透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

当事者達の相談

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「なんだ、見たかったんだろ?」

あっさりとレシフェにそう、言われてしまうと何だか寂しい。


あの後、レシフェとレナが店に入るとイストリアは「さあ、作戦会議を始めようか。」と、言った。

何やらその内容はとても楽しそうで、私も混ざりたかったのだけど「ヨルは入っても入らなくてもいいけど、主役じゃない」とイストリアに言われてしまったのだ。

主役じゃないのは、全然いい。寧ろ脇役でいいのだけれど。
意味は分かりつつも寂しくなった私は、店内を彷徨きながらその話を聞いていたのだけど確かに主役は、私じゃなかった。

それはこれからのグロッシュラーと、貴石の、話だったからだ。


「私達が、変わる必要がある。」

そう、始めに話したイストリアはきっと元々同意見のレシフェと直ぐに意気投合して何やら色々、小難しい話も含め話している。

その、話の合間にレシフェが考え事をしている隙間で、レナと貴石の話もしているのだから、凄い。
元々イストリアは貴石に化粧品を売りに来ていた。そっちも、結構詳しいみたいだ。


やっぱりウイントフークさんより上手じゃない?
こりゃ本部長交代じゃないの………?

私が一人でそんなことを考えていると、レナが手招きしている。

「どうしたの?」

階段をまた上ってレナの隣に立ち、二人を邪魔しない様、私達も相談だ。


「あのね。やっぱり、店は私と姉さん達でやる。」

「えっ。…………訊いてもいい?どうして?」

急にレナからそう、言われて寂しいのと、驚いたのと。でも姉さん達とやると言うならその方がいいのも、解る。
複雑な私の顔を見て、少し苦笑するレナ。

やはりまるっと顔に出ているのだろう。

「ごめんごめん、仲間外れじゃ、ないのよ?だってあんたは、「やる事」があるでしょう?実際問題、店にずっといるのは厳しいと私も思うわ。気も、使うだろうし。」

何となく、言ってる事は解る。
きっとあまり顔を出せないと、それはそれでお互い気を使うと言う事なのだろう。

「で、ね?勿論、癒し石とか色々な面での協力はして欲しいわよ?あとはアドバイスとか、またあんたの意見が必要な時も多いと思うし。それに、やっぱりあの人とも、話したんだけど。」

一度言葉を切り、表情を切り替えるレナ。

「姉さん達は自立しなきゃ、いけない。で新しく、生きていく為に。まだ反対派の姉さんは、イストリアと考えるけどとりあえずまず、やって、見せよう、って。私達が楽しく新しい店をやってたら、やりたくなると思うし。まぁ、やってる姉さんはそれでいいとは思うけど。(まぁ、いない訳じゃ、ないのよ。)」

小声で事情を耳打ちしてくるレナ。
なんて答えていいのか分からなかった私は、曖昧に微笑んでおいた。

貴石は仕組みとしては、無い方がいい。
女の子が拐われ続ける様では、困るのだ。
でも………?
けど、やりたい事を止めるのも、違うのかな…。

全員の考えが変わるのは、無理かもしれない。
でも、辞めたくなったらこっちの道もある、と示す事は大切だし何よりゼロか、100か、の話でもない。
私が分からない事だって、世の中には沢山、あるのだ。

「オッケー、分かった。私がやる事、決まったら教えて?確かに、他にもやる事あるもんね………。」

「そうよ。あちこち手を出し過ぎなのよ。私達を信用しなさい。」

「いや、信用はしてるけど…………。」
「はいはい、分かってるわよ。」

レナはヒラヒラと手で私を追い払うと、イストリアと話を始めた。


もう…………。

まぁ、だよね………。

少し考えただけでも、子供達のこと、造船所、ミストラスの事、ネイア、祭祀のこと。
調べたい事も、やりたい事もいっぱいある。
それにそもそもの研究だって、全然進んでいない。


考えながらそのまま階段を降りると、金髪が目に入る。
魔女コーナーに溶け込んでいる気焔は、何やら美しい置物の様だ。

うーん。イケる。

ちょっとキャンバスを想像して、指で作り、嵌める。
何処からか光が差し込むこの魔女の店は、下がる鬱蒼としたドライハーブの森の様で人では無い雰囲気の金髪がとても、よく馴染む。

