255 / 1,684
7の扉 グロッシュラー
クテシフォンの石
しおりを挟む私はただ黙って、彼の前に立っていた。
さっきの、緑と黒の、石を持って。
そしてその青い瞳を正面から真っ直ぐ、見つめていた。
クテシフォンはちょっと困っていたと思う。
池の向かい側にいた時は、私を真っ直ぐ見つめていたのだけれど、今は彼方此方へ視線が忙しい。
多分、レシフェと気焔を見てるんだと思うけど。
私は、目を逸らさないよ?
別に意地悪してる訳じゃ、ないんだけど。
多分、クテシフォンは受け取る決心がついていない。それが解るから、待っているのだ。
「さあ、私は渡すつもりです。受け取ってくださいね?」
そんな顔をして、ずっと正面に、立っていたのだ。
そうして暫く。
とうとう彼は、口を開いた。
ゆっくりと、しかし決心が付いた、という様子で語られた、彼の想いは。
真面目な、彼らしい内容だった。
「私は。私自身は。石を、受け取りたいと、思っている。しかし、これまで………見てきたと思うが。君も。私にその、資格があるのか。分からないんだ。」
うーーーん。
真面目だ。
うん。真面目だ。
そうして私は、思ったままを口にしていく。
それが、多分最善だから。
「「資格」って、何ですか?」
あっ。青い目が、まん丸!
ちょっと、可愛い。
クテシフォンはしかしきっと、この質問もまた、真面目に考えているに違いない。
でも。
きちんと納得、してもらう為には。
待つしか、ないのだ。
そうしてまた私は、正面にじっと立ったまま、返事を待つ。
しかし次はそう、長い事では無かった。
「誠実に、生きてきた事。」
ひゃー!
真面目だ。うん、真面目。
駄目だ。なんか、ニヤける。何でだろ?
嬉しいのかな??
「クテシフォンさんは、「誠実」では、無かったんですか?」
また考え出した。ちょっと、面白くなってきたな、コレ。なんだろ。真面目だから??
少し、ソワソワしたくなってきたけど正面には真面目に考えているクテシフォンがいる。
ここは、我慢だ。
スタスタと朝が背後を横切ってるけど、やめて欲しい。
笑っちゃうじゃん。
「いや。」
クテシフォンがまた話し始める。
「今は。誠実なつもりだ。だが、以前は。君が、来る前は、違ったと思う。」
ちょっと、鼻の奥がまたツンとする。
もう、いい。
考えてくれている。充分。
でも、ちゃんと、解って欲しいんだ。
私が。「あなたになら」石を、渡したいって、思う理由を。
そう思って口を開く。
「私がどうして、クテシフォンさんに石を渡すと思います?」
この質問は、意地悪だろうか。
でも多分。
彼ならば、そうは思わず答えてくれるだろうと解って、訊いているのだ。私も。
また少し考えて、彼はこう、答えた。
「君だから?ウェストファリアも、そう、言っていたし私もそう思う。それに君は、すぐに人を信用するだろう。それも、あるな。」
うん?
私だから??
これ、答えようがないな?
意外な答えを脇に避けて、私はこの目的を説明する。
彼に、始めの一歩に、なってもらうには。
しっかりと、解ってもらう必要がある。
またしっかりと、真っ直ぐ青い瞳を見つめた。
それくらいは、大事な話だ。
いくら、私が石を沢山創れるとしても。
誰にだって、ホイホイあげたい訳じゃ、ないのだ。
「私は、あなたに一番に貰って欲しいんです。」
また、目がまん丸になった。
「何故かと言えば。あなたが、こうして受け取らないからですよ。クテシフォンさん。それは、あなたが誠実だからだ。」
「多分、奪う事が普通になっている、ここやデヴァイでは。みんな、「いや、勿体ない」とか言いながらヘラヘラ、貰うと思いますよ?こう言っちゃ、言い方悪いですけど。それもまた、真実。」
「でも。こうして、人の為に行動してくれる人だって、いる。「何が大事なのか」。それって、人ですよ。多分。色々な物って、作れるし石やお金で解決できる事っていっぱいある。でも、こういう「人」って。ちゃんと、自分で考えて、人の為に行動出来る誠実な人。そんなの、滅多にいませんよ。」
「だから。始めに、貰って欲しくて。そして、みんなを先導して欲しいし、きっと受け取れない人の力にもなってくれる、あなただから。」
「これを。きっと、あなたに合う、この石を。」
私の手のひらに乗る、石はそれなりの大きさの緑の石。黒が渦巻く様子は、レシフェの石とも相性が良さそうだ。
今はまだ、ご機嫌に私の手のひらに収まっているけれど。
相性とか、あるのかな?
多分、あるよね??
クテシフォンが手を出さないので、二、三歩近づいて手を取った。
私は少し、期待していた。
きっと。
あの、シャットでシェランが石を手にした時のように。
この石が、クテシフォンを気に入ってくれると思ったから。
そのまま彼の手を上に向け、開いた手のひらに石を乗せた。
「 」
その石は、明度が足りないからか喋らなかったけれど。
ふわりと内部が渦巻いて、もう少し黒が侵食したのが分かる。
思わずレシフェを、見た。
楽しそうな顔をしてやってきた彼も、興味深そうに石を見て「ふぅん?」と言う。
「どうかな?いいよね?」
「そう思うよ。しかし、珍しいな、この色の組み合わせは。」
「だよね?ピッタリじゃない?なんか、こう、硬派な感じが。」
レシフェが少し、手を伸ばすと石が嫌そうなのが分かってちょっと面白い。
少し、硬くなるのだ。いや、石だから硬いんだけど。
そのままクテシフォンの手を握らせて、下ろす。
「駄目駄目。嫌だって!」
「あ?そんな事、言ったか?」
「うん、だってちょっと変わったもん!」
キャッキャと戯れ始めた私達の事は目に入らない様で、クテシフォンはただ、その自分の拳をじっと見つめていた。
とりあえず。
そっと、しておこう。
そうして私達は、他の色石についてあれこれ言いながら池の辺に蹲み込んでいたのだった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる