透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

魔女の店

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多分、この店の事を語り出したらそれだけで日記帳一冊分書けるくらいの、自信はある。



「どうぞ。」

白衣のイストリアに続いて少し、廊下の様な狭い道を進むと、すぐにお店のスペースになった。



「…………わぁ。」

多分、また「わぁ」しか言えないであろう私はどこから見ようかと目が忙しく動いていて、入り口に突っ立ったまま。


「暫くはあのままね。」

朝がそう、イストリアに言っているのが聞こえて、それを「暫くお店を見てていい」という勝手な解釈をした私。
早速身を屈めて、手前からチェックしていく事にした。




そこは、私にとっては夢の様な空間だ。
エローラの店と、と思う。

入り口から既に、兎に角ごちゃごちゃ物が沢山あるのだけれど、そのどれもが魅力的に古くて味があるモノだったり、まじない道具なのかアンティークっぽいもの、天井から壁からと所狭しと下がるハーブ、なんでか幾つかの鳥籠も一緒にぶら下がっている。

入口すぐは左右に仕切り壁があり、それぞれワクワクする物が沢山ある。

左にはパッキングされたドライバーブ。
多分、ハーブティーのブレンドだと思うのだけど。

「モクロー、ラペワンダーある!あとは…カッサヒーもあるな…桃月草とかは、あ、あるある。えー、これとこれブレンドして合うのかな………。どんな味なんだろ?」

「うん?…えっ!ラギシーがある!飲むの??まさか…………いやいや………ん??えっ!カンナビーもあるんだけど!ナニコレ?飲むの?いや、飲むのか?うん?大丈夫なの??」

独り言も煩い私は、ぶつぶつ言いながらも横にスライドしつつ、目はハーブティーを滑っていく。

後でカンナビーは飲んで大丈夫なのか、聞かなきゃ!


ウイントフークのブレンド術は母親譲りなのだと一人で頷き、顔を近づけて隅から隅までずらずらとチェックした。
全くよく分からないブレンドが多くて、見ているだけでもかなり楽しい。
天井迄ビッシリぶら下がっているハーブティーは圧巻で、選ぶのが楽し過ぎて一日ここにいられそうだ。


試飲が出来ると、もっといいんだけど。
てか、これだけで店開けそう…あ、ここお店なんだった。レナのお店に卸してくれないかな………。

しかし、ここのお客さんは?誰なんだろう??


そう思いつつも、とりあえず右側の壁も見たいので移動していく。

右はスワッグやリースが沢山掛かっている。
独特の葉の形の緑が沢山あり、どうやって色を保つのか後で聞いてみようと思いつつ、殆どのリースに家の周りと同じ様なキラキラが飾られている事が判る。

「電気………じゃないもんね、まじないだよね………?」

物凄く近くで見ても、どうやって光っているのか全く分からない。
恐る恐る、触れてみたが熱くもない。

「うーーーん?」

ぐるりと辺りを見渡し、視線を忙しく移動させると片隅にホウキが沢山あるのが目に入った。

「魔女だから??」

沢山の素材のホウキがあり、竹箒みたいな物からススキで作ってあるようなふわふわした物まで。

「何に使うんだろう?」

あまり実用的じゃなさそうなんだけど………?


首を捻りながらも、奥も気になるのでその壁の陰にある、店のメイン部分に足を踏み入れる事にした。
まだまだ、見るものは沢山あるからだ。


そもそも、そのチラリと見える店内の奥もとても魅力的だ。
先にそっちを見ようかと思ったが、やはり手前から攻めようと考えたのだ。
だって、奥を先に見たら手前を見に戻るのを忘れる自信があったから。

そうしてハーブとスワッグコーナーを確認した私は、「いざ、行かん」と奥に足を踏み入れた。



「わぁ~!」


もう兎に角、上から横から、物凄いハーブがぶら下がっている。
きっとまじないだろう、高い位置から下がるハーブやドライフラワー達に圧迫感は無く不思議と落ち着く空間だ。

真ん中からまた左に、謎の物体が沢山乗っている四角のテーブル。奥にはガラス扉の陳列棚があり、沢山の怪しげなものたちが並んでいる。

テーブル上のガラスケースには何かの動物の頭蓋骨、液体に浸かっている謎の物体、ウイントフークの所にある物に似た秤のようなもの。
その他にもキャンドルなどの心躍るものが、所狭しと置かれたテーブル。

なんかこっち側は魔女っぽい。
魔女の道具屋みたいな…?


くるりと向き直って右側もチェックだ。

多分、こっちはお化粧コーナー。
レナが似たパッケージを持っていたから判る。

丸テーブルの上のおもちゃの様な小さ目の引き出し。カーブした小さなタンスの様なもので、小さな女の子がお人形遊びに使えそうな、可愛い形と薄いピンクがなんとも言えず可愛い。
少し開いて、小さなシャドウケースがカラカラと規則正しく並ぶ。

一つ、手に取り開くと二色組み合わされている淡色と濃色の美しい組み合わせだ。

「えー。セットなんだ!可愛い!こっちはピンクの濃淡ね………。ちょっと、色々、見たい。………やば!コレ黄色と紫なんだけど!エローラにやって欲しい~!えー、全部開けちゃダメかな………。いや、まだ他にも………。」

ぶつぶつ言いながら辺りを見渡す。

テーブルの上にはまだまだ可愛いものが沢山並んでいるし、奥のガラスケースも気になる。
カチカチとシャドウケースを閉じて、「また、またね。」と言いつつとりあえず一旦片付ける。
そうして目に入った、奥へ進む。

