213 / 1,483
7の扉 グロッシュラー
雪の祭祀 混乱
しおりを挟む最初に私に駆け寄って来たのは、シュマルカルデンと、知らない男の人だった。
「何だ、あれは。」
「ヨル、こちらへ来い。」
まだ、何も見えないし出てきていないが、何かがおかしいのは分かる。
しかし、その気配が感じられる私は素直にその男達の元に行く事が出来なかった。
シュマルカルデンはそのままの、黄色なのだが、もう一人の男。
その男の色が赤黒い、禍々しい色に変化したのが判ったから。
さっき迄は、この人金黄色だった。
そう、自分の記憶とすり合わせる。
どうして?
そうしている間にも、上空からは何か大きな圧を感じていた。
徐々に、近づいている。
それは判る。
その、扉から少し光が差したかという瞬間、何かが池で爆けた。
何箇所かでバシャンバシャンと水飛沫が上がり、「なんだ!」「どうした?!」と声が聞こえる。
しかし私の目は上空の扉に釘付けになったままで、見なくてもその爆けたものが礼拝室の石や、気焔が集めておいた石なのだという事が分かる。
何か、その扉から出ようとしているものに反応しているのだ。
受けきれない力が溢れ、石が爆けている。
なんだ。アレは。
出しては、いけないものではないか?
多分、一番大きな礼拝堂の石も爆けた。
まずい。何が出て来るのかは分からない。
側にいる赤黒い男の様な、禍々しさは感じないのだけど。
でも、多分アレが出るとキャパオーバーする。
それが分かるのだ。
目が離せなかったが、意を決して後ろを見、金色の光を探す。
しかしそれはもう、遠くには見えず近くまで迫っているのが分かり少しホッとした。
「えっ。」
何かが触れた気がして振り返ると、さっきの赤黒い男が弾かれたのが分かる。
腕を摩っているのでもしかして私を捕らえようとしていたのだろうか。
側にいるシュマルカルデンも何か言われて、私に近づこうと手を伸ばすが、触れられない。
その時、声が聞こえた気がして、頭上を仰ぎ見た。
ぼんやりとした白い、何か。
その何かに呼ばれている気がして見上げるけれど、私の身体はそれを拒否しているのが、分かる。
空の巨大な扉から、頭の様なものが出たその「白い何か」は少しずつだけれど、あそこから出ようとして、いる。
まずい。
何が、まずいのかよく分からないがアレは出てはいけないものだ。
辺りを見渡すとやはり、小さい子供は蹲み込んでいる者が多く、大人でも頭を抱え込んでいる者も、いる。
騒めきが拡がり混乱する者が出てきた。
ネイア達は爆けた石を拾っていたり、お互い確認し合っている。
大体、蹲るのは女性が多く子供と貴石の人だろう、ロウワ達とレナ、レシフェがバタバタと走るのが見えた。
フワリと金色に包まれたのが解って、少し安心したが辺りはそれどころでは無い。
顔を上げ、見慣れた金の瞳に質問する。
声には、出していないけれど。
その、私の質問に答える様に口が開いた。
「アレはまずい。出てきたら抑えられないだろう。」
「えっ…………うん。」
条件反射で驚いた声が出た。
が、しかし気焔の言う事は、分かる。
「どうしよう。私が………。」
「いや。お前が出した扉だが、お前のせいでは無い。」
それは…………。
しかし今はそれどころではない。
さっき私に弾かれた男とシュマルカルデンも苦痛の表情になっている。
辺りからどんどん、呻き声が聞こえてきて事態が悪化しているのが判った。
どうしよう。
その、異変に合わせて辺りが暗くなっている事に気が付く。
その、扉から出てこようとしているものは白いのだが、扉がどんどん色が濃くなりその巨大さから辺りを暗くしているのだ。
待って。
違う。
あれは、なに?そんなものは呼んでいない。
辺りを悲鳴にも似た声が包み、呻き声も自分を責めている様に聞こえ出す。
なんで?どうして?あれは、なに?
