し違うのだが何と言うか………いつもよりもじっと見てくるし、その流れで…。
うん。
まぁ。
ハッキリ言うと、今迄と違う色を宿した金の瞳にじっと見つめられると、すぐに顔が赤くなり、まごまごしてしまうのだ。
その治らない赤面と、謎のドキドキを解消したい私。
そうして迫ってくる金の瞳に、観念して「お願い」をするとチカラを流し込まれる。
と、いう心臓に悪い一連の流れをここ暫く続けているのである。
うん、私の寿命が延びるのか縮むのか、どっちなんだろうかこれは。
そうしていつも、金色が満ちた状態にされている私は「そうされている原因」に少し心当たりがある。
そう、イストリアの所で話した「共感性」の話だ。
実はあの後、神殿に帰った私達を待っていたのは小さな事件だった。
「おかえりなさい。」
「やっぱり。ダーダネルス?どうしたの??」
神殿の入り口で私達を待っていたのはダーダネルスだ。
もう、大分暗くなった灰色の空と重たい色に変化している神殿。
その前に佇む白のローブは、遠くからでも目立っていたので自分の予想が当たっていた事に小さく喜びつつ、尋ねた。
だって、白い魔法使いはこんな所で待ってるはずがないし、クテシフォンはもう少し横にも大きい。
細長くシュッとしたシルエットと、フードから髪色が覗かないのでそうだと思ったのだ。
ダーダネルスの髪も銀に近い灰色で、この景色ならばほぼ同化するからだ。
「禁書室でお待ちですよ。今日あったことの話だと思います。」
それだけ言ってチラリと気焔にも頷いて見せるダーダネルス。
私の返事を待たずにくるりと踵を返した。
「何だろうね?」
隣の金の瞳を確認しながら、「まさか、もう知ってるの?!?」とイストリアの店で話した内容を反芻すると、また両の手で頬をペチペチと叩く。
それにしたって、貴石の話?
それともイストリアさんが先生してくれるやつ??
まさか、私が暴走する話??
「大丈夫だろう。落ち着け。」
そう、言われて手を握られると、少し温かくなってホッとした。
そうだ。
まだ何を言われるかは分からないし、そもそも全然違う話かもしれないし?
いや、「今日あった事」って言ってた?
んん??
結局ぐるぐるしながらも、「コンコン」とノックをする音で、もう扉の前だという事に気が付いた。
いつも通り、返事の無い扉を開けて私達を通してくれるダーダネルス。
「入らないの?」
「私は連れてくる様に言われただけですので。では。」
「ありがとう、またね。」
ニコリとした彼が扉を閉めるのを見送って、話し声に振り返った。
そう、部屋にはクテシフォンが既にいて、気焔と話し始めていたからだ。
白い魔法使いが奥の方で何やらゴソゴソしているのを確認すると、私も中央の長椅子へ向かう。
本の山を幾つかすり抜けて、長椅子の彼の隣へ腰掛けた。
「こんにちは、クテシフォンさん。どうかしたんですか?」
こんばんはかな?と思いつつ、丁度話の途切れた彼に挨拶をする。
それにしてもこんな時間に待っているなんて。
何があったのだろう?
クテシフォンもいるって事は、私の話じゃ無い??それは良かったかも………。
挨拶しながらもぐるぐるしていると、目の前に積まれている白の本に玉虫色が止まった。
「あ!ベイルートさん。今日は一緒に部屋に帰りませんか?」
私がキャッキャと手を伸ばして、彼を手のひらに乗せるとベイルートは意外な事を言った。
「まあ、あいつ次第だな。俺がいない方がいいかもしれない。」
「えっ?」
「あいつ」というのは多分気焔だろう。
ベイルートの首がどっちを向いたのか、ハッキリはしないけれど。
そのやり取りで余計に謎が深まった所で、白い魔法使いがやって来た。
「さて。とりあえずはお前さんから話してくれるか。」
いつもの場所に腰掛けると、そうクテシフォンに言う。
頷いて話し始めたその内容は、私の想像を軽く超えるものだった。
「今日の昼過ぎに騒ぎが起きた。運営の授業でだ。しかし多分、始まる前だったのだろう、ニュルンベルクが行った時に収めたらしいからそれはいいのだが。」
「その、騒ぎの内容と言うのが「貴石の運営方法について」だったんだ。」
「へっ?!」
思わず間抜けな声が出た私を、許して欲しい。
だって、ここに来て貴石の話?
運営の授業中?
揉め事?
なんで?意味が分からない。
勿論、まるっと顔に出ているだろう私を微妙な顔で見るクテシフォン。
もしかしたら貴石の話をするので迷っているのかもしれない。
しかし前回も「大丈夫」と言った筈だ。
大きく頷いて、続きを促す。
一瞬、チラリと気焔を見たクテシフォンは了解だと思ったのか再び話を始めた。
「運営、は見学、はした事があるな?それで、各方面の事について検討をするのがあの授業な訳で、勿論決定権は無い。それはあちらの仕事だ。ただ、新しい意見や方法などの提案は大体この授業で出される事が多い。向こうは古い連中が仕切っているからな。」
「あちら」というのはデヴァイで合っているだろうか。
でも「古い連中」と言っているのできっとそうだろう。
「その中で、まぁ授業が始まる前に雑談か何かをしていたらしいのだが。貴石………が最近少しまぁ、変化してその事についての話になったらしい。」
大丈夫、気まずそうだけどパミール達に聞いてるから。
そう、言ってあげたかったけどとりあえずは黙って聞く。
「中でも営業内容について新しい形態にしたいという話があるらしくて、それが、まあ、その、アレで従来通りのままと、癒しに特化した方とに分かれるとかなんとか。うむ。」
クテシフォンの様子が可笑しくて、笑いを堪える私。
「ヨルは大丈夫だそ?」とベイルートに言われているから更に面白い。
「大丈夫ですよ、クテシフォンさん。ちなみにその「癒しに特化」する方に、一枚噛んでますから私。」
それを聞いて、目が丸くなるクテシフォン。
私の事を何だと思っているのだろうか。
再びクスクス笑いながら、続きを話すように促す。
しかしそこからの内容は、笑っている場合では、なかったのだ。
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