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7の扉 グロッシュラー

恐れとは

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結局「今日はもう、大人しくしていろ」との命で昼も夜も自室に食事を運んで貰った、私。

その辺、割と融通が効く様子なのはテトゥアンのお陰もあるかもしれないなぁと、思う。


そう、また食堂のメニューが美味しくなったと噂になっていて私は内心ウキウキしていた。

本当なら、直接地階に行って話もしたい。
でも、ここの所中々地階した迄行くチャンスが、無いのだ。

シリーは時々廊下で声を掛けて様子を聞ける。
みんな、元気にやっている様だし力の加減も大分いいみたいだ。
何しろそれなら、いいんだけど。

行きたいだけ、なんだよねぇ…。


なんだかちょっと、癒されたいのだ。

そう、思って今だってルシアの石鹸をもくもくと泡立てて、いるのだけど。


「うーん。なんだろな………?」


ラガシュに、文句は言った。
それはそれで、少しスッキリした気は、する。

子供達も、上手くやってる、と。
ああ、幻の魚はどうなったかな??もう、水槽に入っちゃった?見たいんだけど………入れる所。
その権利、私にはあるよね?うん。

図書室は………捗ってない。
それは、事実。
あと、実はトリルとランペトゥーザにイストリアを会わせたい。これ結構、希望。
文字も捗りそうだし………でもこの島が、「何で」浮いてるのかは知られない方がいいのかな………。
でも、それならそれでランペトゥーザには教えたいと思うのだ。

「だって。知ってて………黙ってるのは、ねぇ。無理、だよ。」

答えの無い研究を続ける所を、横で見てるだけなんて。
無理だ。

それに、私手伝うって、言ってるし。
多分、ランペトゥーザは大丈夫だと思うんだよね………。

なんかさぁ、銀の家とか、派閥とか。
わかんないけど。


「もう、いいじゃん………。」

「私の理想は………、みんなに石を配るでしょ、それでロウワの所にも配って、色を作って。船をカラフルにして。幻の魚も綺麗に泳いで、貰った分のウロコは船を…キラキラ、させちゃう?うん、飛びそう。」

「それでイストリアにここへ来てもらって、先生してもらって~、トリルもランペトゥーザもウキウキで、ついでに神の扉と春の、祭祀?についても調べて………あー、ロウワの先生もいいな…。」

「緑ももっと増やしたいけど、きっと祈れば増えるだろうし。貴石、は一回行かなきゃ駄目だな…。」

反対、されるだろうけど。

私だって、現実を見なきゃいけない。

じゃなきゃ、変われないんだ。
綺麗なとこだけ、見てたって。

それはきっと解決したとしても、綺麗事で。


ふと、金色の瞳が浮かんでくる。

泡を流して、白い石の湯船に手をかけた。



「うーーーーん。」

まあ、今日は。

ピンク、にしよう。

ピンクの原石を手にして、お湯に身を沈める。


「恐れ、かぁ…………。」

イストリアが言っていた、「気焔の恐れ」とは。

何となくは、分かる。
私が危険に突っ込んでいくのが嫌なのだろう。
それは散々心配させているから、分かる。

でも、本質的な事で言えば。

「解っている」とは、言えないのかも、しれないのだ。


結局、気焔と私は、「違うもの」で。

どれだけ、思ってみたって、慮って、みたとしても。

「それ」が、「彼にとって」の正解かは、判らないのだ。
多分、気焔だってすればいいのかは言わないだろうし、解らないから言えないんだろうと思う。

その「恐れ」とは。

きっと、具体的に言葉に出来るようなものではないのだ。




「私が」、安心感を与えるしか無いのだと、思うのだけど。


「苦手、分野なんだよね………うん。」

心配ばかりかけている私が、あげられる安心、とは。

「なんだろうな…?」

全く、思い付かない。


とりあえず、頭上の雲を眺めながら昼間のブラッドフォードの事を考えた。

「言った方が、いい、よね………?」

多分、気焔はあの後ラガシュと話していないと思う。何となくだけど外に行っていた匂いがしたからだ。


「癒し。うーん、それから………だと、怒られない??」

小細工を考えつつもピンクの雲を大きくして部屋迄届く様、送っておく。

なんとなく、だけど。

とりあえずは前フリがてら、送っておく。
なんとなく、私が何か言いたいのは感付いてくれる気がするから。


そうして湯船を出て、身体を拭き身支度をする。

「ん?」

すっかり定着したエローラネグリジェを身に付け髪を拭いていると、一筋、赤い髪があったのだ。

「何か、懐かしいな。フフッ。」



一瞬、ソワソワしたのは気の所為だろうか?

腕から何かを感じて、腕輪を見るがなんて事ないいつもの石たちだ。

しかし、一際輝く白い、石は。

「ハキ。そういえば、歓迎会してないね?」

クスクス笑いながらそう言うと、無言だけどキラリと光った気がする、透明の石。

「天啓の石」と、言っていたけど。


「そういや、ベイルートさんも「天啓?」とかなんとか、言ってたよね………?」

なにか、あるのだろうか。

「なんか、御告げでもしてくれるの?」

腕を上げ、灯りで光らせるが何も応えない。

「ま、もし「天啓」って言うなら。そう、ホイホイ言わないよね。確かに。」


そう独り言を言って髪を梳かし終わり、櫛を置いた。







薄い夜の明かり、四角く切り取られている雲の空。

灯りのないダイニングは窓からの灰青の明かりで青白く照らされている。
いるかと思っていた、気焔はいない。

きっと寝室にいるのだろう。

「お茶、淹れようかな………。」


どう、話そうか思案したいのとリラックスを兼ねてカンカン言うヤカンを火にかける。

窓からの明かりである程度見えるので、あえて灯りは点けなかった。
なんとなく、この静かな空気を壊したくなかったのと、まだ気焔の顔が見れない事。
多分灯りを点けるとダイニングへ来るだろう。


いつも見慣れた、あの金の焔とは違う赤い炎。
透けない赤を眺めながら「やはり違う」と思ってしまう。
そのまま、まじないの炎がゆら、ゆらと揺れる様子をボーっと見つめていた。

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