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7の扉 グロッシュラー
チカラとは
しおりを挟む「僕はあの本にある「光を灯すもの」が何を表すのか、それが本当に実在するのか、そしてそれはここへ現れるのか。それがずっと、気になっていました。それこそ、幼少の頃からです。」
えっ。
そんな??
ラガシュのその言葉を聞いて、少しだけ反省した私。
だって彼が「姫」と呼んだり、跪かれてしまう事が少々厄介だと思っていなくもなかったからだ。
でも、そこまで待ってたなら仕方ない………か???
うん??
しかしそんな私をお構いなしに話は進む。
「そしてそれが、この世界を救う鍵かも知れない、とは大分早い段階から思ってはいました。しかし今迄この問題は。「僕らだけの」問題とされていた。」
「?」顔でミストラスを見る。
しかし、彼も似た様な感じだ。
ラガシュの言っている事の意味、それは。
「僕ら」とは、青の家の事だろうか。
「これは殆ど知られていません。古い話ですし、長が元々青の家だという事は、家格の問題もあって隠されてきましたから。それに、事実を知る人はもう、生きてはいない。本人以外は。」
「そもそもの発端は、この世界の争いからでした。歴史の通り、私達は学ばなかった。何度も諍いを繰り返し、何度も滅び、しかし再生する事ができた。それは、「空」があったからです。しかし何度目かの争いで、とうとう神が怒った。空を、隠したのです。」
そしてチラリと隣を見ると、続きをミストラスが話し始める。
「以前、この部屋で話したでしょう?そうして空を隠した神は、扉へ帰りこの世界から空は無くなった。そうして力を貰えなくなった私達は、長の力、それに祈りで長に力を集めること。それでこの世界を保たせている、と考えられている。ただ、これも一般的には知られていない事です。皆、あの絵は神の絵だと思っているし、そう育てられてきた。祈りは日常に溶け込んでいるし、こうして毎日は同じ様に続いていく。それこそ、何の疑問も持たずに、です。」
「それが、どんなに貴重な事かは知られていないのです。」
再び「リン」と小さく震える音がする。
誰も口を開かない部屋はとても静かで、そう話し終わったミストラスはお茶を入れ直し始めた。
話は、終わったのだろうか。
私には、まだ全然、理解できていないのだけれど。
今度は紺色の袋からサクサクと茶葉を入れるミストラス。
私のカップから澱を綺麗にし、「あのホウキだ!」と目が丸くなる私を見て少し楽しそうにしている。
お茶のお代わりが調うと、三人を見ながら質問してみた。
誰も、口を開かなかったからだ。
「あの。どう、してみんなには内緒なんですか?長に、力を集めたいって、言えばみんな協力してくれるんじゃ?それに、ラガシュが言ってた「間に合わない」の、意味が分からないんだけど………?」
ミストラスは、今の説明で分かったのだろうか。
しかし「ハッ」とした顔をしたので、もしかしたらラガシュの話を聞いて忘れてたのかもしれない。いや、私と一緒にしちゃ失礼か。
しかし意外と、そうだったらしい。
私を見て頷く彼と共に、ラガシュに話すよう目で訴えた。
少し苦笑しているラガシュは確信犯だろうか。
「忘れてませんでしたか」なんて言いながら、再び話が始まった。
「その、世界が繋がっていた、という話の続きですけど。あの予言は、正解でもあり、不正解でもあるんですよ。多分。世界はやはり、終わる。このまま放っておけばね。それはしかし、自然の摂理なんですよ。そもそも、空が無い時点で僕らはもう詰んでるんです。発展しない。そりゃそうだ、もう僕らに進化の道は残されていないのだから。この、狭い世界でなんとなくもがいて、死んでいくしか、ない。残念ながらね。」
私の、文句を言いたげな瞳を受け止め笑うラガシュ。
分かっているなら、そういう言い方止めればいいのに。
「そう、でもあなたが現れた。これで予言が覆った。しかしやはり、何もしないと滅びますよ。空が、無いまま力を失い、道も閉ざされる。そう、ならない様動かないといけないのです。でも僕には分からなかった。動くとは?どうやる?誰が?何を?力は?それに、放っておくと長はどんどん朽ちてゆく。まさか、本当に不死な訳じゃ、ない。ヨル、あなたの世界ではどの位人は生きますか?」
「え?」
どのくらい………?
寿命、って事だよね?
やはり私が想像していた様に、長は不死なのではなくこの世界では長命、という事なのだろう。
でも今最高齢って、いくつだろう?
「大体、80歳くらいまでは生きますかね?長いと、100歳以上になる人もいると思います。」
あれ。
ミストラスの顔が酷い。
見なかった事にして、ラガシュに視線を移すと頷いて再び続ける。
「だから、長は不死ではなく長命なのです。何らかの原因はあるのでしょうけど、解りません。何せ青の家に突然生まれた「金の瞳」の持ち主ですから。」
再び静かになる銀灰の部屋。
少しずつ夕刻が訪れているのを、大きな窓が知らせていた。
ラガシュがここで、言葉を切った意味が分からない。
しかし、ここでミストラスを見たら。
バレるだろうか。
何だかもう、半分くらいは解っていそうだけれども。
しかし沈黙を破ったのは意外にも隣の金の石だった。多分、私が余計な事を言う前に、話し始めたのだろうけど。
「それで?長が、もうすぐ寿命だからどうするのだ?」
確かに。
しかし、その言葉を聞いても場の雰囲気は変わらない。
どちらにしても。
その「答え」は「私」を意味するからだ。
どうしよう…………。
全然、話逸れてないよ??
チラリと隣を見たけれど、気焔はラガシュをじっと見たままだ。
するとどうやらラガシュはその意図を解した様で、話は少し前に戻った。
確かに、この答えも聞いていなかったのだ。
いや、問題がこんがらがりすぎて、やっぱり図解しないと分かんないよ!!
「それでですね。どうやって世界を繋げるかと言うと。それが、発見なんですよ。「光を灯すもの」の役目が、解ったのです。あの祭祀、と言うか、あなたの「祈り」を見て。」
うん?
また、話が飛ばなかった??
でも気焔の話を逸らす意図は、上手くいったということか。
「今は、まだ長が保っている。しかし、ギリギリです。本当は世界は繋がっていた。しかし今はかなりまじないを使わないと扉は渡れません。以前はもっと簡単に、行き来出来ていたらしいです。それはもう、家の扉くらいの勢いで、ね。」
えっ、知ってるの??
チラリと送られた目線。
青の本には白い部屋の事が書かれているのだろうか。可能性としては、無くも、ない。
「結局は、やはり力なんですよ。それも、強大な。それこそ、人からちみちみ集めた様なものでは無くて、もっと、そう姫が「宇宙」から降ろした様なレベルの、力です。正直、空があった頃の日常があれならば。」
「可能だと、思いませんか?」
くるりと私から、隣に視線を移したラガシュ。
勿論、ミストラスは彼を凝視していてその表情が「それが正解だ」と物語っている。
そうしてポツリと、呟いた。
「だから、か。」
のおっ?!
見てる!
「だから」の後、見てるよ!
それって「私」だから、って思ったって事だよね??うん?でも………今更かな?
ミストラスの視線に私の瞳が右往左往しているのを見て、楽しんでいるラガシュ。
もう!
自分で蒔いた種なんだから、助けてよ!
しかし、動揺している様に見えたミストラスが急に立ち上がり、歩き出した。
そうしてあの引き出しから、ベルを出す。
高く上げられた手から鳴り響く、夕食の鐘。
彼には正確な腹時計でも搭載されているのだろうか。
「では、ヨル。続きは図書室ですね。とりあえず「祈りは二人」で、扉に関しては私達にお任せ頂けますか?」
何故だか、後半は気焔に訊いているラガシュ。
ちょっと?出すのは、私なんですけど??
しかし気焔は少し曇った瞳で一言だけ、こう言った。
「シンにも、伝えておけ。それで良ければ、吾輩
は良い。」
その返事で、多少彼の気持ちが分かった、私。
その瞳と「吾輩」に戻った言葉遣いを聞いて、胸の辺りがキュッとする。
今日はピンクの雲を出してあげよう…そう思いつつ、私達は解散する事になった。
「ちょっと、話をしていきますので。」
そう言うラガシュを、ミストラスの部屋へ置いて。
うーん。
不安だ。
振り向きつつも、濃灰の絨毯を踏み締め歩いて行く。
あの二人の、内緒話も気になるけれど。
しかし容赦なく、時間通りに私のお腹は鳴ったのだった。
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