292 / 1,751
7の扉 グロッシュラー
それぞれの動向 2
しおりを挟むそうしてクテシフォンの話を聞く体勢になった私は、慌ててノートとペンを出した。
「危ない、危ない。またこんがらがっちゃう………。」
クテシフォンはそんな私の様子を見ながら「そう、祭祀もあるしな。」と言いながら腕を組んでいる。
隣のページにはまだ途中の祭祀の見出しが書いてあるからだ。
「とりあえず、石の話から順にお願いします。」
割と切実な私の訴えに頷いた彼は、こう前置きをして話し始めた。
「とりあえず私の所に来た話と、所感になるが、気が付いた事を話しておく。何かあれば補足してくれ。」
そう言ってベイルートに合図すると、続きが始まる。
「ん?上から言った方がいいか?………なら白からか…?とは言ってもダーダネルスだけだが。ネイアでは無いが、あれは力が強い。まぁある程度予測はしているのだろうが直接の言及は無いな。多分、何か君から話があるのを待っているのかもしれん。とは言っても石は持っているし、何かあれば手伝いたいのだろう。アレはそのままでいいと思うが。」
確かに、ダーダネルスに関して言えば話して大丈夫だとも思うし礼拝堂での事を思い出しても、かなり的確に動いてくれているのは分かる。
どう、かな?
でも自分からホイホイ話してもいいものか………。
チラリと本棚の前を確認する。
うん、まだ止めておこう。
そう、金色はただ、じっと私を見つめていた。
否定では無いが、肯定でも、無いその色。
確かにこのままでも困る事は無いし、あまり知られ過ぎるのも、アレか………。
「そう、ですね。もし何かあれば、お願いする事にします………って言うか、そっちは大丈夫なんですか?なんか………今更だけど。」
そう、全面的に白の家には協力してもらう形になっている、現状。
確か私の認識では、青の家以外は派閥がどうとかで銀の家との関係が………?
うん?
なんだったかな??
ネイアはまだしも、ダーダネルスはセイアだ。
勝手に動いて大丈夫なのだろうか?
でも、この二人がいいって言ってるなら、いいのかな………?
うーーーーん??
しかしやはりと言うか案の定と言うか、クテシフォンの答えはまるでダーダネルスに聞いたかの様な答えだった。
「今更関わるなと言っても難しいだろう。それに、ダーダネルスは自ら進んで君に協力したがっている。特に心配は無いし、側に置くには丁度いいだろう。」
何故だかチラリと壁際に視線を投げたクテシフォン。
気焔が微妙な反応をしていた事に気が付いたのだろうか。
「えー、次は黄色か。それと、ミストラスはどうだった?話したのだろう?」
「ええ、まぁでも彼は石は持っていますからね。特にそれについての言及はありませんでした。目下扉の事に気を取られているんですかね…。しかし、今回デヴァイからも要請があったので…。」
「多分、石の事も各家がそれぞれ本家に相談している筈だ。だから余計に、かも知れないな。私に接触するかどうかも、相談しないと決められないのだろう。その点だけで言えば、赤は判断自体は早かったがな?」
話を聞くに、その接触の早さ的にも赤ローブの二人は本家に訊かずにクテシフォンに接触したらしい。
あの二人らしいと言えば、らしいけれど。
しかしその後クテシフォンにあしらわれてからは、向こうの方で話題になった様だ。しっかり報告だけは、したのだろうと言っていた。
それにしても、やっぱり本家とか、あるんだね………。
赤は×でしょ、白は○にして~、黄色が………ああ、ニュルンベルクか。
あの後、どうなったかな?
結局、木はアラルエティーの所為になってるんだよね?
私の頭が再びごちゃついて来たところで、クテシフォンが軌道修正してくれた。
「それで。ニュルンベルクだが、直接の接触は無い。しかしあいつは貴石に通っているからな。そこから情報を取ろうととしていると聞いた。しかしあちらも力が増えて中々………。」
そこまで言ってハッとした様に私を見る、クテシフォン。
いやいや、そこまで言ったらもう喋っちゃって下さい…気になりますから。
「大丈夫です。」
それだけ言って、続きを促す。
チラリと過った、「この後貴石にも行きますから。」というセリフだったが、なんだかこの場が荒れそうな気がしなくも無いので無難に流す事にする。
それはまた、別の話題だ。
とりあえずは石を誰に配るのか、把握しなければならない。
私の様子をもう一度確認して、何故だか再びチラリとあっちも見る、クテシフォン。
婚約者ではなく保護者だと思っているのではなかろうか。
「……だから今の所は保留だな。セイアもそう伝えられているのだろう。あそこは上が厳しい。
それで、次は……茶か。ルアーブルだな。これは………。」
「そうですね。まあ放っておいていいのでは?」
「機会があればお前さん、話してみるといいかも知れん。あれは典型的なあそこの人間じゃからな。」
急にウェストファリアが口を挟んできた、その人物は確かさっきラガシュが言っていた最後の一人だろう。
でも「典型的なあそこの人間」って、どういう意味だろうか。
メモに何と書いていいのか分からなくて、顔を上げ青緑の瞳を見た。
多分、私の言いたい事は分かる筈だ。
そう、これまでに色々とこの世界の話をしてきた私達だからこそ、多分帰ってくるであろう返答があると、私の直感は言っている。
ウェストファリアは髭を撫でながら、少し考えるとこう、言った。
「その、「流れによって変わる」ものだという事だ。だから奴のまじないは黄色であるし、ある意味本家にも相談しとらんだろう。ビクトリアとも、話していないと思うが?どうだ、そっちは。」
振られたクテシフォンは少し考えて、私を見る。
そうしてそのまま口を開いた。
「あの二人、ブリュージュとビクトリアはヨルがそうだと解っているだろうな。特に何も言ってはいないだろう?…うん、だから君に迷惑がかからない様に黙っているのだろうな。たまに視線は感じるが、きっと心配しているのだろう。」
「そう、ですか………。」
やだ………じんわりくる。
ここに来た当初から、私の事を心配してくれていた二人。
きっと「大丈夫なのか」心配の目をクテシフォンにも向けている事が容易に想像出来る。
ネイアの目が彼に集まっていて、原因が私だという事がなんとなく解っているのだろう。
心配させたくは無いし、話してしまいたい気持ちもある。
でも…………。
青緑の瞳に視線を戻す。
頷いたウェストファリアはまた話を始めた。
「ルアーブルは放っておけ。その二人も、お前さんは積極的に巻き込む事は良しとしないじゃろうな?ああ、分かっとる。しかしな、これからもしかすれば危険もあるじゃろう。だから、この機会にお前さんが配りたいものには配っておくのも手だ。」
そうしてウェストファリアはいつになく真剣な顔をして気焔を手招きした。
そうして全員が本の山のテーブルに集まる。
私は「危険もある」と言った、その言葉が頭の中をぐるぐるしていて、いつの間にか背後に回っていた気焔に肩を叩かれ飛び上がってしまった。
「大丈夫だ。」
いやいや、ビックリさせないでよ………。
バクバクいっている心臓を抑えながら、みんなの顔を確認する。
驚いているのは、私だけなのか。
その、「危険」が何を意味するのかみんなは知っているのか。
「力」の授業と、シャットでのシェランの事がぐるぐると頭の中を巡る。
ラガシュは何かを考えている顔、クテシフォンは私を心配そうに見ている。
振り返ると、金色の瞳はそこそこ燃えているし。
なんだろう、大丈夫なんだろうか。
しかし最後に見た、その青緑の瞳は。
なんだか少し、楽しそうな色を浮かべていたのだ。
うん?
大丈夫なの?
でも白い魔法使いの「大丈夫」だからな………。
しかしきっと最悪の事態にはならなそうなその表情を見て、少し安心した私。
ドキドキを抑えながらメモを持ち直し、心の準備をしたのだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作



【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる