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7の扉 グロッシュラー

啓くのは

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一度、中断された祝詞の解釈。

私はまた、自分のポケットからメモを出してじっと眺めていた。



ラガシュは「ちょっと行ってきます」と言って、何処かへ行ってしまった。
多分、お昼前にここの本をひっくり返していたから、何かまた本を探しに行ったのだと思う。

そのお陰もあって、私は一人、この隅の落ち着く空間で考え込んでいた。
多分、ラガシュはまじないは張って行ったのだと思う。



静かな、空間。

丁度良い、灯りと本の匂い。

私はそれを肌で確認すると、自分の思考の沼にどっぷりと、沈んで行った。







でも、結局ラガシュと話して分かった事と言えば、ラガシュの家の青の本にどうやら私の事が
「光を灯すもの」として書かれているという事。

そのくらいだ。
あとは、みんなの祝詞の解釈が大人しいってくらい??

何で?
氷の刃は?
斬り開かないの??


とりあえず、お昼にみんなの話を聞いていた内容によると、どうやらここでの「開く」「何か」は扉の事だと解釈されているらしい。
その所為で、デヴァイから人が来るんだって。

いつからその解釈なのか知らないけれど、とりあえず今迄それに疑問を呈した人はいないらしく、毎年祭祀の際には数人デヴァイから人が訪れるとの事。

それが、今年は少し多いんだって………。
そう、みんなが言っていた「ヨルを見に来るんじゃない?」っていうやつよ。

そう。何だか、よく分かんないけど。

そんなに踊るのが珍しいのかな………。


まさか、開くのが扉だとは露程も思っていなかった私は、ちょっと、面食らったのも事実。

だって…………「開く」のが「扉」とか。


単純過ぎない?
祭祀、カンケーないじゃん。

まぁ、文句を言ってもしょうがない。
今年は、違うんだし。


それで。それでよ?
じゃあ私が「開く」やつは、何なのかっていう。

でもでもさ、「開く」と「啓く」があるでしょ?

これね、迷ったのよ。
同じにするか。


勿論、元は古語なので漢字を当て嵌めたのは私だ。ラガシュにはちゃんとここの言葉で、説明している。

しかし。

しかし、少しずつ違う言葉の意味をどう訳すか、と私が一番苦労した、部分。
トリルに訊いて、「どんな時にこの単語の変化になるのか」と大体の使われるシュチュエーションを聞いて、漢字を当て嵌めていったのだ。

正直、私は漢字になってる方がやはり、イメージが湧く。
パッと見れば、解るしね。

ただ、そうして訳して出来たこの翻訳が何だか激しいものだったって事だ。



しかしなんだかんだ文句を言っても、やる事は同じだ。

一つ一つ、解読していくしかない。



「えーーーと。」

でもとりあえず。分かってきた所と、祈らなきゃ分からない所と。
それは、ハッキリしてきた。


「風のカードかぁ…………。」

ふと、もう一つのヒント白い魔法使いのカードを思い浮かべる。

何でか、ここグロッシュラーは風が殆ど無い。

空に、あるのに、だ。

「不思議、だよね。」

どうしてなんだろうか。
でも。

「やっぱり、空が無いのと関係あるよね………。」

だって。力がもらえる筈なんだ。
本来なら、空から。

何となくだけど。

この前、池で石が出来たように。
きっと、最終的には、きちんと、祭祀が完成すれば。

空から、「どんな形か」は分からないけど。

力が降って、石が、できる筈なんだ。
きっと。


私は。

「何を」開きたいのか 啓きたいのか

多分、そこだよね………。

何だろうな………。

勿論、斬り開くのは雲で、空が見たい。
うん。

でもさ、それが目的なんだけど目的じゃないって言うかなんていうか……………。

「そら」は見たいけど
「そらを見る事」が目的じゃ、ないのだ。


「啓く」と訳した時、私の頭の中に浮かんだのは
「天啓」だ。

閃くのよ。光が降りて。多分。

だから、その「啓く」は後で、開くの。
光が降った、後ね。


「開放」と「解放」

「解放」は多分、私とかみんなの気持ち、心だと思うんだよね………。
やっぱり、本心?自分の、「想い」を解放して欲しいじゃない?うんうん。
やっぱり、心から、願わないと何事も叶わないと思うし光も降らないよね…。

だからさぁ

何かを

開いて

開けて

解放する訳よ。


「なにを………開くのか。うーーーーん??」



ラガシュは未だ、戻らない。
私は一人、この広い図書室の片隅。
何だか包まれてる、この狭い空間で。
考える、開くもの。なんだろ。

でも。

今回の私の目的。多分、それなんだよね。

あの子達に、光を見せる。何故、見せるのか。

「あっ!!」

閃いた!きた!これだよ!!


「可能性の扉だ!」


名案!めっちゃしっくりくる!

