透明の「扉」を開けて

美黎

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7の扉 グロッシュラー

確認

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静かにお湯が溜まって洗面室はいい感じの湯気と、湿度で顔がしっとりしてきた。



お湯が溜まった後も、暫く椅子に座ったままボーッとしていた事に気が付く。


気を取り直して、服を脱ぎ、洗面台の鏡で一応、確認をする。




アキは鏡の前の台に置いてあった。

、私は確か、アキを外して手に持っていた。そのまま、落としていたらどうしようかと心配になり、しかし自分が置いたとすればここだと思った。

でも、私は寝ていた筈。

気焔か、朝だろうか。

一応手に取り、確認する。
おかしな所は見当たらない。

「アキ?」

返事は無いが、石がキラリと瞬きの様に輝いたので返事をしたと受け取った。

一応、汚れたかもしれないので布でお手入れをしておいた。
いやいや、早く入らないと………裸でやる事じゃ無いな………。



しかし、鏡でチラリと自分を見て安心すると共に少し、ショックを受けた自分がいた。


いつも、力を大きく使うと色が、変わる事が多い私。

しかし今回、特に変化はない。
とは言っても、もう髪も殆ど白に近い水色だし、瞳は殆ど金に、少し水色だ。


これ以上、薄くなったら私真っ白じゃん………。


そう、思いながら肩に手を触れる。

そう、あの、アザが濃く、なっているのだ。


「シン………。」


あの時。

この、グロッシュラーでは「手を出さない」と認識していた彼が来てくれて、物凄く安心した自分がいた。

あの、「何かはわからない怖いもの」。

あれを見た時、感じた、感覚。

には抗うことの出来ない、あの存在。




うん?………「何かはわからない怖いもの」って

確か……………前も………?

何処かで…………?



頭の中に靄がかかって、思い出せない。

ついさっきまで、少し頭が痛かった事を思い出して、考えるのを止めた。


「リラックス、しなきゃ。」


しなきゃと言って、するものでもないかと思うが、仕方がない。

考える事が、多過ぎるのだ。


少し、アザに触れて擦ってみるけど変わらなくハッキリ付いている、その、「しるし」。



でも、これは。
「あの人」のものだから。

「わたし」は大丈夫。


深呼吸すると、やっとシャワーを浴び身体を洗い始めた。
ルシアの石鹸を贅沢に使い、いい香りを愉しむ。


少しピンクの泡を洗い流し、ゆっくりと湯船に浸かった。





「……………………ふぅーーー。」


目の前の銀板に鎮座している、マスカットグリーンの石と、ピンクの石。

どちらにしようか迷っていた所で、あの、礼拝堂の石が爆けた事を思い出した。


「あれ、どうするんだろ………。」


かなり、大きな石だ。
また調達するにしても、かなり手間が掛かりそうな気がする。

え………もしかして、もその人の所為になってるのかな………何だか悪いなぁ………。



無意識のうちにマスカットグリーンを手に取っていた私は、グリーンの湯船に半分迄顔を沈めて、考え事をする。



うーん?

あの人と………シンが。協力してくれたんだよね?

それで、扉が閉じて。
何故か、「青の少女」が現れて。

みんな、そっちに目が行ってる、と。
いいじゃん………。

私はまだ、やる事いっぱいあるし………。

ていうかみんなの可能性の扉、どうなったの??

あの子達は??

元気かな?何か、変わったかな?
やりたい事とか、見つかったかな??


と、いう事は?

デヴァイの人って………まだ、いるの?
…………うわぁ。なんか、会いたくないなぁ。
とか、力の色が変わってたし………。

嫌な、予感………。



でも。
結果的に、光は、降った。

みんな、なにかを見つける事が、できただろうか。


美しい、と    思ってくれただろうか。




少し、自分の中を探ってみる。

あの人は見当たらない。


いなく………なってないよね?
寝てる、のかな?



自分の中に、のは判る。


なら、大丈夫かな………。




珍しく、グリーンと銀の雲が、出ていた。


「これも、いいね…………。」


サラサラと降る、銀の星たち。

あの、オーロラも物凄く、綺麗だった。

それが、爆けて、光になって。

大きな、扉になって。




正直、私は祭祀が始まる前、そこまで具体的に「なにを」「どうするか」、考えていなかった。

時の、気持ちで、祈ろうと思っていたからだ。


計画すると、どうしても「予定通りに」という意識に引っ張られる。
そうすると、やはり「心から、祈る」というのとは違う気がしたのだ。


「でも。」

マスカットグリーンのお湯が、両手から溢れる。

「結果として、成功したけど、ちょっと………派手だったかな………いや、でも。」


「最高、だった、よね?」


本当言うと、予想以上の、出来。

私の中の眠っているあの人に、心の中でお礼を言う。

ありがとう。手伝ってくれて。
思った通りの、見た事もない、光が降ったよ。

美しかった。

感動した。


ちょっと、傍観者になりたかった。



あの、白い世界の中で、ただただ、あの景色を楽しめたなら。


「最高、だよね……………。」



はらはらと、降る銀の星、時々グリーンの金平糖。少し、金が混ざるその星たちを眺めながらお湯に爆けるパチパチを楽しんでいると、ノックの音が聞こえた気がした。


「ん?」


少し、耳を澄ます。


「依る。」


あ。
心配してる。



多分、思ったより長湯しているのだろう。

「今、上がる。」


少し声を張ると、私は最後に星をひとすくい、石の床に、撒いた。













しっかり、どらいやー迄して、ダイニングへ出るとなんと気焔がお茶を入れてくれている。

「ウソ。願いが叶った。」

私の驚きの言葉に、怪訝そうな金の瞳。

「覚えてない?あの、シャットから一度ラピスに帰った時。うちに帰って、気焔がレナにお茶を入れてあげてたんだよ。私もやって欲しいなぁと思ってたんだ。…………なんかもう、懐かしいね………。」


