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7の扉 グロッシュラー

ワクワクの権利

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イストリアと話をした事。

それは私にとって、大きな収穫だった。


正直グロッシュラーに来てから、頭を悩ませる事が多かった私。

来る前もぐるぐるしていて。

何となく、切り替える事ができたかな?という時点でバタバタ移動。
その後は、この世界の人たちに言うなれば「大鍋でかき混ぜられ、煮られている」様なイメージ。

大人しくしようとしていた所為もあるかもしれない。

いつもの自分と、違っている必要があった。


少なくとも、前の二つの扉よりは。




「はぁ…………。」

重くは無いため息を吐きながら、青い花の紋様が描かれたカップを手に取る。

すっかりハーブティーを買ってくるのも忘れてしまっていた。

今思えば、夢の様な、あの空間。

「また、行きたいなぁ………。」

「そうね。」

珍しく私の独り言に朝が返事をした。
しかも、朝から。(いや、ふざけてないよ?)

朝はあまり早起きする事は無い。


今日は何故だか一緒に起きて、身支度を済ませた私とお茶タイムだ。
朝の礼拝へ行く為の、金の彼を待っているところ。

多分、まだ寒いから一緒には行かないと思うんだけど………?


温かいカップを手で包み、糞ブレンドを飲むとやはりウイントフークの事を思い出す。

予想以上に素敵なお母さんだった。

なんて言っていいんだろう、本当に軽やかで、人生を楽しんでるって感じ。
私も、ああいう大人に、なりたい。


思えばこの旅の間、私に素敵な言葉をくれる人は沢山いた。

ラピスでのマデイラから始まり、彼女は私に姫様の服を預けシャットに行く背中を押してくれた。
そうして私に馴染んだ服を自然に受け止め、また帰る場所も増えた気がする。

繋いで、いるのだ。
マデイラとセフィラの縁を、私とエローラが。

「不思議だよね………。」

シャットではフローレスが「恋をしなさい」とアドバイスしてくれた。
私は、何ものにも縛られなくていいと。
自由に、誰かを想って、そしてこの輪から時には逃げ出したって、いいのだと。

多分、金色の彼への気持ちに気が付いたのもフローレスのお陰も大きいと思う。
まぁ、後はあの二人だよね………。
もしかしたら私のそっち関係については、本人よりも把握していそうな友達。

そうしてそのうちの一人、レナに導かれてグロッシュラーへ来た。

扉を巡るのは、決まっている事だけど。

なんでか、必ず、何かの縁で。

誰かに、導かれてやって来るのだ。
次の、扉に。


そうしてここで、イストリアに会った。

私が、下の方でぐるぐるしている丁度、その時。

救い上げてくれる人が、現れたのだ。


「やっぱりさぁ、なんて言うの?多分…………ネコ、被ってたんだよ。」

「いきなり何を言い出すのよ。まぁ、いつもの事だけど。」

「うん。だってさぁ、もう、いいよね?「青の少女」も、現れたし。「銀の家」の女子は、私だけじゃないし。」

朝のツッコミも流しながら、つらつらとネコ被り辞める宣言をする私。


そうだよ。

そもそも、向いてないんだよ。
お嬢様のフリなんて。
大人しく、してる事なんて。


「やりたい様に、やっていい」とは言われていたけれど。

自分の中で、無意識にブレーキをかけていた事に気が付く。



「ネコ、被ってた……………?」

朝の呟きをスルーしつつ、開いた扉を笑顔で出迎えた。

「おはよう!待ってたよ。」

変な顔をしている金色を笑いながら見つつ、ローブを手に取り鍵を掴む。

「気を付けた方がいいわよ。」

朝が気焔に告げ口しているのを見て、「失礼しちゃう」と思っていた私だが、そんな事も気にならない程なんだかウキウキしていた。


そう、二人が本気で心配するくらいには。


そうそう、が、一番だよね!











そんな張り切った私が始めに決めた事は、久しぶりに造船所へ行く事だった。


子供達の事でやりたい事は、沢山ある。

読み書きの為に先生を付けていいか、許可を一応取ろうと思っているし、石を持たない子供が殆どなので石も持たせたい。

だって、どうせネイアに石を創るならば、言い方は悪いがそれと引き換えにしてでも子供達にも石を持たせるべきだと私は思う。
だって、あげるの私だし。

そう、私は今迄我慢や遠慮をしてきた身分や、制度。
そんなものを気にする事を、止める事から始めようと思った。


だってそもそも。
私らしくって、そういう事だよね?

