透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
286 / 1,700
7の扉 グロッシュラー

シンと私とあの人と

しおりを挟む

結局、ラガシュとミストラスの話でも。

やはり、「扉は出そう」という事になったらしい。


「力は少しでも、多い方がいい。溜めれるのなら、尚更です。」

私の石がある事、ミストラスが了承した事、結局デヴァイからも「扉」の話が出た事と、シンが了承した事。
色々な事がラガシュの追い風になって、どうやら運気は彼に向いているらしいと感じた、私。

ある日の図書室でその報告を聞くと、やはりシンには会いに行かなくてはならないだろうな、と考えていた。





あの日、気焔と話した後。

特に彼からは何も言われていない私は、あの時の「あの人」と気焔の話が気になっていた。

私達が「同じ」だということ。

気焔に「人では無い」と言っていたこと。


「同じ、って言うのは多分私とあの人が立場的に好きな人が………あわわ…。」

自分の独り言に一人で照れて、それに可笑しくなって笑う。

「でも、「人では無い」って。どういう、事だろう?だって石なのは、解ってるし??」

意図が分からなくて、首を捻っているうちに扉の前に着いた。


「わぁ………。」

既に薄暗い廊下に、まじないのランプが微かに揺れる、灰青の空間。
三階は私達の二階よりも色調が一段暗い気がする。先日ミストラスの部屋へ行った時は、気の所為かと思っていたけど。

多分、ネイアの階だからかな………?


足を止めた正面の扉は白に塗られていて、プレートは有るが何も刻まれてはいない。

そう、ここはシンの部屋の前だ。


気焔と話をして、後日ラガシュに話を聞いて。
その後、「シンと話したい」と気焔の許可を取ろうとしたのだけど。

勿論、始めは「吾輩も一緒に」と言っていた気焔。

でも。

何故だかはっきりとは判らないが、私の勘が「一人で行け」と、告げていたのである。

それで何とか宥めすかして説得し、一人向かった所なのだ。


うん、大変だった。

もう…………。思い出すじゃん…………。


金色に満ち満ちている私は、自分から金の金平糖が漏れ出てくるんじゃないかと、時折後ろを振り返っていたくらいだ。

絶対、シンにはバレると思う。
多分それを見越して、やったのだろうけど。

でもちょっと、私の身にもなってよ………。


少し人の気配がした気がして、慌てて扉をノックした。
一人、白い扉の前でじっと佇んだまま考え事をしていたからだ。
かなり、怪しいに違いない。
それに、今はもう夜だ。

しかし私は、気が付いた。

「あ。そっか。」

実は、変装をした上で更にラギシーを使っているのだ。

ただ、物音を立てると見つかる可能性がある。
とりあえず一度のノックでそのまま待つしかない。

そうしてやはり気配は階段を上っていて、見えない事は分かっているがドキドキは、する。

すると音もなく扉が開いて、私は中へ引き込まれた。





実は。

悪戯じゃ、ないんだけど。

私はビクスにお願いして、赤い髪にして貰い更にラギシーを使ってやってきた。


そもそも事の発端は、「あの人」がビクスに赤い髪にして貰い夜中に出かけている事だった。

それが何故だか男子フロアを通ったらしく、見つかり噂になっていたのである。


だから、という訳ではないのだが私は単純に興味が、あった。

そう、「赤い髪の私」をだと思うのか。

ちょっとだけ、試してみようと思ったのだ。



私を引いた強い腕は、そのまま私を支えベッドに座らせた。

そうして自分も隣に腰掛け、そのまま黙っているのである。

うん?
これ、でも私が喋るとバレるよね?

もしかしたら、もう気付かれてるのかも、しれない。

しかし、なんだか楽しくなっている私は自らバラす気は無かったので、ここぞとばかりに部屋の中を観察していた。


シンは、白ローブのネイアである。

クテシフォンの部屋は知らないし、多分白い魔法使いは「あの部屋」で暮らしていそうだ。

よって、初めて入るミストラス以外のネイアの部屋だし白ローブの部屋である。

パミールは黄色だし。
流石に、広いな………?


ミストラスの部屋よりは、狭い。
しかしそれなりの広さのダイニングに、そのまま仕切りがあって奥に寝室。
扉は無いが、これだけ仕切られていればもう、別の部屋という認識だ。

白ローブだからなのか、白が基調のこの部屋は明るくすっきりとした雰囲気である。
腰壁は灰色で、基本的は濃灰色か紺色が使われている、ここでのシンにピッタリの部屋。

入り口扉から、真っ直ぐここに連れて来られたのでダイニングはあまり見られなかったがキッチンとテーブルセット、食器棚など特に変わった事のない様子。
そうしてここ、寝室は大きなベッドが奥にあり私はそこに座っている。

背後に大きな窓があって朝は眩しそうだけど、夜はなんだか心地良さそうだ。
星が見えたら、きっと素敵なんだろうけど。

仕切りの陰に本棚と小さな机、造り付けのクローゼットと、そう沢山物は無い。


「えっ?」

そう、私は完全に油断していた。

と言うか、全然シンの事を忘れてお部屋観察に没頭していた、だけなんだけど。


「トスン」とベッドに押し倒されて、白く見えるシンが私の上に、いる。

「えっ。」

もう、すっかり目的を忘れただ焦る私の上から近づいてくる、シン。
咄嗟に手で顔を隠していた。

「ちょ、待って。ストップ、ストップ!」

「…………ックッ、」


ん?

わ、笑ってる??


ガッチリとガードしていた、手を外す。

そこには、珍しく笑いを噛み殺しているシンが、いた。


ありゃりゃ、バレてたみたいね…………。


そうして私は起き上がり髪を直して、シンが笑い終わるのを待っていたのである。





「久しぶり、だね…。」

「あの人」とは、相引きしていた、みたいだけど。


改めてベッドに座り直し、正面に胡座をかいているシンを見ていた。

ダブルベッドくらいはあるだろう、同じ幅の窓からは、やはり雲が流れて濃灰青のサテンカバーが美しく波打つ様に見える。

その上に座るシンはほぼ白に見える髪が雲の明かりに浮かび上がり、金色とはまた違った美しさを現していた。


翳った雲で紺色に見えるサテン、その上に鎮座する白。
瞳の赤だけが明るく見えて「同じだな」、と思い出す。


「私」と「あの人」も同じだけど。

この「金」と「銀」も、同じだ。


違う、のは解るんだけど。
でも、この雰囲気。

人では無い、もの。
侵し難い、空気。

  
  「「美しいな。」」

ん?
ちょっと待って。

そう、私、話したい事があるの。
だから、一人がいいって思ったんだ。

そうか。


ここに来て、初めて自分が何が言いたかったのか、どうして一人で来たかったのかに思い至った、私。

 「少し、待ってて?ごめんね?」

そう、私の中に話しかけ、正面の赤い瞳を捉えた。




「今まで。」

「守ってくれてて、ありがとう。」

ジワリと、目が滲んでくる。
駄目駄目、まだ。

「あの、ね。解ったの。どうして、シンといるとあんなに安心出来たのか。どうして、あんなにドキドキしてたのか。私と、居たからなんだね。」

胸に手を当て、また赤い瞳を見る。

「でも多分。内緒に、しなきゃいけないんだよね?どうして、出てきちゃったのかは分からないけど。多分、このままだと危ないんだよね…。」

でも、多分。

なんとなく、だけど。

私は、私が「気焔が好き」だと気が付いたから、のだと、解っていた。

私の中には、「姫様」の、「シン」への想いがあって。

多分、「私」が「気焔」を好きになっちゃったから。

私達は、別々にならざるを得なかったのだろう。

両立は、きっと出来ないのだ。

そして、もしかしたら、私が気焔とぬくぬくしてたから。
寂しくなっちゃったのかも、しれないとも思う。

そうなの?

ごめんね?

でも。だって。

私が、前に、進む為には。

この、知らない世界で、ただひたすら真っ直ぐ、進む為には。

気焔」が、必要なの。



「お願い。」

自分の中と、正面の赤い瞳に向かって、言った。
精一杯の、お願い。

我慢、してもらう事になる。

私だったら、無理だし嫌だ。

でも。

では。

いずれバレるだろうし、そうなると…………。
きっと邪魔も入るだろう。

そう、「本当の目的」が達成できないかもしれない。


じっと、正面の白く美しい彼を見ていた。


どのくらい、見ていたろうか。

赤い、瞳と赤い唇が白い彼に映えてなんだか人形の様だ。

うん………?

赤い唇が開くのを見て、何かを思い出しそうな気がしたが、彼の口から出た言葉に安堵する。

「こちらで、言っておく。」

多分、シンが説得してくれるのだろう。

その雰囲気と言葉を聞いて多分、シンはやはり隠しておきたいのだと、確認できた。

もし、二人とも「一緒にいたい」と言われたら。

私にそれを、止める事はできないしそんな権利も、無いのだ。
気持ちが、解るだけ余計に。


「ごめんね?ありがとう。」

そう、私が言うとスッとシンの手が伸びてきて、その後の、記憶が、………無い。



「任せろ。」って、最後に言ってた気が、したけど…………?

多分そこからは交代、したのだと思う。


そう、部屋に帰って確認したら肩のアザがくっきりと濃くなっていたから。





これ、大丈夫、かな…………。

洗面室の鏡の前で、解っちゃいたけど途方に暮れる私。

でも、お互い様?なんか違う??

結局、やり返したって事??

どっちも、どっち???


しかし、私が今ここで悩んで、どうなる事でもない。
うん、私の所為じゃ、ないし??


そうして開き直って、寝室へ入って行った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

皇帝はダメホストだった?!物の怪を巡る世界救済劇

ならる
ライト文芸
〇帝都最大の歓楽街に出没する、新皇帝そっくりの男――問い詰めると、その正体はかつて売上最低のダメホストだった。  山奥の里で育った羽漣。彼女の里は女しかおらず、羽漣が13歳になったある日、物の怪が湧き出る鬼門、そして世界の真実を聞かされることになる。一方、雷を操る異能の一族、雷光神社に生まれながらも、ある事件から家を飛び出した昴也。だが、新皇帝の背後に潜む陰謀と、それを追う少年との出会いが、彼を国家を揺るがす戦いへと引き込む――。  中世までは歴史が同じだったけれど、それ以降は武士と異能使いが共存する世界となって歴史がずれてしまい、物の怪がはびこるようになった日本、倭国での冒険譚。 ◯本小説は、部分的にOpen AI社によるツールであるChat GPTを使用して作成されています。 本小説は、OpenAI社による利用規約に遵守して作成されており、当該規約への違反行為はありません。 https://openai.com/ja-JP/policies/terms-of-use/ ◯本小説はカクヨムにも掲載予定ですが、主戦場はアルファポリスです。皆さんの応援が励みになります!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

THE LAST WOLF

凪子
ライト文芸
勝者は賞金五億円、敗者には死。このゲームを勝ち抜くことはできるのか?! バニシングナイトとは、年に一度、治外法権(ちがいほうけん)の無人島で開催される、命を賭けた人狼ゲームの名称である。 勝者には五億円の賞金が与えられ、敗者には問答無用の死が待っている。 このゲームに抽選で選ばれたプレーヤーは十二人。 彼らは村人・人狼・狂人・占い師・霊媒師・騎士という役職を与えられ、村人側あるいは人狼側となってゲームに参加する。 人狼三名を全て処刑すれば村人の勝利、村人と人狼の数が同数になれば人狼の勝利である。 高校三年生の小鳥遊歩(たかなし・あゆむ)は、バニシングナイトに当選する。 こうして、平和な日常は突然終わりを告げ、命を賭けた人狼ゲームの幕が上がる!

罰ゲームから始まる恋

アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。 しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。 それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する 罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。 ドリーム大賞12位になりました。 皆さんのおかげですありがとうございます

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...