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7の扉 グロッシュラー
神様談議
しおりを挟むお互い、顔を見合わせている三人。
予想通り、始めに口を開いたのはトリルだ。
「私は、実在するのか、しないのかで言えば。いない派ですかね?歴史書のアレも、伝説だと思っています。」
「ふぅん?なんで?」
「そうですね………。まぁ、「神」が居るならば。こうなってないんじゃないか、っていうのが一番ですかね…。あとは空も無いし。無慈悲過ぎません?誤ちを犯したからと言って、空が無いなんて。だから、過去の所業が悪くて沢山のものを失った結果が、今だと思っています。」
成る程。
それはそれで、納得できる。
それにトリルはかなり歴史に詳しい筈なんだ。
その、トリルがこの意見。
さて、他の二人はどうなんだろうか。
私の目線に頷いて、ガリアが話始めた。
でもさっき言っていた様に、ガリアは勉強をしていた訳じゃない。
しかし、それはそれで興味深い内容だった。
だって、デヴァイには。
そんな女性が、大多数なのだ。
「一応、礼拝はあるじゃない?だから、神って言うよりはあの絵、「長」に対して祈ってるわ。それが、神かと言われれば、「そう」なのかもしれないわね?「祈りの対象が、神」という前提ならば、だけど。」
うん。
私もその辺、ごちゃごちゃでよく分からない。
私の顔を見てガリアも頷いていてる。多分、思っている事は同じ筈だ。
「大概の女の人はそうだと思う。私はここに来て、歴史もやり始めて、ヨルにも会って。正直、「扉から神が現れる」のもあり得る、と思った。あの祭祀を見て、ね。」
「私も同じ。歴史は知ってはいたけど、それだけよ。あまり深く、考えた事が無かった、の方が近いかもね。」
「確かに普段から神様どうこうとか、考えないもんね…。ん?あれ?みんな、扉は見えたの?」
そういえば、それは訊いていない。
レナは「姉さん達でも見える人と見えない人がいた」と言っていた。
三人は、どうだったのだろうか。
私がワクワクしながら待っていると多分、その話をした事があったのだろう。
三人は頷いて意外な事実を教えてくれる。
「パミールだけよ。私達は、見えなかった。何かがあってキラキラが降りて来たのは分かったんだけど…。」
「えっ?キラキラ?じゃあ成功だね!いいの、扉は見えなくても。でも、見える人と見えない人の違いがよく分かんないんだけどね。なんだろうな………。」
顎に手を当て唸っていると、トリルが「力じゃないですかね。」と言う。
「単純に、そうかも知れないですよ?この中で、パミールだけが黄の力です。私とガリアは青ですからね。他の人にも訊きたいけど、ヨルは止めといた方がいいですね。なんなら私が訊きますけど。」
確かにそれは、興味がある。
でもな………。
心配は、心配。
あの、「扉」だって。
一応、アラルエティーが出した事になっているのだ。
「ううん、多分白い魔法使いが調べてくれると思う。だってそもそも、他の人はアレ、アラルエティーが出したと思ってるんだよね?トリルだって探ると危ないよ。ダメダメ。」
「「「白い、魔法使い………?」」」
三人の様子がおかしい。
暫く固まった後、最初にトリルが笑い出した。
「えっ!ちょっと、さすがヨルですね!ふふっ、白い魔法使い………。」
「あー!」
「確かに!フフフ!」
ガリアとパミールも笑い出して、やっと意味が、分かった。
もう、私の中で馴染みすぎて「通称」が普通になりすぎてたわ………。
腕組みをしてウンウン納得していると、ガリアがポン、と肩を叩いた。
「いいのよ、ヨルは、それで。」
「「うん、そうね。」」
なんだろな、この感じ………。
とりあえず、楽しいからいっか?
まだ、笑っている三人を見つつさっきの話を反芻する。
結局………?
神様………?
いるか、いないかは、置いといて?
あまり認識されることが無かった、神というもの。
ミストラスは、「長」が大事と言っていた。
あの人はきっと、長を神の様に崇めているのだろう。なんとなく、そんな感じがする。
ダーダネルスも、トリルと同じ様な意見だった。
結構、この二人は似てるかもしれない。
ダーダネルスはきっと扉、見えただろうな…?
