透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

水面下

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「なあ。」

「ん?」
「あの件、どうなった?てか、どうにか、なるのか?」

「どうした急に。…………まぁ、どうもなっていない。向こうで手を回してもらってるが…。アリスがこっちにいる間に、探りを入れてもらおうと思ってたんだけどな。中々、難しいみたいだ。」

「まあ、そうだろうな。」
「で?どうしたんだ、そんな事聞いて。お前、まさか…。」
「いやもう、手は出してねぇよ流石に。お前だって、祭祀は見ただろう。簡単に、手は出せない。は。それに………あれは「青の少女」じゃねぇよ。聞いただろ?館で。でも、そうするとな………。」

「なんだ?」

「お前だって、気が付いてるだろう?もし、「あっち」がなら。「青の少女」が、「金のローブ」とイコールになる。…………まぁ、なのかもしれないけどな。」

「……………。言うなよ?」
「言える訳ねぇだろ、そもそもお前がを持ってるから………。」

「ああ。……悪いようにはしない。」
「そう、願うけどな。」



「それにお前、クテシフォンの力の話、聞いたか?!」

「ああ。」
「随分、落ち着いてんな。どう、する?コンタクト、取るか?」

「いや。一度、本家に訊いてみようとは思ってる。出処が何処なのか、判らないが無関係では無いだろう。何とか上手くすれば、「これ」も………。」
「おいおい、止めとけ。俺は早いとこ処分するに限ると思うけどな。それは。」



「…………まぁいい。兎に角、お前は勝手に行動するのだけは、止せよ?」
「はいはーい、わぁかってまーす。」



ふぅん?

ウェストファリアの予想通り、勝手に噂が広まってるな?


礼拝堂を出てすぐの、廊下の隅。
少し影になるその場所は秘密の話に丁度良さそうな窪みがある。

そこに赤ローブが二人、頭を突き合わせていたからとりあえず下に降りて石床を歩いていた。
視界に入らない様、二人の死角を通る。

白い床だと俺は目立つからな。これだけ静かだと、羽音が聞こえてもいけない。


そう、俺は相も変わらず情報収集の為に、日々飛び回っていた。

その中でも礼拝後の時間と神殿の廊下は、絶好の聞き取り場所だ。
何やら話があるやつは、勝手に礼拝堂へ残って色々秘密の相談をする事もしばしば。

廊下は噂話の宝庫だし、ここのところ人々の話題には事欠かない。
祭祀の話もまだまだ出るし、あの「青の少女」の話に今度は新しく木まで生える、ときた。
しかもそれが、本当は全部あいつの所為って所がまぁ………何とも言えないが。

そんな事で情報収集は思いの外、捗っていた。

これならウェストファリアが喜びそうだ、というネタをみんなが勝手に提供してくれていたからだ。




あれからヨルはウェストファリアに相談して、結局「しばらく何もせず、様子を見る」事にしたらしい。

俺は始め、意味が分からなかったがその効果が出るのは意外とすぐだった。

みんなが「クテシフォンのが違う」と言い出したのだ。


何処がどう、違うのか。

どうやら噂によると、礼拝の時少し、まじないの色が見える奴がいるらしい。
見える者と、見えない者。
その差は判らないが、力の強さとかなのかもな?

クテシフォンは元々はあの石と同じ黄色系の色だった。それが、どうやら緑に変化した、と。
そんな噂が駆け巡るのは、すぐだった。




「なあ。聞いたか?」
「何が?」

だよ。クテシフォンの。緑らしいぞ?見た事無いぞ、緑なんて。あるか、お前。」
「………無いよ。だって、もそう、色数は多くない。決まってるだろ、大体。」

「そうなんだよ!だから、だろ?どうしてだ………?お前、本家に最近連絡したか?」
「いいや?でももうニュルンベルクがしてるんじゃないか?みんな、知ってるんだろ?これだけ周ってくるって事は。」

