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7の扉 グロッシュラー

金と白と玉虫と

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「揃ったな。」

「で?今日は何の話ですか?」

明くる日の午後。

俺は気焔の肩に乗って禁書室へやって来た。
まぁやって来たと言うか、乗って来たんだが。


それはいいとして、今日は祭祀についてと
近況報告の為にここに集まった、男達。

メンバーは俺と気焔、ウェストファリアとクテシフォンだ。勿論、俺が話すことを知ってる奴しか、この話し合いには入れられないからな。




既に長椅子に座っているクテシフォンに会釈をすると、気焔はいつもの様に壁際に陣取ろうとした。

「おい。流石に遠くないか?」
「…………ああ。」

しかし、気持ちは解る。
クテシフォンはガタイがいいし、長椅子はそうデカくもない。
何を好き好んで、大の男が仲良く肩を寄せ合うのか。それは、ある。

しかしいつの間にか増えていた1人掛けの椅子をウェストファリアが気焔に勧め、どうやら自分は机の椅子を移動する様だったので、無事、気焔も座って全員が積まれた本の周りに集まる形になった。
そう、テーブルで筈の物を囲む形に。



「さて、と。」

ウェストファリアはクテシフォンを見て、話を始めた。どうやらクテシフォンが「気になる事がある」と以前、報告していた様だ。

「まず、先にお前さんの話から聞こうかの。祭祀にも関わってくるじゃろうて?あの子の、話なのだろう?」

「そうですね。まぁ、ヨルの、と言うかあの赤の連中の事ですが。」

ああ。あの、あいつらの件か。
しかし、クテシフォンはどこ迄知っているのだろうか。
あの、「金ローブ」と「多色の光」と「長の曾孫」。

ここが繋がったのかどうか、だよな………。


「あの二人は何かを隠している様です。特にハーゼルに関しては直接ヨルに手を出しているので要注意ですし、セレベスに関してもダーダネルスの報告によると、ヨルに近寄っているらしい。」


ちょっと気を付けてくれよ?
この、青ローブの顔見ながら、様子見つつ、話してくれないものか。

気焔からピリピリした空気が伝わってくる。

しかし、それも俺が同類だからなのか、他の二人は気にせず話を続ける。


「何か感づいているのか?」
「はっきりとは分かりません。しかし何かを「間違いない」と言っていたのが気になります。「何に」確信を持っているのか。先日は昼食時にヨルに纏わりつこうとしていたので、牽制しておきましたが。」

「あの二人の中で、ヨルが何か特別視されているのが気になります。特に、接点は無かった筈なのに急に造船所について来たのも、多分その所為かと。」

「ふむ。」

ウェストファリアは腕組みをして何やら考え出した。



「落ち着け。」

ザワリと揺れる気配の気焔にポソリと呟き、さてどうしたものかと思案する。

この様子だと、赤ローブ達が握っている秘密が「金のローブ」だという事はクテシフォンは掴んでいない。
こちらからバラす事でも、ない。

とりあえず注意してくれればいいのだ。


「とりあえず赤の家については様子見で良かろう。あまり割く時間もない。えー、ミストラスの件じゃが。」

思った通り、ウェストファリアは赤ローブ達の事は軽く流し祭祀の許可の話に移った。
確かにそんなに俺達に時間は無い。
もう、雪はいつ降ってもおかしくないのだ。


「彼奴は私が懐柔しておいたので問題はなかろう。まぁ、奴は力が集まればいいのだしな。しかしヨルに舞いをさせる事を提案したのは彼奴じゃ。何か………あるのかも知れんが。分からん。」

気焔の腕がピクリと動く。

多分、一瞬逡巡したがゆっくりと口を開いた。

「あの。」

「どうした?」

「少し前ですが、ミストラスの部屋にヨルが呼ばれました。本人は「言いたい事がよく分からなかった」と言ってましたが。祭祀や、祈りの理由を訊かれた様でした。」

「ふむ。何故だか、あの子は色々なものを惹き寄せる性質のようだの?お前さんも苦労するな。」

そう言って少し、考えたウェストファリアはしかしそう問題無いだろうとそれも処理する。

「ま、彼奴にとっても大事な姫じゃろうて、おかしな事はせんだろう。ユレヒドールにも上手く言う様に伝えておいた。それはあの神殿長の役目だからの。」

「館からは誰か、参加するのですか?」

「それは分からん。しかし今回デヴァイからの客もいつもよりは多い。それが吉と出るか、凶と出るか……………。」



それは俺も気になっていた。

色々な所で聞く噂話の中で、最近増えているのは祭祀でこちらに来るデヴァイの客の話だ。

何故、こうも彼方から来る者について噂されるのか。

それが、解らない。
そのままウェストファリアに質問を投げる。

「方々で噂されてますが、その、デヴァイからの客からどんな影響が?」

青緑の目が俺に向かって移動する。
俺を見ている様で見ていない、その瞳はきっとその理由を考えているのだろう。
くるくる変わる青緑の瞳に浮かぶ色を眺めながら、じっと待つ。


「あれらはな…………。ニュルンベルクに聞いた方が、為人ひととなりは分かるやも知れん。」

ニュルンベルク?
確か黄ローブのネイアだ。仲間が来るという事か?

