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7の扉 グロッシュラー
私の祝詞
しおりを挟むニコニコしながら、私を見ているラガシュ。
うーん。
ちょっと待って。切り替えさせて。
えっと。光から、祝詞。まぁ同じなんだけど。
うん?
同じ。
光と、祝詞。
祝詞を唱え、祈り、舞う。
すると光が、降りる。
でも。多分。
私は「光を降らせよう」として祈って舞うのではなく、何かを思って、願って、祈り踊って、光が降る筈だ。
何故だか分からないけど、その方が自分にとってしっくりくる。
それはきっと、それが私にとっての正解だからだろう。
チラリと灰色の瞳を窺う。
楽しそうに私の答えを待っているラガシュはすっかりいつもの様子を取り戻している。
でもこれなら、きっと他の人からも怪しまれないだろう。
いきなり姫扱いされても困るからね………。
「あの、とりあえず言葉を訳してみて、それの意味を考えてみたんですけど。」
「えっ。何か分りましたか?」
えっ。なんで。
訳ってしてあるんでしょ??何この食いつき。
急に身を乗り出したラガシュに驚きつつも、自分が考えていた訳が合っているか不安だった私は、ちゃんとメモを持って来ていた。
スカートのポケットから、小さな紙を出す。
ラガシュはその様子をじっと見つめ、机の上に自分もメモを出した。
まさか、私の翻訳をメモる気なのだろうか。
え…………なんか全然違ったらどうしよ…?
「一応、通しでまず読みますね?えーと。」
「祈れ 祈れ
等しき恵を 白い 空へ
放て 想え 歌え 踊れ
見えないものは 空にある
祈れ 静かに 凍える日にも
川を 涙を 凍らせ 穿て
求めるものは 啓く 力
氷の 刃で 雲を 斬り裂け
開放しろ 解放しろ」
「こういう感じに、なったんですけ、ど………?」
ラガシュはカリカリとメモを取っていて、私の方を見ていない。
つい、立ち上がって彼のメモ帳を、見る。
多分、他にも翻訳であろう文字が並んでいるがぱっと見で訳せる程、古語に精通している訳ではない。
とりあえず、彼がメモを取り終わるまで待つ事にした。
意外とクセのない綺麗な文字。
ラガシュのその青くストレートなサラ髪に似た、スッキリとした文字を眺める。
この人は沢山の翻訳を集めてどうするのだろうか。自分の納得する翻訳を探すために、色々聞いているのかな?
ラガシュ自身はどう、翻訳したのだろうか。
そんな事をつらつら考えていると、彼がペンを置く。
そうして、私の顔を見ると嬉しそうにこう、言った。
「中々楽しそうに仕上がりましたね。」
「?楽しそう?」
するとラガシュは今メモしていた紙を指差しながら、私が気になっていた他の翻訳も教えてくれる。
「古語はね、不思議な文字なんですよ。辞書ですら、少しずつ解釈が違って、でも僕が思うにその時その人にとって一番しっくり馴染む、その言葉が降りてくるものだと思っています。今迄の経験から言って。」
何だか、楽しそうだ。確かに。
「でもですね、大体は皆さん無難な、というかお淑やかな、というか…………まぁ祝詞ですからね。祈って、空に舞って雪を降ろして、光が降るように、祈るみたいな感じです。」
「うん?大体、同じですよね?」
「何言ってるんですか。全然、違いますよ。あなた自分の祝詞、見たでしょう?「ちゃんと」書いてあります。「啓く」と。あと、僕も思いますけど「開放する」のはキーワードです。」
「あなたも思ったでしょう?」
キラリと光る灰色の瞳の奥は見通すことはできない。
薄く、明るい筈なのに底が見えないその瞳は私を捉えて「ほら、何を啓くのです」と訊いている。
解る。
彼が求めているのが。
私に。
彼が開いて欲しいものは、何だ?
でも、訳す時に思ったのはやはり「氷の刃で斬り開く」という事。
チラリと手の中のメモを見る。
「見えないものは 空にある」
私が探しているのは「氷の刃」
ウェストファリアが言っていた、「風の剣」
それが何かは、分からないけど。
「空」に、あるの?
祈れば、解るの?
虹彩に刻まれる青、それを取り囲む静かな灰色。
これもまた、美しいな。
「「ふぅん」」
「…………貴女は。」
「「お前もまたこの流れに巻き込まれし者。」」
リン、と音がする。
あの人が喋ってる。
なんで。さっき隠れてるように、言ったのに。
「「風を起こす一助となれよ。」」
「…………かしこまりました。」
あれ。
もどった?
ちょ
バレ、た、よね?
ラガシュは「目がいい」と言っていた。
さっき「貴女は」とか、言ってたし。多分、私と「違う」ものが出たのは分かっただろう。
ちょっと、大丈夫か、これ…………。
しかし当のラガシュは物凄い勢いで自分の本棚から沢山の資料を出し、何かを調べ始めている。
本を取ってはめくり、投げ取ってはめくって投げ。
いや、実際投げてはいないがかなりの勢いで何かを探して本をどんどん積んでいるので、ポイポイしているように見えるのだ。
なに、探してんだろ…………。
私はその様子をボーッと見ながら、さてこの人が戻ってきた時になんて、言い訳しようかと頭を悩ませていたのだった。
「無い、な…………。」
多分、最後の本をパタンと閉じてそう、呟くラガシュ。
徐ろに、大量の本を本棚に戻し始めた。
ちょっと手伝おうかと思ったが、多分なにかの規則によって並べているであろう事が見て取れるので、黙って見守る事にする。
あいうえお順か、大きさなのか、内容順か。
そんな事を考えつつ、しかしラガシュの迷いの無い手捌きに感心しながらさっき「あの人」が言っていた言葉を考え始めた、私。
なんか、ラガシュも関係あるみたいな事言ってたよね?なんで?
青の家だからかな…………?
でもそれ以外無いよね?
でも確か「巻き込まれしもの」だ。
当事者じゃ無いし何だっけ「風を起こすの手伝え」みたいな事言ってたよね?
まぁ、要約すると「巻き込まれたんだから手伝えよ」って事??
それは私も思ってた事だから、いいんだけど。
なんだろう。
ちょっと気軽に出てるくるな、この人。
どうしたものか。
あまりポンポン出られると、流石に都合が悪い。
これは、私が持って旅している秘密の中でも最大の、もの。
正直「私が青の少女である」事よりも、秘密な筈だ。
ハーシェルやウイントフークにだって、言っていないのだから。
でもなぁ。
これだけ、彼女が出てくると言うことは。
あの、この前思った「みんなは私に伝えようとしていた事が無かったか」「私が聞かなくていいと言っている事は、無かったか」という疑問。
あるのよ。
あるの。
だから。
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でも。
解ってしまった。
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胸が、ギュッとする。
ふと気が付くと目の前に伸びる青いローブの腕、咄嗟に強張る身体。
その時、リンと耳元が鳴る。
少し、閃光が現れ眩しさに目を瞑ると
もう次の瞬間にはその手と私の間には
金の彼が立っていた。
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