透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

それぞれの動向

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「いや、大人気ですね。あの石は。今の所、接触が無いのはルアーブルだけですよ。」


「リン」といつもの空間を作るなり、話し始めたラガシュ。

あの石、と言うのは私の石の事だろうか。

「さっきはネイアが集まり始めていた。もしかしたら、思ったよりもお前がだと気が付いている者が多いのかもしれんな。」

うん?
ちゃんと説明して??


もしかしなくても、さっき食堂でその話をしていたのだろう、二人は何だかさもありなん的に頷いているけれど。

私はまだ全然把握していない、その内容。

とりあえず、さっき置いたノートを広げながらラガシュを見ると頷いているのでメモしても大丈夫だろう。
新しい名前も出て来たし、出来ればメモっておきたい。

午前中にメモしておいた、祭祀のページの隣にネイアの表を作る事にする。
ローブと石について書いておけば、誰がどう動いているか少しは分かり易いだろう。

もうこれ以上情報だけが増えて、混乱するのは御免なのだ。


そうしてまずは、石についての話を聞く事になった。
その、一人だけ接触が無いという人の事が気になったからだ。私が直接知り合っていないネイアはもう、そう多くはない。

確か、あと二人くらいだと思ったんだけどな…?


この際だからと、色分けもしてネイアの名前を順に書いていく。

「青はラガシュ、ホントに一人だけだったのね…。」

独り言を言いつつも、表が完成した。

「うん、これでバッチ…リ………?一人足りなくない?」

そう、確かネイアは12人いると初めに聞いた筈だ。それに、気焔がプラスされて13人になっていると思っていたのだが、数えてもやはり12人しかいない。

「ああ、それはアキテーヌでしょうね。女性が三人居ると、言われていたでしょう?でもブリュージュとビクトリアしか会っていないですよね?」

「はい。」

「いつから帰っているのか忘れましたけど、確かヨルが来る前家の用事で帰ったままですね?大方、縁談か何かでしょうけど。」

ふぅん?
折角ここに来たのに、連れ戻されるなんて可哀想。

何色の家なのか、そもそもその認識で合っているのかは分からない。
しかしブリュージュやビクトリアの様子を見ているとあながち的外れでもない様な気も、するのだけど。


そのまま話し始めるかと思ったのだが、始まらないのでペンが遊んでしまっている。

うん?
どうしたんだろう?

ふと顔を上げるとラガシュは何やら考え込んでいた。
そうして一つ、提案をした。

「いや、僕はあまり他のネイアの情報を持っていないんですよ。まぁ、信憑性と量で言えばやはりあそこへ行きましょうか。きっと今日も報告に来ていると思いますよ。」

そう言ってチラリと奥に目をやった。
多分、禁書室だ。

勿論、私に異論はない。
チラリと隣も確認したが私の本を持ってくれているので、同じくだろう。


そうして私達はラガシュの空間から白い魔法使いの部屋へ、移動する事にした。







禁書室の白い扉は、相変わらずノックをしても何の返事もなかった。

慣れた様子で構わず扉を開けたラガシュに促され、先に部屋へ入る。
午後の光が差し込む部屋は、いつもの資料の山が少し高くなった気がするのは気の所為だろうか。

今日は何かのハーブの香りもする。
クセのあるこの匂いは、なんだかよく効きそうな薬の様だ。何を作っているのだろうか、きっと集中していて全く聴こえていないのだろう。


そのままラガシュがスタスタと白いローブに向かって行くのを見送ると、私は気焔が中央の本の山に白い本を置いたのを確認する。
場所を覚えておけば、大丈夫。

多分、この部屋にあった方がいい様な気がする。大きくて重いし、見たい時はここで見てもいいかもしれない。トリルは禁書室へ入った事があるだろうか。
今度、聞いてみよう。

