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7の扉 グロッシュラー

フォルトゥーナ

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振り返った彼女の手にあるものは、何かのカードらしきもの。

少し、大きいそのカード。

サクサクとカードを切り、山を作りそれを二つに、分ける。

片方の山から一枚、めくって出てきたそのカード。


一瞬、ザワリと鳥肌が、立った。


それは、図柄こそ少し違うが白い魔法使いが示した風のカードとものなのが、解るからだ。


この人は…………。
知っているのだろうか?偶然?必然?


少し不安が顔に出ていたのだろう、「心配する事はない」とイストリアは言いカードを指す。

「実は私はこっそり祭祀を見に行っていたんだ。素晴らしかった。は、古い祭祀を再現しようとしたのかな?よく、許可を出したものだ。ウェストファリアの仕業か…?何にせよ、いい起爆剤となったろうね。」

「風向きを変える、ね。」そう、言うイストリア。


が、今出たのは。偶然だろうが、必然。カードとはだ。君はもう、風を起こし、つるぎを出した。光も、降ろした。「入り口」は祈れば開く、という事は分かっていた。今迄閉じていたあそこが開いたのだろう。ちょっと、雑な入り口だけどな。」

クスクスと笑いながら私にカードを示す。
その、可愛らしい色合いにスッキリとした剣が描かれた、もの。

手を伸ばし、カードを手に取る。

この、イストリアのカードは少し抽象的なデザインだ。
ウェストファリアのカードは水彩画の様な細密な絵だったが、こちらのカードは全体が簡略化されている。

しかし、中央には細長く美しい、剣。
それを取り巻く風はピンクと紫のグラデーションだ。白い線で区切られた数種類の濃淡の色の移り、背後には城が描かれている。剣を飾る光の粒が、光沢のある素材で全体を清廉な印象に纏め上げていた。


これって、手書き………?
ていうか、完全にあの景色も好きな色で出来てるんだな………。

カードは全体のベースがピンクで、そこに描かれる絵も合わせて美しい配色だ。
他のカードを見せてもらうと、やはりピンクベースにパステル系の差し色。綺麗な図柄のものが多く、白い縁取りは共通で赤から紫、青、黄色に黄緑と、モチーフにより色が違うので全部をグラデーションで並べたい衝動に駆られる。

とりあえずそれをまた纏めて、山にしておく。並べるのはまたの機会にしておこう。
うん、今じゃない。



いつの間にかお茶のお代わりが注がれて、一息ついた私達。

朝は足元で丸くなっていて、イストリアは私の顔を見てニコニコしている。


訊いても、いいだろうか。
多分、いいよね?


ウイントフークの、こと。
私はウイントフークから「できれば保護したい」と、聞いている。

でも…………。

このからして。

この人、デヴァイから追求される様なヘマしなそうだし…。

何となく寧ろ、ウイントフークの一枚上手な気すら、する。

多分、当たってるよね。うん。


そうなると、訊きたい事は一つだけ。

私はお代わりをありがたく頂いて、一息ついてから話し始めた。


「あの。いつか、会ってもらえますか?」

少し、眉が下がるイストリア。
困らせて、しまっただろうか。

でもな…。

「ウイントフークさんは、会いたがってます。言わないけど。あの人。それに、私は最終的に扉を繋ぐつもりです。出来るか、分かんないけど。でも、私の輪は、私が行きたい方向に転がしてなんぼ、ですもんね?」

益々眉を下げたイストリアは、何とも言えない瞳をしてこう呟いた。

「フォルトゥーナ………。」

「えっ?」

何………?

「いやね、君は嫌かもしれないが。フォルトゥーナとは、運命の女神だ。君を見ていると、どうしたって感じずにはいられない。結局そうして色々なモノを、背負ってしまうのだろうな。しかし、安心していい。」

「私達親子が君の荷物を最大限、軽く出来る様努力をしよう。君が身軽に動けるように。自分の意志で、自分の輪を、まわせるように。」


明るく軽い瞳に少しだけ、力が籠る。


「風の、旅人、運命の女神よ。君はきちんと「君の人生」を生きよ。君にとってはこれは特別で、違う世界で、非日常かも、しれないが。」

「これもまた紛れも無い君自身の、人生。何者にも妨げられるべきではないし、利用されるべきものでも無い。ただただ君が「楽しいと思う事、好きな事」をやる権利がある。それだけは、忘れるな?誰の為でもない、君の輪の中心は「君」なのだ。」

ふっと、緩む薄茶の瞳。
そう言って、小さな声で付け加えた。

「私と、あの子のも繋げてくれて、ありがとう。」


眉が下がり優しい表情になったイストリアは何故だか先程迄のキリリとした顔よりも、ウイントフークに似て見える。

ふと、ラピスでの事、なんだかんだと私の事を考えてくれる本部長やハーシェル、あの懐かしいゴチャゴチャした部屋の事が浮かぶ。
始めから、あの二人も何故だか絶対的に私の味方だった。それに、また一人心強い人が増えたんだ。

………やだ。久しぶりに泣きそう。

本部長親子が協力してくれるなんて、百人力じゃない?

鼻水を啜る私に笑いながらハンカチを貸してくれる。

うん、有難いけど人様のハンカチで鼻はかみづらいな………。


「一度だけ、………一度だけ、あの子の父親が死んだ時に帰ろうかと思った。だが、デヴァイの干渉を考えると帰れなかった。一応、私は白の家では家格が高い。あの子は男だし、才能もある。好きな事ができなくなるのは、目に見えているからな。煩い、家なのだよ。」

「母親としてはどうかと思うが」と言いつつも笑うイストリア。
私も結局ハンカチで鼻をかみながら、「いや正解ですよ」と保証しておいた。
逆に、「余計な事を」と言いそうなあの眼鏡を思い出す。

うん、間違いないよ。


「予言も。」

姿勢を崩してため息を吐くイストリア。
やはり新説も知っているのだろう。

そう言えば、さっき「青い本」って言ってたな………?

「私は殆どの蔵書は調べたからね。知っている。青の家の分は見れないが、「君が」この、世界を救うと書かれていることも、ね。」

「私は………。」

「ああ、分かっている。まぁ、要は「みんなが」変わらないといけないんだけどね。を解っているやつが殆どいない事が、問題なんだ。世界では「自分が何かを変えられる」と知っている奴が殆どいない。そう、考えないんじゃない。「知らない」んだよ。見た事が無いからね。しっかし、思いつく奴が何人かはいるとは思うんだが…。まぁ、それが、問題なんだ。」

それは、あの黒い彼の事に当て嵌まるのだろう。
確かにレシフェみたいな人は、そうそういない。


「それに」とイストリアは続ける。

「私自身、君がフォルトゥーナで間違いないとは思うけれど、正直「青の少女」なんて誰だっていいんだ。現に、今は「ニセモノ」がやっているだろう?、いいんだ。」

「??」

「ハハッ。だから、そんな構える事は、ない。さっきも言ったけれど。」

そう話す彼女はやはり、楽しそうだ。
私もこのくらい、達観したいものだ。
どうしたって、ぐるぐるしちゃうだろうから。

起こすのは、君だ。だが、その風を受けるのは全員である。これはね、時代が変わるという事だよ。君、解るかね?今は歴史的な変換期だ。あの、予言が当たるという事は。」

「良くも悪くも、大きく変わらなければならないんだよ。私達は。一緒に風に乗れるものは、楽しめるだろうし、古いものにしがみ付くものは最後には吹き飛ばされて無くなるだろう。それが、「変わる」という事。もう、運命の輪は回っているのだから。」

「まぁ、始めっから廻ってるんだけどね」と悪戯っぽく、言う。

「あの子や、君の周りの者達が心配しているのは。君が渦中に飲み込まれて、翻弄され利用される事だろう。だがね。」

「はい………。」

「私が心配しているのは。」

なんだろう?
全然、見当が付かない。

「風に乗れなく、大部分の者が乗り遅れる事。吹き飛ばされる事だ。君は扉を繋げたいと言ったが。皆の、意識の変革をしていかないと扉は繋がってもが居なくなってしまう。」

「それは、困りますね………。」

「しかし、変化は感じただろう?少しずつ、変わりつつある場所も、ある。それを拡げて行くんだ。まあ、それは私達の仕事だけれどね。君はあくまで旅人で、住人は私達なのだから。」

「………旅人。」

なんだかもう、イストリアは全部知ってるんじゃないかという気になってきた。


確かに私は旅人で。
ゴールはまだまだ、先だ。

きっと、イストリアが言っている事はいつもレシフェが言ってる事と、同じで。
私は私の道を、ゆけばいいという事なのだろう。

でも、出来る事はやりたいし………。

うーん?
これから?どうするんだっけ?


私がまたぐるぐるし出して、少し。


イストリアが立ち上がり、朝が目覚めて膝に乗ってきた。

「そろそろ、限界みたいよ?」

「あっ。」

すっかり忘れてたけど、そう思えば左耳が熱い気がする。
ヤバ…………。

「では、続きはの話だな。」

そう、彼女が言った。


チラリとイストリアを見るのと、彼女がパチンと指を弾くのと、気焔が現れたのはほぼ同時だった。

きっとあの鏡で気焔の事も、見ていたのだろう。

イストリアは少し、微笑むと「迎えに行ってくる。」と店の方へ行った。

流石にレシフェとレナは、パッと現れないもんね………。


「ご、めん………。」

もう、謝った時は既に金色に包まれていたのだけど一応しおらしいフリをしておく。
かなり、楽しんでいたのはバレてると思うんだけど。

きつく、抱きしめられていたのは一瞬で、腕を緩め私の身体をチェックすると少し離れてじっと、見ている。

すぐにみんなが来るのが分かっているからだろう。
でも私が少し寂しくなって、いつの間にかローブが無くなっているその袖を、キュッと掴んだ。



「さ、もう満足したか?」

そう言ってレシフェが入ってきたのは、その時だった。
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