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7の扉 グロッシュラー
私について 3
しおりを挟む「そうだね………。どこまで話したっけね?」
そう言って再び冷めたお茶を飲むイストリア。
正直私も、微妙なので自分が理解した部分を伝える。
「えー、長が青の家出身で正式な奥さんとの間に子供はいなくて、金の家が作られて?えー、貴石の人と恋仲だったから…………??」
何だっけ?
そう、私がぐるぐるしていると続きを引き継いでくれる。
「ああ、そうだそうだ、それでだね。まずその貴石の女性、その女性が描いた本がきっと図書室に今もあると思うのだが。」
まだ、私がそれを見つけた事は言わない方がいいかもしれない。
多分、話が先に進まなそうだ。
頷くだけで先を促す事にする。
「それは長に宛てた、恋文なんだよ。これまた特殊な文字で書かれているから、多分未だ解読されていないかもしれないな?そもそもあの絵の本を研究する勇気のある奴はそういないだろうし、私も流石に半年以上かかったからね。アレを訳すには。」
「半年………。」
凄いのかどうか、分からないけど自分だったらそもそも、翻訳なんてやる気にならないと思う。
うん、そういった意味では凄いと思う。
多分、トリルなら張り合って頑張るかもしれないけど。
「それで、だ。何故私がそれをやろうと思ったかと言うと、そもそも私の研究の一つは「この島がどうやって浮いているか」だったと話したろう?それであの旧い神殿に行き着いた。あの、円窓の下だ。」
「はい。」
「あそこの、文字。あれは「言葉」しか書かれていなかったと、言ったろう?それを、あの本で見つけたんだよ。きちんと、文章になっているあの文字を。だから、解読出来たんだ。まあ、あの本を見付けるまでは正直無理だと思っていた。鍵は多分、あの円窓の下にあって、きっとあれが読めれば何かしらが解ける筈、そこ迄は判っていたんだ。何しろそれしか無かったからね。そのあと一歩、あと一歩が判らなかった。」
「そうしてあの本とあそこの文字を照らし合わせて、言葉を解読する事に成功した。しかし書かれていたのは「言葉」だけで試してみたけど私には入り口は開かなかった、そう思っていた。」
あれ?れれ?
「そう思っていた」??
そう、言えば?
私は最初にここに来た時、何故ここにイストリアが住んでいるのか、どうやってここに辿り着いたのか。訊いたとは、思う。
しかし結局、その時は私の話になってしまい、イストリアが「どうやってここにまじない空間を作ったのか」は、確か聞いていないのだ。
「えっ、これって結構重要な案件なんですけど…私としたことが…すっかり、他の事に気を取られてました………。結局、イストリアさんはどうやってここに??」
すっかりこの素敵な空間に馴染んで、自然と「魔女の店ならこんな場所にあるのは当然」くらいの感覚だった。
始めから、ここはこうだったのだろうか?
「言ってなかったかな?もっとも、面白いオチでもあれば喜んで話したのだろうが、そう面白くもない、話だからね。」
そう言ってイストリアが話してくれたのは、まさかの、偶然の話だった。
実はあの旧い神殿の物置の奥に、あの畑にある石柱へ通じる道があったらしい。
オルガンの部屋の反対側にあった、大きな扉の部屋の方だ。
何らかの条件で現れていたであろう、その小さな扉を開くと繋がっていた、核の石の場所。
「偶然、調べていたら奥に不思議な扉が浮かんでいたんだ。もう、見た目からして「不思議空間への扉」、そのものの様な扉だ。そこへ入るとあの畑の中央の場所に着いた。まぁ、畑にしたのは私だけどね?そうして一度繋がると、私を覚えたのか探していると現れるんだ。それで何度か、ここへ訪れているうちにデヴァイへは帰りたくないしもう少し神殿に通いたいとゴネて、神殿へ残るフリをしてここにこの空間を造った。あの石は幸い私を気に入った様で、協力してくれたからな。」
「その後は君も知っての通り、シャットに行ったりラピスへ行ったり、………そうしてここへ帰ってきたと言う訳さ。」
成る程。
面白くないと本人は言っているけど、私としては充分、面白い。
「扉が現れていた」?
「気に入られる」??
そんなの、食い付かない訳が、ない。
「今度、私も探してみようっと。現れてくれるか、楽しみかも!」
「そうだね。行ってみるといい。今、思えば祈った時に開いていたのかもしれないな。しかし場所がまさかあんな所にあるとは………全く気が付かなかったよ。ま、それはいいとして。どこまで言ったかな?」
「ああ、それで、私はようやっとあの文字を解読して「言葉」が分かった訳だけれども。」
キロリと瞳を光らせたイストリアは、ちょっと怖い。
また、何やら勢い付いているからだ。
「と、いう事はだよ。あの「白の本」の作者があの文字を知っていた、若しくは調べて解読した、という事に、なる。分かるかい?貴石の、女性だ。差別ではないが、そもそも学問をする環境に無い。それに、いつ神殿へ出たのだろうか。基本的に外出は出来ない。その、デヴァイからの客が同伴しない限りはな。そうは言ってもここには行くべき場所もないし、だから外に出た事がある者はほぼいないだろう。以前は、特にね。」
「彼女はどうやって、その文字を知ったのか。どうやって絵を描き本を作り、それが何故、あの神殿の図書室へ収められているのか。」
「私は、その半年間しらみ潰しにそれ以外のあの文字の本を、探した。でもね、そう、御明察。見つからなかったんだ。あれ、一冊以外には。そして、それには。」
そこで一度話を止めたイストリア。
再びお茶を飲んで、咳払いをし一瞬私の顔を見て何か考えている。
私も思わず、唾を飲んだ。
「あの、ね。その女性はディディエライトと言うのだけれど。聞いた事は?」
フルフルと首を振る。
「そうか。いやね?その女性が「もし彼との子供が生まれたなら」と書いてある部分がある。まあ後で本当に産まれるのだが、その時はまだ状況が違ったのだろう。そこに長の容姿と彼女の容姿が書かれている。どんな子が生まれるかな?という事だね。その、ディディエライトの容姿が「白い髪に金と青の瞳」なんだ。そう、今の君の様にね。その色の記録は後にも先にも、見た事は、無い。………確かに、その当時。二人は「特別な色」だったんだ。」
…………ああ、だから。
さっきイストリアが固まったんだ。
アキを外して、しばらくの間のなんとも言えない表情。驚き、納得、色々なことが繋がった感動の色。あの時の瞳の変化の意味が解る。
そうして腑に落ちたのは良いものの、何と言っていいのか。
私?
私は、なんなの?
誰なの?
え?違う、よね??
「嘘でしょ…………。」
私には、もう一人「白い髪の女」に心当たりがある。
あの子。
ティレニアで最初に会った、あの子だ。
ラピスの白い森にも、いた。
流石にシャットでは会ってないけど。
「ちょ、待って待って。いやいや、それがそうかは、分からない訳で…………?」
チラリと過ぎる、もう一つの、可能性。
「いや、駄目。それは却下。無理無理。」
そう、私は扉を渡って、旅をしている。
あの、時間が歪むやつだ。
だから。
いや、辞めよ。ナシナシ。
もう、「私」はここに、いるし。
うん、これは却下しておこう。
恐ろしい考えに蓋をして、鍵もかけておいた。
とりあえずこれで、大丈夫。
「大丈夫、か?」
「はい。続き、お願いします!」
そう、きっと続きだって衝撃的な話に違いない。
それを聞いて、忘れる事にしたのだ。
「じゃあ、話すけど。だから、彼女と君も血縁の可能性が極めて高い。それに加えてあの人が長の娘なのはハッキリしている。どこかにいつからか消えて、死亡したとされてはいるけれど。君の世界へ、行ったのではないか。そうして現れた、あの本の作者と同じ姿を持つ、君。」
「安心していい。あの本が読めるのは、この世界では私だけだ。多分、ウェストファリアもやる気があれば出来るのだろうが白の本が恋文の類いだと解ってからは見向きもしないからな。」
そう言ってハハッと笑った。
そう、か。
あの人が「私」じゃなくても、繋がるんだ。
イストリアの言葉を聞いて、少し緊張が解けた。
というか、緊張していたらしい。
良かった………とりあえずは。
これ以上、ややこしい事にならなくて。
背もたれに力無く寄り掛かって、溜息を吐いてしまった。
しかし、「私の話」はまだ、これから始まるのだ。
「イストリアさん、甘いの下さい。」
その、私の訴えは聞き入れられた。
どうやらかなり、顔が切実だった様だ。
そうしてイストリアのおやつ準備を眺めつつ、大きく伸びをしたのだった。
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