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7の扉 グロッシュラー

みんなの様子

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次の日からは、私も通常運転だ。


朝からゆっくりお茶をしてから、礼拝へ臨む。



ミストラスも何度か来てくれていたと聞いていたが、ちゃんと話してはいない。
礼拝堂で、挨拶するくらいだ。

しかしなんだかんだと声を掛けられる事が多くなった私は、何か用があれば呼ばれるだろう、くらいに思っていた。

以前も急な、お茶会だったしね。



そう、その祭祀の後の様子は、と言うと。


あの、祭祀の朝、みんなに結構声を掛けられていた私。

「がんばって。」
「楽しみにしてる。」

とか、励ましの言葉が多かった。


そして、祭祀後は勿論

「お疲れさま。」とか
「良かったよ。」

など労いの言葉をかけてくれる人も勿論いるが、対応が変化した人も、いた。
何故だか遠巻きにする人、そして多分少しの嘲笑を含んだ囁きも聞こえてくる様になった、事。
祭祀の後から態度が変わった人も、やはりいたのだ。


朝から少し話を聞いていた私は「ああ、あの事ね。」と、思っていた。


そう多分、その人達は「青の少女」の事を「本物」で私の事を「偽物」的な扱いをしているのだと思う。
私の事を以前から青の少女だと思っていた人はいないと思うが、ある意味私が主役だった、あの祭祀。

それで、多色の光が降っていつもよりも、力が降りた。
自分で言うのもなんだけど、光はかなり神々しく、確かに「予言の少女」を演出するにはピッタリだった筈だ。


そしていつの間にか私が眠っている間に、その手柄は主役の私ではなく、ただ参列していた彼女のものになった。
その理由が「新説にある、青の少女が彼女だから」と説明されているのだろう。

「この、がいたから、光が降りたのです!」とでも宣伝したのだろうか。



つい、この間迄新説についても知らなかった様な人にいきなり嘲笑されるのも癪だが、「私が本物だけど!」とか、言う訳にもいかない。

そもそも、本当の、ホントの所で「青の少女」とは、なんなのか。


それは、私も分からないのだ。








「セフィラの日記にも、何も書いてないしなぁ………。」


ブツブツ言いながら、気焔と礼拝後の白い廊下を深緑の館へ向かう。


今日もいつもの様に、朝食後に図書室で勉強もしたいけど先にラガシュに会わなければならない。

あの人も色々調べてくれてたみたいだし、お礼、言わなきゃね………。

つらつらと考え事をしながら、歩く。



ボーッとしながらある意味いつも通り歩いていたら、斜め前を歩いていた金色の手が出て、急に止められた。


うん?

「どうしたの?」


もうすぐ深緑の館、入り口、という所である。


気が付くと、珍しく白の廊下は騒ついていて、なんだか浮き足立った雰囲気だ。

広い廊下に、そう、数はいないが少し緊張した面持ちの人、何かの支度に忙しそうな人、野次馬っぽいセイア達。
所々に散らばる人々の様子がいつもと違うのが、判る。


背後から何人からのネイアが急ぎ足で通り過ぎ、誰かが来たのかな?と思った。


でも。
ネイアが出迎える様な、人?


嫌な…………予感というか、実物、かも………。



ぐるりと廊下を見渡し、目をやるいつもの大きな石の、門。

入り口付近の人だかりが少し捌け、更に左右に分かれ、道が出来る。

遠目にも判る、銀のローブが四人。

どう見ても、グロッシュラーの人じゃ、ない。

だって、私達は全員合わせても私を除けば三人しかいないのだから。



直ぐに「あの人達だ」と分かった私は、気焔の袖を引いて尋ねる。ついでに青ローブに隠れながら、だ。

「ねぇ。ここにいて大丈夫?」

「会いたくはないが、いずれは会う。とりあえずここなら、食堂か図書室よりでは、ないか?」


確かに。


どこで、私たちが挨拶をしていても目立つだろう。

なんてったって、今話題の「青の少女」と「偽物」の私だ。どうしたって、何も知らなくたって、注目はするだろう。

今ここにいる人数だけの方がよっぽどいいし、殆どネイアだ。

気焔の言葉に納得した私は、そのまま彼の隣に立っていた。


しかも、気焔の隣にいる時に会っておいた方が何となく精神的にいい気がする。





いつの間にかミストラスが来ていて、あの辺の銀ローブ率が高い。

何やら挨拶が終わった様で、ミストラスを先頭に銀ローブが四人、続く。途中で下働きっぽい灰ローブの人達が灰青の館に入って行く。


えー。あそこに住むの?
館かと、思ってたのに!


