透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

それぞれの色

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「あの部屋を使っていい。一階したは空いてるだろう?」

シュレジエンがそう言って貸してくれたのは、あの力を溜めてある石が置かれている部屋の一階だ。

あそこは甲板の上に建つ小さな小屋の様な物で、始め私は操舵室だと思っていた。

だって、船だし?
普通、甲板にあるよね??


しかしその石を置く際に気が付いたのだが、その小さな小屋は中には何も無いただの小屋だった。

何も無いから、誰も入らない。
そう言って貸してもらっているその小屋の、一階。

そこで何をするのかと言うと、子供達に渡す石を確認する為に並べているのだ。


そもそも、色数も多いし、大きさだってバラバラ。
基本的には、大きい方が力も強い。
だから、年長者には自然と大きい石になるし、逆にまだ小さい子達には大きな石は向かない。

「私の石だから、害は無いと思うんだけどね………。」

何しろ、何をするにも石を使うのだ。
力を出しやすく便利なものの方がいいに決まっている。

そして、何より今日の子供達の人数は21人だ。
きちんと並べておかなくては、きっと物凄く時間がかかるだろう。

「やっぱり、顔見て決めたいしね。うん。」

石にも、性格や向き不向きがある。

ハッキリと「何色はなに」とは言い表せないが、「この子に合うか、合わないか」なら多分すぐに判断できる筈だ。


色をグラデーションに並べ終え、大きさでも順に、分けていく。

青系から緑、黄色に移って、橙、赤、ピンクからの薄桃色で、白系に繋げる。

灰色や濃い目の茶などは、はじいておく。


私の、勝手な想像だけど。
子供達には、元気な色が似合うからだ。

きっと大人になっても。

カラフルな方が、世界に彩りが出るだろう。
きっと、これからは。

ここだって、豊かな自然になる予定だからだ。

「うん、オッケー。じゃあ………どう、しようかな?迎えに行って…一人ずつ?」


立ち上がり、大きな木のテーブルに並べ終わった石達を見て、つい自画自賛だ。

「やっぱり!可愛いよね??いっぱいあるとテンション上がる~!」

大小様々、カラフルな石達はこの灰色の船内で、一際元気よく輝いている様に見える。

透明度はそこまで高く、ない。

「多分…………。」

何が、関係あるのかは分からない。

祈りの時間なのか、それともあの時は「祈り」という形ではなかったからなのか。
前回歌った時と違い、沢山の完成した石達の中で透明度が高いものは、そう多くは無かった。

しかしそれが逆に、幸いした。

まだ小さい子もいるし、基本的に石を持った事のない子供達。
初めて持つなら。そして既に「力を使って仕事をしている」ならば。

持たせるものが大き過ぎると、逆に危険もある筈なのだ。
もしかしたら、制御が難しくなるかもしれないから。


それに、もう一つ私はいい事を思い付いていた。

レシフェに「それを本当に「あげる」のか」と訊かれた時。

私は「あげるかあげないか」の二択だと思っていた。
しかし、エレファンティネの話とレシフェの話。
それを、合わせて考えると。

「多分、「」いいのか、っていう話なんだよね…………。」


私が行うのは。

恵み、なのか。
施し、なのか。


「違うんだよ。だから。」

そう、きちんとした「理由」が無いといけないんだ。


ここまで考えた時に、初めにエレファンティネが言っていた事を思い出して「これが言いたかったんだ!」と思い至ったのである。



「そう、なんだよ…………。ていうか、あの人何処に帰ったの?」

そう、レシフェは「帰った」と言っていた。

それなら。
ここ、グロッシュラーに住んでいる人だという事。幻の魚を運んできた訳ではなかった様だ。


神殿じゃない。
そうなれば、もう二択だ。

貴石か、館のどちらか。

でも。
あの、出立ちと雰囲気、話した内容からして………。

「そう、貴石、だよね…………。」


石を見つめたまま、ポツリと呟く。

どうして、ここ迄一緒に来たんだろうか。
心当たりは、一つ。

「私、だよね…………。」

いや?
実はレシフェが好きとか??

いや、無いな。
アリス何とかに、反応してたし。
レシフェとはなんだか「馴染み」って感じだった。昔から、一緒なのかもね??幼馴染?

「私の様子を見に来て、ここまで来て、石を「本当に「あげる」のか」訊いてた…………。」

うーーーーん??

わからない。


しかし、そうゆっくり悩んでいる暇は無かった様だ。

「ヨル?順番に、寄越すぞ?いいか?」

扉の無い入り口からひょっこり顔を出したのは、デービスだ。

「あ、ごめんなさい!大丈夫です!」

そう言って思考を石に戻すと、私は椅子を整え自分は奥に、座った。
そう、向かい側に子供達に座ってもらい、どの石が合うか見るつもりだからだ。


「なんか、石屋さんみたいだね。」

一人で言って「フフ」と笑う。


最後の準備を整えると、デービスに呼んできてもらう。二番目の子からは、それぞれ終わったら呼びに行って貰えばいい。


そうして待つ事、少し。

一番初めに入ってきたのは、実は意外な顔だった。





「お邪魔するわ。」

大きな瞳をキョロキョロ動かしながら入って来たのは、アルルだった。

「う、うん。どうぞ。」

手前の椅子を指して、座る様に促す。
アルルはやたらとキョロキョロしているけれど、この部屋は私と石とテーブル、椅子以外は何も無い。

私は最初はシリーかグラーツが来ると思っていた。
いや、なんとなくだけど。


「なによ。」

例の如く、顔に出ていたのだろう。しかし私は素直に思った事を口に出した。

何より、アルルには直球勝負が有効な筈だから。

何も、期待していない彼女に取り繕う事や小細工は無用なのだ。

「ううん、一番に来てくれて嬉しいけど意外だなぁと思って。因みになんでか訊いてもいい?」

私が思ったより正直に喋ったからだろう、少し詰まっているアルル。
少し狼狽えながら、口を開いた。


「いや。前に言った事。八つ当たりだったなぁと思って。」

そう言って、下を向いてしまった。

私はそのふんわりとしたアッシュの頭頂部を見ながら、以前アルルに言われた言葉を思い出そうと頑張っていた。


でも?そんな、変な事言ってないよね?アルル。
ある意味…………仕方ない、というか何というか…………。
期待してない、だっけな?
何だっけ??

ぐるぐる、考える。

確か………

‘どうせ、無駄だし?出来るだけ、生きてるうちに楽に暮らせれば、それでいい。それしか、無いし。‘

そうだ。

「無駄」だって。そう言ってたんだ。

でも、そんなの仕方がない事だ。私だって同じ立場ならそう思うだろう。

でも?
今?来てくれたって、事は?

じっと正面の金茶の瞳を見つめていた。
私がぐるぐるしている間、いつの間にか顔を上げていたアルルにあの時の諦めの色は、見えない。

力を、光を、受け取ってくれたのだろうか。


しばらく見つめあったまま、二人とも口を開かなかった。
沈黙だけれど、嫌じゃない、空気。


しかし案の定、アルルの瞳を確認した私は何色の石にしようかと別の事を考えていた。


やっぱり…………金色系統かな…でも黄土に近いものが多いんだよね。それだったら髪に合わせてこの辺のやつ………でも青も馴染みそうだな?
この子達は話すレベルじゃないからなぁ…。
喋ってくれたらきっと、それぞれが「誰に持たれたいか」言うと思うんだけど………。


「ねえ。」

「はいっ!」

完全に何処かに行っていた私は、少し椅子の上で飛び跳ねた。

「あんたの言ってた事、意味分かった。」

それだけ言って、またパッと下を向くアルル。


私が、言った事。

あの、地階で。

それはただ、「綺麗なものを見ること」それだけだ。

だから、は。

アルルなりの「受け取った」という意思表示なのだろう。
それだけで、もう充分だ。

もう彼女は、前に進める筈。
それなら。

「さあ、どうする?希望の色は、ある?好きな色の方がいいからね………。」

「えっ。選べるの??」

「うん、まぁ。いっぱいあるからね?でも合わなかったら止めるよ?でも多分、アルルは自分に合うやつ分かると思うけどね。」

そう、自信満々に言っている私をやや怪訝な目で見ながらも視線はもうチラチラと石へ注がれている。


そうして、二人で「あーだこーだ」と相談した結果、アルルの石は乳白色の石にした。
一部、アッシュの髪に合う黄緑が入っていてアルルの雰囲気にはピッタリだ。

「いい、の?」

「コホン。」

手に取る様子は、未だ不安が見て取れる。

やっぱり。
そうだよね?

それなら。

そう、咳払いをして私はちょっとだけ偉そうに話し始めた。


「えーと。は。これまでの働きのお給料です。ん?お給料…えー、「対価」です。この、船を造っている力、礼拝で祈っている力の、分。あ、これからはもっと力が出ちゃうから少し加減してもらわなきゃなんだけど、自分で使う時にはそれでいいけど納める時は少な目でいい…よね、多分、うん。」

一人納得して、説明を締め括る。
アルルは少し口を開いたまま、視線を逸らさず私の話を聞いていた。


丁度、アルルの小さい手のひらの半分くらいの大きさの乳白色の、石。

一度、それを見て再び私に視線を戻すとギュッと手のひらに握りしめながらこう、言った。

「ありがとう、ございます。」

その、言葉がじわりと胸に、拡がる。

私は、何も返事を返せなかった。
ただ、頷いただけ。

口を開けば、涙が出そうだったからだ。



感動で喋れなくなっている私を知ってか知らずか、アルルはペコリと頭を下げると「次、呼んできます。」と言って部屋を出て行った。


次の子が来る前に、サッと袖で涙を拭う。

そう、まだ一人目。
これから20人来るのだ。

「泣いてなんか、いられないよね。」

両頬をパシパシと叩く。


そうして顔を上げると、入り口に立っていたのはグラーツだった。

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