多分、私はにずっと居ても。
この世界に染められる事は、無い。

でも。
やっぱり。
「型」には嵌まっていたんだろう。




「なんかさぁ、もう、よくない?」

礼拝後の廊下を歩きながら、朝に話しかける。

珍しく、何でか知らないけれど朝も礼拝へ参加したのだ。
もしかしたら、何かイストリアと話したのかもしれない。まだ、寒いしきっと理由があるのだろう。

「何してもいいけど、事前に相談だけはしなさいよね。」

小言を言いつつも、多分私の言いたい事は分かるのだろう、そう反対する事もない朝の返事。
何も言わない気焔を背後に、私達は話しながら深緑の館に入る。

最近、秘密基地君が実力を発揮し出して、ご飯が益々美味しくなったのだ。
三人で、足取りも軽く食堂へ入った。

まぁ、気焔は普通かもだけどね。





ザワザワと神殿の中では一番、賑やかな場所。
それが食堂だ。
思えばグロッシュラーは何処も静かなだな?なんて今更ながら考え、ぐるりと見渡す。

今日も端の方でネイアと食事中のアラルエティーが見える。
フードを脱ぐと見事な空色の髪色が目立つので、すぐに見つけられるのだ。

「ねぇ、神殿っていつもああやって他の所の人は入れるのかな?」

アラルエティーの隣は金茶の髪の、あの男だ。
後ろ姿だけど、あの癖毛と銀のローブ。

なんでいつもいるんだろ??

今日一緒に食事をしているのはニュルンベルクだ。
その時々で違うが、私が見た限りだと黄色か赤ローブの率が高い気がする。
正直、銀ローブとハーゼルとかの組み合わせは面白そうなので、少し怖いもの見たさで覗いてみたい気もするけれど。


とりあえず、絡まれない方がいいのは確実なので少し距離を取ったテーブルに気焔は歩いて行く。

すると何故だか既にテーブルにはベイルートが、いた。





「ベイルートさん、一人でいると「虫!」とか言ってポイされたりしません?大丈夫??」

私がサラダをフォークに刺しながら、気になっていた事を訊くとベイルートは普段から意外と冒険をしている話をしてくれる。

「いや、一度捕まってブローチだと思われた事はあったけどな?しばらくローブに留まってやったが、逃げた。それからは気を付ける様にしている。」

「やっぱり。危ないですよ。」


ベイルートは、石でもある。
もし捕まってバレたら色々面倒だし、何より心配だ。

ぶつぶつ注意しながら食べていると、心配性が今日の予定の話にいつの間にか舵を切っていた。
私の朝の機嫌からして、気になっていた様だ。

「で?今日は、どうしたいんだ?」

雲行きが怪しい金髪を見ながら、グレーの毛並みに視線を移す。
言いたい事が分かるのだろう、私の膝に乗ってきた。


「今日は造船所に行きたいな?デービスとも約束してるの、ずっとそのままだし、子供達の様子も見たいし?」

「約束?」

「うん。水槽、作るの。あとは組むだけなんだけど。………もし、予定が合えばレシフェも来れないかな?」

「……………訊いてみよう。」

どうやら作戦は成功した様だ。

多分私が何かやらかしそうな気配を感じて渋っていた気焔。
でも膝に朝がいる所為で、きっと朝が了承済みだという事が分かったのだろう。
私よりも、朝の信用度が高い事はちょっとアレだけど…………。


まぁ、作戦は成功したからヨシとしますか!

よし!

パーっとやろう、パーっと!







「で?来るって言ってた?」

丁度食べ終わる頃帰ってきた気焔は「まだ座っていろ。」と言って私のトレーを片付けに行ってくれる。

いつの間にか人気ひとけも疎らになった、食堂。

チラホラ見えるローブはネイアが多い。
みんなはもう、授業か図書室へ行ったのだろう。



そう言えばイストリア、ランペトゥーザに教えてもいいって言うかなぁ?
やっぱり、秘密かな?

本当は図書室も、行きたいけど。
でもとりあえず、なんだか今日はスッキリ、力を発散したかったのだ。


いや、昨日歌ったんだけどね………。



一人でぐるぐるしていた私は、実は私の背後から近づいていたアリススプリングスに全く気が付いていなかったし、それを睨んで止めている金色の石にも全く気が付いていなかった。
なんだか慌ただしく席を立たされたとは、思っていたけれど。

造船所へ行く途中「そういやさっき。」と、朝が教えてくれて「うひょっ。」と言っていたくらいだ。



「自由にやるのはいいけど、なんだか緩みそうなのよねぇ。色々と。」


その、耳が痛い言葉を聞きながら、途中で合流したレシフェと共に、私達は久しぶりの造船所へ向かった。









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