透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

禁書室

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心地よい灯りの深緑の、森。

いつもの古い、本たちの匂いも人が多いからなのか落ち着かなく漂っている気がする。


いつもは、にひっそりと存在している本の気配も本棚の森にすっかり隠れてしまっている様だ。

「最近、ずっとこうなのかな………?ちょっと、落ち着かないよね、君たちも。」


つらつらと本に向かって話し掛けながら歩いていると、誰かが私を呼ぶ声が、した。


「ああ、良かった。」

「すみません、心配お掛けして。」
「いや。ダーダネルスに会って、一人で見に行ったと言うからな。心配したぞ。」

本棚の間から出てきたのはクテシフォンだ。

聞くと、これからやはりウェストファリアの所に行くのだと言う。

「ヨルも、行くのだろう?もう行っているかと思ったが、無事で良かった。」

「………無事?」

「とりあえず、行こう。」

辺りの様子を窺いながら私の背を押す、大きな手。

クテシフォンが焦っているのは珍しい。


自分の状況が分からない私は、大人しく背を押されて奥の部屋へ向かった。








「やあ。久しぶりじゃの。その後、どうだ?」


珍しく私を待っていた様子の白い魔法使いは、既に本の山の前に座り私に長椅子を示している。

クテシフォンと並んで椅子に収まった私は、自分の体調はそこそこに訊きたかった事を口にした。

「すっかり、元気です。ゆっくり休めましたし………。それにしても、どうですか?新説をみんなが信じれば、いい方向にしか行かないと思うんですけど………。あの子達は、どうしてますか?待遇は?なにか、変わりましたか?」


クスリと笑い目を細めた白い魔法使いは、「まあ、落ち着きなさい。」と言って持っていた紙を本の上に置いた。


「あの…………?」

私の視線に気が付いた、クテシフォンが教えてくれる。

「ヨルが寝ている間、「青の少女」のお披露目があった。あの、ユレヒドールの館で、だ。」

「お前さん、行きたくないと言っていたくせに結局………。」
「まぁ、それはいいのです。それは、ウェストファリアがその子の手を、握った調査書です。」


そう言って、その紙を手に取り私に差し出す。

少し、厚めのいつもの紙に書かれた、魔法使いっぽい、文字。

所々読めないが、だけは、解った。


「黄色…………?」

「そうじゃ。まあ、「普通」じゃな。」

そう言って髭を撫ぜる白い魔法使い。
その青緑の瞳は、何を考えているのか私には、読めない。


するとクテシフォンが教えてくれる。

は、見たところ普通の少女だ。まぁ、こっちはヨルが「本物」だと、知っているから見えるというのもあるかも知れん。は、中々神秘的だったからな。」

なにそれ。気になる。

私は少し前のめりでクテシフォンに迫る。

「えっ。どんな、どんな感じなんですか?年頃は?同じくらいですかね??会えるかな………?」


正直、私だって「青の少女」は見たい。
だってなんか、面白そうだし。

どうして、ここに来たのか。
誰に、連れて来られたのか。
本人は、「自分を青の少女だと思っているのか」どうか。

めっちゃ、気になるよね………。



そんな私を少し呆れた目で見つめるクテシフォンは、諭す様にこう言った。

「あまり、近づかない方がいいのだがな。何を企んでいるのか、判らんぞ。」

「そうですか?でも、本人も巻き込まれただけとか、あり得ますよね?」

「まぁな。しかし………。」

その言葉を引き継ぐ、白い魔法使い。

「知っては、いるじゃろうな。とりあえず、の目的が「お前さん」だという事は。」

「えっ?」

うん?

話が見えない。

「そもそも、何がどうしてその子が「青の少女」って、なったんですか?自分で言った訳じゃ、ないですよね?しかも………。がいた所為でが降った、そうなってるならかなりの………。」


その辺の人が言ったところで、みんなが信じるとは思えない。


、人物が「この子が、予言の少女で光を降らせた」と言った筈なんだ。

それを、どのくらいの人が信じたのかは分からないけど、少なくとも新説をみんなが調べる気にはなっている、という事。


光の影響は、確実にあった。


ただ、もしかしたら。


の、今後によって光の方向性も変わり得る、という事ですよね…………。」


白い魔法使いは頷いて私の手の紙を取る。


「お前さんは本当に聡いの。だからこそ、なのだが。」

「とりあえずの所、お前さんに注意が向いていないのは、有り難いと言う以外はない。しかし、本気のものが狙ってくる、という事じゃろうな。しかし、お前さん自身はあまり、心配せずに研究に励むが良い。私達の間では、そのようにするのが一番だと結論付けた。」

「お前さんは、お前さんの、「やる事」をやる、という事だけじゃ。いいな?」


青緑と、青の瞳、白い二人のローブ。

二人とも真っ直ぐ私を見つめて、そう言った。



きっと、私が寝ている間に色々話し合ってくれたのだろう。
その上で、以前と同じく、「其々が、それぞれの事を。」という結論に落ち着いたのだ。

まぁ確かに。
根回しは、オトナの、仕事だよ。


「一つだけ、いいですか?」

「うん?」

「その、「青の少女」を連れて来たのって………。銀の家、ですよね?あの、シュマルカルデンの………。」

「ほお。何故、そう思う?」

「………あの、人。その、シュマルカルデンと一緒に居た人が。」

思い出して、両腕で自分を抱える。
あの、赤黒い、色。

何故だかレシフェの真っ黒よりも、怖い。

なんでだろう?


「あの、途中からまずい雰囲気になった時。…………分かります…よね?あの時、あの人はまじないの色が変わりました。」

そういえば、みんなにはなにか恐ろしいものは、見えたのだろうか。

結局、最後のところ、見えてたんだろう………?



「ほうほう。して、何色じゃ?」

私のザワザワにお構いなしに、色について興味津々な白い魔法使い。
まあ、分かってたけど。

「最初は、金っぽい、黄色でした。…それが…………赤黒く、なって。」

またブルリと身を震わせていると、ノックの音がした。

「どうぞ。」

誰だか分かっているのか、白い魔法使いはそのまま返答する。



ああ。

いつもの金色を見て、自分が思ったよりあの色からダメージを受けていたのが判る。


気焔が入って来ると、クテシフォンは席を空けてくれ、金色はそのまま会釈すると私の隣にぴったりと座った。



じんわり、暖かい気がしてホッとする。


二人は気焔の報告を待っていた様で、クテシフォンが声を掛けた。

「で?どうだった?」

「ええ、やはり。こちらに通う様です。」

「まあ、そうじゃろうな。見える範囲にいた方がいいかも知れん。」
「それはありますね。は?」

「多分。どの位居るのかは分からないが、直ぐには帰らない様ですね。」

気焔の絶妙な敬語を聴きつつ、誰の話をしているのかとぐるぐるする。
内容的には、「青の少女」の、保護者ではないかと思うのだけど。

そう、すると。
嫌な予感が、する。


「ねぇ、気焔。」

多分、その一言で私の意図を察した、金の彼は白い魔法使いに視線を投げた。


「こやつはもう、お前さんの部屋に移動させる。ミストラスも承知した。詳しくは聞かんが、なのじゃろう?」


えっ。

思わずパッと隣を見るけれど、案の定安定の「無」になっている気焔。

ズルっ!

ていうか、って、どっち??

気焔は私を守っている存在、ってバレた?
それとも、婚約者の方??

……………でも、どっちも、どっちだな。


とりあえず、私に言える事はそう、ない。


「ありがとうございます。」

「何しろ身辺に気を配るしか、とりあえずの方法は無い。向こうもこちらの出方を見ている可能性も、ある。がどこまで、何を把握しているのかも、まだ分からないしのう。」


そう言って立ち上がり、また部屋をぐるぐるし出す白い魔法使い。
それを見てクテシフォンが注意点を話し出す。


「ヨル、少し造船所は控えた方がいい。まず、色々落ち着いてからだな。子供達にはこちらでも会えるだろう?シュレジエンは気にすると思うが、安全第一と説明しておく。しばらくは、図書室だな。少なくとも、その子がここに、落ち着く迄は。」

「…………そうです、ね。分かりました。」


それって結構長いんじゃ………と思わなくも無かったが、私の為に大勢を動かすのも、申し訳ない。

それに、がウロウロしているなら、私だって会いたく無いのだ。


青の少女には、会いたいけどね…。



「暫く落ち着かないだろうが、よろしく頼む。」
「ああ。」



なにやら気焔とクテシフォンは相談をしていたが、私はこれからの生活に嫌でも関わって来るであろう、その「青の少女」に思いを巡らせていたのだった。




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