化粧水か、オイルか小瓶が並ぶ壁面の棚。
ガラスケースに沢山のキラキラした小瓶や、大きめの瓶、ハーブが漬けられた瓶が所狭しと並んでいるのだ。

「綺麗………。私も沢山並べたいなぁ。てか、こんなに誰が使うの??ラピスには無かったけど??まさか…………。」


「ご名答。さ、そろそろ奥においで。少し、話をしようか。」

「依る、あまり気焔を待たせない方が、いいわ。」
「あっ。忘れてた。」

「だと思ったけど。かわいそ………。」


朝の言葉に少し青くなりながら、イストリアについて行くと、店の奥にある階段を少し登る。

その小さな階段を折れた所に中二階の様な小さなスペースがあって、そこには既にお茶の用意がされていた。

「一応ここも、まじない空間だ。に通用するかは判らんが、そう時間の経過は感じない筈だよ。」

イストリアの言葉に頷きつつ、示された椅子に座る。


その、ロフト程度のスペースにはお庭のテーブルセットの様な丸いテーブルと、二脚の椅子。
クロスの上には、すっきりとした白いティーセット。


彼女が注いでくれたお茶は紅いお茶で、もしかしたらハイビスカス?と思って飲んだら甘くて、ちょっとビックリした。
なんだろう?この紅さは。

独り言で喉が乾いていたので、すっかりリラックスしそうになる。

白い茶器に紅いお茶が映えて、このブレンドも教えてほしいなぁと思いつつも、まだまだ私の目は店内を見る事を諦めていなかった。
造りがベランダの様になったこの中二階からは、店内がよく見えるので私の目が離れなかったのだ。



ティーカップを持ったまま、目だけを忙しく動かしていたら朝が膝に乗ってきた。

見ると、イストリアは私を楽しそうに見ている。

流石に「楽しそうだからいっか」と言うわけにもいかないので、最後の一口をぐいと飲み干すとカップを置いて体の向きを戻した。
すっかり、横向きだったから。



そうして私が座り直すと、イストリアは何か大きめの手鏡の様なものをテーブルに置いた。

後ろの棚から出したのだろう、すぐに手の届くその棚の引き出しが少し開いている。

なんだろう?とその鏡の中を覗くと、あの、いつものごちゃごちゃした部屋が、見えた。

あの、ガラクタ屋敷の、本と書類の山の影。

いつものソファーセット。

「うん?ここはまさかの………。」

「そう。私はちょっとね、たまにね。」

そう言って私にウインクする、イストリア。

これは以前、宙が私に見せてくれた鏡と同じ様なものかな?

イストリアに聞いてみると少し、違うのだと言う。

「そんなに良いものは作れないな。あなたの石が特殊なんだろう。は私があの家を出てくる時、配置しておいたまじない石があるから、見える。繋げているだけなんだよ。」

「成る程………。それで…。」

私の事も、知ってたんだ…。
でも、名前とか??声も、聞こえるのかな?

質問されると思ったのだろう、聞く前に教えてくれる。

「名前はちょくちょく噂で聞いていたからね。これは音までは聞こえないんだ。に来る事も見ていれば予測はつく。いつかは見つかると思ってたけど、祭祀で上が崩れたからな。こっちの神殿に来る人は殆どいないから、君が来ると思ってたよ。まぁ、これも縁だね。」

「縁、ですか………。」

なんだか不思議な事を言うイストリアは、何かを知っているのだろうか。


祭祀で、あの瓦礫が崩れたって、事だよね………?

確かに崩れ方が新しいとは、思った。
でも普通は空からの光で物が崩れたりはしない筈だ。

、石は爆けちゃったけど。

でもそれもあの「なにか恐ろしいもの」の所為だし………。
直接やったのは私じゃない、と思いたい。

でも結局、「その力」でも私の石は爆けなかった事になる。
どうしてなんだろう?
チカラ?

でも、は人にはどうしようも、出来ないくらいのものだ。私の石だからと言って………。



いや。

もしかして?


池で作ったから?

「ここ」グロッシュラーで。

歌って。ちょっと多分、祈りも入って。

「あの」旧い、神殿で。

「昔の」祭祀に近かったのかも、しれない。


「なにか」の為に、祈るのではなく。

ただ、「想い」が、「祈り」になること。


もしかしたら………。


???





「そう、堅苦しく考える事は、ないよ。」


私のぐるぐるを読んだのか、イストリアはそう言った。
私をじっと見るその薄茶の瞳は、何かを知っているのだろうが今迄の人達とは、何かが違う様な気がした。



ここに来てからも。
その、前からも。

予言の事、私の事、ラピスやグロッシュラー、デヴァイの事だって。

みんなみんな、怖いくらい真剣か、悩んでいるとか、困っているとか。
その、瞳は真剣で。

時には私の胸も苦しくなって。


でも、彼女の瞳は軽やかなのだ。
少し、楽しそうにすら、見えるその瞳は何を映しているのだろうか。

ここ、グロッシュラーの秘密の空間に一人、ひっそりと暮らす彼女とは。
一体、どういう人なのだろう。




私は聞きたいことが、沢山ある。
今、聞いてもいいだろうか。

結構、長い話になりそうだけど。


そう思った時、朝がいい提案をした。

「それ、チョイっとしとけばいいんじゃない?多分、気焔以外は大丈夫でしょ。」

「確かに。多分、分かるよね?」

そう言いつつ、山百合に触れてみる。

少し、フワリと暖かくなった気がして、なんとなく大丈夫だと思えた。
きっと、何かを受け取ってくれたのだろう。



「ふぅん?それも、面白いね?」


やっぱり、ソックリ…………。


イストリアの目がキラキラし出したのを見て、私はドキドキ半分、ワクワク半分で、話を始める事にした。









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