透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

クテシフォンの石

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私はただ黙って、彼の前に立っていた。

さっきの、緑と黒の、石を持って。

そしてその青い瞳を正面から真っ直ぐ、見つめていた。


クテシフォンはちょっと困っていたと思う。

池の向かい側にいた時は、私を真っ直ぐ見つめていたのだけれど、今は彼方此方へ視線が忙しい。

多分、レシフェと気焔を見てるんだと思うけど。

私は、目を逸らさないよ?


別に意地悪してる訳じゃ、ないんだけど。

多分、クテシフォンは受け取る決心がついていない。それが解るから、待っているのだ。

「さあ、私は渡すつもりです。受け取ってくださいね?」

そんな顔をして、ずっと正面に、立っていたのだ。



そうして暫く。

とうとう彼は、口を開いた。
ゆっくりと、しかし決心が付いた、という様子で語られた、彼の想いは。

真面目な、彼らしい内容だった。

「私は。私自身は。石を、受け取りたいと、思っている。しかし、これまで………見てきたと思うが。君も。私にその、資格があるのか。分からないんだ。」


うーーーん。

真面目だ。

うん。真面目だ。

そうして私は、思ったままを口にしていく。
それが、多分最善だから。


「「資格」って、何ですか?」

あっ。青い目が、まん丸!

ちょっと、可愛い。

クテシフォンはしかしきっと、この質問もまた、真面目に考えているに違いない。

でも。

きちんと納得、してもらう為には。
待つしか、ないのだ。

そうしてまた私は、正面にじっと立ったまま、返事を待つ。
しかし次はそう、長い事では無かった。


「誠実に、生きてきた事。」

ひゃー!

真面目だ。うん、真面目。

駄目だ。なんか、ニヤける。何でだろ?
嬉しいのかな??

「クテシフォンさんは、「誠実」では、無かったんですか?」

また考え出した。ちょっと、面白くなってきたな、コレ。なんだろ。真面目だから??

少し、ソワソワしたくなってきたけど正面には真面目に考えているクテシフォンがいる。
ここは、我慢だ。

スタスタと朝が背後を横切ってるけど、やめて欲しい。
笑っちゃうじゃん。


「いや。」

クテシフォンがまた話し始める。

「今は。誠実なつもりだ。だが、以前は。君が、来る前は、違ったと思う。」

ちょっと、鼻の奥がまたツンとする。

もう、いい。
考えてくれている。充分。

でも、ちゃんと、解って欲しいんだ。

私が。「あなたになら」石を、渡したいって、思う理由を。

そう思って口を開く。

「私がどうして、クテシフォンさんに石を渡すと思います?」

この質問は、意地悪だろうか。

でも多分。
彼ならば、は思わず答えてくれるだろうと解って、訊いているのだ。私も。

また少し考えて、彼はこう、答えた。

?ウェストファリアも、そう、言っていたし私もそう思う。それに君は、すぐに人を信用するだろう。それも、あるな。」

うん?

私だから??
これ、答えようがないな?

意外な答えを脇に避けて、私はこの目的を説明する。

彼に、始めの一歩に、なってもらうには。

しっかりと、解ってもらう必要がある。


またしっかりと、真っ直ぐ青い瞳を見つめた。

それくらいは、大事な話だ。
いくら、私が石を沢山創れるとしても。

誰にだって、ホイホイあげたい訳じゃ、ないのだ。


「私は、あなたに一番に貰って欲しいんです。」

また、目がまん丸になった。

「何故かと言えば。あなたが、こうして受け取らないからですよ。クテシフォンさん。それは、あなたが誠実だからだ。」

「多分、奪う事が普通になっている、やデヴァイでは。みんな、「いや、勿体ない」とか言いながらヘラヘラ、貰うと思いますよ?こう言っちゃ、言い方悪いですけど。それもまた、真実。」

「でも。こうして、人の為に行動してくれる人だって、いる。「何が大事なのか」。それって、人ですよ。多分。色々な物って、作れるし石やお金で解決できる事っていっぱいある。でも、こういう「人」って。ちゃんと、自分で考えて、人の為に行動出来る誠実な人。そんなの、滅多にいませんよ。」

「だから。始めに、貰って欲しくて。そして、みんなを先導して欲しいし、きっと受け取れない人の力にもなってくれる、あなただから。」

「これを。きっと、あなたに合う、この石を。」


私の手のひらに乗る、石はそれなりの大きさの緑の石。黒が渦巻く様子は、レシフェの石とも相性が良さそうだ。
今はまだ、ご機嫌に私の手のひらに収まっているけれど。

相性とか、あるのかな?
多分、あるよね??

クテシフォンが手を出さないので、二、三歩近づいて手を取った。

私は少し、期待していた。

きっと。

あの、シャットでシェランが石を手にした時のように。
この石が、クテシフォンを気に入ってくれると思ったから。


そのまま彼の手を上に向け、開いた手のひらに石を乗せた。

「  」

その石は、明度が足りないからか喋らなかったけれど。

ふわりと内部が渦巻いて、もう少し黒が侵食したのが分かる。
思わずレシフェを、見た。

楽しそうな顔をしてやってきた彼も、興味深そうに石を見て「ふぅん?」と言う。

「どうかな?いいよね?」

「そう思うよ。しかし、珍しいな、この色の組み合わせは。」

「だよね?ピッタリじゃない?なんか、こう、硬派な感じが。」

レシフェが少し、手を伸ばすと石が嫌そうなのが分かってちょっと面白い。
少し、硬くなるのだ。いや、石だから硬いんだけど。

そのままクテシフォンの手を握らせて、下ろす。

「駄目駄目。嫌だって!」

「あ?そんな事、言ったか?」

「うん、だってちょっと変わったもん!」

キャッキャと戯れ始めた私達の事は目に入らない様で、クテシフォンはただ、その自分の拳をじっと見つめていた。


とりあえず。
そっと、しておこう。


そうして私達は、他の色石についてあれこれ言いながら池の辺に蹲み込んでいたのだった。
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