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7の扉 グロッシュラー
それぞれの恋模様
しおりを挟む「ていうか、聞いてくれる?!」
まず始めに勢い良く始まったのは、ガリアの話。
以前、婚約者の話を聞いた時は愚痴を言いつつも何だかんだ、彼の事が好きなのかな?と思っていた私。
しかし、今回ガリアは中々の本気で言っている様だ。件の、貴石の件だ。
「さっきの話に戻るけど。そもそも、何でデヴァイでの貴石の評価の話を私が知ってるかと言うとね?実家筋から、情報が流れてくるわけよ。それで、彼が。」
あまりの剣幕に息継ぎをするガリア。
大丈夫だろうか。
「家からも許しをもらったとかで。結局、一度は私の話を聞いて止めてくれてたのに、また通い出してるらしいの。言いたくないけど馴染みだから。……入れるらしいのよ。もう、ホント無理。」
思わずパミールと顔を見合わせる。
二人はいつも一緒だから既に聞いているのかと思ったが、「ここまでは初めて聞くわ。」と言うパミール。
黙って話を聞いていたトリルが、ズバリと核心を突いた。
「まあ、今ならまだ解消出来るんじゃないですか?幸い、ガリアはまだここにいるのだし。」
「まぁね。帰ってからだと、無理だと思う。」
それっきり、黙ってしまったガリア。
私はなんて言っていいのか、分からなかった。
「別れちゃえばいいよ。」と言うのは、簡単だけど。
やはりデヴァイの事情を詳しく知らない事を、さっき再認識したばかりなのだ。
でもな………。
沈黙を破る様に、パミールが立ち上がりお茶を取り替え出した。
お腹は、いっぱいだけど。でも。
甘い、香りがして空気が和む。
確かにぐるぐる考えている私達に、甘い物は必要だ。
そういやレナはクッキーどうしたかな?なんて思いつつ、パミールの心遣いを有り難く頂く。
みんなで、温かいカップを持ちフーフーした所でやっと落ち着いた空気が流れた。
そして私は、さっき思った正直な感想を述べる事にした。
「知らない」からって萎縮しちゃうのは、簡単だけど。
でも、だって。
私は、ネコを被るのは辞めたし「私」でいる事が、ここの常識を、破る事が。
今迄だって、なんらかの糸口になっていた気が、するから。
「とりあえず私は、ガリアの事大事にしてくれない人はそもそも、反対。もっといい人、いるよ。全然。焦らなくていいし。これから、選択肢だって広がると思うし、拡げるし。ちょっと、時間はかかるかもだけど。」
「そうね。それに。」
私に続けた後、一度言葉を切るパミール。
そうして、私を真っ直ぐ見る灰色の瞳には少し緑と青が混じっているのが判った。複雑な色合いがキラリと光る。
「こう、なったら。もう、戻れないのよ。私達は。だって、知ってしまった。解っちゃったもの。私達だって、何かが出来るって。出来るかも、しれないって。………今更「あの古巣」に戻って。あの、凝り固まった人たちの誰かと、結婚させられるなんて。御免じゃない?」
えっ。
パミールが、面白い。
なんだか吹っ切れた様子の彼女を見て、パッと「面白い」と思ってしまった。
何故だろうか。
でも、きっと………?
彼女が自分で将来を考え選択をしようとしている事が、その瞳に映っているからなんだ。
楽しそうな、以前よりも「いろ」を含んだ、その灰色の瞳。
扉から、受け取ってくれている。
その事実を目の当たりにして、ワクワクしている自分がいる。
うん、どうせこんがらがって、絡まった問題なんだ。それなら、楽しく解決した方がいいに決まってるし私達に暗い顔は似合わないよね?
そう考えてニヤニヤしていると、ガリアがツッコミを入れている。
「でもパミールは向こうの人と、いい感じじゃない。いいなぁ、元々は親が決めたんだよね?」
「そうね?私も始めはそんなものかと思ってたけど………。」
「「ど?」」
私達の興味津々の瞳に、少し目を細めるパミール。まぁ隣のトリルは普通にお茶を飲んでいるけれど。
「私の場合は。元々、親同士が仲良かったのよ。シャットに一緒に行ったらしいわ?そこからしてちょっとアレなんだけど………。」
うん、それはなんか私でも分かる気がする。
「その影響で彼も、シャットに行って。だから、あの中では。変わってる方だと、思う。私は家がそんなだから、今迄はそれで何とも思ってなかったけど。ガリアの家が、普通よ。向こうでは、ね。」
「あまり勧めるのも褒められた事じゃないとは思うけど。私は、解消してもいいと思う。ヨルの言う通り。もっといい人がいると思うし、これからきっと変わる筈だわ。」
「うんうん。」
そうして頷く私に、トリルが驚きの事実をぶっ込んできた。
「私はやっとラガシュが諦めてくれたみたいで、ホッとしてますけどね。」
「えっ?トリルにもまさか、そんな話が?」
中々に失礼なのはガリアだ。
「そう、あの人ですよ。ヨルの。最初ラガシュはあの人と私をくっ付けようか考えてたみたいです。青は、選択肢が少ないですからね。あの、外から来た彼はちょうど良かったんでしょう。あ、心配しないで下さいね?もう、大丈夫ですから。多分。」
多分?………………えっ?
くっ付ける?誰が?誰を?
え?トリル………と、気焔?????
???
考えが纏まらない。
トリルの言っている事が右から左に抜けていって、私の頭の中を言葉が滑って行く。
「ちょっと!どうすんのよ!」
「いやだって、もう何ともないんですよ?「そういう話があった」ってだけで。いや、でもごめんなさい、ヨル??大丈夫です?」
「大丈夫じゃないみたいよ。私もちょっと、びっくりしたもの。でもまぁ、あり得る話だわ。」
「そうね。でも今はもう、アレを見てるとこの二人を引き離すのは難しいだろうな、って思うけど。」
「ですよね。」
「解る。」
「ね?ヨル?だから、心配無いんですよ??ヨル??」
この時の話を後から聞いたら、本当にしばらく、全然、ダメだったらしい。
呼び掛けでは全然、駄目だったらしくとりあえずガリアに肩を揺すられ、我に返った私。
「えっ。」
みんなが、私を心配そうに見ている事よりも、自分が「その事実を認識しただけ」でショックを受けている事に、ショックを受ける。
「私………なんて言うか………。」
「いや、分かるわ。ショックよね。」
「ヨル、もう全然ですからね?元々私は露程も興味ないですから。」
「えっ。露くらいは興味持ってよ‥。」
「どっちなんですか。」
「まぁまぁ、もうこの話は辞めましょう。大丈夫だから、ね?」
パミールがその場を収め、私も気を取り直す。
だってそもそも、何も、起きた訳でもない。
変化だって、していない。
ただ、「そんな話があった」と言う、話を聞いただけなのだ。
私………そんななんだ………。
ある意味自分の独占欲というか、狭量さに気が付いて愕然とした私。
ズーンとしていると、ガリアが話題を変える。
「ヨル。彼の事は、いいんだけど。」
うん。
思いの外真剣な声に、顔を上げた。
「私達は、祭祀も見てたし多分彼がヨルに必要なのも、分かる。きっと力も強いのよね?青だけど。でも。」
「普通に考えると。デヴァイの人達は「本当のこと」を知れば、確実にヨルをアリススプリングスと結婚させようとする。これは、多分誰に聞いても、そう言うと思うわ。」
「そうね。」
年長組二人が頷き合っているのを見て、トリルが「でも。」と口を挟んだ。
珍しい。どうしたんだろうか。
「私、見てたんですけど。ちょっと遠かったのでよく、見えなかったけどあの人ヨルに弾かれてませんでした?」
鋭い。
私は「あ、トリルは見てたんだ」と思った。