心の声が漏れていたのか、気焔がポソリと呟いた。

だ。」

成る程。
確かにそれは、私も気焔を要望するわ………。

実際は要望する前に手配してくれていたのだけれど、フロアがまじないで分かれているとは言え、あの子には、会うのだ。

てっきり、高慢ちきな銀の家なら館にいると思ってたのに~!



そんな事を考えていると、足音が少し手前で止まった。


ミストラスが、わざと止まったのだろう。



白の廊下はある意味いつもより静かで、歩く人達も静かに足音を立てず通り過ぎて行く。

真ん中に、ポツリポツリと佇む私たち。



ん?

この展開は………。



いつものグレーの髪を今日は黄色っぽい紐で束ねている、彼の瞳は今日は静かな茶色だ。
静かに、私を見ている。


やっぱり?

私、だよね??

私の顔は勿論、ミストラスに話しかけていただろう、茶の瞳が「そうだ。早くしろ。」という色を映したので、急いで一歩、前に出た。


「初めまして。銀の、家セイアのヨルと言います。よろしくお願いします。」

危うく最後に「?」を付けそうだったが、頑張った私。


銀の家に、銀の家って言うの??
初めましての人じゃない人もいるけど、いいよね??

そう、私の頭の中は「???」だったから。



ミストラスの後ろに並んでいるのは、赤黒かった男の人、多分この子が「青の少女」かという確かに見事な青い髪の女の子、そしてシュマルカルデンと、知らない男の、人。
全員、銀のローブ。でも…………。

誰だろ、この人。


そして、どういうシステムなのか分からないが自己紹介してくれたのは女の子だけだった。


「初めまして。私も銀の家、アラルエティーと申します。よろしくお願いしますね。」

そう、自己紹介した彼女は見事な空色のフワリとしたロングヘアーを揺らしてお辞儀をした。
私を真っ直ぐに見る、灰色の瞳。
少し銀色っぽくも見えるその瞳は、色白な事も相まって、確かに「これなら青の少女だな」という雰囲気を醸し出していた。


てか、少なくとも私よりは、「ぽい」と思うんだけど。



なんだか楽しくなってきた私は、背後の男性二人が挨拶する気配がないので、ニッコリアラルエティーに微笑むと「これからよろしくね。」と言って手を伸ばす。


しかし、素早く私の手を握ったのは少し後ろにいた筈の「あの男」だった。




えっ。


その瞬間、場の空気が一変したのが、判る。


しかし、私は正面にいる彼女の顔が一瞬歪んだのが気になって、背後でピリッとした気配を全開にしている気焔を止めるどころじゃ、無かった。


気の…………所為?


既に、先程迄の和かな表情に戻っているアラルエティー。
その表情には少しも翳りは見えない。


しかし、その手を振り解いていいものか一応迷った私は「なんでしょうか?」という目をあの男に向けた。

ていうか、急に手を握るの、やめてくれないかな………。


「ああ、すまなかった。挨拶がまだだったね。私はアリススプリングス。彼は館の主、ユレヒドールだ。これから僕は此処にも出入りする。、仲良くしよう。」

「はい。…よろしくお願いします。」


わざとらしい挨拶をする、長い名前の男。

手が緩んだ瞬間、パッと引っ込めてまたアラルエティーの表情を確認する。

うん?やっぱり?

少し、安堵の色が浮かんでいるのは気のせいだろうか。


ふぅーーーーーん?



なんだかいいものを見た気がした私は、アイツに手を握られた事も忘れて、ちょっとウキウキしながら朝食へ、向かったのだった。



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