だが、解決策は思い付かないし気焔の言う通りにあれが自分の手に負えないものだと言う事だけは、はっきりと判る。
でも、私が止めなきゃ。
私の出した、扉。
あれは、「その為」に出したものじゃ、無い。
キリリと空を睨み付けると、声が聞こえた。
「「手伝おうか」」
一瞬、迷ったが多分それが最適解なのは、解る。
「お願い。」
「依る。」
心配そうに私を抱き寄せる金色の靄に、白銀の光が干渉する。
「交代だ。」
「………いいの?」
意外にもそこに現れたのはシンだった。
ここでは、手を出さないって…。
でも、今が非常事態なのは、解る。
とりあえず、あの扉を閉じなくてはならない事も、私達では「あれ」が閉じられない事も。
多分、あれは「ひと」が干渉してはいけない、何か。
それが何故、私の扉から出ようとしているのかは分からない。
分からないけれど、大きくなる呻き声に悩んでいる時間は無かった。
「お願い。私も、交代する。」
何故だか自然と、私の中のあの人とシンが力を合わせる事は分かっていて、私は私を交代した。
「「心配するな。直ぐに、返す。」」
あの人が気焔に言っているのが、分かる。
そう、心配しないで。
私達は、もう解っている。
私達は一緒だけど、同じじゃない。
大丈夫だよ。
伝わるかは分からない。でも、揺れる金色の瞳を見て、思わずにはいられない。
もう、私の視界から気焔は消えて頭上の扉を見ている。
「「暫し。」」
「ああ。」
何か、シンと話しているのは判った。
けれども、次に私が戻ってきたのはグロッシュラーに雲の空が戻ってきてからの、事だった。
「ねぇ。元気出しなさいよ。とりあえず、なんともなかったんだから、大丈夫よ。」
「ああ。分かっている。」
全然、解ってなさそうだけどね。
まぁ、仕方ないわね。あんな事が、あった後じゃ………。
あの、祭祀がどうやって、終わったのか。
まぁ何しろ、大変だったわよ。
どえらい事に、なったからね。
そもそものあの祭祀自体が、古いものを再生しようと試みた、ミストラスのちょっとした思惑と依るの希望とウェストファリアの欲望が上手く、絡み合って実現したものだった。
でも。
結局。
始まる前に、私とレシフェが心配した通りに。
全くもって、予想以上の結果になっちゃった、って事なのよね。
そもそも、依るは祝詞を唱えながら舞うだけ、だった筈なのに、あの子はノリノリで光を飛ばし、氷を創って、思い通りの「氷の刃」を創った。
多分、その場の全員、祝詞を唱えるどころじゃ無かったろうに。
みんな、エライと思う。私は、「あーあー」と思いながら、隅っこで見てた。
まだ、終わらない。
このままじゃ。
そんな匂いが、プンプンしてた。
それで今度は刃をぶん投げたと思ったら、空に飛ばして、なんかオーロラみたいなやつが出て。
で、多分光を降らせなきゃ、と思ったんでしょうね。
降ったわよ。
それはそれは、凄いやつが。
あの子が、言ってた「この世のものとも、思えない光」ってやつね。
まぁ、私もそろそろ御陀仏かと思ったわよ。
あの、光を見てね。
でもそれは、チカラを降す光で、きちんと其々に降り注いだ。予想以上にね。
それで調子に乗ったのかは分かんないけど、まぁでもあの子にとっては予定通り?なの?
よく分かんないけど、今度はどデカイ扉まで、出た。
しかも何だかキラキラしてるっていうか、ギラギラしてるっていうか、主張の激しい、扉よ。
カラフルなやつ。
多分ね、可能性はみんなに降ったと思う。
可能性って、降るの??よく、分かんないけど。
アレを見て、「力が降ればなんでもできる」と思った人は、多いんじゃないかしら。
若しくは、「祈れば、なんでもできる」とか?
心が綺麗な人ならきっと、可能性の扉は開いただろうけど、アレは多分あの子にとっての諸刃の剣にも、なったと思う。
だってあんなモノ出したら、そりゃ狙われるわよ。
実験的に、光を降した
とは言っても、多分他の人が祈ってあの光と扉は出ないからね………。
まぁ、あの子が祈った時点でとんでもない事になるだろうってのは、ある意味想定内だったから………。まぁ、うん。
そうして各々何かを受け取り、さぁ終わりも近いとホッとしていた私も、流石に身の毛のよだつ気配がした、あの瞬間。
あれはねぇ~。あれはねぇ。
あれはねぇ~。
100年以上、生きてる私でもなかなかお目にかかれないシロモノよ。
アレはまずい。まずいのよ。
なんであの扉から、あんなのが??