「今回問題とされているのは、銀の家が集まる事。いつもはブラッドフォードかアリススプリングス、どちらか一人しか来んのじゃ。あそこは仲が悪い。しかし、今回二つが揃う。初めてかも知れん。嫌な予感はここ、グロッシュラーにいる者なら誰でもする。」
「揉め事の匂いがプンプンします。しかも、ヨルがいる。ただの祭祀ならいいが………。本当に、光を?」

クテシフォンが気焔を見る。


俺から気焔の顔は見え難いがクテシフォンが苦笑しているところを見ると、きっと何の表情も浮かべていないに違いない。

こいつの中では、「やる」ともう決まっているのだ。
動じる事なく頷く金の石に揺すられ、俺は本の山の上に移った。


「しかし、何処からその情報を入手したのですかね?」
「大方、セイアのうちの誰かが聞いた話を本家に伝えたのじゃろ。祭祀が変わるのは、まぁ大事じゃからの。」

ウェストファリアは気焔に視線を移し、手配について確認をする。

「貴石には、お前さんの方がいいのじゃな?」

「はい。もう、伝えてあります。」

もしかしたら、ウェストファリアならレシフェの事を知っているかもしれない。
名簿を持っていると、言っていたからな。
まじないの色の名簿だと。

俺も、見てみたいな。祭祀が終わったら、頼んでみようか。


暫くまた何やら考え込んでいたウェストファリアは、ブツブツと独り言を言い出し部屋を周り出した。


クテシフォンは気焔をじっと見ている。
何か思う所があるのだろうか。
俺は男が男を見つめる所を観察する趣味はないので、本の山を飛び回る。


しかし何個目かの山で、ウェストファリアに捕まった。

「お前さん、これで少し計算してくれんかの?」
「はい?」
「この表を見て、前庭の池にどう、並べるとバランスが良いか。神殿の人数も加えて、館からは出てもそう大した数ではあるまい。それに石が調達出来れば力が溜められるから、探してくれ。伝手は、あるのじゃろ?」

この爺さんは何処まで知ってるんだ?

ウェストファリアが広げたまじない力の資料に下り、歩きながら様子を伺う。

特になんて事のない顔でまた部屋を周り出したウェストファリアに他意は無さそうだが、勘だけで言っているのだろうか。
確かに、俺達にはレシフェがいて伝手が、ある。

まぁ知られたところでそう問題は無いのだが、ここグロッシュラーでの情報伝達が何処でどうなっているのか、把握しておくに越した事はない。

そう思いつつも、とりあえず俺は与えられた仕事をするべく、目の前の資料を読み込むことにした。







「それでは、気焔は石を融通、クテシフォンは並びの共有とネイア間の連絡。ベイルートは主に情報収集を頼む。」 

そう、ウェストファリアが纏めるとお開きの雰囲気に気焔がさっさと立ち上がる。


「では。」


そう言って禁書室を出た気焔を白いローブが追いかけてきた。


「おい。」

気焔は何か予測していたのか、驚いた様子もなく立ち止まりクテシフォンと向かい合った。


「…………大丈夫なのか?」

俺は「なにが?」と訊きたかったが、雰囲気を読んで黙る。

気焔は多分、飄々とした空気でクテシフォンの顔を見ているに違いなく、クテシフォンはその気焔の顔を見て何か納得した様だった。

「何かあれば、言え。力になる。」
「ああ。」

そうしてクテシフォンはまた部屋に戻って行った。



揺れる青ローブの上。

きっと光が降ると起こるであろう、事柄に対してこの会議では言及しなかった。

そう、誰も。

こいつはどうするつもりなのだろうか。


どうやって、護る気だ?


いやしかし。


俺は感じていた。

この、金の石から以前は感じられなかった、何か。
この幾千年経過したのか分からない自然の結晶に奇跡の様に、染み込む、何か。


それを内包した、奴はもうきっと誰にも渡すつもりはないのだ。

あの、ただ一人、決めた存在を。



それを再び感じると、俺も何故だか安心してそのままローブの陰に潜り込んだ。

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