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7の扉 グロッシュラー
湖の家へ
しおりを挟む「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。あそこだよ?誰も来れないよ。まぁ来てもレシフェとかじゃない?」
何度も確認している気焔が心配しているのは。
私が「一人でいい」とイストリアの所へ行く事を話したからだ。
勿論、送っては貰うけど。
今回は沢山の相談もしたいし、お願いもあるし、多分貴石の話が出たらまた金色の瞳がアレになるに違いない。
昨日、禁書室で話をしてから。
結局、貴石の事は後で話そうと思っていたけれどそもそも私は貴石について知らな過ぎるのだ。
気焔を説得するにしても、何にしても情報が足りな過ぎる。
イストリアは貴石にも出入りしているとレナが言っていたし、大人に聞く方がいい。
ある意味レナは当事者だし。
客観的な、意見が聞きたいのだ。
ガッツリ訪問する気満々の私は、朝食後早々に出発をして今はここ、旧い神殿で押し問答していたという訳だ。
「ね?心配する様な事、何も無いよ。そもそもイストリアさんしかいないし?その、色々、話したい事もあるし………。」
微妙に口籠る私に気が付いている彼は、「だから心配なのだ」と言いたげな顔をして正面に立っている。
どうしても心配が拭えない様だ。
それに、何を私が相談するのかも。
気になるのかも、しれない。
それなら…………。
チラリと、上目遣いで言ってみる。
「ぜんぶ。…………あげるって、言ったじゃん。まだ、それでも、心配?」
あ。
ブワリと焔が出たけれど一瞬で収めた気焔は、最高級の仕方のない目をして溜め息を吐いた。
「……………解った。帰りは、遅くなるなよ?」
「うん!分かってる!」
何か嫌な目をしてるけど。
言ったもんね!
聞いたもんね!!いいって言ったもーん!
ぴょんぴょん跳ねている私を見る目がやや後悔している様な気がするけど、見ない様にしておく。
そうして金色に包まれた私は、無事一人で湖の家の扉を叩いた。
あれ?そういや「行く」って言ってないな?
まあ、多分分かってるでしょう…………。
そうしてその予測はしっかりと当たり、開いた扉からすんなりと中に招き入れられたのだった。
「君が一人で来たという事は、彼も少しは譲歩したという事かな。」
楽しそうにそう言いながら、お茶の支度をしてくれているイストリア。
私は化粧水を物色しながら、店内を彷徨いていた。
この前来た時は、めっぽう生のハーブが下がっていたと思ったけど。
今日はすっかりドライになったスワッグが沢山ぶら下がり壁も天井もみっしりだ。
「相変わらずですか?畑は。」
「そうだね。出稼ぎに行こうかと思ってるよ。」
ケラケラと笑いながら言うイストリアは、グロッシュラーとデヴァイだけだと流通がそう無いので他にも行こうかとポロリと漏らしたのだ。
勿論、その「外に行こうか」という彼女の言葉を私は逃さなかった。
「私、お願いが沢山あって………。」
「君のお願いなら、断れないな?とりあえずお茶が入ったよ。」
そう言われて中二階への階段を登る。
途中壁際のガラス棚に目をやると、私の石たちがまだ少し並んでいるのが見える。
綺麗な色は、粗方子供達に配ってしまった。
でもまだ、色はある方だろうと思う。この、世界に比べれば。
いつもの様に座ると、今日のお茶が黄色な事に気が付いた。
うん?
ハーブティー、じゃなさそうだけど?
どんな味だろう?
「いただきます。」
手で示したイストリアにそう言って、若草と黄色の可愛いカップを手に取る。
薄くて広い形のカップは春にぴったりで、確かに今日のここは春色だったなぁと思った。
いつもの外はピンクから紫、青へのグラデーションが多いのだけど。
今日は春っぽい、ピンクから黄色へ移り少し黄緑が入っていたのだ。
イストリアが変えているのだろうか。
ちょっと、訊いてみようかな?と思ったがイストリアの口が開いて私の質問はまたの機会にする事にした。
だって。
それ系の話をしようと思ったら、幾らでも出来る自信があるから。
絶対、本題が短くなってしまうに違いない。早目に出ては来たけれど、きっと時間はすぐ経ってしまうだろう。
イストリアさんと話すの楽しいからね…。
そうして私はイストリアの口から話される、私が聞きたかった質問を不思議な気持ちで聞いていた。
どうして、私が訊こうと思っていた内容を知っているのだろうか。
まぁ、私の知らない連絡手段があっても不思議ではない。
現に白い魔法使いはイストリアの事を知っていたし、きっとここに隠れている事にも一枚噛んでいるに違いない。
もしかしたら二人の間に使える、話石みたいなものがあるのかもしれないしね?
