272 / 1,751
7の扉 グロッシュラー
船内で
しおりを挟む私の心は、とっくに決まっていた。
まぁ、変わっていないとも、言うけど。
気焔と一緒に部屋を出た私は何となく気になって、以前ピンクの天井があった部屋を見に行く。
今日は、危険な人はいないけど。
何となく、嫌な思い出がある場所だから気焔と一緒なら怖く無いかと思ったのだ。
もし、子供達が色を使える様になって。
船に、色を着けたとしたら。
何でだか分かんないけど、多分私の石になれば船に色が着けられると思うんだよね………。
なんとなく、だけど。
そんな事を考えながら、「私の色」が残っている二階の船室まで歩いて行く。
途中で気焔は何処へ向かっているのか、気が付いたのだろう。扉の前へ着くと私を背後にして、先に入って行く。
「何も、無い。」
そう言った彼の声で私も中へ入った。
「何、を?」
ぐるりと天井を見上げ、黙っている私にそう尋ねる気焔。
「あれ?言ってなかったっけ?私の、「あのピンク」があるのが、ここなんだよ。えーとね、確か端っこに………。」
「何故、ピンクなのだ?」
確かに普段、私の色は虹色だ。その時々で、強く出る色はあるのだが確かに単色なのは珍しいかも知れない。
「えーとね、確か…………。」
ん?
え?
あ、あれ?
気付いた時には、完全に顔は赤かった。多分。
見えないけど。
ヤバいヤバい、早く行こう、うん。
石を、石を配らなくちゃ………。
部屋の隅のピンクを確認すると、何しにここに来たのかを思い出す前に部屋を出る。
えーと、何だっけ?
ピンクを確認して?
変化してなかったら多分、大丈夫だからみんなの色も、…。
「コラ。」
パッと右手を掴まれて、気付いたらもう金色の懐の中だった。
静かな船内に、まだ子供達の声は無い。
作業の音も聞こえてこないし、煩いのは自分の心臓の音ばかりなり、だ。
「なぁに。」
うっかり目を合わせてしまった私は、またあの金の瞳から逃れられないでいる。
ううっ。
なんで?気付いたのかな?!
うん?
でも………?
瞳の中の焔は、いつもの様に美しく揺らめいているのだけれど少し、影がある。
ほんの、少し。
なんだ、ろうな?
結局、逃げられはしないのでそのまま小さな焔を観察していた。
何か、あったっけ?
幻の魚はオッケー、石も多分配っていい。
なんだろう。なに、か。
少し、だけ。
でも、もしかしたら。
本人も、気が付いていないかも、しれない。
「ねぇ?」
「?」
「なにか、ある?心配、不安?なんだか、分かんないけど。」
目を合わせたまま、考えているのが解る。
小さな焔の形が変わって、なかなか面白いのだ。
揺めき、靡き、そうして濃く燃えまた煌めいて新しい焔が塗り替えてゆく。
その、何とも言えなく美しい、様。
芸術品の様に美しい、その瞳の中の焔は私の中に言い様のない衝動を湧き上がらせる。
ああ、この人の色を大きなカンヴァスに塗る事ができたなら。
それはそれは、人々の心を動かすものに、なるだろうに。
燃える焔は、今は灯っていない心の炎すら着ける事が可能だろう。
きっと。
みんな。
この、美しい燈りに照らされて。
己の内なる心をしっかりと見つけ掬い上げ、それを掲げて前進する事が、可能になるだろう。
私はラガシュに「光を灯すもの」と表現された。
それが青の本にそう、書かれているのかそれとも彼なりの解釈なのかは、分からないけど。
「もしね?私が光を灯すなら。その、焔は気焔なんだよ。……………それって、なんか。」
「いいね。」
何とも言えない気持ちになって、少し泣きそうにもなって、でも笑って、そう言った。
その、私の視界がぼやけた、瞬間。
「………わ…ぁ。」
再び彼の焔が生み出され、大きく身体を包み燃え上がってゆく。
金の瞳から派生したその焔は、濃い橙で金と白金が混ざり畝って火の柱の様になっている。
生き物の様に生まれてはまた消え、新しく塗り変わっていく焔の群れ。
「この前、入った焔の部屋に似てる、ね?」
そう言いながら、一歩下がって塗り替えられる彼を見ていた。
多分、手を出してしまったら。
この前みたく、私の中に入って来るに違いないと分かるから。
なんとなく、顔が熱くなって頬を押さえたまま様子を見ていた。
「何回、生まれ変わるんだろうねぇ…。」
そうして。
何度も生まれ変わって。
きっともっと、強くなって。
「うん、私も。頑張らなきゃ。よし、とりあえずみんなの石をきっちり選定して、より癒しと力が上手く出しやすいものを提案して………。」
「コラ?」
ん?
いつの間にか顎に手を当てブツブツ言っていた私は、そのままくるりと気焔に回され、目が合った。
そのまま、きちんと瞳を確認する。
「うん、オッケー。それにしても、突然来るね?なんなの、このバージョンアップは。」
え?
なんで?
再び仕方のないものを見ている気焔は溜息を吐くと、耳元でこう言った。
「原因は、間違いなくお前だ。」
「!」
うひょっ。
瞬間背中に走るゾワゾワが身体を巡り、思わずまた身体を抱えた。
「大丈夫、か?」
そんな私の耳元でまた同じ声を出す、気焔。
「んー、もうっ!駄目だよ!」
少し涙目の私を見て満足気な顔をしている。
一体、どういう事だ。
「もう、もう………!早く、行こっ。」
そうしてぷりぷりしながら、廊下を先に歩き出す。
まだ、何となくドキドキとゾワゾワが残る身体を摩りながら「もー。」と言っていたら、背後から来た気焔が私の手を取った。
「悪かった。」
全然、悪そうな顔、してないんですけど?!
しかし、手を握られた事で安心したのかムズムズも治りホッとした自分が、いる。
結局、そういう事なんだよね………。
船内でもキラキラと光る、金髪の後ろ姿を見てそう、思う。
軽く握られた手をキュッと握り直して、隣に並び歩き出した。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作



【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる