透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

姫様と畑

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イストリアは私達を店に案内すると「ちょっと待ってて。」と奥へ行ってしまった。

何やらお弁当を作ってくれるみたい。
確かに、さっき依るのお腹は鳴ってたからね……。

あくまで、お腹が鳴るのは姫様じゃなくて依るだと思いたい、この心境はなんなのかしらね…。


店内を興味深そうな瞳で見ている姫様は、さっきから石や動物の髑髏を手に取り「ほう」とか言ってる。
面白いのかしら?
読めないわ。

私は「依るが羨ましがるわ」と思いながら、姫様の様子を見つつ、見渡し易いあの中二階部分に移動した。
店の中は危険は無いし、部屋に帰って寝ようと思ってたのに姫様がいて、てんやわんやだったからだ。
まぁ、居眠りとも言うけど……。



「「は、そう変わっておらぬ。」」

うん?

顔を上げると、まだ店の中をウロウロしながら姫様がアレコレ手に取っている。

変わっていない?



うん?ずっと、あるワケじゃないわよね??


答えてくれるか、分からないけど。
とりあえず、訊いてみることにしたわ。


「姫様はこちらに来た事が有るのですか?」

私の言葉を聞いていないのか、そのまま店内を歩きハーブを手に取る。
でも、少ししてから返事が返ってきた。
考えてたのかしら?

「「ここでは、ないがな。いつの世も。」」


うん?
なに?

「「であれば、善いのだが。」」

なんだろうな?

姫様はドライにする前のハーブを持って、ドライハーブが下がる天井を見上げていた。

いっぱいのドライハーブが下がる上の方は、モサモサしていてどこから光が差しているのか。
分からないけど、降り注ぐ光でハーブと姫様がキラキラして見える。

ハーブの事、言ってるのかしら?

表情は、見えない。まあ、顔に出てるかは分かんないけど。依ると違ってね。


あまり根掘り葉掘り、訊ける雰囲気じゃあ、ない。

でも多分、姫様が「ここ」ではないかもしれないけどグロッシュラーに来た事があるのではないか、とは思った。
後々考えてみれば、ここの何処かに「姫様の石」があるのだから、当然なんだけど。

とりあえず、この時は突然降って湧いた姫様にそれどころじゃ無かったからね。



しばらくすると、イストリアがバスケットを下げて戻って来た。

「お待たせ。じゃあ行こうか。」

そう言ってニッコリするイストリアを見て、「ああウイントフークも姫様を見てもだろうな」と、思ったわ。
フツーなのよ、フツー。

まぁ、遜られても困るけどね。





「こっちだ。」

「えー。まさかの。依るが悔しがるわぁ。」
「ハハッ。今度また来るといい。」

イストリアは店の扉から外へ出て、すぐ横のキラキラした木立に入って行く。

あの、電飾みたいなキラキラの木立はパッと見家から生えている様に見えるけど、近くで見たら一応湖から出てた。
一見、落ちそうに見えるその家と木立の隙間に吸い込まれたイストリア。

私が先に行くわけにはいかない。

姫様をチラリと見ると、「わかった」という様に頷いて木立に入って行った。

姫様って、そう言えば…簡単に空間とか越えられるんじゃ?
そんな事を思いつつ、私はおっかなびっくり、木立に足を踏み入れたのだ。








「うーわ。」

見渡す限りの畑。

「なにココ。あの子が来てたらうるさ過ぎてアレだったわね…。」

いなきゃいないで、静かで寂しいわぁなんて思いながら、急に現れた異空間に見惚れていたわ。


なんて言えばいいのか、猫のボキャブラリーに期待しないで欲しいけど、とりあえずそこはシャットの休憩室にあった絵の風景に、似てた。

あそこは毎日変わってたけど、たまに金色の稲穂の時とか、遙か拡がる平原、草花の時もあった。
その、果てを感じさせないこの空間。

やはり、まじないだからなのか。

目の前に広がるのは草原ではなくて畑なんだけど、向こうの方に灰色のゴツゴツした石柱みたいな物がある。
ど真ん中にね。

この空間はとても広くて、果ては分からないし見えない。それに、「空」は無いんだけど「上」はあって、今は少しピンクと橙が混じった様な色をしている。
その、始まりは見えないけれど、どうやら「上」からズズイと大きなゴツゴツした石柱が、降りてきているのだ。
遙か上は結構太くて、この地面に触れている部分は細くなっている。とは言っても、大人2.3人で腕を回すくらいの太さはありそうだけどね。