「君の質問はあれか?春の祭祀の事だろう?あれは今回は確かに大変だろうな。基本的にはウェストファリアに合わせるつもりだが。やはり…。しかし石は、やはりそうする事になった様だね?」
そうする事というのは、私が決めるって事だよね?
口には出していないその疑問に頷く様な顔を見て、私もつらつらと纏っていない思考を漏らし始めた。
普段から話が飛びやすい私の頭の中だが、聞いている人がイストリアだと本音で話せるので余計にその傾向が強い。
しかも頭がいいので、きちんと私の言いたい事を整理して答えをくれるなんて。
素晴らしすぎませんか、この人は…。
そうして始めに浮かんだ事柄が、口から滑り出し始めた。
「石を配る人は、私がやっぱり決めていいって言われました。でも判断が難しいのは一人くらいで…その辺は大丈夫なんですけど。」
「祭祀がどう、なるのかは。正直全く分かりません。私の希望もあるけど、多分考えて一番いい方法を取ってくれるのは解るし…。」
「ふぅん?希望があるのかい?」
含みのあるイストリアに頷いて、両端での祭祀について話す。
楽しそうに聞いている顔を見ると、なんとなくその希望が現実味を帯びてきた様な気がしてくる。
そう、その薄茶の瞳は完全に「賛成」の意を示していたからだ。
「そうだね。成る程。そう、か。まぁそうだろうな…………。うん、いいんじゃないか?しかしそれなら準備が、そうだな………。」
そう言って、考えるポーズで悩み始めたイストリア。
これは。
提案してみても、いいだろうか。
あの、事。
多分、イストリアが考えているのも人手が足りないという内容の筈だ。
もしかしたら、どうやって今いる人たちでやれるのかを、考えてくれているのかも知れないけど。
「あ、の。」
くるりと向けられる、似た瞳。
それを見た瞬間「ああ、大丈夫だ。」と私の中が言った。
「お願いが、あるんです。その、祭祀の事もありますけど。勿論、協力して欲しいんです。それと子供達の………地階の子供達の先生になってくれませんか?」
「あの子達は前を向く事ができた。意欲も、出てきた。だから正しく、バランス良く、導いてくれる人が必要なんです。あの子達の事も解って、ただ知識を教えるだけでなく適切にそれを生かして活用していく術を教えてくれる人。それって、私にはイストリアさんしか思い付かなくて…。」
勢い良くここまで喋って、あとはただ、真っ直ぐに薄茶の瞳を見ていた。
少し、驚いた色のその瞳は、次の瞬間快諾の色に変化し細められた。
しかし返事をするでもなく、ただ私を見ている。
改めてまじまじと私を見ている瞳に、なんだか少し恥ずかしくなってきた。
嫌な視線じゃ、ないんだけど。
なんだろ、これ…………。
そうして暫く私を眺めると、徐ろに口を開いた。
「君は、本当に。何というか。なぁ。」
ん?
なんだろう??
しかしその続きは始まらない。
とりあえず私は何を言っていいのかも、分からなかったのでカップの絵柄を堪能しながら再びお茶を飲んでいた。
味はやっぱり、ハーブティーだった。
爽やかな、草の香り。
青臭くは無いが、スッと抜ける若い香りは何の葉だろうか。後味に少し、クセがあってそれがまた美味しい。
うーん。帰りに貰って行こうか、お金…?
そういや私、お金って持ってないな??
そんな明後日のことを、考えていた私。
「君は。自分の事を、どのくらい分かっている?」
私のぐるぐるに投げかけられたのは、イストリアのそんな言葉だった。
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