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7の扉 グロッシュラー
ラガシュの調査結果
しおりを挟む「遅かったですね。何処へ寄り道していたんです?」
そんなラガシュに迎えられたのは、私達が本棚の陰で一休みしてからだった。
確かに、ちょっと休んでたけど。
「遅かったですね」と言われる程でもないと思う。
とりあえずそんな事を言い合っても仕方が無いので、「待ってました?」なんて誤魔化し、私はラガシュが引いた椅子に座った。
この、奥のスペースは狭い。
ラガシュは自分の机の椅子に座ったが、気焔はいつも通り私の背後、本棚に凭れて立ったままだ。
「ええと…………。」
机の上をバサバサと、何か探しているラガシュ。
私は気焔は知らないだろうなぁと思いつつも、くるりと椅子の上で回り、気になっていた事を訊いてみた。
「ねぇ?銀の家の人って、さっき会った人たち三人と、ベオ様のお兄さん、他に誰か、見た?」
館のユレヒドールも、銀ローブだった。
祭祀の時は、みんな空色だったから人の顔を覚えるのが苦手な私は、殆ど覚えていない。
あの、赤黒い人は印象が強過ぎて、流石に覚えてるけどね………。
少し、考えた気焔は意外としっかりとした答えをくれた。
「いや、多分いないな。他の色で、見た事のない者はいたが、銀はあれだけだろう。」
「そうですよ。何処でチェックしたのですか?流石ですね。」
そう、ラガシュが答えたので気焔の言葉が正解なのだと判る。
確かに何処で、見たんだろう?
「それはいい。何か、分かったのか。」
話を逸らす様にラガシュに振る、金の石。
何処かフワリと飛んで調べたのだろうか。
確かにラガシュも気焔の事を「私を守る何か」だとは思っているだろうが、まさか石そのものだとは思っていないだろう。
「はい、勿論。僕が調べていたのは「誰が」本当の事を知っているのか、「誰が」偽物を信じているのか。」
「………それと、銀の家の事ですね。そっちは中々骨が折れまして、まだ少しですけど何となく、見えてきました。」
そう言って得意そうに机の上から探し出した紙を、ワゴンの本の上に、置く。
机とワゴンの使い方が逆じゃなかろうかと思うのだが、ここも勿論、禁書室と同じ様に本の山だらけだから仕方が無い。
紙を指でなぞりながら、説明をしていくラガシュ。
その、彼が「知っているか、知らないか」を確かめた方法と言うのが中々に面白かった。
「まずですね。全員、祭祀には出ている訳ですから。知っている事は、知っているのです。だから、「どちらを信じているのか」確かめれば良かった訳なんですけども。」
「子供達は、簡単でした。そもそも、何も聞かなくても、あなたの話しかしませんでしたからね、彼等は。」
聞くと、ラガシュは許可を得て造船所へ行ってきたらしい。
私はネイアなら自由に行けるものかと思っていたのだが、それはクテシフォンやハーゼルだけの様だ。
元々出入りの無いラガシュは、申請が必要らしい。
箱舟が、ある所為だろうか。
「朝も言ってましたけれど。あなたが、あの子達の為もあって光を降らせると。予言していたそうですね。私はあなたが「青の少女」だとは知っていましたが、まさか予言者だったとは知りませんでしたよ。」
少し、揶揄いも含んだ声でそう言うラガシュ。
私はみんなの様子が気になっていたので、ラガシュが見てどうだったのかも話してくれる様、お願いした。
「そうですね………。僕は造船所自体が初めてでしたから、仕事のアレコレはなんとも言えませんが。まぁ、みんな楽しそうでしたよ?明るくなったとは、シュレジエンは言ってましたから。あと、力がやはり増えたので最初は戸惑ったけれど、助かってる、とは言ってましたよ。」
「それなら、良かった………。とりあえずの、目標は達成できたかな。でも、私がしたのは「予言」じゃなくて、「宣言」ですよ。」
プリプリしながらそう言っても、可笑しそうにニコニコする彼。
キロリと睨みつつも少し、安心した。
みんなが元気なら、とりあえずそれでいい。
「なにか」を見つけられたのか。
それはきっと、直ぐには分からないだろうから。
私は誰がどんな様子のか訊き、ラガシュは子供達の名前が分からない為、二人であれこれ言っていると、そんな私達のやり取りに気焔が先を促す。
「で?子供達以外は?造船所も大丈夫だろう?後は何処だ。」
確かに。
他に、知ってそうな、人?
ラガシュがまた紙を指して、逆に気焔に確認する。
「ここ、グロッシュラーは狭いですからね。確認しなければならないのは、ここ、造船所、貴石、館です。貴石は、あなたの担当になっていたかと思いますけど?どうでした?」
えっ。
そうなの?
思わず首がぐるりと動いて、金髪を見上げる。
ヤレヤレという顔でチラリと私を見ると、ラガシュに視線を戻して話し始めた。
「余計な言い回しをするな。レシフェには確認した。あそこは大丈夫だ。あの二人がいるからな。」
レナとレシフェの事だろう。
あの祭祀の後も、二人が後処理に奔走したと朝から聞いている。
それにしても。
あの時。
みんなが蹲り苦しんでいる時、多くの大人達は放っておいたし、爆ける石の方に気を取られていた。
具合が悪くなった大人も、子供も、大概の人たちを助けたのはあの二人なのだろう。
確かシュレジエンにも頼んだとか言ってた気もする。
「眉間にシワが寄ってますよ。」
「えっ。」
ラガシュに指摘され、おでこに手をやった。
いかんいかん、これは後で朝にもう一度聞こう。
「では、貴石はいいとして。まず、館ですが。ここはちょっと微妙です。」
「微妙?」
私が首を傾げると、ラガシュはまた紙を指し示した。幾つか名前が書かれている。
「この、ユレヒドールがここグロッシュラーの主です。これも、銀の家。銀の家同士も幾つか派閥があるみたいですね?私は詳しくは知りませんが、どうやらこの、アリススプリングスとユレヒドールは同じ派閥らしい。」
二人の名が丸で囲まれて、繋げられている。
そして、もう一つそこには繋がっていない丸も、あった。
「この、ブラッドフォードさんは………。」
「はい、彼は派閥が違います。そして僕の感覚的に言えば、この、二人はライバルのような感じらしいですね。年も近いし、今はアリススプリングスの家の方が勢いがあるらしいですが、昔はブラッドフォードの方が上だったらしいですよ?」
この人、何処からそんな情報仕入れてくるんだろうか。
私の顔にまた書いてあったのだろう、ラガシュは「それは秘密です」と言っていたけど。
「で、ですね。今はその「青の少女」だけがこちら灰青に滞在する事になり、あの二人は館です。もしかすれば、様子だけ見て帰るのかも知れません。ずっと、こちらにいる訳にもいかないでしょうから。」
「そして。アリススプリングスはあなたが本物だと勿論知っています。しかし、ユレヒドールは利用されているだけかもしれません。」
「えっ?仲間なら、教えれば良くないですか?」
その方が色々、動きやすそうだし、融通してくれるのではないだろうか。
しかし、そう思った私の考えは甘かった様だ。
「ヨル。あなた、まだ解っていませんね。」
「?」
「物凄く、美味しい食べ物があったら人は、どうすると思いますか?まぁ、あなたならみんなで分けるのでしょうけど。」
…………。
それって。
チラリと背後に視線を流すと、やはり「当たり前だろう」という顔をしている。
しかし、「あの男」に「ひとりじめ」される事を想像して身震いをした私は、咄嗟に両腕を摩る。
無理無理。鳥肌…………。
それに気が付いたのだろう、さり気なく(ラガシュは絶対気付いたと思うけど)背後から髪を直すフリをして、気焔が山百合に触れた。
ちょっ、と弾く、程度。
しかしそこから全身に柔らかな暖かさが拡がり、ホッとして腕を下ろす。
顔を上げると、ラガシュは私が落ち着くのを待ってくれていた様でそのまま話し始めた。
「ま、貴方達がその調子なら大丈夫でしょうかね。はい、じゃあブラッドフォードですけれど。」
なんだろ、この前置き。
うん。
「彼は知っているかはまだ判りません。ただ、デヴァイには新説の資料が殆ど残されていないので、こちらに残ったという話です。図書室へ来るとすれば接触を図ってくるかもしれません。まあ、近づいてくればそうだって事なんでしょうけど。」
既に目を合わせていた私達。
気焔がラガシュに答える。
「偶然、かは分からんが先程挨拶した。あれは知っているぞ。」
「えっ?そうです、か………。ふぅん?何でか、分かります?」
「いや………。しかし、あいつは祭祀を見ていて解ったのだろう。そんな気がする。」
気焔のその言葉を聞いて、すんなり納得した私がいる。
あの、ベオ様のお兄さん。
何でだろう、と思っていたけどあれを見ていたなら「私がそうだ」と、解った人だっている筈なんだ。
勘がいい、というのだろうか。
結局、ベオ様とだって最終的には仲良くなった。
あの人は。
「女にだらしがない」という部分と、祭祀での彼の、目。
そんな事が私の頭の中をぐるぐる、回っていた。
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