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7の扉 グロッシュラー
やっと お出かけへ
しおりを挟む「まぁ、ずっと篭ってる訳にもいかないでしょうしね。」
「…………。」
あれから数日。
そろそろお出かけしたいという私の言葉に、朝はあっさり頷いたのだけど金の石は無言だ。
今日も騒つく食堂は、やはり祭祀前より活気がある気がする。
アラルエティーがいる光景にもみんな慣れてきた様で、しかしいつも誰かしらネイアと一緒にいる彼女に近づく者はそう、多くない様だ。
きっと「そういう御達し」が出ているのだろう。
まだ、館にはアリススプリングスやベオ様のお兄さんも滞在しているし。
あの、お兄さんの名前、なんだっけな………。
相変わらず名前が覚えられない私がそんな事を考えていると、今日もサラリとした朝食を終えている気焔が言った。
「まあ、仕方がないな。」
「え?いいの!やった!駄目だよ、もう取り消せないからね。」
私の浮かれ様にきっと少し後悔していそうな金の瞳を見つつも、もう訂正されたら堪らない。
絶対、今日行くもんね!
あれから何日か、図書室との往復しか許されていなかった私は研究が捗るのも嬉しかったのだけれど、そろそろ飽きてきていた。
結局、「あの件」は今の所何も判っていない。
青の本の事については、ラガシュ自身は「知っている人はウェストファリアしか知らない」という事だし、ウェストファリアはきっと誰にも言っていない筈だ。
と言うか、今迄新説に興味のある人なんて、いなかったのだ。
きっと犯人が自分で調べたか、何処かから聞いたか、もしかしたらと予測したのか。
何も、まだ分からないのだ。
気焔はだから心配しているのだろう。
「大丈夫だよ。なんなら、レシフェにでも付き合ってもらう?」
人数の問題でもないと思うけど。
「それなら私達だけで大丈夫」という返事が来るのを分かっていて、そう質問した。
すると意外な返事が返ってきた。
「………訊いてみよう。」
「えっ?なんで?」
そこまで?!と逆に怖くなって質問すると、気焔の意図は違ったらしい。
びっくりしたぁ~。
「いや、石の事と神殿の池の事も気になるからな。丁度いい。」
「確かに。」
あの、石が出来た時。
気焔は居なかった。
何かレシフェに確かめたい事があるのだろう。
「じゃあ、ご飯が終わったら来てくれるかな?」
「枝を取りに行っている間に、連絡しておく。気を付けろよ?」
「はーい。」
ふふ。
あまり浮かれると、いけない。
心の中でニヤニヤしつつも、朝食を終えると朝と一緒に二階へ向かった。
あの後どこにどう、手を回したのか知らないがまじないが強化されたらしく以前よりは安全になったらしい。
でも多分、私が思うにシンじゃないかと思う。
何となく、館が纏う雰囲気。
私の中の、あの人がそう、言っているのだ。
あれから、直接は会ってないけど。
普段本当に何してるんだろうな………。
そんな事を考えつつも、ちゃんと枝を持って神殿の廊下へ戻る。
きっとレシフェが来るとしたら、門の前だろう。
以前一緒に旧い神殿に向かったのが、凄く前の様な気がする。
「なんかさぁ、最近、時間が過ぎるのが早い。」
館の扉を押しながらそう呟く私に、朝がこう言った。
「良かった。多少は成長してる様ね。」
「どゆこと、それ。」
言い合いながら、気焔と合流すると門へ向かった。
「あっ!」
「おはよう。あんた、大丈夫なの?」
見るなり飛び付いてきた私を受け止めながら、そう言うレナ。
「良かった!ありがとう、あの後大変だったんだって?」
「それはこっちのセリフよ。まぁ、事後処理はしたけどこっちは何とでもなるわ。あんたはずっと寝てるし、なんか「変なの」は現れるし………。どーなってんの?」
「?変なの?………ああ、アラルエティーの事ね!」
「名前はどうでもいいけど………。まさかあんた………。」
「うん?挨拶程度はしたよ?(あとね、まぁ、それはいいや。)」
ちょっと、あの子が好きな人のことを言いそうになった私は、やはり勝手に言う訳にはいかないと思い止まった。
「なによ?気になるじゃない。まぁ、元気ならいいんだけど。」
そう言って歩き出すレナについて、私も階段を降りる。
「おはよう。ありがとう、レナも連れてきてくれて。」
振り返りレシフェにお礼を言うと、私をチラリと見て手をヒラヒラさせ、そのまま気焔と話をしている。
私の枝を持ってレシフェと何やら真面目な顔をして話し込んでいる気焔は、チラリと「先に行け」という目を投げてきたので、そのままレナと前を歩いて行った。
「で?今日は何処行くんだって?」