でも。
多分。
まぁ。
依ると、姫様に関係あるんでしょうね。
あの二人が派手にチカラを使った。
そして、媒介となる扉を出した。
なんだか、どこかと、繋がったんでしょうね。
知らないけど。
知りたくないけど。
それで、もう、人の手には負えなくなった。
まぁ、気焔は落ち込んでるけどシンが来てくれてラッキーだったわ。
姫様は依るの中にいるだけだから、多分一人じゃ無理なんだろうし。
シンはシンで、本体じゃないから一人じゃ万全じゃないだろうし。
あそこも、二人で一つ、みたいなものね。
うん。
そうして息もピッタリな二人はチカラを解放してあの、扉を閉じた。
物凄い、音と光が出たけれどみんなはそれどころじゃなかったのが、幸いしたわ。
具合が悪くなった子には悪いけど、見ない方が良かったわよ、アレは。
多分、神の様な存在の「あれ」は恨めしそうな気配だけを残して、扉と共に、消えた。
そうして依るはそのまま意識を失うわ、シンは消えるわ、辺りは混乱中だわでミストラスが我に返るまで大変だった。
猫に、事後処理をさせるのは如何なものかと。
辛うじてまだ動けるシュレジエンにロウワや子供達を、下働きの動ける者も派遣して。
ネイアは勝手にして下さいって感じ。
アイツら、結局子供達を助けなかった。
依るは、それ見てたからちょっと後でアレかもね。
レシフェとレナは流石にあの子の無茶には慣れてるから、少しは辛そうだったけどテキパキと動いてた。
あの二人がいなかったら、半分くらいの人数あそこに取り残されていたかもね。
本当、有事の時こそ協力できないものなのかしら。
気焔は視線から依るを隠す事に精一杯で、危うく飛びそうになってたけどベイルートがギリギリ止めてたわ。間に合って良かった。
あの子は、まだ眠っている。
気焔はずっとベッドに腰掛けてるし。
まあ、石だから寝なくていいんだけど。
文字通り、穴が空く程見ていて、たまにチカラを流し込んでた。
アレ、チカラを流し込むっていうかアイツがアレをしたいだけなんじゃあ、ってちょっと思ったけど。
まぁ、今回は大目に見てあげましょ。
結局、多分、扉の中では姫様に会わない様に守っていたシンが姫様に会ってしまった。
この影響が、どう、出るのかまだ分からない。
それが不安なんだろうけど。
わざと、気焔に聞こえる様みんなに話しかける。
「ねぇ。知られちゃったわね。」
「ええ。でも。」
言葉を止めたのは、蓮だ。
その続きをビクスが受け取る。
「でも、完全にお互いが「違うもの」だと認めたから、ああなったのでしょう?」
「そうですな。あまり、心配せずとも大丈夫だと思いますがな。」
そう宙が言うけれど、気焔の耳に届いているのかどうか…………。
「色々と、想定外よね。ウチの、主は。」
ビクスはこの中では新人だ。
みんなとは少し、違う視点らしい。
「体が近くなってきたしね。あの神が何処の神かは、判らないけど。いいんじゃないの?あっちから、近づいてきたんだし。私達は、依るは、悪くないわ。」
「そうだと思うけどね。何か、こっちに来るようなことあったかな?って気になるよ。」
「まぁね。でも、神なんて気まぐれなものよ。理由なんて、無いかもしれないし。」
「そうよね。さあ、とりあえずみんな依るを癒して。もう、お喋りはお終いよ。」
藍の言葉で、石たちの会議はお開きになる。
まだ、じっと黙って依るを見つめる金の石。
私も流石に眠くなってきたわ………。
「見つめるのも、程々にね。………起きたら怒るわよ。」
「………違いない。」
私の冗談に乾いた笑いを取って付けると、依るの隣にいつもの様に寝そべる気焔。
金色の焔で、しっかり包む。
出窓に戻り、丸くなった私はまた、アイツがアレをしていたのに気が付いたけれど、もうなにも言う気は無くなって直ぐに寝てしまった。
しかし、依るが目覚めるのには少し時間が必要だった。
まあ、その間また、大変な事にはなったんだけどね。
とりあえず、おやすみなさい………。
あの、金の石も少しは休めるといいんだけど。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる