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7の扉 グロッシュラー
男達の相談・禁書室
しおりを挟む揺れる青ローブの上。
気焔は歩く時殆ど音がしない。
石だからなのか、なんなのか。
まぁ俺にはどうでもいい事なので、肩の上から前を歩く白いローブを見ていた。
先日のウイントフークとの話を受けて、今日は「こっち」での会議だ。
祭祀前に集まってからは、ヨル抜きで集まるのは初めて、か?
今日はあの姫の為にみんなが顔を突き合わせて、石の相談だ。
まだ、「石を創れる」ことは言っていないが。
とりあえず、今日話す役も俺だからな。
神殿内は基本レシフェはいない。
よっぽどの用事がある時だけだ。
とりあえず背後からまた一人、青ローブがついて来るのが見えて「ヤレヤレ」と体を揺らす。
なんだか目がキラキラしている、ラガシュが持ってくる話。
なんとなく、面倒そうな予感。
とりあえず俺達は、禁書室へ入った。
「それで、今日は「何の」話なんです?」
全員が中央の本の山周りに落ち着いた所で、ラガシュが口火を切った。
「私は聞いていないが。ああ、でも水槽を作ったろう?あれは、いいな。私はその「幻の魚」とやらは見た事がない。楽しみだ。」
「なんです、それは?私も見た事ないです。ウェストファリアはありますよね?」
「私も実物は無いな。鱗なら、ある程度のまじないをするものなら見た事はあろうが。」
「へぇ~。」
なんだか話が逸れてるな。
何から話そうか。
俺が思案していると、ラガシュがきっと言いたくて仕方がないという風にあのキラキラした目の原因を話し始めた。
「あの、銀ローブの二人。予想より長く居るじゃないですか。それが、やはり「青の本」を探してる様です。私にも聞きにきましたけど、まあ知らん振りですよ。せいぜい、青い本でも見てりゃいいんです。ここには、来ました?」
そう言ってウェストファリアへ視線を移す。
丁度、青の本をめくっていたウェストファリアは三拍程度、遅れて返事をした。
「いいや?知らぬのだろう。それがいい。」
青の本。
結局あの、忍び込んで来た犯人は判っていない。
銀ローブも怪しいが、正直容疑者は少なくない。毎日図書室を巡回してはいるが、今はほぼ全員が新説を調べていると言っても過言では無いのだ。
寧ろカモフラージュにすら思えてきたな。
ヨルの部屋の話は男達にはしていない。
俺が考え事をしているといつの間にか話題は変わっていた様だ。
そしてラガシュはまた気になる話を振ってきた。
「ま、確かに。あ、あと気になる噂なんですけど。ベイルートさん?」
珍しく俺に話しかけてきたラガシュ。
さんとか、付けられるとむず痒いんだが。
そう言うと、即、呼び方を変えられてなんだか微妙な気は、したが。
「で、ベイルートはいつも情報集取してると思うんですけど。あの、「赤い髪の幽霊」の話。知ってます?」
知ってるも何も。
うん。
それで?
俺の揺れを頷きと取ったラガシュは続ける。
「かなり、セイア達には広まっていてそれだけならまぁ噂なので。ですが、何故だかかなり信じている子達が何人か、いるのですよ。それで夜に捕まえよう、とかそんな話にまでなっています。一応、夜間外出禁止にはしていますがまじないが上手い子は抜け出すくらいは出来ますからね………。」
チラリと気焔の様子を見る。
そういや、俺赤い髪の女はヨルだって、言ったっけな?言ってないかな?
どうだったかと考えていたが、俺達は石同士だ。
意外と、意思伝達が出来たり、する。
以前もそんな事があったが、今回も俺の言いたい事は分かったのだろう。
それとも、「赤い髪」に何か覚えでもあったのだろうか?
「分かってる」という目をした気焔は、俺に「あの話を」という目も、した。
まあ、そうだろうな。
話しますよ。はいはい。
そうして俺は、話題を逸らす為にも「あの話」を始める事に、した。
「ところで。相談が、ある。」
本の山の一番高い所に乗り、話を始める。
俺が自分で言うのも何だが、中々シュールな光景ではないのか。
本だらけの怪しい部屋、真ん中の山に鎮座する昆虫、それの話を真面目な顔で聞く、大の男三人。
まあ、気焔はしれっと座っているだけだけどな。
俺の話に目の色を変えたのはウェストファリアだ。
基本、情報集取をしている俺がどんな話を持ってきたのか興味があるのだろう。
言っとくが、凄いぞ?
「まあ、ヨルの、事なんだが。」
一度、言葉を切る。
「どう」話そうか。
石を持っていないのは、この場ではクテシフォンだけだ。
そう、考えると。
そうして俺は大きな白ローブを向いて、話し始める。
「ヨルは、ネイアに石を創りたいと言っている。」
静かだ。
うん?
聞いてたか??
しかしやはり一番に反応したのは、ウェストファリアだった。
「…………そうか。…そう、か。して?「何処で」、「どう」創るのじゃ??」
勢い付いた細いがゴツゴツした手に握られて、返事どころでは無い。
潰れないけど、潰さないでくれ??
暫く俺が反応しないので、手のひらで確認した後再び本の上に乗せられた時には、他の二人も我に返っていた様だ。
やはり、クテシフォンが食い付いてきた。
「どういう事だ?!」
「まあまあ、姫ですからそれくらい出来るのですよ。きっと。」
ラガシュの言い方に少しイラッとしながらも、とりあえずは前置きをしておく。
「この話」は、極秘事項だ。
何かあれば勿論、そこの金の石も黙ってはいまいが地雷は他にも、ある。
あの、扉を閉じた時。
改めて、俺はそれを実感したのだ。
「触らぬ神に」って事をな。
静かに本の上でくるりと周り、全員の顔を見る。
虫だと、締まらないな…。
「これから話す事は、勿論、他言無用。ヨルに害が及ぶ事があれば。」
なんて言うかな。
「多分、この島は消えるかな。」
でも。
本当に。
そう、感じたのだ。
あの扉から出ようとしていた、モノ。
それを閉じた、あの二人。
「解ってるよな?」の俺の目は通じているだろうか。
一人目が怖い奴がいるが。
違った意味で怖い奴も、いるな。
とりあえず話すか。
また握られるといかん。
「あの、祭祀を見たから納得出来ると思うが。あいつが歌ったり、祈ったり、すると。石が、できるんだ。」
「場所は、旧い神殿。この島を流れる川の、元だ。そこへ、色石ができる。祭祀で爆じけなかった石があったろ?アレだ。」
話終わる前に気焔の肩に移動した。
危険だ。
この話は。
案の定、ウェストファリアが気焔にズズイと近づいて、気焔がのけ反っている。
「色、がある、とな?」
「そう。」
「何色じゃ?沢山か?」
「うん?あの時は…………どうだったかな?レシフェが詳しいが。4~5色はあったと思うが。」
「ほうほう!ほう…………。」
立ち上がりぐるぐる歩き始めた。
さて、と。
気焔の隣で拳をキツく、握っているのはクテシフォンだ。
俺には、石を捕られる感覚は解らないが。
思うにこの世界の奴らは、希望を与えられる事に慣れていないのだと、思う。
きっとどうして良いのか、解らないのだろう。
「自分に石が、戻るかもしれない」
その、事実に。
期待してもいいのか。
また、裏切られるのか。
石を「貰う」なんて事が、できるのか。
本当なら大金を積んででも、欲しいのだろう。
しかしネイア一人にきっとそんな金は与えられていないに違いない。
普段の生活からしても。
しかしきっと。
ヨルならば。
「どうぞ」と石を、手に乗せてくれる事が、解るから。
どうしていいのか、解らないのだ。
一人の、少女に。
きっと命の次に、大事な「石」を与えられる事。
「なかなか、信じられないだろうが。」
俺の言葉に顔を上げる、クテシフォン。
「まあ、「ヨルだから」な。あいつは、本気だ。」
少し、変化する青い瞳。
考える時間が必要だろう。
そう判断した俺は、もう一人の男に視線を移す。
嫌な予感がするけど、仕方が無い。
案の定こちらは、気持ち悪い表情で俺に質問する順番を待っていた。
気焔にバトンタッチしたい所だが、この二人はなんだか合わないと俺の本能が言っている。
「やはり…………!やはりですね。青の本に書かれている事は間違いじゃ無かった。いや、そうだと思っていましたけど。けれど、やはり。やはり流石、「光を灯すもの」。そうなってくると、厳重な守りが必要ですね‥他に何が?」
一人で興奮してブツブツ言い始めたので、注釈しておく。
正直これ以上守りは必要ないし、他に誰か入れる方が危険だ。
主に、その配置される奴が。
とりあえずくどくど小言含め言っておいたが大丈夫だろうか。危険が無いのはいい事だが、心酔されるとヤバい方へ向かう事も、ある。
だが、青の家はそれはそれで不遇の運命を辿ってきた、家だ。
よく知らない俺が、そう思う程度には。
チラリと金色を観察したが、気は乱れていない。
大丈夫そうだ。
「さて。それでだが。石を創るに当たって…………。」
一頻り其々が騒いでから、具体的な話に入る。
実際、創る石は多い。
ネイアと子供の分。
数が多いと、どう、なるのか。
いつ、創って、どう、配るのか。
決めなきゃならない事は多い。
俺の「石を創る」という声を聞いて、椅子へすぐに戻ってきたウェストファリアを加え、具体的な話が始まった。
こっからまた、長そうなんだけどな…………。
そうして俺はまた本の山に戻って話を始めた。
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