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7の扉 グロッシュラー
眠り姫
しおりを挟むそうして、祭祀の後。
依るが目覚める迄は、色々あったの。
あの子は寝てるし、気焔はベッタリだし、主にアレコレ手を回しているのはレシフェだった。
まぁ、気焔に色々根回しっていうのもあんまり向いてなさそうだから、今回もレシフェがいてくれて良かったと思う。
元々ホームだし、色々工作するのに打ってつけのあの男は、ある意味張り切って動き回ってたと思うけどね。
「失礼する。様子は、どうだ?」
「いや。………まだですね。」
「………そうか。君も少し休め。起きたら知らせてくれ。」
「はい。」
ミストラスは時々、様子を見に来てた。
この人も、「青の少女」が現れても特に気にしていない人のうちの、一人ね。
そもそも、雪の祭祀で舞を舞わせたのもミストラスだし。
多分だけど、この人には依るがなにかであるという確信があるのだと思う。
気焔は知ってるのかしら。
でも、とりあえず遠ざけてはいないから、そう危険なものでは無いんでしょうけど。
白の男達も、煩かった。
特に、ダーダネルス。
なんたって、毎日、来るからね。
しかも、一日一回じゃ、ないのよ。
まぁ二回なら可愛いわね?多い日は、多分三、四回は来てたかも。
気焔に追い返された時もあるだろうから、そのくらいかしら。
元気だ、という事だけ伝えて依るの顔は、見せなかったの。
あの、金色は。
まぁ本当言うと、誰にも見せたくはないんでしょうけど、ミストラスや白い魔法使いには見せない訳にはいかないからね。
ダーダネルスはダメだったみたい。扉の前で、却下よ、却下。
まぁ、寝ている間にジロジロ見られるのなんて普通は好まないでしょうから、結果オーライだけどね。
ダーダネルスは絶対、じっっっっくり、見るだろうから。
それにしたって、女の子のフロアに来るにはいちいち申請しなきゃいけないみたいだから、後でミストラスに小言を言われたけどね。
なんで私が…………って思ったけど、彼的には「一目見せてやれば落ち着く」って事だったみたい。
それなら、あの金の石に言って欲しいけどね。
そうして、白の男と青の男がすり合わせる事に、なった。
その、「青の少女」が出てきちゃったから、予言の新説が俄かに脚光を浴びて。
図書室、混んでたらしいわよ?
ウェストファリアは青の本の回収漏れがないか依るの部屋迄確かめに来たし、ラガシュは周囲を警戒してた。
そんな二人と、クテシフォンが集まってとりあえず依るの部屋で作戦会議になった。
「あの、光を見てあっちが「青の少女」だと思うなんて、ある意味全くの能無しですよね。」
中々の辛辣なセリフから始まった、会議。
勿論、こんな事を言っているのはラガシュだ。
「まあ、そう言うな。お陰で目を逸らせておる。しかし、今後はどうするつもりなのか…。銀の家なら、そこそこまじないは持っとるのかのう?」
「さて、どうでしょうね………少し探ってみますが、何しろあそこは家同士の情報も少ないですからね。館には基本的に行きたくないしな。」
「放っておくのが一番ですよ。あの、礼拝堂の石は、どうなるか知ってます?それも、銀の家が?」
「ああ。ミストラスは違うと知ってはいそうだが、しらばっくれて請求したらしいぞ。なかなか、やるな。」
「ああ、それなら完全にあっちがニセモノなのは解ってる筈よ。全然気にしてないもの。」
私も男達の会話に参加する。
金色は、聞いてはいるんだろうけど話には入ってこない。
まぁ、あっちは寝室にいるし、私達はダイニングでこっそり作戦会議中だから。
扉は開いているので、話したくなったら出てくるでしょ。
ま、多分来ないけどね。
その時扉を叩く音がして、みんなが一瞬ピリリとした。
「レシフェだ。」
向こうから気焔が教えてくれる。
アレが、部屋の前に飛ばしてあるからね。
ラガシュが扉を開けて、レシフェを招き入れた。
なにこの、むさ苦しい部屋………。
一人老人だし白いし、二人は優男だけどデカいの一人いるし………。
気焔は呼ばなくて正解。
何だかウィールの寮で、男達と予言の話をしていた時の事を思い出した。
今日も、予言の話だ。
なんでいつもこう、むさ苦しい感じの話し合いになるのかしら………。
そんな私の考えなど知らないレシフェは、一応自己紹介をした。
「新しく神殿に出入りさせて頂いております、レシフェです。以後、お見知りおきを。何か入り用のものがあれば、何也とお申し付け下さい。」
スマートに畏っている。
この感じがあの金色にも、あればいいけどねぇ。
うーん?でも、適材適所か。
「やあ、よろしく。」
そう言って手を差し出したのはウェストファリア。
「あっ。」
私が声を出したのと、レシフェが手を出したのは同時で、流石のウェストファリアはもうレシフェの手を握っていた。
あれ、ヤバくない………?
