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7の扉 グロッシュラー

繋がり

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あの後、船の中で頼んでみたけど。

「相談する。その後だ。」

と、気焔に言われてしまった。

でも、仕方のない事は分かっている。

「石を創って、配る」

そんなのは、大変な事だ。
だって、今迄は石を巡って殺された人だって、いるのだから。


沢山の人に心配される事や、私が危険な目に遭うのでは本末転倒だ。
もう、そこに関してはブレーン達に頼むしかないだろう。
きっと、ウイントフークに相談したりレシフェと話したり、多分白い魔法使いにだって相談しなきゃならない筈だ。

私は大人しく、待っているしか出来ないけど。
それが一番、いいのも解るのだ。



ゆっくりとピンクのお湯を掬いながら、またつらつらと恒例の、考え事タイムだ。

このピンクの雲の下に居ると。
落ち着くし、キラキラは降っているし、いい感じに包まれてなんだか思考が自由な気も、する。

「考えなきゃいけない事は、沢山あるんだ、けど。」


何となく、もう、解っているのだ。

ここに来てから、沢山のことがあって、沢山の人の話を聞いて。
なんだか、ゴチャゴチャした気がしていたけれど。

「多分、全部…………。」

半分顔が、お湯に浸かる。

「繋がってるんだよ、ねぇ。」

プクプクと上がる、気泡。
それすらピンクに感じて、自然と笑みが出る。

多分、イストリアの話を聞いてから。
なんだか、私も自由だ。

ネコ被るの、辞めようと思ったのもあるけど。

難しく考え過ぎてしまっていたのも、解る。

だって、現実は、重いから。


軽く考えるのもいけないし、みんな悩んでる。
考えてる。困ってもいるし、絶望もしてるし、何も望んではいないし、希望もない。
ないないづくし。

「でもさ…………やっぱり、それじゃ解決するものも解決しないんだよね…。」

全部、繋がっていて。
複雑に、絡み合ってはいるのだけれど。

ひとつ、ひとつ、その絡まりを解いて、解していくしかないのだ。
そしてそれには、やはり楽しみも、ないといけないと思う。

なんとなくだけど。

楽しみながら、やらないといい方向にいかない気がするのだ。
超える山が大き過ぎて、始めから疲れていると登れないのと、同じ様に。


「こう、してさぁ………。」

マスカットグリーンの石も手に取り、少しお湯に浸けポワッと、する。

なんだかポワッとするの久しぶりだね…………。
懐かしいな。グレフグ君、元気かなぁ。
レシフェに、こき使われてないといいけど。


みるみるうちに、お湯の半分がマスカットグリーンに変化し、ピンクと、半々のお風呂。

「ナニコレ、可愛い!」

調子に乗って、雲も半々にする。

「全部、こうやってグラデーションで、繋がってて。違うんだけど、一緒で。それで、いいんだけどね…………何が、駄目なんだろう………?」


造船所の事。
旧い神殿の池。
天空の門。
ここの歴史。
礼拝堂の石。
長の話。
ネイアの石。
ロウワの事。
イストリアの場所。
貴石の事。
ウェストファリアの研究。
子供達の事。
デヴァイから来た人達。


違う様でいて、みんな繋がってる気がするんだよね…………。

シンが言ってた、事実と個人の意見のこと。
の、本当の歴史。

「…………石?」

うん?どうなんだろ?
でも、どれにも、石が、チカラが。
関係してない?
身分も何も、きっと始まりは「力」な筈だ。
きっと、力の強いものが上だったのだろう。
それがいつの間にか、家になって、今はなんでかそれを力が覆したとしても守られている。
今は、家格が絶対なのだ。

なんでだろう?
うーーーん??




その時、目の前でキラキラがパチンと爆ぜた。

ひとまわり大きな、金色のキラキラ。

「え。今何時だろ?」

多分、思った以上に長湯しているに違いない。
待っている金色が心配しているのだろう。

「まずい…………。」

立ち上がると少し、ふらついてのぼせる一歩手前だ。

「危なかった。」

ふぅふぅ言いながら、ゆっくり身支度をする。
洗面室の小さな椅子に座り、呼吸を整えお風呂の残り香のいい香りで深呼吸を、少し。
それから、髪に櫛を入れようと鏡を見て驚いた。

「は、派手。」

いつもは少し、キラリとするくらいなのだけど。なんと今日は、ピンクとグリーンのキラキラで彩られていたからだ。
流石にちょっと、「綺麗」というレベルを超えている自分の髪が面白くなってきて、笑いながら洗面室を出る。

そこにはやはり、心配そうな顔をした金の石が静かに佇んでいた。
驚きと訝しむ半々の瞳が、複雑な色を宿している。
ちょっと、珍しくて綺麗だ。

そんな呑気なことを思っている私に、尋ねる気焔。きっと、返事は分かっているのだろうけど心配なくらいニヤニヤしていたのかもしれない。


「…………大丈夫か?」

色んな意味が篭ってそうなその言葉を聞きつつも「大丈夫。」と答えて、寝室の扉を開ける。


うん、明日は図書室へ行こう。久しぶりに。

禁書室へは行ったりしているが、セイアスペースでゆっくり調べ物がしたい。


そう、決めるとベッドにドーンと倒れ込んだ。














次の日は決めていた通りに図書室へ行く事にした。

調べたい事は沢山ある。
ここの歴史の事、図書室でみんなが青い本を調べている様子も、少し見たい。
結局、あの長の絵の本もそのままだから、文字の事もトリルに聞きたいし。

それに………。

以前セレベスやダーダネルスと話した、「神の扉」の話。

結局あの時、セレベスは自分の見解は話さなかった。話す前に、ダーダネルスが来て追い払われたのだ。
そして、ダーダネルスは「神がいるならば」という言い方をしていた。

確かに、見た事のある人なんていないだろう。

でも。

「神殿で、礼拝堂で、祈ってるのに…………?」

この世界の人達の「宗教観」?
それが、気になっていた。


そもそも、神様って?
一般的に信仰されているのは、「長」なの?
扉から現れるのは、「なに」?
いっぱい神様が、いるのかな?
そして、「私の扉」から出てこようとしていたは?
アレもここの、神様なの??


神の数に関して言えば、私の世界でも八百万の神がいる。それに、他宗教にもそこそこ寛容な、国だ。

でも、ねぇ。
が、寛容かと、いえば。

そんな事も無いと、思うんだけど。


今迄の事をつらつらと考えながら、神殿の廊下を歩く。

「あっ。」

あの、黄色と茶のローブは。
久しぶりの二人に違いない。

チラリと横を見ると、私の声で解ったのだろう、一歩下がって歩いてくれる気焔に微笑んで、そのまま二人に駆け寄った。

「久しぶり!」

「「ヨル!」」
「大丈夫?」
「どう?」

えっ。
なんか、心配されてる??

とりあえず、そんな二人の第一声に私達は図書室へ行く前に寄り道をする事に、したのだった。







食堂で話そうかと思ったが、二人とも多分解っているのだろう、パミールの部屋へ歩いて行く。

それならその方がいい。
私も二人について、灰青の館に向かう。

館の入り口で気焔に手を振り「大丈夫」と合図しておいた。
基本的に入り口から男女は別れるのだ。
本当は、気焔は入れるけども。





いつもの落ち着く、パミールの部屋は冬も終わりに近くなって差し色を赤から若草に変えた様だ。
クッションやベットカバーの一部に若草が散りばめられていて、壁の装飾も少し変わっている気がする。
以前は絵だった気がするけど?
今日は刺繍の額に変わっていた。


「わぁ、春っぽいね!ここの春ってどんな感じ?」

二人とも季節を経験している筈だ。
そう思って尋ねるが、花が咲くわけでもないグロッシュラー。特に変化は、ないのだろうか。
しかし春、と考えてパッと思考が新学期に行き着く。

もしかして、二人は………?


