透明の「扉」を開けて

美黎

文字の大きさ
上 下
266 / 1,751
7の扉 グロッシュラー

朝の時間

しおりを挟む

「ん……………。」


ふんわりとした、白い、光。

多分、朝なのだろう。鈍く光る刺繍が一番に目に入る。
いつもの、ベッドだ。

「んん………、ちょっと、寒い?な………。」


モゾモゾと白い生地を引っ張ると、隣の金色が見える。
珍しく、目を瞑っているのだ。

「…………。」

声を出したら、起きるかもしれない。

いや、さっきもう喋ったんだけど。

しかしいつも私が起きると、大体目を開けて見ている気焔。
今日は、私が見てやるんだ。


ウキウキしながら体勢を整え、そうっと向きを変える。

(よし、オッケー。でも、これ寝てる…訳じゃないのかな?)

心の中で呟きつつも、こんな機会は滅多に無いのでとりあえずは観察をする。

起きてる時は。
逆にじっと見られてしまうので、私が目を逸らしてしまうのだ。

(これで見放題だよ!)

そんな事を考えつつ、やはり美しい金の髪に目が行ってしまう。


フフフ。
わぁ………光が白いからまた透けて、凄い…なんか、毛なの?これ??でも、触るとそれなりに硬いしな…?
でもなんか………まぁ、人じゃ、無いし…。
生え際とか!
可愛いんだけど!
ちゃんと?短い毛がある~。
眉も、スゴイね………綺麗。毛並みがいい。
羨ましいな。

鼻なんてスーってなってるし。何コレ。
いやいや、睫毛!睫毛だよ!
金髪睫毛!
長っ!

ひゃ~、バッサバッサじゃん。だから、あんなに薄いけど濃いのかなぁ?
色も、白いわけじゃないんだよね…黒くもないけど。丁度よく、焼けてる??
だからアラビアンナイトが似合うんだよなぁ。

うーん。
この辺の顎のラインが………なんか…。
うん。鎖骨も綺麗だな~!なんか、ズルいな?
なんなの?
私なんて………ん?自分じゃ見えないな………?

よっ、こら、…


「何をしている。」
「キャッ!!」

「イタぁ!」
「………。」

驚いた私は、思わずパッと離れると同時に背後の壁に頭を打ったのだ。

気焔が手を出していたけど。
珍しく、間に合わなかったのだ。

「何をやっているのだ………。」

めちゃくちゃ仕方の無い目をしているけれど、あなたが驚かすからじゃない?


多分、恨めしい目をしていたのだろう「悪かった。」と溜息を吐いて、頭を撫でてくれる。

見てたの、バレてたよね…………?
多分………?

少し薄い金色を出してくれたベッドの上はさっきよりも暖かく、頭を撫でられている所為もあってかなり心地よくなってきた。


ま、何も言われないからいっか………。


ウトウト、していた。


どのくらい経ったろうか。



「コンコン」とノックの音がして、驚いて飛び起きた。

「え?」

すぐに気焔の顔を確認したけれど、なんて事ない顔を、している。


ん?知って、るの?
誰?シリー?でも、それなら私の事起こすよね………?

しかも、ノックされているのは寝室の扉だ。
部屋の外の、扉じゃない。


…………んーーー?


もう一度、金の瞳を確認する。

起きる、気は無いらしい。

「あー。」

分かった。

「レシフェでしょ?」

ベッドから下りて、扉へ向かう。

「コラ。」
「ん?」

あ。

そう、まだ寝起きの私はネグリジェ姿だ。

「え?でも?洗面室あっちだし??」

キョロキョロしながら焦る私に、また仕方の無い様なものを見る目を向ける気焔。
起き上がり、パッと身なりを整えると「白い廊下で待っている。」と言って、扉を開いた。






「レシフェ、って事は?貴石?!は、無いか………。造船所かなぁ?」

洗面室で身支度をしながら、ブツブツ独り言を言う。まぁ、いつもの事だ。
四角く白い、鏡の枠は以前よりも少し凝った作りに変化した気がする。まじないの、所為だろうか。
まぁ、可愛いからいいんだけど。


顔を洗い、保湿をしながら美しい小瓶を眺め、いつもの癒しタイムだ。この為に、少し奮発した美しい小瓶が二つ、化粧水と保湿液が並んでいる。

「少なく、なってきたな…。」

カットガラスの小瓶は中に濃いピンクの石が入っている。中身の化粧水は無色なのだけれど、量が減ってくると何故だか色が薄く見えるのだ。

保湿の方も量を確認して、今度イストリアに聞いてみようと頭の中にメモをした。
きっとあの辺にあった筈だ。化粧品の類が。

「今日………髪型、変えようかな?」

何故かは、分からないけど。パッと閃いたのだ。

でも多分、レシフェが来たからだと思う。
多分、今日は外へ行くのだろう。だから迎えに来たのだ。

と、いう事は?

「ポニーテールにしよっ。」

もしかしなくても造船所の可能性が、高い。
それなら。
きっと、動き易いこの髪型は好都合だし、髪型を変えるのは気分転換にいい。


なんとなく、だけど。

きっと、ここの所噂も回ってるし昨日はブラッドフォードの事もあった。
図書室には行かない方がいいという事なのだろう。

そう自分で解釈すると、サクサクと髪をまとめて縛る。しかしこれが案外、難しかった。

「てか、ゴム、無いと無理じゃない??」

そう、普段は髪を全て上げる事がない。
だから気が付かなかったが、量が多いと紐やリボンでは束ねられないのだ。

「何コレ。致命的。」

まだ初めの頃は、ゴムも生きてたんだけど。
結局伸びてしまって、だいぶ前に捨ててしまったのだ。

以前嵌めていた、腕を見る。

そう、この子達の隣で。
あの、リュックに入っていたゴムが並んでいたのだ。

「一緒に、有ったんだけど。意外と、も長くなってきたねぇ………。」

ゴムが伸びるほどとは。
しかも、ダメになったの結構前だし?

「ん?結局?私誕生日どう、なった?あれ?でもどう考えても15にはなってるよね???」

少し項垂れたポニーテールをぶらりと下げ、首を傾げていたのだけれど、ふと、二人を待たせている事に気が付いた。

「やば。」


パタパタと片付けて、部屋を確認しローブを手に取る。

「ん?ご飯?」

「まあ、それは気になるわよね。」
「あ、おはよう朝。」

すっかり忘れていたが、朝は私の支度を待ってくれていた様だ。

て事は、一緒に行ってくれるのかな??

「ねぇ、今日造船所だと思う?」

「さぁね?でもレシフェが来たって事はそうなんじゃない?朝ごはんどうするのかしらね?あの人食堂入れるの?」

「いや、私もそれ思った。でも、お弁当でも良くない??」

「まぁ、とりあえず行きましょ。レシフェは文句言うわよ。」
「はぁい。」

そう、多分気焔は何も言わないと思う。
何故かいつもそうなのだ。

私の事だから………って諦めてるのかな………?


そんな事を考えつつも、多色の房を掴みカチリと鍵をかける。

「さて。」

振り向きながらポケットに鍵を仕舞う。

同時に朝のしっぽが階段に消え、「待ってよ!」と慌てて後を追いかけた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...