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7の扉 グロッシュラー
私について 4
しおりを挟む「結局私の予想で言えば。君達は祖母と曾祖母という関係になるのかな。」
「コトリ」とおやつの皿を置きながら、そう言うイストリア。
私は頷くだけでそれに返事はせずに、目の前の皿を眺めていた。
まだややこしそうなその話を聞くには、頭の栄養が足りなかったからだ。
そう、甘いもの。
「これは、何ですか?」
テーブルに置かれたその白い皿の上に乗っているのは、何か不思議な丸いものだ。
この、見た目。
もしかして、甘くなかったらどうしよう??
そんな私の考えを見透かしてか、「大丈夫」と言うイストリア。
「これはね、穀物とドライにしたフルーツを練って固めたものだ。甘いと思うよ。まぁ君がどの程度の甘さを欲しているかにも、よると思うが。」
ふぅん?
なんか、オシャレなお菓子、だね?
見た目は茶色のボールで、所々にそのフルーツであろう色が、見える。
「成る程、だからここがピンクなんですね………。」
多分、アイプも入っているのだろう。
殆どは茶だが、ピンク、黄色、少しだけ黄緑もある。
「いただきます………。」
何だろう、穀物とフルーツのグラノーラを固めたみたいなやつって、事だよね?
しかし口元へ運ぶと、思いの外いい香りがする小さなボール。
一口で食べるのに丁度いい、大きさ。
そういや朝も、イストリアのお弁当が美味しかったって言ってたな………。
それを思い出しながら、ポイと口に入れた。
「んん!おいひい!」
「ハハ、なら良かった。まあゆっくり食べるといい。まだ話は山場に差し掛かっていないからな。」
「え、そうなんですか。私、もうふた山くらい越えたつもりだったんですけど…。」
「これからかぁ」という私の溜息と共に出た呟きに、クスクス笑うイストリア。
そうして二人でパクパクミニボールを食べると、ゆっくりとお茶を飲む。
うーん、やっぱりグラノーラっぽいからグラボールとか………略しすぎかな??
「さて。」
程よく私の頭が何処かへ行き始めた所で、さっき迄の話に引き戻される。
そう、何がどう、なったのかイマイチ把握していない私の話。
イストリアは線を引いたノートに、名前を書き始めた。
「さっきも言ったように。まず、長とこのディディエライトがいて、そこにあの人が生まれた、と。」
そこで少し、口を挟む。
私の中での「あの人」が、増えたので混乱しない様に。多分、イストリアには話して大丈夫だろう。
名前を知る人は、フローレス以外はマデイラくらいなのだろうか?
「あの、その二人の娘、というか私のおばあちゃんの名前は。セフィラと言うんですけど。」
「ん?君は………それは何処で、知った?」
?
最初って、どこだっけ??
「あ。えーと、ラピスの友達の家に遊びに行った時「似てる」って、言われたんです。その人がセフィラが扉を渡っていた時の友人で。」
「ほう?偶然に?それは凄いな。しかし何故確定した?」
…………ヤバ。
追及モードに入っている目を見て、どう、話したものかと考える。
元々、私が姫様の服を気にしていて、結局それと「まじないの色が一緒だから血縁」という事になったのだ。
そう考えると多分、曾祖母も虹色だったのだろう。
えーと、服を内緒にして………。
「依る、だから人形を作っている訳だから服だって作ってて構わないのよ?」
そう言ったのは蓮だ。
「確かに。」
うーん?
でもアレ、大きいんだよね………。
まぁ、イストリアさんの前で着なきゃ大丈夫か………。
でもそれを言うならエローラだって不思議に思ってないから、別に大きくてもいいんじゃない?
…………もう、ややこしいな…。
若干面倒くさくなってきた自分に喝を入れて、頭を振り口を開く。
「あの、人形を作っていたらしいんですが。服が、その店、あの友達の家が洋裁店なんですけど。そこに、セフィラが置いて行った服があったんです。それでマデイラさんが「修復出来れば、そうだろう」って。それで、シャットへ行ったんですよ。」
「へぇ!ほうほう、そうなのか!本当に面白いな、君は。はぁぁ、そうか。これは、もう運命なのだろうね。凄くないかい?この、種蒔きを。その、セフィラがどこまで予測してやっているのか、それは分からないが。」
確かに、そうだ。
ほうほう、ふむふむ言いながら何かを考え出したイストリアを見ながら、自分でもそう思う。
まさか?でも?
自分で選んできた、道だと。
思っていたけれど、敷かれたレールの上だったのだろうか。
ディディエライトなのか、セフィラなのかは分からないけど。
誰かの蒔いた、種を育ったその何かを回収しているのだろうか。
元々、そこに行く様に、そう、する様に誘導されていたのだろうか。
無意識のうちに。
チラリと自分の足元を見る。
キラリと光る、ビーズと刺繍が今日も美しい、姫様の靴。
何故だか知っている道を、歩いている様な気持ちになった事は、確かにあるのだ。
そう、なの?
でも?
「私」は、ちゃんと、「自分」で決めた?
できてた?
ふっと、意識を中に移した。
深く、考え事をする時に使う自分の中で探し物をする時の感じだ。
ぼんやりとした、白っぽくてとても広い、空間。
音もしないし、見える範囲には何も、無い。
私はここで、この中二階で、椅子に座っていて目の前にティーカップと空のお皿があるのは、分かる。
でも、この頭の中の広い空間には何も、無い気がして。
でも隅の方、遠くに「あの人」がいるのは分かる。
ちゃんと、見て?
何がある?
ある筈だ。見ようとすれば、絶対。
私はその都度自分で決めてきたし、悩んでも、きた。
「なんにもない」筈なんて、無いんだ。
始まりはどこだ?
いつ?
何かが弾けて、あの花達が喋って。
朝の話が聞こえて。
気焔を見つけて、扉へ入った。
うちが、無くなると困るからだ。
あの、嫌などんよりとした空気。
どう、なるのかは分からなかったけど、放っておく事はできない、それだけは解ったんだ。
そうしてティレニアに行って。
「ポン」とカエル長老が出てくる。
ああ、そうだ。
あの女の子に騙されそうに?なって。
それで気が付いて、そのあとカエル長老…ププッ、いやいやそれでクルシファーを見つけたんだ。
私の側には、カエル長老と池、ナズナがいて少し腕輪も光った気がする。
そうしてあの靴も、履いて。
それで?
いきなりラピスで攫われてたんだよね………あれはもうゴメンだわ…。
でも、ティラナに会って。ハーシェルさんが迎えに来て。
ヤバい泣きそう………。
「ポポポン」とウイントフークやエローラ、ルシアにリール、キティラにイオス、みんな、みんなが出てきた。
フェアバンクスにソフィア、ヨークにロラン、エーガー、マデイラ。もっと、沢山の人に出逢った。
そう、ベイルートに会ったのもラピスだ。
今も一緒に居るから、何か変な感じだな?
そうしてシャットに移動して、ぐるぐるになって。
目が覚めたら、ピエロがいたんだ。ああ、あのエローラ曰くキモいやつ。
「ポン」とキモいピエロが出てきて「ようこそ業の街、シャットへ」とあのセリフを言う。
その機械の声が私を何とも言えない気分にして、瞳が彷徨ううちにシャットで出逢ったみんなが並んでいる事に、気が付く。
一瞬の間の後、並んでいたみんなが銘々に動き始め、シェランはリュディアと相変わらず盛り上がっているしイスファとシャルムがお喋りをしていて、ベオ様はみんなを見ていた。
シュツットガルトを見つけたと思ったら、ルシアがやってきて手を取りリールの所へ連れて行く。
あ。そうだ。
視線を彷徨わせザフラを探した。
いた!
よし、次行かなきゃ。
そうしてここ、グロッシュラーも思い浮かべる。
すると、今までぼんやりとした白い空間だったそこが、あのサラサラした灰色の大地に変化した。
私の頭の中が、ここの大地に呼応したのだろうか。
すると今度はいきなり「ザッ」と沢山の人々が現れて少し驚いた。
でも、ここは。
私の頭の中の、筈だ。
ゆっくりと周りを見渡してシリーを探す。
「あ、いた!」
既にザフラの隣にいた私は、そのまま腕を取りシリー目がけて、進むのだ。
先に、ザフラが気が付いた。
なら、もう大丈夫だよね?
チラリと見上げた茶の瞳は、やはりそっくりだ。
一つ頷いて手を離し、背中を押す。
よし、これでオッケー。
涙が出る前に、その場を離れ私はある人を探していた。
多分。
多分、いる筈だ。
どこ?
あの子は、「私」なの?
それとも?「ディディエライト」?
それとも、また別の「誰か」?
ティレニアも、ある。思い浮かべた。
いる筈なんだ。探せ。
自分の中にそう言い聞かせて、ゆっくりと視線を滑らせていった。
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