「ねぇ、二人はいつ、戻るの?」

私のその質問に、顔を見合わせる二人。
少し楽しそうにガリアが答える。

「私は家から許可が出れば、もう一年、いるつもり。だって、ねぇ?」

ガリアの言葉に、お茶の支度をしているパミールも頷く。

「ここからじゃない?なんだか面白くなってきたし?ヨルは、どう、するの?あの銀ローブ。」

「え?」

そのパミールの言葉の意図が分からずに、首を傾げた。

銀ローブ?
誰?
って、あの二人しかいないか…………?

しかし、何が面白いのか全く分からない。

暖かい部屋の中、お茶のカップから揺れる湯気が香る。パミールが三人分のお茶を入れ終わると、私は考えながらも熱い一口目を味わいたくて、口に運んだ。
今日は少し、若葉の香りの爽やかなお茶だ。

うーん、これも美味しいな……。

しかしやはり、よく分からない。多分、いつもの様に顔に出ていたのだろう。
ガリアがそんな私を見て笑いながら言う。

「まぁ、そうだと思ってたけど。そもそも、ヨルが新説を調べてるのはだったのね?」

「…………?どの?」

「いや、そもそもの設定がおかしかったものね?多分、セイアで気付いてる子は少ないと思うけれど。ヨルが、なんでしょう?だから、あの子が代わりに連れられて来て、あの銀の二人も「本物」を、見に来たのよ。ある意味分かりやすいけどね。」

そのガリアの言葉を聞いて、返答に詰まる。

静かな、部屋の中。
二人の目は真っ直ぐに私を見ていて、誤魔化せないし、誤魔化したくは、ない。

でも。
どこまで、話していいのか。

知り過ぎると、危険が無いとも言いきれない。

パミールがお茶のカップを置きながら、私の心を見透かした様に、言った。

「ヨル。私達は、自分から進んで、巻き込まれたいのよ。ね。」

「そうそう。家に帰っても、敷かれたレールに乗るだけ。どうせ一年遅れたって、どうって事、ないわ。それに、こんな事多分一生、無いからね。あれ凄かったよね?あの、光!その後は何だかもう、滅茶苦茶だったけど。正直、面白かった。」

そう言ってケラケラ笑い出すガリアは、本当に楽しそうだ。
他の人と違って、個性的なボブヘアーのガリア。


「あそこは、美しい檻なのです。」

以前のダーダネルスの言葉がパッと浮かぶ。

もし、デヴァイがダーダネルスが言う様な本当に閉鎖的な空間ならば。
この、ガリアにとっては本当に退屈なのだろうと思う。

「私達に「あそこ」は、まだ早いわ。」
「言えてる!まだ17よ?押し込められるには、早過ぎるわよ!」

「フフッ!」

二人の言い草に私も可笑しくなってきて、笑ってしまった。

「だよね、分かる。」

カップを置き、三人で顔を見合わせまた、一頻り笑った。

そうだよ、やっぱりこうやって、笑わなきゃ。
みんな、暗い顔なんて似合わない。
二人が、何かしたいって言ってくれるのなら。

危険の無い範囲で、一緒にやればいいのだ。

そう、イストリアも言っていた。
変わらなければならないのは、「彼ら自身」だと。


うーん?
でもとりあえず何か、してもらうのは相談してからかな…?

危険があるといけない。
私は自分の部屋が荒らされた事を、思い出していた。

二人には、気焔の様な人はいないんだ。
もし、何かあっても気付くのも遅れるし、下手すれば数日居なくても分からない可能性だって、ある。守りは強化してもらったけど。
油断は、禁物。


でも、話を聞くのはいいよね?

私は、さっき迄考えていたこの世界の意見を聞いてみる事にした。
あの、神の話。二人なら丁度いい。


早速話そうと、お茶を一口飲むと座り直した私を見て、二人も話を聞く態勢になってくれる。

まぁ、そんな女子が喜ぶ系の話じゃない気もするけどね。


そうして私達の突然のお茶会は、何故だか神様の話になる筈、だった。




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