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7の扉 グロッシュラー
新しい予言
しおりを挟む朝の礼拝後、神殿の廊下を静かに進む。
肩にはベイルート、朝は留守番。
まだまだ、朝の空気は冷たい。
きっと、もっと暖かくならないと、礼拝堂に行きたくないに違いない朝は、今日も「行ってらっしゃい」と私達を送り出した。
目覚めてから、二日目。
どうやらウイントフークに連絡したらしい気焔は、きっと何か言われたのだろう、大事をとって次の日は一日静かにしていろといつもよりも過保護っぷりを発揮していた。
お陰様で、考え事をしたり、のんびり出窓に腰掛けたり、ゆっくりお風呂に入ったり、青の本と、話したり。
自分の時間をゆっくりと過ごせたのは、久しぶりだった。
出窓でのんびりと本をめくりながら、話してくれた祝詞の、こと。
青の本はやはり「祈りは重ねないと駄目なのよ。」と言っていた。
あの日、あの時、少しだけ見えた、青い、空。
その、全ての雲を祓うくらいの、祈りの重なりとは。
「どれくらい、祈るんだろうね………。」
「うん?祭祀の話か?」
ポツリと呟いた私に、珍しく返事をするベイルート。
基本的にいつも独り言を言っている私は、何かを言ってもスルーされる事も多い。
もしかしたら、ベイルートさんも心配してるのかな………?この人も結構心配性だからね…。
私の髪にすぐに気付いて気にかけていてくれた、ベイルート。
あの時は、ベイルートさんも玉虫色の、髪の毛で…。まだ、人間で。
背が高くて、いつもピシッとジャケットを着てて。
急に目頭が熱くなってきてしまった。
やば…………最近、涙腺君仕事してるから、油断してたわ………。
肩に手をやり「ん?」と言うベイルートをそっと撫でつつ、みんなでお店の支度をした事を思い出す。
また、懐かしいラピスの面々を思い出して顔が緩む。
イオスやキティラも元気だろうか。
なんだか最近、ラピスの事をよく思い出すな………。
白い石の廊下を確かめる様に、足を運び進む私。
辺りの装飾はすっかり片付けられ、いつもの、白い廊下である。
少し、寂しい気がするのは私が寝ていたからだろうか。
なんだか、まだ現実に戻ってきてない様な、感じ。
冷えた空気と白い息、石に響くヒールの音を確かめながら、ゆっくりと進んでいた。
あ。
この、歩き方。
多分、ダーダネルスだ。
規則正しいリズムときっと広い歩幅であろう、音の間隔。
くるりと振り向いて、挨拶をする。
「心配かけてごめんなさい。」
朝から、何度も来てくれたのだと聞いている。
いや、朝曰く「しつこかったわよ。」って言ってたけど。
「おはようございます、姫。………あ、いえ、ヨル。安心しました、姿が見えて…。」
礼拝堂では彼が誰かと話していたのは見かけたが、私が先に出てきたので追って来たのだろう。
少しだけ上下している肩に、息を抑えているのが分かる。
「じゃあ、久しぶりに一緒に朝食へ行きましょうか。」
「はい、是非。」
そうして食堂へ向かった私達だったが、私はダーダネルスがいつもの態度だったので自分が祭祀で舞った事をスッポリ失念していた。
いや、覚えてはいたが「その後どうなる」のかを、すっかり失念していたのだ。
騒つくいつもの食堂。
私はいつもの流れでダーダネルスにエスコートされながら、トレーに朝食を乗せ進んでいた。
途中でテトゥアンに小さく手を振り、お礼を口元で呟く。
私が篭っている間の食事をお願いしていたからだ。
良かった。なんだか、元気そう。
そう、テトゥアン以外の人々もなんとなく食堂全体が以前よりも賑わっている様な気がするのは気のせいなんだろうか。
席に着いた私は、早速ダーダネルスに質問する。
「ねえ?なんか、みんな、元気?以前より少し食堂が煩くなってる気がするんだけど………?気の所為なの、かな?」
少し、辺りを見回す白いローブ。
今日の彼の髪についている組紐は銀色だ。
前から、この色だったっけ??
「そうですね。多分、そうだと思います。あの、祭祀からみんなが少し活気付いたというか。多分、「新しい予言」の所為だとは思いますが。」
おっ。
もしかして、これ?
「「新しい予言」って、私がやるやつ………?」
「はい。ヨルは幾つか、本を借りてましたよね。元々、新説の研究書は少ないので今は争奪戦ですよ。その…………「青の少女」がお披露目されてから。」
何となく気を使ってくれているのが、解る。
ダーダネルスは私が青の少女だと思っているのだろうか。
少し、伺う様な目をしながらも食事を進める彼を見ながら、私もスプーンを進める。
少し彼の様子を観察してしまった。
あの、祭祀を経ても変わらない、彼の態度。
私を「姫」と、呼ぶ事。
確信は無いかもしれないが、「なにか」知っているとは思った方がいいだろう。
でも朝が「部屋で白の男達と青の男が会議したわよ」と言っていたから、ダーダネルスも少しは聞いているのかもしれない。
まぁ、この人には隠さなくても大丈夫なんだろうけど。
何故だか自然と信用してしまっている自分がいる事に驚く。
以前から、兄の様には感じていたけれど。
アレを見て大丈夫なら、きっと側にいても変わる事はないのだろう。
辺りに目と気を配る彼を見て、なんだかホッとして食事を終える事が出来た。
青の少女に注目は行っているとはいえ、私の事をチラチラ見てくる者も、多い。
何しろきっと、あの舞は目立った事には違いないのだ。
「ウェストファリアが話したいと言っていましたよ。」
その言葉を聞いて、話を聞きたかった私はパクパクとサラダを口に運んだ。
ダーダネルスに図書室迄送ってもらい、奥の部屋に向かう。
勿論、彼の目的地も同じなので一緒に来た、という方が正しいのだがダーダネルスは「奥まで送ります。」と言って聞かなかった。
しかし、私は少し図書室の様子を窺ってから行きたかったので丁重にお断りしたのだ。
なんだか心配してたけど、流石に二人でいると目立つからね………。
ダーダネルスは背も高いし、やはり一人より二人の方が目立つ。
私達は銀と白だし、ローブの色も、このほんのりとした図書室の灯りの中では目立ってしまうのだ。
よって、暫くの説得の後、私は一人になる事に成功しネイアのスペースからコッソリと廻り始めたのである。
でも、確かに。
いつもより人がいる。
ネイアも、多い気がする。
今迄見なかった顔が幾つか見え、面倒そうなので見つからないようスッと移動して行く。
幾つか知っている顔を見つけ、確認して行く。
あっ。
セレベスだ。
ハーゼルもいると面倒なので、また迂回して行く。
そうしているうちにセイアのスペースに着いた。
こっちも混んでるな………。
いつもの丸いスペースは生徒で殆ど埋まっていて、ほぼ全員が揃っているのではないか、と思ってしまう。
セイアだって、そう人数はいない筈だ。
「何か………怖いな。」
ポソリと呟いた私にベイルートが言う。
「仕方がない。あれを見た後だからな。俺だって知らなかったら血眼で調べるさ。」
うーん。
確かに。
自分で撒いた種とはいえ、本当に「青の少女」が現れてくれて良かったと、思ってしまった。
その人にとっては、どうなんだろうね………。
私はきっとウェストファリアが「青の少女」の事を知っていると思い、もう部屋へ向かう事にした。
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