透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

銀の家のあの人

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きっと気焔は不思議に思っていたに違いない。


だって、私があの集団に会って、しかもに手を握られたにも関わらず、機嫌良くご飯を食べていたし、今だってスキップでもしそうな軽さで深緑の絨毯を進んでいるから。



少し、先を歩いていた私がくるりと振り返ると、何だかおかしな顔をしている、彼。

まぁ、気にしないで図書室への扉を開けたけどね。




そう、もしかして「アラルエティーはあのアリススプリングスの事が好きなのかも」という事に気が付いてしまった私は、一番の疑問が解決したような気がしてウキウキしていた。


そもそも、「青の少女」のフリをして、何の得があるのか。

それが分からなかったからだ。


だって、他の人からすればもしかしたら「利用価値」はあるのかも知れない。
しかし、本人的には変にまじない力を要求されそうだし、お淑やかにしなきゃいけなそうだし、何してても注目されそうだし…………。

まぁ、色々、私にとってはいい、と思えるポイントがあまり見当たらなかったから。


でも、さぁ?
のコトが好きなら、分からなくもないんだよね…………。

うーん、恋する乙女は凄いよねぇ………。



そんな事を考えていたので、どうしたってニヤニヤしてきてしまうのだ。




そうして今日も進む、本の森。
同じく人の騒めきが多い雰囲気を感じつつも歩を進める。

無意識で右方向、ネイアのスペースへ歩いていた私。


サクサクと、ヒールが絨毯に沈む感覚だけを感じながらゆっくり、歩く。
しかし、少し、下を向いて歩いていたのがいけなかった。

気焔と一緒にいるからと、かなり無防備に何も考えず歩いていたのだろう。


すぐ左の通路から出てきた、「誰か」にぶつかってしまった。




「あっ。」

「ご、ごめんなさい!」

「失礼。」


よろけた私を、謝りながら抱き止めた気焔。


「…………ベオ様?」


その、私がぶつかった人を見てポロリと口から出た、言葉。


見上げた私を、じっと見つめるその人の青い、瞳。


やっぱり、似てる…………?


銀のローブに、同じ、薄茶色の髪。
サラリとしたストレートの髪がフードから覗く彼は本当ににそっくりだ。


完全に、「大きいベオ様」なんですけど…………。


チラリと傍らの気焔を見るが、彼もやはり「そうだろう」という顔をしている。

確か、リュディアが「お兄さんがいる」って言ってたよね………?


シン、とするその、空間。

何故だか私達は視線を交わし合い、お互いを見定めている様な、そんな雰囲気だ。


お兄さんは、何か、ベオ様から聞いてるかな?



私がぐるぐるし出したのと、銀のローブが僅かに動き私をしげしげ見出したのと、気焔が私の腕に少し力を込めたのは同時だった。

ハッと気が付き、彼の視線を受け止める。

金の腕は私を後ろに引こうとしたが、多分、順番的には私が挨拶をしなければならない筈だ。


気焔の手にそっと自分の手を乗せ、外し、その「大きいベオ様」を真っ直ぐに見て挨拶をした。


「初めまして。セイアのヨル、と申します。」

弟がいるか、訊きたかったがいきなり訊くのもアレかと一応、挨拶だけにしておく。


私をじっくりと眺めると、三拍くらいおいてから彼は話し始めた。

「ふむ。私はブラッドフォードだ。愚弟から何か、聞いているか?」

やっぱり。
お兄さんだった。

ていうか、これで「他人だ」とか言われても信じられないけどね。


「何か聞いているか」と言われても。
リュディアやベオ様、後は確かエイヴォンが「女にだらしない」的な事を言っていた気がする。
でもそんな事、言えるわけないし………。

とりあえず、ニッコリ笑ってやり過ごす事にした。

「いいえ、特には。お兄さんがいる、というのは聞いてました。それに、凄く………似てるって言われませんか?」

「まあ、な。」

そう言って彼がパサリとフードを肩に落とす。


「わ…………。」

思わず声が出たが、髪質は少し違うけれど本当にそっくりだと思う。こうして、フードを取ると、更に。
しかし彼がそうした事で、自分がフードを脱いでいない事に気が付いた。

そのままパサリと外し、少しお辞儀する。


「ふぅん。あの、祭祀は見事だった。これ迄にない、光が降ったし力も多かった。君、か。」


えっ。

なんで?
これって、この人知ってるって事だよね?

思わずチラリと横にいる気焔を、見た。


気焔は彼の言葉を無視して、その青い瞳をじっと見つめたまま、挨拶を始めた。

「青のネイア、気焔です。この、ヨルの婚約者でも、あります。」


ど、どっひゃーーーーーーーーー!!


まさかここでそんな事を言うとは思っていなかった私は、思わず両手で頬を挟み、下を向いていた。
だって絶対、顔が赤いに決まっている。


なんでなんで??そんな場面だった??!?


私の目には二人の靴と深緑の絨毯しか写っていないのだけれど、二人はその間もやり取りをしていた。

「ああ、。ふぅん?まあ、力はそう、弱くはなさそうだな?」

「いえ。」

「謙遜するなよ。何故、俺が知っているのか警戒してるんだろう。決まってる、が分かり易すぎるんだ。ま、せいぜい気を付けるんだな。大事なお姫様なんだろう?」

「…………。」

「何かあれば、頼ってくれていい。じゃあな。」


そう言って視界から消えた黒い、靴。


私はやっと、顔を上げてそのままの顔で隣の彼を見る。

気焔は私の背に腕を回すと、そのまま本棚の影に連れて行き私の頬の手を外して下ろす。
そのまま、見つめる金の瞳。

何故だか強く、焔は燃えているのだけど危険やその、色では無いのが見て取れたので私は呑気な答えを返していた。


「それにしても、そっくりだったねぇ。」

そっと、彼の頬に手を、伸ばす。

重ねられた手が熱くて、落ち着かせる様に少し金髪を撫でる。あまり、立っていると届かないのだけど。

「………大丈夫だよ。」


そのまま、少しの間撫ぜていた。




以前よりは人気ひとけの多い、本の森。

遠くの話し声や人の気配があちこちに感じられて、「ああ、変わったな」と思う。
私はやっぱり、静かな図書室の方が好きなのだけど。

そのうち、落ち着くだろうか。


そうしていると、私の金髪に伸びている手を掴み「行こう。」と気焔は歩き出した。

確認するように覗き込んだ瞳が、落ち着いていたので安心する。


そんなに、あの人危険人物だったっけ?


そんな事を思いつつも、手を引かれながら奥の小さなスペースへ向かった。
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