ウェストファリアは確か、グロッシュラーのまじない力の名簿を作っていた。
もしかしたら………。
やはり、私の予想は当たってたみたい。
「ほぉ。お前さんなら色々頼めそうじゃの?久しぶりだな。よく、戻ったものだ。」
もしかしなくてもきっと、レシフェは昔、この白い魔法使いに手を握られた事がある筈だ。
しかし、きっと子供の頃の事なのかもしれない。
少し、驚いたように茶の瞳を大きくすると私の顔を見た。
多分、さっき出した声に気が付いたのだろう。
「大丈夫じゃない?いろが、分かるみたいよ?」
「は?そんな事があるのか…。しかし………まぁ、よろしくお願いします。」
確かに、よろしくするしか、ない。
私達はこれから、その「青の少女」についての話をするワケだから。
「さて?一番詳しいのはやはり、ラガシュかの?私も大体の所は把握しとるが、お前さん専門じゃろう?」
「まあ、そうですね。あれを見てしまってはもう、隠せませんから。お話ししますよ。」
「私はあまり、明るくない。結局、新説とはなんなのだ?それが、あの子に関係ある、と。」
「そうですね………。まぁ僕も最近ですよ。確信したのは。」
そう言って、少し、含みのある雰囲気のラガシュは話し始めた。
光の事は話さなかったが新説を依るが知っていて一緒に研究しようとしていた事、その前に古語の練習として「祝詞」の翻訳をしていた事を、かいつまんで話した。
その「祝詞」で、自分は気が付いたとも、言っていた。
「所謂、従来の予言では世界が滅びに向かう事になります。「青の少女」が、現れる事によって。しかし、新説ではその逆で「青の少女」が救いになる事が特徴です。解釈が180度、変わるのです。銀の家の意図が、分からない事には何も出来ませんがあっちがヨルを「本物」だと解っている可能性は、高いと思っていいでしょう。」
「私もそう思う。その娘は「目眩し」に連れてこられたんじゃろ。まあ、ここ迄の事態は想像してなかったろうにな。そう、考えればまじない力は低い可能性も………いやしかし。」
はい、白い魔法使い脱落。
何やらいつも通りブツブツ言い出したのでクテシフォンはそのまま話を続ける。
「もう、すぐ明日にはお披露目をするそうだ。何がなんでもこじつける気らしいな。」
「そうですね。興奮冷めやらぬうちに、地位を固めたいのでしょう。私は招かれていませんが、あなたは?」
「私も、無い。ウェストファリアだけだろう。各家、一人かもしれんぞ。まぁなんとかねじ込むか、あの調子だと私が代理かもしれないな。」
そう言って部屋をぐるぐる回っているウェストファリアに視線を送る。
きっと自分が行きたいに違いないわね、あれ。
確かに、私も依るの代わりの女の子は、見たいわ。
「どうせなら全員にお披露目して、見せつけてやる、くらいの事出来ないんでしょうかね。まあ、その力があれば、やってるか。」
小馬鹿にしたような態度のラガシュは、「青の少女」を語っているのが面白くないみたいね。
確かに、手柄を全部持ってかれるのは私だっていい気はしないけど。
「俺は石を納めるのに、その場に呼ばれている。その場で力を入れさせるのかもしれないな。」
こっちはもう、通常モードのレシフェに戻ってるけど。
いつもの砕けた感じの、レシフェだが男達に気にする様子はない。
「うん?石?お前さん、そんな大きな石、何処で手に入れたのじゃ?」
「ま、色んな、ツテがあるんですよ。注文貰えれば、卸しますよ?」
「それはいい。ふむ。そうすると………。」
一瞬反応した白い魔法使いは、またぐるぐるに帰って行った。
それを見て肩を竦めたクテシフォンが話をまとめて行く。
「じゃあとりあえず、私とレシフェでその「青の少女」の様子は見るとして、ラガシュは他に「ヨルが本物だ」という事を知っているやつを把握してくれ。青は、皆知っているのか?」
「いえ。僕と、ラレード…は気付いていると思います。それくらいですかね。」
「うーん。あとは、地階くらいか。朝、あいつらは知っているな?」
「そうね。まあ、依るはあの子達の為に、あの光を降らせたみたいだから。」
その、私の言葉を聞いて二人は何故だか顔を見合わせている。
ラガシュは、知ってたんじゃないの??
言ってないのかしら?
何とも言えない顔の二人を見てなんなの、この二人?と思ってしまった私。
子供達が羨ましいのかしら。
薄暗くなってきた、男四人には狭いダイニング。
ウェストファリアは、まだぐるぐる回っている。
しかしとりあえずの情報交換は終わった様で、お開きの雰囲気だわ。
よく分からない状況ではあるけれど、彼らの表情は、何故だか明るい。
その理由なのかどうか、ラガシュが口を開いた。
「見ものですね。どう説明するつもりなのか。逆に楽しみになってきました。」
「俺も。どれだけのやつが、信じるか。」
「そうだな。よし、とりあえず後は目が覚めたらだ。各自、また何かあれば連絡を。」
「了解。」「わかりました。」
そうして白と青の男達は部屋を出て行き、後にはレシフェだけが残った。
紺の髪をくしゃくしゃと掻き上げながら、空いた椅子に腰掛けた。
「…………あいつは?」
「ずーーーっと、くっついてるわよ。」
「違うわ。なんで俺が男の心配せにゃならん。ヨルだよ、ヨル。まぁ、まだ起きないのは分かるが。………以前も、こんな事が?」
うっかり気焔の事を答えた私は自分にウケつつも、考えてみた。
でも、基本的に依るは健康優良児だ。
私だって、ホントは心配だけど。
でも、多分。
「気焔がアレをたっぷり、してるから大丈夫じゃない?なんか、「栄養」ありそうじゃない?アレ。」
その、ちょっと可哀想な言葉を言ってレシフェの顔を見る。
苦虫を噛み潰したって、こんな感じね………。
いいもの、見たわ。
まぁでも、事実だから、ね…。
私の顔に出てたのか、レシフェが皮肉を言う。
付き合いも、長くなってくると猫の表情も分かるのかしらね?
「おま………面白がるのはいいけどな。お前だって、その、アレ?が無いと、心配だろう?」
「まぁね…………。」
でも、専ら私と気焔の「心配」は。
レシフェ達とは、ちょっと違うんだけどね………。
でも、それは言う訳にはいかない。
どうやら、ウイントフークには言ったみたいだけど?
チラリと寝室に視線を投げると、私も欠伸が出た。
今日、疲れたもん………。
「とりあえず、また明日、館に行った後寄るよ。」
「うん、お願い。」
「まぁ、ゆっくり休め。」
「あんたもね………。」
そう言って出て行った最後の、男。
戸締りを確認して、寝室へ向かう。
え?鍵くらい、かけれるわよ?
そりゃ100年以上、生きてればね…。
色々、あんのよ。
「とりあえず、オヤスミ………。」
まだベッドに腰掛けている金色をお月様代わりに眺めていたら、すぐに眠りにつく事が出来た。
この方法、使えるわ……………。
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