まさか、あの混乱の中ちゃんとそこまで見ている人がいるとは、思っていなかったので驚きもしたけれど。
隣の二人もトリルに視線を移す。
「どういう事?」
ガリアが怪訝な顔だ。
確かに、それだけ聞くと意味が分からないけれど。
あの時、確かに。
あの人は、私に弾かれたのだ。
でも多分、それはあの時、いろが。
変わったから、だと思うのだけど。
「うーん?あの、祭祀の最後混乱している時。あの人、シュマルカルデンと一緒にヨルを捕まえようとしてたんだと思うんですよね。でも、失敗した。なんでか、弾かれて触れなかったんですよ。ヨルも気付いてましたよね?」
くるりと向き直ったトリルの薄茶の瞳に、捕まる。
少し、返答に詰まる私。
隠すつもりはないが、どう、話せばいいのか。
分からないのだ。
しかし、助け舟が出た。
「トリル。あなたが知りたがりなのも、解るけど。多分、ヨルは言えない事もある。それは、私達の為よ。」
少し下がっている、目尻。
優しい目をしてそう話す、パミールはやはりお姉さんだなぁと思う。
私も、言いたいけど。
全部話したい気持ちは、あるんだけど。
特に、あいつが。
権力者だと言うならば余計な事を言えば、みんなが危なくなるのだ。
何か禍々しい色を放った、彼。
きっと何かしらこの世界の、負の部分に。
関わっている、予感がするのだ。
カチリとカップを置いて、ガリアがまた話し出す。
「まあ、何にせよ。本当だったら、「青の少女」とアリススプリングスがくっ付くのが、妥当よ。それがあの家があの子を、連れてきた。その目的が分からないんじゃ大人しくしてる他無いわね。」
「そうね。それに、ただの目眩しの可能性だって、あるわ?大方予想通り、大概の目はあの子に向いてるんだし。」
「そうですね。それに。あの子が、今はみんなの認識上はトップの力の持ち主です。それって、あの人達の思惑、分かる気がしませんか?」
思惑?
あの人達の………?
「あ。」
ガリアが口を抑える。
えっ。
全然分からないんだけど?
その私の顔を見て、パミールも勿論理解していた様で説明してくれる。
「ここでの。実権を握らせる、つもりかもね。」
実権?
ここ、グロッシュラーの?
今は、ミストラスって事だよね………?
うん?
でも、あの子に。
そんな事、出来るのかな??
いや、見た目で判断しちゃダメよね。
もしかしたら滅茶苦茶、頭が良くてネイアにだってテキパキ指示出すかもしれないし………。
いやぁ、無くない??
どうなの??二番手とか??
私の頭の中には、銀ローブのアラルエティーがテキパキと大人達に采配を振るっている姿が思い浮かんでいた。
絶妙に、合ってないけれど。
「でもさ。」
「うん?」
ガリアの言葉にまたみんなの視線が交差する。
「結局、次の祭祀はどうするのか、私は楽しみなんだけど。」
「ああ、それはあるわね?」
「確かに。見ものですね。」
「そう言えば、どうするんだろうね?」
もしかしたら、彼女が。
中々の力を持っているかも、しれない。
光を降らせる事は、出来るだろうと思う。
みんなの、力を合わせるし。
そもそも春の祭祀は、どんな形なのかそれも私はまだ分かっていない。
うーん?
どうなんだろうな?
でも、他の人が同じ様に祭祀をやるのなら。
それはちょっと、楽しみなのだ。
純粋に。
「とりあえずヨルは「白い魔法使い」の所に行きなさいね?」
「うん。」
「そうね、そうすれば安心。」
「すぐにどうこう、って事はないと思いますが。油断禁物ですね。さて、春の祭祀の資料は何処だったかな………。」
「あ、私もそれやりたい。」
そうしてワヤワヤと、普段の会話に戻る私達。
気になる事は、あるけれど。
みんなと話して、私達が前向きに進めている事が分かって。
安心したのも、大きい。
そうして私達はくだらない話をしつつも、今日の図書室は諦める事にしたのだった。
なんだかアラルエティーの顔を見たら、変な顔をしちゃいそうだし、ね?
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