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7の扉 グロッシュラー

兆候

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祭祀が終わってから初めての、外出。


勿論私は朝から浮かれていた。

思わずスキップしそうになって、慌てて廊下で思い止まる。灰青の館を出て、白い廊下。
広い場所に出たので余計に「よし!」という気分になったのだ。



「今日、どうする?朝は行く?」

そんなウキウキを抑えつつの、朝食からの帰り道。

いつもの様に朝と気焔と、朝食を済ませた私はそのまま出ようかと朝に声を掛けた。

「土を探すんでしょ?………行こうかしら。」
「いいの?やった!」

絶対「寒いから嫌」と言われると思っていた私は、ピョンと飛び上がって喜ぶ。
朝が来てくれるならきっといい土を見つけてくれそうだ。

「ちょっと、取ってくるね!」
「コラ」
「大丈夫!館の中だし。」

手を振り、二人を廊下において私は灰青の館に入って行った。


ふんふ~ん♪

私の部屋、一番端だからなぁ…っても二階だから結局階段は端にあるんだけど。

誰もいないと思っていた私は、既にスキップをしていた。
怒る人もいないし。フフ。

そのまま階段を駆け上がり、踊り場でくるりと踵を返した、その時。

「キャッ!」
「ご、めんなさい!!」

完全に調子に乗っていた私は誰かに正面から突っ込んだのだ。


「あっ、ぶな~…………。」

自分でぶつかったのだけれど、そのまま落ちそうになってギリギリ手摺りを掴んでいた、私。
相手はそのまま階段に座り込んでいる。

ヤバ…………怪我、してないよね??

「大丈夫?ごめんなさい…。」

そこまで言って、ハッと気が付く。

この子、アラルエティーだ。


下を向いていて分からなかったが、スカートを履いている。
そして、パッと見て私が知らない女の子。
それは、彼女しかいない筈だ。


お尻を払いながら立ち上がった彼女は、私を見て目を丸くしている。
まさか、階段を走って上がってくる銀の家の子がいると思わなかったのだろう。
いや、そもそもこの世界の女子みんな、やらなそうだけど。

「大丈夫?」

きちんと顔を見て話しかけた私に、我に返ったアラルエティーは「大丈夫」と言いつつも私の事をしげしげと観察し始めた。

そして、徐ろに開いた口から出た開口一番のセリフはやはり、事に関するものだった。


「あなた、「あの人」が婚約者なのよね?」

「うん。どうして?」
「ううん、なら、いいの。」

「?うん。」

私は勿論、アラルエティーがの事が好きなのか、物凄く訊きたかったのだけれど、流石に早過ぎると思いムズムズするけど我慢していた。
そして何故か、階段の踊り場で婚約者の話をしている自分達が可笑しくなってきてクスクス笑いが込み上げてくる。

「なに?」

少し、警戒した声。

いや、そんなつもりは全然、無いんだけど。

頑張って笑いを抑えつつ、私は自分の思っている事だけ、伝えた。
私は、この子の敵じゃないって、ことを。

「私は、「あの青の彼」の事が大好きだから大丈夫よ。」

言ってる側からどんどん自分の顔が赤くなるのが、分かる。

やだ!
なんか、私馬鹿みたいじゃん………。
これ、アラルエティーの心配事が違ったら完全にただ惚気てる人だよ…?
うわぁ……………どうしよ。


頬を冷まそうと手を当て、フーフー言っているとクスリと笑うのが見えた。

良かった。
私の捨て身の作戦?が効いた様だ。

「分かったわ。ごめんなさい、変な事訊いて。」

そう言って、階段を下りて行った。


その、銀ローブの後ろ姿を見て何だか感慨深くなる。

私以外の、銀ローブの女の子。


彼女は私の代わりに利用されている事を知って、ここへ来ているのだろうか。
知らなくても問題だけど、知ってるとすれば。

何だか彼女の事を思うと、何とも言えない気持ちになる。


これから、彼女も「銀の家だから気を付けなさい」とか、言われるのかな?
授業は大丈夫かな?
次の、祭祀は彼女が舞うのだろうか?


でも、もし彼女が。

何も知らない、ただ、彼の事が好きと言うだけで、此処について来てしまったのだったら。


自分が悩んでも仕方のない事に悶々として、一人踊り場に佇んでいた。


「なぁにしてんのよ。心配、してるわよ?」

「あ。ごめん、そうだった。」

朝が駆け上って来る。

一応、気焔は遠慮しているのだろう。この時間なら、他の女の子に会うかも知れないから。
まぁ、実際会ったんだけど。


「ごめん、直ぐ持って来るよ。」

そう言って白水色の房を撫でつつ鍵をカチリと回し、部屋に入る。

少しの、違和感。

いつもより感触が軽い感じがした鍵の回転に、しかしそう疑問も感じず部屋に入った。


何か、袋に入れるか…………。
そのままでもいいかな?

そんな事を考えつつ、カチリと寝室の扉を開ける。

「えっ?!」

一瞬でゾワリとした感覚に包まれた私は無意識に彼を呼んでいたのだろう、パッと現れた気焔は「その状態」を視認すると私を部屋の外へ連れ出す。

「朝どの。」

朝を呼び、部屋へ入る様促す。

「どうしたの?」
「暫し。」

そう言って朝と私をダイニングへ置いて、寝室へ入って行った。


「なに?」

少しピリリとした朝の声に、ホッとしながらも安心させる様に答える。
多分、声と顔は、強張っていたけれど。


「なんか…………ぐちゃぐちゃ、なの。」

「は?!………うん、まぁ、ちょっと待ってましよ。大丈夫よ。」

すぐに寝室に向かいそうになった朝は、私の顔を見て思い留まり膝の上に乗った。



すぐに戻ってきた気焔の話を、朝を撫ぜながら聞く。フワフワ、中毛の朝は気焔より柔らかいなぁと思う余裕は、出てきた。

「特に、荒らされているだけで何、という事はないと思う。一緒に、確認出来るか?」

心配そうな瞳は出来ればその状態で部屋には入れたくないのだろう。
でも私が確認しなければ、きっと肝心な事は判らないのだ。

黙って頷き、朝を下ろす。


扉を開けて気焔が、先に寝室へ入った。






「多分、無くなったものはよ。」

二人がいてくれるお陰で、大分落ち着いて確認できた。が、やはり「この場」が嫌な雰囲気になってしまっているのは否めない。

「任せて。」

私の心を読んだのか、藍が買って出てくれ部屋の中をクリアにしていく。


物は壊れている訳でも無い。
何も無くなっていない。
ただ、何かを探した後の様にベッドはぐちゃぐちゃ、机の上も。
クローゼットも開け放たれ、服も探られた跡がある。


そして、私が気になったものが机の上に開かれていた。

それは、青の本とセフィラの日記だ。

多分、が欲しかったのではないだろうか。

多分、と言うか「本人」が言っていたのだけど。


「なぁんか、失礼な奴だったから追い返してやったわよ。」

私が異常が無いか、確かめようと持ち上げると青の本がそう、言い出したのだ。

「えっ?何したの?」
「いや、別に。ちょっと、姿を消しただけよ。」
「そう…………なんだ?」

よく分からないが、青の本曰く「私だって持ち主を選ぶ権利はある」のだそうだ。
やはり、この本を狙って入ってきた可能性が高い。

「ねえ。犯人、分かる?」

それが分かれば、物凄く助かるんだけど。

だが、早々上手くはいかなかった。
相手もそれなりに準備はしてきたのだろう。青の本は分からないらしい。

まぁこれから泥棒に入ろうというのに、ノコノコ変装もしないで来る奴も珍しいかもだけど。


「でも、の者じゃないわね。」

「?「うち」って、「青の家」ってこと?」
「そうね。」

青の本の認識では、そういう事らしい。
そうかな、と思ってはいたけれどやはりセフィラは青の家の者だという事なのだろう。

「しかし、お前の部屋に「これ」がある事を知っているのは?」

そう、言われて考えてみるが事実として知っている人、はとても少ない。
ウェストファリアとラガシュくらいじゃなかろうか。

だけど。

多分、「私が青の少女だと思っている人」なら、予想出来るのではないか。
ただそうすると、その人は「青の本」の存在自体を知っている事になる。
これはラガシュに聞いてみなければ分からないだろう。
「普通の新説の本」と、「青の本」のを知る人がいるのかどうか、は。


そんな私の考えはいつもの様に考えながらもつらつらと語られていた様で、気焔はそれを聞き終わるとこう言った。
まぁ、予想通りなのだけれど私ががっかり、するセリフを。


「今日は中止。とりあえず大人しくしてろ。朝どの後は頼む。」
「そうね。何しろこの後すぐに出掛けるのはやめた方がいいわね。」

この二人に言われちゃ、どうしようもない。


「はぁい。」

小さく返事をして、ボーッと部屋を眺める私の山百合をちょんと弾いて「行ってくる。」と気焔はパッと居なくなった。

きっとラガシュの所に行ったのだろう。


「さ、手伝うわよ。て言ってもそんなに出来ないけど、「猫の手も借りたい」でしょう?」

和ませようとしている朝の気遣いが嬉しく少し、笑う。

でも。

藍に浄化してもらって、嫌な空気は消えている。

しかし、物はぐちゃぐちゃの、ままだ。


「……………やるか。」

「今日は片付けデーね。」

そんな事を言いつつ揺らす、ふわふわのしっぽを見ながらため息を吐く。

「ていうかさ………調べてもいいけど、戻してよね………。」
「いや、ダメでしょ、調べたら。」
「まあ、比喩よ、比喩。」
「まぁね。さ、まず何処からやる?」

うーん。

「座りたいから、出窓からやろうか。」

「そうね。」



そうして腕まくりをすると、落っこちているクッションを拾い始めた。

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