一瞬手を止めた気焔は、その話を聞くと少し、微笑んでカップを私の前に置いた。

「まだ、そう経ってはいないのだがな。」


そう言って、椅子に座らずいつもの様に壁に凭れる。
視線の先を追うと、既にすっかり夜になった窓の外。

雲は相変わらず空に厚く漂って、夜でも少し明るい、いつものグロッシュラーの景色だ。



少し、香りを楽しんでから一口飲む。

やっぱり、他人に入れてもらうと美味しいな………石だけど。

つらつらと考えながら、空に変化がない事をもう一度、確かめる。


祭祀が終わった後、急に空が現れる訳ではない、それは分かっていた筈だ。
しかし、きっと。

私は期待していたのだと思う。

あの、オーロラ、圧倒的な光、可能性の、扉。


やはり、祈り、それも空に向けての真摯な祈りはチカラになる。

それが確信出来たからこその、期待。


しかし以前、青の本も「まだ」と言っていた。


本当の、空が見える。

がいつになるのか。


それは分からない。
しかし、こうしてきっと、祈りを積み重ねていく事でまた、何かが見えてくるのかもしれない。

この、祭祀が終わったら「なにか」が見えるかもしれない、「わかる」かもしれないと思っていた様に。



実際、やはり動きがあった。


「青の、少女、ね…………。」

カップを置きながらポツリと呟いた私を、壁際の金色が見つめているのが分かる。

其方を、見ない様にしているけれど視線は、感じる。


少し、落ち着かなくなってきていつものスタイルで話そうと思い立った。
茶器を片付け、そのまま、目を合わせずに手を引き寝室へ行く。
パタンと扉を閉じ、そのままベッドへ座らせる。


この人、全然休んでいないのではなかろうか。
絶対、そう。

寝なくてもいいのかもしれないが、少し、疲れた様な雰囲気がある身体、揺れる、金の瞳。

いつもとは逆に私が両頬を挟み、まじまじと顔を確認する。



「どうして………?私は、大丈夫…。」

安定しない金の焔が見て取れ、心配になる。

なにが。
不安なの?
の、こと?

私達は、ちゃんと………。


でも、それは私達が「自分自身だから」解っている事だ。

あくまで、気焔は「実感」する事は、無い。



どうしたら?

安心、させられるだろう…………?





無意識にまた金髪を撫でていた。

頭を胸に抱き、ぐりぐりと撫でる、元気のいい金髪。
どうしたら、また元気のいい、あの跳ねる様な焔になる?
あの、「チカラ」がムズムズする、感じ。
漲る、焔と瞳の、チカラ。


そのまま、自然とまた両頬を挟みチカラを伝える。


その瞬間、私が寝ている間に流れ込んできていた、温かいものが「これ」だという事に気が付いて動転した。

やだ………ちょ、恥ずかしい、けど。
でも。


私は、気焔に元気になって欲しい。
いつもの、ワクワクする様な、彼が見たい。



あの時。



私達には、無理だと思ったけれど。

「あの人」とシンに、任せちゃったけど。






ホントだったら、「私達」にだって、できると。

そう、思うんだ。

だって、私は真摯に空に、祈るし。

気焔はきっと、無限の、私の、金の石だ。

あの、呪文の様に何度でも生まれ変わる。

きっと、もっと、「大きく」なる。


私達の、可能性だって無限大の筈だから。



そう、だよね?





いつの間にか私の腰に回っていた腕に、力が籠る。

ぐっと、抱き寄せられまたチカラを交わし合う私達に不可能は無い気がするのだ。


私が流したチカラを、また返してくる、彼。


元気が無いのはなんだから、返さないでよ…………。

そう思わなくも無いが、私に応えてくれているのは、解る。


ん………。

でも。



ちょ。




ちょっ。


と?




気焔?

気焔さん??





段々と激しくなってきたそのやりとりに、私の限界がきた。


「………っ、ちょっと、もう。………無理。」


少し、涙目でグイと胸を押し逃げる私。

しかし再び抱き竦められ、また胸の中に収められた。


しかし、これは心地が良い。

そのまま、祭祀の疲れを癒しながら私はつらつらと自分の想いを垂れ流していた。



「心配する事ないのに…………あの人と、私は違うし。思っている事も、…………人も、違うし。結局、シンに助けられたけど次は、頑張るし………。」



黙って私の話を聞いていた気焔は、そのままベッドに私をコロリと寝かせると話すのを止めた私に「聞いてる」という目を向け、続きを促す。


自分も、疲れてるだろうに。


でもきっと、子守唄代わりにでもなるのかもしれない。


そうしてまた、つらつらと話をしているうちに、やっぱりいつの間にか眠りに落ちていたのだった。



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