そうだ、そうなんだ。

この世のものとも思えない程、神々しい光を、多色の光を降らせて。
みんなの、全員の、「可能性の扉」を開くんだ。

あの子達がこれから、何だってできるように。





「うわぁ~。めっちゃ、名案。」


そうして私が腕組みをしつつ、自画自賛していると何かが干渉した気がしてラガシュが帰ってきた。

「あなた、聞こえてますよ。」

と、小言を言いながら。









「しかし姫。どうやって開くのですか、その可能性の扉とやらは。」


私が得意げに説明した話に鋭くツッコミを入れるラガシュ。

「むむ。ちょっと姫って言うの、止めて下さいよ。」

さっきも呼びそうになっていたし、このまま定着すると危なそうだ。
そんな私の心を読んだ様に頷いて、ラガシュはまたつづける。

「まあ、言いたい事は解ります。やりたい事も。あなたが、あの子達の事も僕達の事も、大切に思っていてくれる事。」

一度言葉を切り、眉を少し下げる。

「しかし、その「可能性の扉」がなんなのか、何処にあるのか、どうやって開けるのか。それが分からないと開けようがないですよ。知ってるんですか?何処に、あるのか。」


何処に?
あるのか?

「可能性の扉」が。


「そんなの、みんなの、自分の中に決まってるじゃないですか。」


何で?

だって、「可能性」の扉だよ?

そこら辺の部屋の、扉じゃないよ??

実在、しないでしょう???

何言ってんのかな、この人。



多分、完全に「この人何言っちゃってんだろう」の顔をしていたのだと思う。

ラガシュはそのまま私の瞳を正面から見つめ、暫く、黙った。

そうして何かを考え終わったのか、急に笑い出したのだ。


「ハハハッ!そう、そうですよね。…………いや、参りました。可笑しい…っ、僕とした事が………。いや、僕もまだまだですね。」


どうしたんだろう…………。ちょっと、コワイけど。

私がそのまま、ラガシュを見つめていると急に笑うのを辞めた彼がじっと、私を見た。

そして何か決意した表情で、私に懇願する。
私は、それを断れなかった。

「その。色を見せてくれませんか。」


ラガシュが言っているのが、瞳の色だという事は自然と分かった。
そしてそれを、私が今、ここで、見せなくてはならない事も。

多分、拒否する事は出来るのだ。

私は、彼にとっては彼よりも立場が上だから。
しかし。

今の、彼にとって必要なのだという事も、解るのだ。だから、今この、図書室の、彼の空間で見たいとわれているのだ。


きっと彼のこれからの為に必要なのだろう。
彼にとって、これが光になるのなら。

それは別に、惜しくはない。

髪留めに手をやり、パチンと外す。


サラリと白に近い、髪が流れる。




「ああ。……………神よ。」


ヤバい。姫から、神になってる………。

しかし、私にはそのラガシュの真剣な様子を茶化す事はできない。
だってきっと。

彼にはずっと、重くのし掛かっていた筈なのだ。
きっと、そのセフィラの残した希望の箱が。
開けても何も、残っていないかもしれないその、箱。

なんでか私がここまで辿り着いて、図書室で青の本を見つけ、光を溢すその日迄その箱はきっと閉じたままだった。
しかし私を見つけて箱の鍵が開き、出て来たのはセフィラの遺した通りの少女。
少し、青くて何か秘密がありそうな私が持っている、その秘密は彼を何処に導くものなのか。


「勿論、あなたの事も。」

救う、なんて偉そうな事は言えない。
私に何が出来るのか。
このところ、ずっと考えているこの問題。

私は光を見せるだけだ。

それだけは、きっと誰よりも美しく出来る自信がある。


この人にとっては、それが祭祀での光ではなくこの、私の色だったという事。
それだけだ。

「私が、求めるものは。」

ラガシュに立ち上がる様手で促し、私の前に立たせる。そのまま彼の手を取り、こう言った。

「一緒に、風を起こしてくれる事。私が、あなたを救う事は出来ない。あなたを救えるのはあなただけだから。でも、一緒に歩む事は、できる。」

「一緒に、行ってくれますね?」


そう最後に問いかけた時には、もう彼は再び私の足元に跪き、そのまま手の甲に口付けをする。
そうして顔を上げると、もう灰色の瞳は青が濃くなり揺らぎは見えなかった。

「勿論です。何処までも、お供します。」

小さく息を吐き、口付けされた手の甲を思わずもう一方の手で隠した。

なんか、サラッとやってたけどこの人。
恥ずかしいよ………。


少し辺りを確認してすぐに髪留めを付け直す。
まじないの中だから、大丈夫だとは思うが油断禁物だ。
この姿は、ウェストファリアにだって見せていないのだから。


そうして気を取り直し、私達は椅子に腰掛けるとまた祝詞の解釈を詰め出したのだった。



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