透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

船内で

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私の心は、とっくに決まっていた。

まぁ、変わっていないとも、言うけど。


気焔と一緒に部屋を出た私は何となく気になって、以前ピンクの天井があった部屋を見に行く。
今日は、危険な人はいないけど。
何となく、嫌な思い出がある場所だから気焔と一緒なら怖く無いかと思ったのだ。

もし、子供達が色を使える様になって。
船に、色を着けたとしたら。

何でだか分かんないけど、多分私の石になれば船に色が着けられると思うんだよね………。
なんとなく、だけど。


そんな事を考えながら、「私の色」が残っている二階の船室まで歩いて行く。

途中で気焔は何処へ向かっているのか、気が付いたのだろう。扉の前へ着くと私を背後にして、先に入って行く。

「何も、無い。」

そう言った彼の声で私も中へ入った。


「何、を?」

ぐるりと天井を見上げ、黙っている私にそう尋ねる気焔。

「あれ?言ってなかったっけ?私の、「あのピンク」があるのが、ここなんだよ。えーとね、確か端っこに………。」

「何故、ピンクなのだ?」

確かに普段、私の色は虹色だ。その時々で、強く出る色はあるのだが確かに単色なのは珍しいかも知れない。

「えーとね、確か…………。」


ん?

え?


あ、あれ?

気付いた時には、完全に顔は赤かった。多分。
見えないけど。


ヤバいヤバい、早く行こう、うん。
石を、石を配らなくちゃ………。

部屋の隅のピンクを確認すると、何しにここに来たのかを思い出す前に部屋を出る。

えーと、何だっけ?
ピンクを確認して?
変化してなかったら多分、大丈夫だからみんなの色も、…。

「コラ。」

パッと右手を掴まれて、気付いたらもう金色の懐の中だった。


静かな船内に、まだ子供達の声は無い。

作業の音も聞こえてこないし、煩いのは自分の心臓の音ばかりなり、だ。


「なぁに。」

うっかり目を合わせてしまった私は、またあの金の瞳から逃れられないでいる。

ううっ。
なんで?気付いたのかな?!
うん?

でも………?

瞳の中の焔は、いつもの様に美しく揺らめいているのだけれど少し、影がある。
ほんの、少し。

なんだ、ろうな?


結局、逃げられはしないのでそのまま小さな焔を観察していた。

何か、あったっけ?
幻の魚はオッケー、石も多分配っていい。

なんだろう。なに、か。

少し、だけ。


でも、もしかしたら。
本人も、気が付いていないかも、しれない。

「ねぇ?」

「?」

「なにか、ある?心配、不安?なんだか、分かんないけど。」

目を合わせたまま、考えているのが解る。

小さな焔の形が変わって、なかなか面白いのだ。
揺めき、なびき、そうして濃く燃えまた煌めいて新しい焔が塗り替えてゆく。

その、何とも言えなく美しい、さま

芸術品の様に美しい、その瞳の中の焔は私の中に言い様のない衝動を湧き上がらせる。



ああ、この人の色を大きなカンヴァスに塗る事ができたなら。

それはそれは、人々の心を動かすものに、なるだろうに。

燃える焔は、今は灯っていない心の炎すら着ける事が可能だろう。

きっと。

みんな。

この、美しい燈りに照らされて。

己の内なる心をしっかりと見つけ掬い上げ、それを掲げて前進する事が、可能になるだろう。


私はラガシュに「光を灯すもの」と表現された。

が青の本にそう、書かれているのかそれとも彼なりの解釈なのかは、分からないけど。


「もしね?私が光を灯すなら。その、焔は気焔なんだよ。……………それって、なんか。」

「いいね。」


何とも言えない気持ちになって、少し泣きそうにもなって、でも笑って、そう言った。


その、私の視界がぼやけた、瞬間。


「………わ…ぁ。」


再び彼の焔が生み出され、大きく身体を包み燃え上がってゆく。

金の瞳から派生したその焔は、濃い橙で金と白金が混ざり畝って火の柱の様になっている。

生き物の様に生まれてはまた消え、新しく塗り変わっていく焔の群れ。

「この前、入った焔の部屋に似てる、ね?」

そう言いながら、一歩下がって塗り替えられる彼を見ていた。

多分、手を出してしまったら。

この前みたく、私の中に入って来るに違いないと分かるから。


なんとなく、顔が熱くなって頬を押さえたまま様子を見ていた。

「何回、生まれ変わるんだろうねぇ…。」

そうして。

何度も生まれ変わって。
きっともっと、強くなって。

「うん、私も。頑張らなきゃ。よし、とりあえずみんなの石をきっちり選定して、より癒しと力が上手く出しやすいものを提案して………。」

「コラ?」

ん?

いつの間にか顎に手を当てブツブツ言っていた私は、そのままくるりと気焔に回され、目が合った。

そのまま、きちんと瞳を確認する。

「うん、オッケー。それにしても、突然来るね?なんなの、このバージョンアップは。」

え?

なんで?

再び仕方のないものを見ている気焔は溜息を吐くと、耳元でこう言った。

「原因は、間違いなくお前だ。」

「!」

うひょっ。

瞬間背中に走るゾワゾワが身体を巡り、思わずまた身体を抱えた。

「大丈夫、か?」

そんな私の耳元でまた同じ声を出す、気焔。

「んー、もうっ!駄目だよ!」

少し涙目の私を見て満足気な顔をしている。
一体、どういう事だ。


「もう、もう………!早く、行こっ。」

そうしてぷりぷりしながら、廊下を先に歩き出す。

まだ、何となくドキドキとゾワゾワが残る身体を摩りながら「もー。」と言っていたら、背後から来た気焔が私の手を取った。


「悪かった。」

全然、悪そうな顔、してないんですけど?!


しかし、手を握られた事で安心したのかムズムズも治りホッとした自分が、いる。


結局、そういう事なんだよね………。

船内でもキラキラと光る、金髪の後ろ姿を見てそう、思う。

軽く握られた手をキュッと握り直して、隣に並び歩き出した。

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