少し浮かれ気味の私の足取りに対して、スタスタと早歩きのレナは丁度良い塩梅だ。
川沿いを歩きながら、説明していく。
「あの、前に森に行った時。おじいさん達が枝をくれたの、覚えてない?それを植えたいの。ここってさぁ、木がないじゃない?癒されないし、昔は緑があったって言うから………。」
植えたらまた、森が出来ないかなぁ、とぶつぶつ言っていると前科者の私にレナが言う。
「また、「癒し」ね。あんたはホント、そっちね。泉の次は、森か………。ホントにやりそうで怖いわ………。」
どういうことだ。
「でも、そろそろ店について考えないと。その子が来てくれて良かったわよね?今のうちに、計画が進むわ。あの時、「ああ、これは無理だな」って思ったもん。あんな光、出しちゃったら店どころじゃないからね。」
「確かに。ある意味救世主。」
二人でふざけて笑っていると、造船所が見えてくる。
振り返り二人を確認するけれど「「駄目」」という視線しか飛んでこないので、諦めてまた歩いて行く。
七色の館が見えてきたところで、レナに気になっている事を訊いてみた。
「ねぇ?貴石のお姉さん達は?どう?あの後………。」
少し考える、レナ。
「私もちょっと、迷ってるんだけど」と前置きをした。
珍しい。
「私達の、店だけど。あの、祭祀を見た後ね?姉さん達からも色々な話があって。」
立ち止まり、私を正面から見たレナ。
ふわふわした、青い髪、茶の瞳。
レナが「青の少女」にさせられなくて、良かったとシャットでの事をチラリと思い出してしまった。
もし、今回ここでそうなってたら。
私、暴れる自信あるな。
そんな私を真っ直ぐ見ているレナは、私の意識が戻ってくるのを待って、こう言った。
ぐるぐるしているのがバレていたのだろう。
「このまま、今のままの商売をする、という姉さんともう、辞めたいという姉さんでちょっと、話し合いをしてるの。」
オブラートに包まれてるけど、これは揉め事が起きているという事ではないだろうか。
「大丈夫?喧嘩になってない?………あの、扉が開いたからね………。」
私のその言葉に反応した、レナ。
「あれ、結局何だったの?私には見えたけど、「扉なんて無かった」って言う姉さんもいた。見えない人もいるって事?」
確かに、あれが「可能性の扉」だという事は知っている人は殆どいない。
と言うか、私が勝手にそう思って、出した扉だから。
もしかしたら、人によっては見えないし、「何も」受け取れなかったかもしれないし、あそこに「何か」を捨てられない人もいただろう。
「でもさ。」
思う事がある。
「その、今まで通りにしたい、っていうお姉さんはその扉が「見えない」って言ってる人じゃなかった?」
「そう。なんで分かるの?……………まぁ、「ヨルだから」か。」
そう言って考え込むレナ。
「レナは、どう思った?アレ、見て。何か、変わった?」
結局、みんながどう感じたのかをまだ直接聞いていない私は気になっていたのだ。
レナの意見なら、かなり参考になると思う。
また、少し考えて顎に手を当てながら話し出す。
「そうね………。私は、「店をやる」っていうのがより具体的になったかもね。元々、出来るとは思ってたけどそれも強固になったし………。それでね?その、店を変えたい姉さん達を誘ってみたらどうかと思ったんだけど。」
「どう、思う?」
そう言って私をじっと、見つめるくりっとした、茶の瞳は私がYESという事を分かっている、目だ。
「これ」だよね?
「そう」じゃない?
新しい、可能性をみんなが模索して、思い付いて、実行して。
私だけじゃなくて、みんなが。
私はレナが「そう」提案してくれたのが嬉しくて、またギュッと抱きついて言った。
「勿論だよ!」
「ありがと。」
良かった!
レナの「可能性の扉」は、開いていた。
以前の割り切った瞳のレナも、カッコ良かったけど。
今は自分以外のみんなの事を考えて巻き込んでくれている。
ここでは、みんなが自分の事で精一杯だ。
でも。
お互いがお互いの事を、もっと、考えられたら。
きっと、もっと色んなことが出来るしもっと、変わっていける筈なんだ。
「おい。感動中悪いけど、行くぞ。」
「ん?」
また手をヒラヒラしてそう言うレシフェと、ちょっとあったかい色になっている金の瞳。
気焔も変わったなぁ。
多分、以前はこんな場面でも。
静かな、金色だったであろうその瞳は今は暖かい色に変化している。
色んな事を感慨深く思いながらも、置いていかれない様に今度は私達が金と黒の背後を追いかけて行った。
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