今度聞いてみよう。
うーん?あとは………?
他の人は、どう思ってるんだろうな………?
「ヨル。訊き回るのは、駄目よ。」
「そうそう、多分大体は私と同じ様な感じだと思うわよ?それで、多分………。」
「ね?」
「うん。」
「ですよね………。」
「え?」
なに?
何が、多分………??
ハテナ顔の私の前で、思案する三人。
どう話すか、考えあぐねている様なそんな感じだ。
私は三人の交わされる視線を眺めつつ、久しぶりの三人揃った色を眺め楽しんでいた。
だって、くるくる動く、三人の瞳は薄茶に灰、青と様々な色がキラキラしてとても綺麗だったから。単純にその色単色では無く、瞳は他の色も内包している。
窓からの光を受けて、顔を見合わせる三人其々の、瞳が輝いているのだ。
パミールの生成色の部屋に、トリルの紺色、ガリアの濃茶、そして部屋の主パミールの金茶の、髪も。
うーん。
カラフルって、素晴らしいよね………。
やっぱり………。
色とりどりの、世界がいい。
それぞれの、個性の、色に。
再び、なったりはしないのだろうか。
そういえば祭祀後に、まじないの色が変わったりとか、そんな話は無いのかな?
そんな事が、あり得るのなら。
「とんでもなく、素敵な事だよね………。」
その人、本来の「色」が、現れる。
もしもそんな事になるのなら、素敵過ぎて沢山祈ってしまいそうだ。
「それで光をバンバン降らせればみんなが………。」
心の声が、漏れた。
「ちょっと。なんか物騒な事、言い出したわよ?」
「ね?危ないわ。」
「どうしますか?捕まえときます?」
「そうね。急に祈り出したら、困るわよ。」
「ちょっと!私だって流石にそんな事しないよ!!」
「アハ!」「ププッ。」
「だといいですけどね。」
ちょっと待って。
トリルだけなんだか対応が、微妙。
でも結局、私も一緒に笑い出してしまう。
なんだか、全員集まると話が進まないな?
まぁ、よくある事だけど。
「で?何を、考えてたの?」
「ううん、祭祀後にまじないの色が変わる人がいたら。素敵だなぁって思って。」
「そうね………試してないけど、あれなら変わっても、おかしくないかもね?」
「確かに。」
「これも勝手に調べないで下さいよ?」
「分かってる。「白い魔法使い」に、頼むから。」
また顔を見合わせクスクス笑った所で、パミールがさっきの話に、戻す。
「で、なんだけど。」
「うん?」
「その、ね。今迄だったら、その、みんな何となく「神はいない」とか、「長が神」みたいな。曖昧な、感じだったと思うの。ちゃんと、考えてた人って殆どいないと思う。」
「うん。」
それで?
「今迄」、なら?
変わったって、いうこと?
もう一度三人は顔を見合わせる。
頷き合って、ガリアが口を開く。
「その、「扉」を沢山の人が、見た。見えなかった人も、多いと思うけど。見えた人も、多かったのよ。少なくとも、私達は「その扉」から、「神」が来るのだと、思った。」
「いや、感じた、かな?私は見えなかったけど。でも、「なにか」が在るのは判ったしその後の、アレ。なんか、マズそうなものが。石を、破壊した。そんな事………。」
「礼拝堂の、石。あの、大きさ。アレを爆けさせるなんて。少なくとも、人には無理ですよ。もう、神の仕業です。」
最後はトリルで締め括られた、三人の話。
確かに、そう言われてしまうと。
納得の、内容なのだ。
あの礼拝堂の石が、ネイアの石も含み大きくなっている事は知らない筈だ。でも、「普通に」あり得る大きさでは無い事が本能的に分かるのだろう。
あれだけの大きさ。
私だって、「何か特別な」ものなのが、解る。
その疑問にぶち当たる事は、当然の事なのだ。
どう、しようか‥。
でも。
とりあえず、アレが「私の扉」だという事は。
一旦、置いておこう。
うん。
まず、「神」の話だもんね、みんながどう思ってるか、という話だったの。
うん、散らかってきたな………。
私の頭の中を纏めるように、パミールが話す。
何に、ぐるぐるしているのか分かったのだろうか。
顔に、出てたかな………。
「とりあえず今は、あの子がいる。あの子が、祈って光が降って扉が出て、「そこから神のようなものが出ようとしていた」っていうのが、専らの噂よ。見えた人は、「なにか」が扉から出ようとしてた、そんな事を言ってたらしいわ。だから、表立ってはヨルに危険は無い筈なの。」
やはり二人、いや勿論トリルも。
銀の家の二人が私を見に来ている事を知っていて「もしかしたら危険もある」と認識しているのだ。
その三人の様子を見て、私は自分が脳天気過ぎた事を反省した。
寧ろ、アラルエティーがいるから自由にやろうとフラフラしていたのだ。一応、気焔はいつも側にいてくれるけれど。
気持ちの、問題なのだ。
三人は、私が思ったよりも警戒している。
それはきっと、三人がデヴァイから来ている事が関係しているだろう事は容易に推測出来る。
向こうでの、「神」の扱い。
「何が」危険なのか?
