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7の扉 グロッシュラー

シンと私とあの人と

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結局、ラガシュとミストラスの話でも。

やはり、「扉は出そう」という事になったらしい。


「力は少しでも、多い方がいい。溜めれるのなら、尚更です。」

私の石がある事、ミストラスが了承した事、結局デヴァイからも「扉」の話が出た事と、シンが了承した事。
色々な事がラガシュの追い風になって、どうやら運気は彼に向いているらしいと感じた、私。

ある日の図書室でその報告を聞くと、やはりシンには会いに行かなくてはならないだろうな、と考えていた。





あの日、気焔と話した後。

特に彼からは何も言われていない私は、あの時の「あの人」と気焔の話が気になっていた。

私達が「同じ」だということ。

気焔に「人では無い」と言っていたこと。


「同じ、って言うのは多分私とあの人が立場的に好きな人が………あわわ…。」

自分の独り言に一人で照れて、それに可笑しくなって笑う。

「でも、「人では無い」って。どういう、事だろう?だって石なのは、解ってるし??」

意図が分からなくて、首を捻っているうちに扉の前に着いた。


「わぁ………。」

既に薄暗い廊下に、まじないのランプが微かに揺れる、灰青の空間。
三階は私達の二階よりも色調が一段暗い気がする。先日ミストラスの部屋へ行った時は、気の所為かと思っていたけど。

多分、ネイアの階だからかな………?


足を止めた正面の扉は白に塗られていて、プレートは有るが何も刻まれてはいない。

そう、ここはシンの部屋の前だ。


気焔と話をして、後日ラガシュに話を聞いて。
その後、「シンと話したい」と気焔の許可を取ろうとしたのだけど。

勿論、始めは「吾輩も一緒に」と言っていた気焔。

でも。

何故だかはっきりとは判らないが、私の勘が「一人で行け」と、告げていたのである。

それで何とか宥めすかして説得し、一人向かった所なのだ。


うん、大変だった。

もう…………。思い出すじゃん…………。


金色に満ち満ちている私は、自分から金の金平糖が漏れ出てくるんじゃないかと、時折後ろを振り返っていたくらいだ。

絶対、シンにはバレると思う。
多分それを見越して、やったのだろうけど。

でもちょっと、私の身にもなってよ………。


少し人の気配がした気がして、慌てて扉をノックした。
一人、白い扉の前でじっと佇んだまま考え事をしていたからだ。
かなり、怪しいに違いない。
それに、今はもう夜だ。

しかし私は、気が付いた。

「あ。そっか。」

実は、変装をした上で更にラギシーを使っているのだ。

ただ、物音を立てると見つかる可能性がある。
とりあえず一度のノックでそのまま待つしかない。

そうしてやはり気配は階段を上っていて、見えない事は分かっているがドキドキは、する。

すると音もなく扉が開いて、私は中へ引き込まれた。





実は。

悪戯じゃ、ないんだけど。

私はビクスにお願いして、赤い髪にして貰い更にラギシーを使ってやってきた。


そもそも事の発端は、「あの人」がビクスに赤い髪にして貰い夜中に出かけている事だった。

それが何故だか男子フロアを通ったらしく、見つかり噂になっていたのである。


だから、という訳ではないのだが私は単純に興味が、あった。

そう、「赤い髪の私」をだと思うのか。

ちょっとだけ、試してみようと思ったのだ。



私を引いた強い腕は、そのまま私を支えベッドに座らせた。

そうして自分も隣に腰掛け、そのまま黙っているのである。

うん?
これ、でも私が喋るとバレるよね?

もしかしたら、もう気付かれてるのかも、しれない。

しかし、なんだか楽しくなっている私は自らバラす気は無かったので、ここぞとばかりに部屋の中を観察していた。


シンは、白ローブのネイアである。

クテシフォンの部屋は知らないし、多分白い魔法使いは「あの部屋」で暮らしていそうだ。

よって、初めて入るミストラス以外のネイアの部屋だし白ローブの部屋である。

パミールは黄色だし。
流石に、広いな………?


ミストラスの部屋よりは、狭い。
しかしそれなりの広さのダイニングに、そのまま仕切りがあって奥に寝室。
扉は無いが、これだけ仕切られていればもう、別の部屋という認識だ。

白ローブだからなのか、白が基調のこの部屋は明るくすっきりとした雰囲気である。
腰壁は灰色で、基本的は濃灰色か紺色が使われている、ここでのシンにピッタリの部屋。

入り口扉から、真っ直ぐここに連れて来られたのでダイニングはあまり見られなかったがキッチンとテーブルセット、食器棚など特に変わった事のない様子。
そうしてここ、寝室は大きなベッドが奥にあり私はそこに座っている。

背後に大きな窓があって朝は眩しそうだけど、夜はなんだか心地良さそうだ。
星が見えたら、きっと素敵なんだろうけど。

仕切りの陰に本棚と小さな机、造り付けのクローゼットと、そう沢山物は無い。


「えっ?」

そう、私は完全に油断していた。

と言うか、全然シンの事を忘れてお部屋観察に没頭していた、だけなんだけど。


「トスン」とベッドに押し倒されて、白く見えるシンが私の上に、いる。

「えっ。」

もう、すっかり目的を忘れただ焦る私の上から近づいてくる、シン。
咄嗟に手で顔を隠していた。

「ちょ、待って。ストップ、ストップ!」

「…………ックッ、」


ん?

わ、笑ってる??


ガッチリとガードしていた、手を外す。

そこには、珍しく笑いを噛み殺しているシンが、いた。


ありゃりゃ、バレてたみたいね…………。


そうして私は起き上がり髪を直して、シンが笑い終わるのを待っていたのである。





「久しぶり、だね…。」

「あの人」とは、相引きしていた、みたいだけど。


改めてベッドに座り直し、正面に胡座をかいているシンを見ていた。

ダブルベッドくらいはあるだろう、同じ幅の窓からは、やはり雲が流れて濃灰青のサテンカバーが美しく波打つ様に見える。

その上に座るシンはほぼ白に見える髪が雲の明かりに浮かび上がり、金色とはまた違った美しさを現していた。


翳った雲で紺色に見えるサテン、その上に鎮座する白。
瞳の赤だけが明るく見えて「同じだな」、と思い出す。


「私」と「あの人」も同じだけど。

この「金」と「銀」も、同じだ。


違う、のは解るんだけど。
でも、この雰囲気。

人では無い、もの。
侵し難い、空気。

  
  「「美しいな。」」

ん?
ちょっと待って。

そう、私、話したい事があるの。
だから、一人がいいって思ったんだ。

そうか。


ここに来て、初めて自分が何が言いたかったのか、どうして一人で来たかったのかに思い至った、私。

 「少し、待ってて?ごめんね?」

そう、私の中に話しかけ、正面の赤い瞳を捉えた。




「今まで。」

「守ってくれてて、ありがとう。」

ジワリと、目が滲んでくる。
駄目駄目、まだ。

「あの、ね。解ったの。どうして、シンといるとあんなに安心出来たのか。どうして、あんなにドキドキしてたのか。私と、居たからなんだね。」

胸に手を当て、また赤い瞳を見る。

「でも多分。内緒に、しなきゃいけないんだよね?どうして、出てきちゃったのかは分からないけど。多分、このままだと危ないんだよね…。」

でも、多分。

なんとなく、だけど。

私は、私が「気焔が好き」だと気が付いたから、のだと、解っていた。

私の中には、「姫様」の、「シン」への想いがあって。

多分、「私」が「気焔」を好きになっちゃったから。

私達は、別々にならざるを得なかったのだろう。

両立は、きっと出来ないのだ。

そして、もしかしたら、私が気焔とぬくぬくしてたから。
寂しくなっちゃったのかも、しれないとも思う。

そうなの?

ごめんね?

でも。だって。

私が、前に、進む為には。

この、知らない世界で、ただひたすら真っ直ぐ、進む為には。

気焔」が、必要なの。



「お願い。」

自分の中と、正面の赤い瞳に向かって、言った。
精一杯の、お願い。

我慢、してもらう事になる。

私だったら、無理だし嫌だ。

でも。

では。

いずれバレるだろうし、そうなると…………。
きっと邪魔も入るだろう。

そう、「本当の目的」が達成できないかもしれない。


じっと、正面の白く美しい彼を見ていた。


どのくらい、見ていたろうか。

赤い、瞳と赤い唇が白い彼に映えてなんだか人形の様だ。

うん………?

赤い唇が開くのを見て、何かを思い出しそうな気がしたが、彼の口から出た言葉に安堵する。

「こちらで、言っておく。」

多分、シンが説得してくれるのだろう。

その雰囲気と言葉を聞いて多分、シンはやはり隠しておきたいのだと、確認できた。

もし、二人とも「一緒にいたい」と言われたら。

私にそれを、止める事はできないしそんな権利も、無いのだ。
気持ちが、解るだけ余計に。


「ごめんね?ありがとう。」

そう、私が言うとスッとシンの手が伸びてきて、その後の、記憶が、………無い。



「任せろ。」って、最後に言ってた気が、したけど…………?

多分そこからは交代、したのだと思う。


そう、部屋に帰って確認したら肩のアザがくっきりと濃くなっていたから。





これ、大丈夫、かな…………。

洗面室の鏡の前で、解っちゃいたけど途方に暮れる私。

でも、お互い様?なんか違う??

結局、やり返したって事??

どっちも、どっち???


しかし、私が今ここで悩んで、どうなる事でもない。
うん、私の所為じゃ、ないし??


そうして開き直って、寝室へ入って行った。
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