透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

取り巻く 景色

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「お前さんには言ったか?その、「開放するもの」が世界間の扉であるという、ここでの認識を。」

チラリとラガシュに視線を送り、彼が頷くのを見て満足そうに続けるウェストファリア。
確かラガシュがそう、言っていた様な?

「とりあえず、石については自ずと知れようと様子を見ていた所じゃが。結局、解る者には解る、という状況になっとる様じゃ。」

「解るものには、解る?」

「そう。結局、「いろ」とは稀少なもの。クテシフォンの「色が違う」事は瞬く間に知れ渡り、向こうに報告された。が石の所為なのか、何なのかはともかく。あの、祭祀の後だ。そうして噂では「扉」も出たと言う。今迄はあちらとこちらの扉だと言われていたものが、祈りによって現れる扉だとすれば。を開く事によって、何が、起きるのか。」

「現にクテシフォンは変化しておる。まあそれは別の祈りの所為じゃがの?あいつらはそれは知らぬ。今度の祭祀は人ももっと増えるじゃろうな………。さて、するかな。」

私はその話を聞いて、白い魔法使いがイストリアを引っ張り出すのに乗り気だった理由が分かった。
きっと、これだ。

多分、私が思っている以上に春の祭祀は厄介な事になるという事なのだろう。そう言った本人は何だか楽しそうなのだけど、それがこの場の空気を重苦しくさせない為だというのも、分かる。
でも、本当に面白がってる所為も勿論、あると思うけれど。


「どう、しますか?」

ウェストファリアに合わせてか、軽い感じで訊くラガシュ。

その「どう」の内容の範囲が広そうで私は口を挟むのを止めにした。
何にしても、状況をきちんと把握しているのはこの世界の三人だろう。

するとウェストファリアはくるりと私に向き直り、仕事を一つ、言い付けた。

「まずお前さんは石を配る人選を。言うてもあの二人と後はルアーブルをどうするか、くらいじゃが。決めたら教えなさい。」

珍しく先生っぽくそう言うと、男達はその「どう」するのかを相談し始めた。

そう、私の担当外のややこしい話だ。


聞くでもなく、石について考えようと目の前の本をまた視界に入れていたのだけれど、今度はきちんと耳は働いている様だ。
そうして半分傾けながら、ボーッと目の前の白い本を見つめていた。
なんとなく、表紙の箔押しがキラリと反射した様な気がしたからだ。


「力は溜めねばならん。が、石が必要なのではないか?ヨルの創った分で足りるか………。」

「向こうから誰が来るかは調べられます?ああ、大体でいいですけど………これって人数制限できませんかね?当日移動できる人数は限られますが、ひょっとすると事前滞在する者が現れるかもしれませんよ?」
「面倒だな。」

「それだけ、関心事という事なのでしょうね…ユレヒドールに言っても僕じゃ駄目だろうしな。」

「しかし二人で祈る事になったのだろう?」
「いや、解る者には解る、と同じですよ。それも力がある者にしか判らないんだから、いいんだか悪いんだか………。」

「家のやつがこちらへ来たいと言っている話はよく聞く。人数を決められるなら決めた方がいいだろうな。」
「そこはミストラスですね。また相談に行かないと。」

「じゃあそれはラガシュに任せる。で、結局次は何処で?」


実はちょっとウトウトしていた、私。
しかし「何処で」というクテシフォンの言葉にパッと目が開いた。

期待に満ちた目で、見ていたのだろう。
なんでか、私の瞳を見て何かを確認しているウェストファリア。

そうして私の反応を確かめる様に、一つ一つ言葉を発していく。

「外、じゃな、うむ。外は決まりとして………池、まあ池もいいな。うむ。何処か広い場所もいい、な?人数が増えるとすれば………でも水は、あった方が、いい、と。うむ。やはりこの前と同じか?ふむ。」

そうして幾つか質問の様な独り言の様な事を言うと、立ち上がりいつもの様に回り始めた。


その山の間を器用に縫って歩く白いローブを眺めながら、私もぐるぐる、する。

私の頭の中は、ここグロッシュラーで祭司をやるなら何処が一番祈りが届きそうか、想像の順位が付けられようと、していた。







結局あの後は各々が調整してまた集まる、という事に決まり解散した私達。

意外と長く話していた様で、禁書室を出る頃には夕食の鐘が鳴っていた。
そのまま私と気焔、クテシフォンは食堂へ行きラガシュは「早速行ってきます!」と何だか張り切ってミストラスの部屋へ行ってしまった。