伝承だった筈の「神」がいるかもしれない事?
神が出てくる「扉」の事?
青の少女が現れた、こと?
多分、どれも当たっているのだろうけど。
パミールが静かに話し出す。
「「今迄の前提が崩れること」。多分、それはとても危険なの。変わる事なく、続いてきた私達のあの扉の中にとっては。………なんだかんだ言ってもみんな「神」は「長」と、同義だと思ってた。…それが。」
「まあ、今迄自分達が祈ってきたのは、何だったんだ、ってなりますよね?普通に。」
トリルがサラッと続ける。
「そう、祈りだけならまだ、いいの。少しだけど祈りによって「力」も奉納されるからね…。反発は、多かれ少なかれあると思う。どういう形で出るか、分からないけど。」
ガリアの、その最もな指摘も。
三人が心配している事が、少しだけ分かった気がした私は、小さく頷いた。
そしてこの、静かな生成りの部屋で。
何となく、ヒソヒソ声になっていた私達は少し屈んでもいて、小さくなっている自分にふと、気が付く。
確かに。
危険は、危険なのだけれど。
ただ、縮こまるのではなくて。
なにか。
なにか、明るい、いい方向に。
持っていける、方法は無いのだろうか。
「とりあえず。私達の手に負える範囲を超えてる。」
私のぐるぐるの途中で、また静かにパミールが話し始めた。
三人が相談しつつも、私に言い聞かせているような感じだ。
「それはあるわね。」
「もう、きっとウェストファリアやラガシュは流石に気が付いている筈です。ヨルは一度話をした方がいいかもしれないですね。」
「「賛成。」」
「とりあえず私達は出来る範囲で情報収集をするわ。大丈夫、そんな心配しないで。立ち聞きするだけだから。」
「そうそう。あとは図書室で誰かの近くに座るとか、ね。簡単なヤツよ。」
口々に協力と心配の言葉が降ってきて、ジンとしてしまう。
みんなに、危険な事はして欲しく無いけど。
でも、話していて気が付いた事がある。
多分、この状況をみんなは、私よりもきっと正しく解っているであろう、事だ。
正直、デヴァイでの様子が分からないので私は多分事実認識が上手く、できていないのだと気付かされた。
なにが、どう、危険なのか。
多分私は、なんとなくしか分かっていないに違いないのだ。
また禁書室、行かなきゃ………。
状況を正しく把握した上での、注意を聞かなくてはならないだろう。
自分の為にも、周りの為にも、だ。
「ヨルはまた、研究は始めますよね?」
「うん、勿論トリルに訊きたい事もあるよ?歴史もそうだけど、その「神」についての記述の所も実際見てみたいし………。」
「とりあえず図書室なら、私達のうちの誰かは居ますからね。それに、あの彼も。最近ずっと、いますよね?側に。」
えっ。
トリルが、気付くくらい??
一気に顔が赤くなるのが、分かる。
両頬を抑える私を囲んだ三人が顔を見合わせると、そこからまた話題はコロリと変わる。
そう、お決まりの恋話、お互いの相手の話が始まったのだ。
それは少し変化した、デヴァイの話でも、あった。
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