透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

それぞれの動向 2

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そうしてクテシフォンの話を聞く体勢になった私は、慌ててノートとペンを出した。

「危ない、危ない。またこんがらがっちゃう………。」

クテシフォンはそんな私の様子を見ながら「そう、祭祀もあるしな。」と言いながら腕を組んでいる。
隣のページにはまだ途中の祭祀の見出しが書いてあるからだ。

「とりあえず、石の話から順にお願いします。」

割と切実な私の訴えに頷いた彼は、こう前置きをして話し始めた。

「とりあえず私の所に来た話と、所感になるが、気が付いた事を話しておく。何かあれば補足してくれ。」

そう言ってベイルートに合図すると、続きが始まる。

「ん?上から言った方がいいか?………なら白からか…?とは言ってもダーダネルスだけだが。ネイアでは無いが、あれは力が強い。まぁある程度予測はしているのだろうが直接の言及は無いな。多分、何か君から話があるのを待っているのかもしれん。とは言っても石は持っているし、何かあれば手伝いたいのだろう。アレはそのままでいいと思うが。」

確かに、ダーダネルスに関して言えば話して大丈夫だとも思うし礼拝堂での事を思い出しても、かなり的確に動いてくれているのは分かる。

どう、かな?
でも自分からホイホイ話してもいいものか………。

チラリと本棚の前を確認する。
うん、まだ止めておこう。

そう、金色はただ、じっと私を見つめていた。
否定では無いが、肯定でも、無いその色。

確かにこのままでも困る事は無いし、あまり知られ過ぎるのも、アレか………。

「そう、ですね。もし何かあれば、お願いする事にします………って言うか、そっちは大丈夫なんですか?なんか………今更だけど。」

そう、全面的に白の家には協力してもらう形になっている、現状。
確か私の認識では、青の家以外は派閥がどうとかで銀の家との関係が………?
うん?
なんだったかな??

ネイアはまだしも、ダーダネルスはセイアだ。
勝手に動いて大丈夫なのだろうか?
でも、この二人がいいって言ってるなら、いいのかな………?

うーーーーん??

しかしやはりと言うか案の定と言うか、クテシフォンの答えはまるでダーダネルスに聞いたかの様な答えだった。

「今更関わるなと言っても難しいだろう。それに、ダーダネルスは自ら進んで君に協力したがっている。心配は無いし、側に置くには丁度いいだろう。」

何故だかチラリと壁際に視線を投げたクテシフォン。
気焔が微妙な反応をしていた事に気が付いたのだろうか。

「えー、次は黄色か。それと、ミストラスはどうだった?話したのだろう?」

「ええ、まぁでも彼は石は持っていますからね。特にそれについての言及はありませんでした。目下扉の事に気を取られているんですかね…。しかし、今回デヴァイからも要請があったので…。」

「多分、石の事も各家がそれぞれ本家に相談している筈だ。だから余計に、かも知れないな。私に接触するかどうかも、相談しないと決められないのだろう。その点だけで言えば、赤は判断自体は早かったがな?」

話を聞くに、その接触の早さ的にも赤ローブの二人は本家に訊かずにクテシフォンに接触したらしい。
あの二人らしいと言えば、らしいけれど。

しかしその後クテシフォンにあしらわれてからは、向こうの方で話題になった様だ。しっかり報告だけは、したのだろうと言っていた。

それにしても、やっぱり本家とか、あるんだね………。

赤は×でしょ、白は○にして~、黄色が………ああ、ニュルンベルクか。
あの後、どうなったかな?
結局、木はアラルエティーの所為になってるんだよね?