仲良くなってるよね…、アレ。
しかも夕食どう、するんだろ?
その後一緒に来て食べるのかな?
なんかそれウケるんですけど………。


そうして夕食も済ませ、私は今食後のお茶を部屋でのんびり飲んでいるのである。

気焔は「少し出てくる。」と言って何処かへ行ってしまった。
多分、寝る前には戻ると思うけれど彼にも息抜き?は必要だと思う。

どう、なんだろうな?
でも元々石で、私の腕にくっ付いてた訳だからそんなに抵抗が無いのだろうか。
私としては、一緒にいるのが自然だし一緒にいたいとも、思う。

けれどこうして少し、一人になる時間もそれはそれで好きなのだ。


ポットから上る湯気を眺めながら、窓からの明かりのみでのティータイムだ。

「月明かりならぬ、雲明かりだね…。」

そう、いつもの様に独り言を言っていると多色の房からキラリと玉虫色が光る。
コトリと鍵がズレる音がして、ベイルートが出てきた。

「いい、夜だな。」

「そうですね。雲がこれだけ厚くても、こう明るいって事はやっぱり月が見えたら大きいですかね?」

「そうかもな。祈りが溜まれば、雲が晴れるのだろうな。」

ゆっくりと話すベイルートの声が、柔らかな明かりに気持ちいい。
カップからの香りも楽しみながら、糞ブレンドをゆっくりと口に含んだ。


緩やかな雲の明かりだけれど、床板はくっきりと切り取られている。

夜に映えるだろうと、ティーセットは真っ白なものにした。
その白いカップに注がれている、紅いお茶と今は緑が勝っているベイルート。

鍵の房は色が沢山入ってはいるが、基本的には白い。ティーセットと上手く馴染んでテーブルの上は白と影の綺麗なコントラストが生まれていた。


長い、息を吐いて深呼吸する。

深く、呼吸をすること。
香りを楽しむこと。
この静かな時間を感じる、こと。
この空間の空気、いやそれを構成する小さな粒すら感じて、想像をする。

この部屋の中での夜の空気、テーブルや椅子、家具と壁の質感、ティーセットの陶器の硬さと白い房の柔らかさ。

窓の外の景色と、きっと冷たいであろう夜に冷やされた空気。
少し黄味がかった佇む雲と流れる白い雲。
その下の灰色の大地はきっと力を蓄え始めていること。
全てを、肌で捉えて感じて、「思うこと」。


夜はいい。

以前も天空の門で思ったけれど。

なんだか自由だし、昼間よりも体が軽く感じる時も、ある。
知らない世界だけれど、そんな時の私は万能で何でも出来そうな気がしてくるからだ。

「今、外で走ったら絶対速いと思う。」

「あ?」

ベイルートの間抜けなツッコミも、少しだけ笑って答えておく。

そうだなぁ。

こんな夜は。

私の、妄想を垂れ流してもいいだろうか。

いいよね?多分。

うん、そう、思うよ。


そう一人納得した私は、半分独り言の思考の漏れをベイルートに聞いてもらう。
人でもなく、不思議な存在の彼に聞いてもらうのが、丁度いい。
そんな気がしてきた。

「私としては。人数も増えるし?あっちと、こっちの神殿で祈るのが、いいと思うんですよね………。で、多分みんなあっちを嫌がりそうだから、私が独り占め出来るでしょう?そう、すると丁度いいし、きっとこっちに人が多い方がバランスが取れそうなんだよな………。」

「あっちは多分、旧いし私と相性良さそうだからぶっちゃけ一人でもいいんじゃないかってくらい………いや、気焔が怒るか。なら、最低限の人数で、うーん?でもあっちとこっちで祈って多分、光が飛んで?飛ばないかな?まぁ降りるとして、それなら全体に、降りるでしょう?」

すれば。何だか大地に栄養も行き渡ってきっと木も生えやすいだろうし。島自体もきっとチカラが溜まる。でも………そっか、扉がこっちに出ちゃったら駄目なんだ。えー、そうするとなぁ………「出ませんでした」とかじゃ、駄目なのかな??大体、毎回確実に出るかどうかなんて、分かんなくない??」

「それはあるな。」

「ですよね?!その辺実際、出さなくていいんじゃないかな………多分、あっちとこっちで祈ればめっちゃ降る時思うんだよね………。凄い、やつ…………。」

「ヨルはどうして思うんだ?」

「いや、あのですね?あれ?前に話したのは朝だったっけ?………あの、初めに旧い神殿にいたじゃないですか、私達。あの時の感覚と、その後天空の門に行った時の、感覚。似てる、んですよね。多分、あれも旧いんだと思うんだよなぁ………。あ、確か青の本にもアレは載ってるし?だよね………多分、あれもついなんだよ。成る程。だから。」


「何が、成る程なのだ?」
「ひゃっ!」

いきなり違う声が聞こえて、気焔だと認識はしたのだけれど同時に飛び上がってしまった。
心臓がバクバクいっているのが、判る。

思ったよりも自分の中に入ってしまっていたのだろう。
ベイルートの返事が返ってくるので、そう、入り込んでいるとは思っていなかった。

まぁでもベイルートさんもまじない石だし、何かの力が働いたのかもしれないよね………。


金色は無言でティーセットを片付けていて、そうして私に手を出し寝室へと促す。


何の用事だったんだろう?

そう、思いながらもすっかりリラックスした私は、言いたい事も垂れ流してスッキリしていたので急激な眠気に襲われていたのだった。


うん、とりあえず寝よう。

そうして何か聞きたそうな金色の瞳を、半分しか開いていない目で見つめ、そのまま就寝する事に成功したのだった。



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