気焔がいつもの壁際に陣取ったのを確認すると、私も奥へ進んで行った。
白い魔法使いが何を作っているのか、単純に気になったからだ。

そう、既に当初の目的はすっかり忘れて周りの本や道具を眺めながら、部屋の奥へと移動していたのだ。


しかし、ウキウキと進んでいた私の期待を裏切って、ラガシュとウェストファリアは既にこちらへ向かっていた。

先に歩いてきて私に長椅子を示すラガシュ。
きっと恨めしそうな顔をしていたのだろう、「いや、あれは栄養剤ですよ。」と言って私の肩にキラリと光る何かを乗せた。

「あ。」

最近、あまり部屋にいないと思ったら。

「ベイルートさん。ここだったんですね?たまには帰ってきて下さいよ。」

そう、ラガシュが私の肩に乗せたのは久しぶりのベイルートだった。
しっかり顔を見たくて、手のひらに乗るよう手を出す。

顔と言っても、よく、分からないけど。
でもやはり心配なのだ。私の為に、ついて来てくれているベイルート。
きっと「大丈夫」と言うに違いないのだけれど、それとこれとは別なのだ。

「流石に留守にしすぎですよ?不良ですよ、不良。」

半分私の愚痴だが、口に出して言っておく。
きっとこの部屋も中々の居心地なのだろう。でもやはりずっと姿が見えないと落ち着かない。
こう言っておけば、きっと顔は出してくれるだろう。

そんな私の心配を分かっているのだろう、ピョコリと頷く様に動いたベイルートはそのまま本の山の上に飛び移り「さて、やるか。」と言った。

その彼の言葉でラガシュがベイルートの話を聞きに来たのだと判る。


そうしてウェストファリアが一人掛けの椅子に落ち着くと、玉虫色を囲んだ報告会が始まったのだった。


「で?ネイアの事だろう?」

「ええ、そうです。新しい動きはありましたか?」

「まぁそれなりだな。それよりもうすぐ来る。そっちからも聞いた方がいいだろうな。」

「そうですね…直接言わなくとも、目線で分かりますからね。」

ラガシュとベイルートが話している間、ウェストファリアは何やら資料をめくっている。
私はそのパラリパラリという乾いた音を聞きながら、話半分でボーッとしていた。
多分、待っているのはクテシフォンだろう。そうなると、本格的に話が始まるのは彼が来てからになる筈だ。


目の前に積まれた沢山の本を何ともなく眺める。

絶妙なバランスで積まれたそれらは各本の段差が心地よい線を描いていて、目で追うのが単純に楽しい。表紙の厚みから大きさの揃わない紙の凸凹、本の大小に構わず積まれた様とその塔と塔のひしめき合う様子を観察して遊ぶ。

そして意図的なのか、青の本の上に乗せられた白の本。
関わりを知っているからなのか、それとも発する何かが通じているのか。
色も形も、大きさだって全く違う。しかしどうしても同じシリーズに見える本たちは、この塔の中にあっても存在を私にアピールしていた。

うーん。
でも………今は読めないなぁ。


そんなぐるぐるの中にいる私の耳に、あの単語が飛び込んできたのはその時だった。


「…赤い髪だろう?どうなった?進展はあったか?」

「いや。多分見間違いだったのかもしれないぞ?最近は聞かないな?」

チラリとベイルートがこちらを見た気がする。

そしてショックな事にクテシフォンは私の隣に、既に座っていた。

どんだけ?!
どんだけなの、私。流石に気付かなすぎじゃない???

つい頭を抱えてしまったが、話題はあの「赤い髪」の話だ。
私がシンの部屋に行ったのは、少し前。
あれから多分、出てはいないと思うんだけど………。

しかし本当に私が気が付いていなかっただけで、三人の話し振りではなかなかの噂だったらしい。

「まぁもう暫くすれば落ち着くだろう。見なくなれば、もう忘れるんじゃないか?」

「そうだろうな。放っておいても大丈夫だろう。」

ベイルートは何か気焔から聞いただろうか。
しかし彼がこの話を流そうとしているのは分かって、やはりが私だという事は知っているに違い無いと確信した。

ベイルートにバレる分には、構わない。
このまま大人しく、やり過ごす事にした。

多分、私が口を挟むとあの瞳が変化するに違いない。
チラリと本棚を確認したけれど金の瞳は閉じられている。それが少し、リラックスしている様に見えて安心した私は座り直して隣の白いローブに向き直った。


「で、クテシフォンさん、どうですか?誰か、来ました??」

あの、私たちの中で「一度様子見をしよう」という事になっている石を配る話。
基本的にはクテシフォンに接触して来た人を私とウェストファリアが検討して、決めようという話にはなっている。

赤ローブに関しては、クテシフォンが反対してそもそもここまで話が来ていない。

その他の家は、どうだろうか。


そうしてやっと、石に関しての話が始まった。
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