「多分、な。各家で大騒ぎ………かは、分からんがまぁ大騒ぎだろうよ。表向きは何も、変わっちゃいないけどな。」

「まぁな………ネイアだし。………でも、?お前、ネイアの噂は知ってるか?」
「ああ、「石を取られる」ってやつだろう?でもクテシフォンは持ってるって事だ。みんな、持ってるだろう、本当は。だってあり得ない。自分の石が、無いなんて。」

「まぁそうだよな………普通に考えて………でも、じゃあ何でそんな噂…。」
「ま、いいじゃん。とりあえず俺らはどうしようもないし、ニュルンベルクに聞いたら教えてくれるかな?」

「いやぁ………隠されるんじゃね?」
「だよな………。」



ふむ。
赤に続いて黄色もか。

白は、まぁ元々知ってるし。青も、然り。

うん?後は?みんな知ってんのか??
ああ、茶があるな………茶って………誰だ?


白くて太い、柱の周りを考えながら回っているとまた話し声が聞こえてきた。
今度は誰だろうか。



「最近、多いよ。少し、風紀も乱れ気味だ。」
「お前に言われちゃあ、おしまいだな。」

「茶化すなよ。何か、知ってるだろう?ラガシュなら。」

おやおや、青ローブが二人。

ラレードが喰いついているのは、何の話か。
二人は言葉とは裏腹に、仲良さそうに深緑の館へ向かっている。


「だから。そもそも、男子フロアに入って来てる時点でおかしいだろ。まじないか、「何か」だ。しかも結構捕まえようとしている奴がいるらしいが引っかからないらしい。」
「ふぅん?三階には出ないんだけどな?僕が見てないだけか?」

「どうだろうな。だから、セイアの誰かじゃないかってまぁ単純にそんな話になってる。。必然的に、あの子になるだろ?」
「ああ、アラルエティー?」

「誤魔化すなよ。そんな訳ないだろ。」

「まあ。」


これは話の内容から察するに、「赤い髪の幽霊」の話っぽいな。

まだ出歩いてんのか??
流石の俺も毎日夜中に徘徊している訳じゃあ無いからな?


しかし、調べていくうちに判った事がある。

やはり、アレはヨルだろう。
多分、「あっち」の。

なぜかと言うとアイツらはいつも一緒に、寝ている。
うん、いつも一緒に寝てるんだよな。どうなの、それ。もう、今更突っ込む気無いけどな。

で。

気焔がいない日がある。
見回りだとか、用事?とかで抜け出している時があるんだ。ヨルが気付かないうちに、行って帰ってきてる時も、ある。

しかし、その気焔が不在の時と。
その、「赤い髪の幽霊」が出る日。

それが、ピッタリ合うんだ。


それに、「赤い髪」なんてそうそうあるもんじゃ、ない。
正直、「見た事ないものを見たらアイツ」ってくらい、何か事件が起きたらもう全部アイツなんじゃないかと俺は思ってる。
実際、合ってるしな。本当に。


しかし、問題は。

その、「赤い髪の幽霊」が「あっち」だったとして。

どうやって、止めさせるか。

うーん?

シン?

でもな。気焔がな………。

しかも協力してくれるのか、俺は全く読めない。
そもそも、このグロッシュラーに来てからやたらと大人しいという彼。
俺は、よく知らないが。

一体、どういう関係で、どう、なっているのか。

とりあえず、訊くしかないか………。



みんな、食堂へ行ったのだろう。
殆ど人通りが無くなった、白い廊下を深緑の館へ向かい、飛ぶ。

だいぶ春らしくなった廊下の空気は飛んでいても体がキンキンに冷える事が減って、中々いい。


春の祭りは、ラピスと同じくらいだろうか。
しかしまた祭祀、となると嫌な予感がするな…。



そう、思いを巡らせながら禁書室へ向かってくるりと旋回した。

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