今日は私のブラウスと橙のパンツだから、余計にまた、ピッタリなのだ。

うーん。イケる。


二回目のフィルターで、流石に突っ込まれた。

「こら。」

手首を掴まれ引き寄せられるが、力はこもっていない。
そのまま入り口のハーブコーナーに引っ張っていかれた私は、気焔の口から意外な言葉を聞いた。
いつもはこういった場所に来る事を反対する、心配性の口からは誘いの言葉が出てきたのだ。


「今度、また来るか。「畑」があるのだろう?を植えられるか、分からぬが、な。」

そう言って、何処に置いてあったのかおじいさんの枝を取り出す気焔。

確かに。


すっかり枝の事を忘れていた私は、そもそもの目的を思い出した。

「?聞いたの?畑の事?」

全く持って、湖しかないこのまじない空間の何処に、畑なんてあるのだろうか。

しかし、イストリアの事だ。

きっとどこかに隠れているのだろう。


またワクワク案件が増えて、楽しくなってきた。

枝を触りながら考える。
ここに、置かせてもらおう。今度来るまで。
いや、すぐにでもまた、来たいけど。

そう、考えて勝手にホウキの隣にとりあえず、置いた。棒仲間で一緒に並べておこう。

そうしてまた、入り口から店全体を眺める。


イストリアが、話してくれた内容も。

私が、「軽くなる様に、軽くなる様に」話してくれていたのが、解る。
それでも尚、その内容は重くも、ある。

私のぐるぐるを分かっていて。

その上で、彼女は言った。

「青の少女」なんて誰がやってもいい、って!

込み上げてくる、クスクス笑い。

私を身軽にさせようと言った言葉でも、流石に面白すぎるよ………。


チラリと中二階に視線を投げると、まだ三人は真剣に話し合いをしている。
さっきの、私との話では見せていなかった、表情。

「当時者は私達」と言っていた彼女の言葉が浮かぶ。


何というか、堪らない気持ちになって側にある袖をギュッと、また掴んだ。

彼らはみんな「私達の問題だ」と、言うけれど。


確実に、私を助けてくれようとしているのも、事実で。


本部長は色々と離れた私の事迄、気を回し。

レシフェはいつも、大事な言葉をくれる。
最初は、最悪だったけど。

レナだって、変わって、変えようと、している。

ここに来てさっき会ったばかりのイストリアとの、縁も。


なんだろうね。これも本部長に「予定通り」とか言われたら怖いんですけど。

そこまで考えるとまたクスクス笑いが込み上げてきた。
隣で変な顔をしている、金の石も。


みんなみんな、変化して。

私は、変わっているだろうか。


見た目は、変化した。


中身?
変わってない気が、するけど。

どうだろうな??



「うーー……………ん?」

「どう、した?」

目の前にヒョイと、現れた金の瞳が愛しくてまた、なんとも言えない気持ちになった。


なんだかんだ、大変だけど。

私、幸せかも……………。



顔を隠してクスクス笑う私の手を、外そうと金の石が捕えた所で「なぁに戯れてんのよ。」とツッコミが入った。

パッと手が、離れて私も朝の姿を探す。

どうやら話し合いは終わった様で何故だか上で参加していたらしい朝は、ブツブツ何かを呟いていた。


なんで?私より、朝??


首を傾げている私に「さ、そろそろ行かないとまずいんじゃないか?お前らは。」とレシフェが言う。二人が階段を降りて来た。


「長い事、引き留めてしまったね。まぁ、そう時間は経っていないだろうが気を付けて帰んな。」


そう、サクッと言ったイストリアは、まだテーブルで何か書き物をしている。

きっと作戦の計画書だわ………。


レナとレシフェは挨拶をしてきたのだろう、先に入り口へ向かっている。
くるりと振り返って、気持ちを込めると思ったよりも大きな声が、出た。

「あの。」

「ありがとう、ございました。色々。また、すぐ来ます!」

なんだか色々、言いたい事はある。

でも、丁度良い言葉が出てこなくて、とりあえずお礼とすぐ来るアピールをしておいた。


次は一人でも、来れるかな?

いや、無理か…………。

チラリと確認すると、多分分かっているのだろう金の瞳を細めて「駄目」だと言っている。

はい。ですよね。


最後に枝の事だけ、お願いして店を後にした。




また、すぐ来れる。

そう考え寂しくなる気持ちを、ぐっと上向きにして顔を上げる。

入る時は気が付かなかった、ベルの音が鳴る表の扉をそっと閉めると、外は夕暮れと夜の間だった。



「うっわぁぁ……………………。」


「じゃ、私達は先に帰るわよ?また、ね。」

そう言ってレナとレシフェが細い桟橋を歩いて行く。

その後ろ姿も幻想的で、レシフェの黒に見える畝る髪とレナのウェーブのシルエット。
二人がお揃いの様に見えて、素敵だ。

多分、言ったら怒られそうだけど。





「ねぇ、これ、外は夜だと思う…………?」

ぼんやりと辺りを見渡しながら、そう言う私。
応える彼は、深くなる青の中に金色に浮かび上がって堪らなく綺麗だ。

私の中の、何かが、段々とこみ上げてくる。

「いや、演出だろうな。お前の事を、解っている。」



徐々に侵食する深い青に、キラキラと煌く魔女の店の灯り達。
まるで星があそび、空に、湖に、飛んでいる様に見える。

金色に光る彼の背後にある、その幻想的な景色。

そもそも、自体が幻想的に煌めいているというのに。
更にそれを盛り上げる、この演出とは。

私をどう、したいのだろうか。

あの、彼女は。


「フフッ。」

堪らなくなって2、3歩駆け、飛び付く私に驚く気焔。



美しいもの、幻想的な景色。


なんとも言えない、この、気持ち。


景色と時間、大切な、人。


背伸びをした肩越しに、見える煌びやかな魔女の家はそれ自体が黄色に少し光ってとても美しい。


ただ黙って、それを見つめる。
私の中で、膨らむ気持ち、何かが溢れてくるその、感覚。

いっぱいになる胸、抑えきれない、衝動。


「駄目だ!歌おう。いいよね?きっと、なら、大丈夫。」

多分、あの人が大丈夫にしてくれるだろう。
私の勝手な、想像だけど。


だって、こんなの。

歌わずには、いられないじゃないか。



鼻歌から始まる、水辺の特別な時間。

外はまだ、大丈夫だろうか。
時間の流れが違う、この空間で。
少し、赦された私達の、時間だ。

彼女が私に託した、軽い想いに合う様楽しいリズムを歌い出す。

彼の腕を離れ、桟橋を歩き、ちょっとくるくるしている私を見る心配顔。

それすら愛おしくて、つい泣く様に笑ってしまう。


大丈夫なのに。

多分、今なら私も飛べる様な、気すらするのに。



想いを放出する様に、歌いながら手を空に向けてふわりと拡げると、流れ星の様に飛んでゆく七色の星達。


飛ぶと思ったよ。

もっといっぱい、沢山飛べ飛べ。

ふわり、ふわりと腕で星の指揮を執り、飛ばすんだ。
遠くへ、遠くへ。

私達は、風に乗って飛んで行くんだ。

行きたい所へ。

好きな、場所へ。


流れる様に星を遠くの、隅まで届けたいんだ。

そうしていつか、全てが繋がって。

誰しもが、行きたい処へ、行けるんだ。





何周目かのくるくると、私の流れ星。

ふと、魔女の家の前に人影が見える。

きっと、私が飛ばしているのが分かって見に来たのだろう。


私の心を軽くしてくれた、彼女にも。
沢山、飛んで、飛んで。


くるくると手で空に円を描き、星を繋げて輪を作る。

「今日のキーワードは、「輪」だもんね。」

歌は終わった。
最後の星だ。


私の心の中も大分、スッキリして最後の星の輪を空へ放つ。

「いくよ?」


チラリと金色の彼を見て目で合図すると、空に飛ばした星達が爆けた。


花火の様に、散り散りに流れ、落ちてゆく星達のしっぽ。



ほんのりと闇に残る、その残像を眺めながら「楽しんでくれたかな?」と振り返る。

しかしもう、家の前に姿は見えなかった。



「帰るぞ。」

「うん。ありがと。付き合ってくれて。」


少し、寂しくなったが抱き上げられてホッと、する。



少し疲れたのかも………。

そんな事を考えながらフワフワと金色に包まれているうちに、案の定私は眠りこけていたのだった。























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