私の頭が再びごちゃついて来たところで、クテシフォンが軌道修正してくれた。


「それで。ニュルンベルクだが、直接の接触は無い。しかしあいつは貴石に通っているからな。そこから情報を取ろうととしていると聞いた。しかしあちらも力が増えて中々………。」

そこまで言ってハッとした様に私を見る、クテシフォン。

いやいや、そこまで言ったらもう喋っちゃって下さい…気になりますから。

「大丈夫です。」

それだけ言って、続きを促す。
チラリと過った、「この後貴石にも行きますから。」というセリフだったが、なんだかこの場が荒れそうな気がしなくも無いので無難に流す事にする。
それはまた、別の話題だ。
とりあえずは石を誰に配るのか、把握しなければならない。


私の様子をもう一度確認して、何故だか再びチラリとあっちも見る、クテシフォン。
婚約者ではなく保護者だと思っているのではなかろうか。

「……だから今の所は保留だな。セイアもそう伝えられているのだろう。あそこは上が厳しい。
それで、次は……茶か。ルアーブルだな。これは………。」

「そうですね。まあ放っておいていいのでは?」

「機会があればお前さん、話してみるといいかも知れん。は典型的なあそこの人間じゃからな。」

急にウェストファリアが口を挟んできた、その人物は確かさっきラガシュが言っていた最後の一人だろう。
でも「典型的なあそこの人間」って、どういう意味だろうか。

メモに何と書いていいのか分からなくて、顔を上げ青緑の瞳を見た。

多分、私の言いたい事は分かる筈だ。
そう、これまでに色々とこの世界の話をしてきた私達だからこそ、多分帰ってくるであろう返答があると、私の直感は言っている。


ウェストファリアは髭を撫でながら、少し考えるとこう、言った。

「その、「流れによって変わる」ものだという事だ。だから奴のまじないは黄色であるし、ある意味本家にも相談しとらんだろう。ビクトリアとも、話していないと思うが?どうだ、そっちは。」

振られたクテシフォンは少し考えて、私を見る。
そうしてそのまま口を開いた。

「あの二人、ブリュージュとビクトリアはヨルがだと解っているだろうな。特に何も言ってはいないだろう?…うん、だから君に迷惑がかからない様に黙っているのだろうな。たまに視線は感じるが、きっと心配しているのだろう。」

「そう、ですか………。」

やだ………じんわりくる。

ここに来た当初から、私の事を心配してくれていた二人。
きっと「大丈夫なのか」心配の目をクテシフォンにも向けている事が容易に想像出来る。
ネイアの目が彼に集まっていて、原因が私だという事がなんとなく解っているのだろう。

心配させたくは無いし、話してしまいたい気持ちもある。
でも…………。

青緑の瞳に視線を戻す。
頷いたウェストファリアはまた話を始めた。


「ルアーブルは放っておけ。その二人も、お前さんは積極的に巻き込む事は良しとしないじゃろうな?ああ、分かっとる。しかしな、これからもしかすれば危険もあるじゃろう。だから、この機会にお前さんが配りたいものには配っておくのも手だ。」

そうしてウェストファリアはいつになく真剣な顔をして気焔を手招きした。

そうして全員が本の山のテーブルに集まる。
私は「危険もある」と言った、その言葉が頭の中をぐるぐるしていて、いつの間にか背後に回っていた気焔に肩を叩かれ飛び上がってしまった。

「大丈夫だ。」

いやいや、ビックリさせないでよ………。

バクバクいっている心臓を抑えながら、みんなの顔を確認する。

驚いているのは、私だけなのか。

その、「危険」が何を意味するのかみんなは知っているのか。

「力」の授業と、シャットでのシェランの事がぐるぐると頭の中を巡る。


ラガシュは何かを考えている顔、クテシフォンは私を心配そうに見ている。
振り返ると、金色の瞳はそこそこ燃えているし。

なんだろう、大丈夫なんだろうか。

しかし最後に見た、その青緑の瞳は。


なんだか少し、楽しそうな色を浮かべていたのだ。


うん?
大丈夫なの?
でも白い魔法使いの「大丈夫」だからな………。

しかしきっと最悪の事態にはならなそうなその表情を見て、少し安心した私。

ドキドキを抑えながらメモを持ち直し、心の準備をしたのだった。

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