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7の扉 グロッシュラー
やるべきこと
しおりを挟む「…祈るなよ?」
色々と注意事項を述べ、最後に駄目押しをして出て行った気焔。
ウェストファリアが去った後、私は祭壇の様になっているアーチ窓の段差に座り、予定通り考え事を始めていた。
しかし、気焔は特に何もする事がない。
そんな時はいつも私の事をじっと見ていたりするけれど、今日は用事があったのか「少し出てくる」と言って礼拝室から出て行った。
「そんなに心配しなくても、ここはセイアもネイアも来ないでしょ…。」
そう、まだまだロウワに対しての認識が変わっていない神殿内では多分ここに入ろうという者はいないに違いない。
「でもあんた油断するとまた、ああなるわよ。」
「はぁい。」
気焔が出て行ったのは、朝の存在もあっての事だろう。
そう言ってもう一押しした朝は、私の背後から伸びる光の中で温かそうに丸くなった。
丁度、石が乗せてある台の下だ。
静かな部屋の中は、窓の側の段差に座る私とその前に丸くなる朝、石があってその向こうに入り口の扉が見える。
白く塗られているシンプルな扉を眺めながら、明るい室内にホッと息を吐いた。
この、光で満たされている小さな白い空間。久しぶりにホワッとした気持ちになる。
あの金色とは違う、温かさなのだ。
「あったかいね…。」
多分、朝はもう寝ているのだろう。
私の独り言に答える事なく、背中が上下しているのが判る。
「で。結局?何を、どうするんだっけ?イストリアには頼んでオッケーだから、それはいいとして。優先順位?何だろうな?私がやる事?でも手を出さない方がいい事もあるよね………?」
多分、というか確実に、全部の問題を解決する事は出来ない。
それに、今朝も思ったけど。
頭の中を整理しなきゃ、駄目なんだ。
向こうへ行かなければ解らない、解決しないであろう事も多く、まず「どの問題」が「それに当たる」のかを考えた方がいいのだろう。
「そんな時は。ベイルート方式だよね。」
持っていた青の本とノート、ペンを書き易い様重ねて膝の上に置く。
「さて、と?」
そうしていつもの様に独り言を言いながら、ペンを走らせ始めた。
・春の祭祀ー内容、場所、冬と同じ様な役目はあるのか、アラルエティーがやるのかどうか
・研究ー予言、歴史を調べる、ランペトゥーザの「核」の話?、「神の扉」と「私の扉」
・アラルエティーのことーあの子の「青の少女」とは、アリススプリングス…うーん
・子供達のことーイストリア先生、造船所の船が完成したら………?
・ネイアの石ー基本的には白い魔法使いへ、赤ローブ注意、他の人は配っていい?と思う
・長、あの絵、神??
「あと………なんかあるっけ………?」
正直、ここまででもそこそこ大変だと思うんだけど。
「あ。」
もう一つ、思い出した事がある。
あの、「赤ローブ」と言えば。
クテシフォンの話、赤ローブ、私がここへ来た時の奪われたローブの事。
「多分…アレ、だよね…………?」
ネイアの赤ローブはあの二人しか、いない。
それに、そもそもあの時間、そして三階という場所。
後ろに倒れる瞬間チラリと見えた、赤い色。
「どっちか、が持ってるって事だよね………?」
私がここへ、来た時。
少し思い出して身震いする。
いつの間にか奪われていたハーシェルのローブ。
暗い、ランプのみの灯りの中、強く後ろに引かれた時の感覚を思い出して両腕を摩り始めた。
そして造船所で私に近づいて来たハーゼルの行動、「赤ローブに注意しろ」と言うクテシフォンやウェストファリアの話。
もしかすると。
多分、あの時金のローブを見てアタリを付けたのかもしれない。
「だって………見えない筈が、無いんだよね………。」
かなり、目立つのだ。
しかも引っ張った瞬間金色が下から出てきたのだから、きっと驚いたに違いない。
特に二人に出会った時、何かを言われた事も訊かれた事もない。私だと気が付いていない可能性もあるが、「私だと予想している」とすれば。
あの、ハーゼルの行動に納得がいくのだ。
でも、あの後特に音沙汰は無い。
それが、逆に怖いんだけど。
特にハーゼルなんか、すぐ「あれお前だろ?」とか言ってきそうなのに。
違うのかな?赤ローブじゃ、なかった?
まじない?
いや、でもローブの色を変えるとか…無理でしょ。
クテシフォンのローブを見ていても、各人自分の使いやすい様に何かまじないが掛かっている事は明白だ。もしかしたら、色を変えるまじないを使う人はいるかもしれないけど。
「でも、現実的じゃ、ない。」
多分。
ここでは、「色」は。
ぐるりと部屋を見渡して、頷く。
この部屋は、真っ白だけれど。
神殿は灰色が基本だし、それぞれの館は灰青と深緑。
外だって灰色だし。
建物に使われている色は、古い。
ナザレも言っていたけれど、きっとここで色を持つという事は大変な事なのだろう。
それに、何となくだけど。
「色」をそんなに上手く使える人がいるならば、白い魔法使いが放っておく訳がないと思う。
「問題が増えた、な?」
自分の書き出したものを見ながら、ウンウン唸る。
「ちょっと内容が無理難題系多くない?でも確実にやれる所から行くとすれば………。」
図書室か、イストリアの所だろう。
「トリル、には言って駄目だったら目も当てられないよね………とりあえずまだ言えない、か。」
ランペトゥーザの件とトリルの件はイストリアの所へ行ってから、その前に予言と祭祀かな………。
くるりとペンで丸を付け、線も引いておく。
「うーーーーん。」
考え事をしながら、いつの間にか一部がぐるぐる印を付け過ぎて怪しくなっている。
ギリギリまだ見える、その内容は勿論解決が一番遠そうな「神の扉」の場所。
「これ、ぶっちゃけ「運」じゃない??」
そう、言いながら本とノートを「ポン」と置いてゴロリと寝転んだ。
誰もいないし。
唯一、注意しそうな朝はまだ寝てる。
私もちょっとくらいゴロゴロしても、いいよね??
頭を使って疲れた気がして、そのままアーチの窓を見上げた。
私がゴロゴロしているのは、丁度段差の上、舞台の様になっているアーチ窓の祭壇だ。
本来ならば、きっと祈りの場所であろう所でダラダラしている私。
ミストラスなんかに見つかったら、大目玉をくらうに違いない。
両腕を上にあげ、手を組みグッと、伸びをした。
キラリとハキが光った気がして、そのまま光を当ててキラキラを楽しむ。
「やっぱり、ハキが一番キラキラしてるね?」
何の気無しに、私が言った独り言。
しかしそれがいけなかった様だ。
「ねえ?この前からキラキラ、キラキラ言ってるけど?美の石は私なんだけど?」
「姫様、えこひいきはいけません。」
「でも依るは贔屓している訳じゃないでしょう?」
「みんな綺麗に決まってるじゃない!」
「まあ僕はその辺どっちでもいいけどね………。」
なんか、一人傍観してる子がいるけど。
クルシファーの様子が可笑しくて、クスクス笑いながら取りなす石達の仲。
「ねえ、ハキは無口だね?その「天啓」と何か関係あるの?」
別に、真剣に訊いた訳じゃ無かった。
ただいつもの様になんとなく、思った事を口にした、だけ。
しかし、返事は無かった。
その質問をしたら。
全員、黙ってしまったからだ。
えーー。
逆に、気になるんですけど。
問い詰める気は無い。でも、思わずまじまじと腕輪を見てしまったのは仕方がないだろう。
「眩しっ。止めてよ。」
丁度、朝が目を開けた時誰かに反射したらしい。
この中で眩しいのは多分、ハキだと思うけど。
「ごめんごめん、でも、ねぇ?」
半分石達に話し掛けながら朝に謝ると、丁度扉が開く音がした。
「そろそろ、行くか?」
危なかった…………。
金髪が見えた時にはもう、起き上がっていた。
ギリギリ、セーフな筈。
多分、怒られはしないと思うが変な顔はされるだろう。
フードから全部パタパタと叩く私を怪訝な顔で見ている気焔。
「よし!行こうか。」
しかし私の奇行に慣れている彼は、何も突っ込まずに白い扉を開けてくれたのだった。
うん。
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