イストリアと姫様はもう、少し遠くを歩いていて私はその気になる岩というか、石が見たくなって真ん中に走って行った。
結構、近いと思ったけど。

それは、思ったよりも遠くて、「大きい」から近く見えただけだったの。

そして側で見る事によって、「それ」がなんなのかが、分かった。
いや、予測が付いたと言うべきかしら。

「これは………もしかしなくても、グロッシュラーの「下」でここの柱の役目をしてるのかしら??」

「ご明察。」

いつの間に後ろに来ていたのだろう。

イストリアと姫様が背後に立っていた。
姫様は躊躇する事なく、その大きな石柱に近づいて行き、イストリアは私に説明してくれる。

はね。「この中」に、あるんだよ。そうしてこの畑や私の空間、そしてこの島自体を支えている。」

「誰が。どうやって、創ったのだろうな。それこそ、「神」か。私はその辺、あまり興味は無いからただこれを利用させて貰ってるだけだけどね。」

ふぅん?

流石、興味の無い事はホントにスパッと切り捨てるわね…。

そっくりな水色の髪を揺らして姫様の所に向かったイストリア。
彼女の言う通りなら、あの中にこの島の「核」の石があることに、なる。
まあ間違いなくなんでしょうけど。


「「この、世界では。もう何代も見てきたろうな。」」

何考えてるんだろう。

姫様はゴツゴツした石肌に、ペタリを手を付け何かを感じている様だった。


姫様は、シンラ様の対として作られて依るの家に、在った。

この石はきっと、この島を維持し守る為にここに納められているのだろう。

似た様なもの、だと思ってるのかな…………?

そんな私の勝手な考えを読んだ様に、姫様は言った。

「「動けるからの。お前が不自由を感じるならば手を貸す事も厭わぬ。時代ときは流れた。否が応にも時代は変わる。」」

えっ。
なんかヒビ、入ってきましたけど??!


「「が来たら。言え。お前の声には応えようぞ。」」


のわっ?!ナニ?大丈夫?!


その、姫様の呼び掛けに応える様に石肌が崩れ始め剥がれ落ちた石が下の草を覆う。

私はこの柱が崩れたらきっとこの空間が消滅する事だけは解るので、右往左往していたけど隣のイストリアは腕組みで瞳をギラつかせているし、姫様は石柱に手を当てたままだ。

大丈夫なの??アレ???
危険は無い?でも、本人がやってるんだろうし…………???



少しずつ、落ちる石が小さくなり数も減ってきた。
それはいいんだけど。
いいんだけど。

その、剥がれた石の、下にあったのは。


それは、姫様よりも一回り大きな、水晶のクラスター窟だったの。

ヤバい。アレは、ヤバい。

丁度、人一人入れそうな、気持ちのいい揺り籠にでもなりそうな穴なんだけど、兎に角中身が水晶クラスターだから入ったら刺さるわよね。うん。

そんなくだらない事を考えていたら、イストリアがそこに足を掛けて姫様に止められてたわ。
流石よ。
刺さっても良かったのかしら。
でも、そこまで頭が回らなかったのかもしれない。

私だって、見た事ない。

どうやら、世界にはそんなモノがあるだろうという事は知っていた。だって、私達の世界では鉱石は流通してるからね。
でも、こうして実物、採取される前であろう状態を見るのはなんせ、初めてだ。

あまりにも美しくて、あっちに帰ったらちょっと世界を旅してみようかと、思ったわ……。
その前にいつ帰れるのか、そもそも依るがあの調子だとホントに帰るのか。
分かんないけどね…でも依子が心配するわよねぇ。

いや、話が逸れたわ。


とりあえずイストリアは観察するに止めたらしく、その小さな洞窟のなかに頭を突っ込んでいる。
多分、しばらく帰ってこないだろう。

しかも、姫様はさっき何だか怪しい事を言っていた。
なんだっけ?
その?あの、石が?
動きたくなったら?きょ、協力する?とか?


うーーん???

そんな私の考え事なんて、きっと意に介していない姫様は気ままに畑を散歩し始めた。
もう、向こうの方まで行ってるけど、ここの端っこは「どう」なっているのだろうか?

まさか、崖じゃないと思うんだけど……?



「いやぁ、凄いね!」

そうしてイストリアが一旦、戻ってきた。

きっとまた行くんだろうけど、バスケットを持っているので思い出したんだろう。

きっと姫様は気が付いていないに違いない。
身体が、「お腹空いた」状態になっている事を。



そうして私は走って姫様を呼びに行き、私たちは早めのブランチをする事にしたのだった。







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