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7の扉 グロッシュラー

光を灯すもの

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この人は、何を。


言っているのだろうか。


「生贄」?


そんなん、なる訳ないじゃん。やだよ。

誰も、そんな事は許さない。
多分、大変な事になる。
私も勿論嫌だけど、あの人とか、あの人とかあの人も、暴れたらヤバい人が………。

えっと。


どうしようか。


ていうか、何でそんな事言ってんだろ?



じっと、ラガシュの灰色の瞳を観察する。

まだ、愉しそうに私を見ているその瞳。
何故だか「いいもの見つけた」的な少しワクワクしたようなその目を見ていると、何だかムカついてきた。

それはそうだろう。
勝手に生贄呼ばわりされたのだから。


私はそんなものにはならない。

やらねばならない事が、ある。



ん?なんかムズムズするけど?
あの、あの人?
駄目よ、今は。出てきたら多分、もっと面倒な事になる。
それは、判る。



小さく深呼吸する。

落ち着かなきゃ、駄目だ。
私は、大丈夫。

一人、じゃない。

あ。

これか。

「混ざりもの」って。

そういう事なんだ。



一人納得して、またラガシュの瞳を見つめる。

多分、私の何かを悟った彼はきっと私が「何か」に関係ある事を察したのだろう。
青の本以外の、何か。

なんだろうな?


ん?もしかして?

「もしかして………見えました?」

「あれ。気が付きましたか?そうです、「目」がいいですから。その、色。」

多分、ラガシュはウェストファリアのように不思議な能力があるのだろう。
見えたという事は、多分、瞳の事なのではないか。さっきからやたらと私の目を凝視している気がする。
何故だか、探られているような気が拭えないのだ。


でも。

私の瞳が「こう」だから、「次の生贄」と言っているのだったら。

彼は長の事を「生贄」だと思っている事に、なる。

でも、それも何だか納得がいく。
だからだ。彼が、「あの絵と石」に祈っているようには到底、思えない理由。

なんだろうな、「哀れみ」?

ちょっと、言葉に出来ない。
でも。

一筋縄では行かなそうなこの人に、どう、話せばいいだろうか。

私は、この人に「何を」伝えるべき?

この人は、何をそんなに…………。

おそれて」いる?

「諦めて」いる?


この人も…………。きっと。


あの子達と、同じ?



静かな空間のまま、耳鳴りが止む。

その事で、この空間の支配者が自分に変更された事が、分かった。



「運命に。」


「抗いたいですか?」


自然と、口を突いて出た言葉。

しかしその瞬間、ラガシュの灰色の瞳はキラキラと輝いて、まるでその言葉を待っていた様にゆっくりとまばたきをした。


「お待ちしていました。…………我らが、姫よ。」


ん?
「姫様」は、私じゃないけどね?


しかし、うやうやしくその言葉を発したその灰色の瞳からは、先程までの色は全て綺麗に消え、ただ、私の次の言葉を待っている事だけが分かった。


それなら。

私がやる事はただ、一つだけ。


静かに、ゆっくりと彼に告げる。

「この、グロッシュラー全体に。まずは光を降らせます。今迄に、誰も見た事のない神々しい、色とりどりの、光を。」

「はい。何が、必要ですか?」

急にまるでしもべになった様なラガシュに少し驚きつつも必要なものを考える。


でもな?必要なもの?

なんだろう。

根回し?それはあっちのチームがやってくれてるし。分かんないな………。

あっ。
あれがいいかも。

とりあえず、今の所必要なものは正直無い。

だが、気になっている物があった。
あの、ラガシュが「青の家にある」と言っていた、残りの青の本だ。もし、見せてくれるなら見たい。

しかも、それに何か私の事が書いてあるんだよね??違うのかな?

様子を伺いながら、提案してみる。
あと、これも。

「とりあえず、私の質問に答えてくれますか?知らない事を教えて欲しいんです。あと、もし可能であればあなたの家の青の本が見たいんですけど………?」

え、なに~~?

めっちゃニコニコしてるんですけど!
怖い!!


急に嬉しそうに笑い出したラガシュについつい腰が引ける。

どうしたんだろう?
ちょっと、人が変わりすぎじゃない??



私が訝しげに見ているのが判ったのだろう、ラガシュはニコニコしつつも、その、綺麗な青い髪をサラリと揺らし跪く。

そうして話し始めた内容は、驚いた事に彼が先刻話した「祈る理由」でもあり、また長年彼を苦しめてきた呪縛でも、あったのだ。



「僕はですね。」

「ずっと、ずっと探していたんですよ。あの、青の本に書かれている予言の、その正体を。全く、今迄と真逆の解釈、しかし希望が持てるその内容。現在の長の長命、その血縁の行方不明。それを起こしてしまった、青の家の、責任。」

え?責任?

「次の「代わり」が見つからなかったら。しかし「代わり」を見つけた所でそれはまた一時凌ぎだし、その「代わり」にまたその「人ではない」役目を押し付ける重さ。しかしこの予言の研究をしていた行方不明の血縁自身が残した、希望のカケラ。いつ、現れるとも知れない、現れないかも知れない、持たない方が幸せな、希望。」

やはり。同じだ。

キラキラと光りながら少し潤む、その灰色の瞳をじっと、見つめ続ける。

「そして。とうとう現れた「光を灯すもの」の存在。しかし、それは希望なのか、それともただの「代わり」なのか。僕たちはその存在に「何を求めるべきなのか」。「求める事が赦されるのか」。もう、僕自身も分からなくなっていました。試す様な事をして、申し訳ありませんでした。」

この人も、また。

悩んでいたのだ。苦しんでいたのだ。ずっと。




青の本に、詳しくはどう書かれているのか分からないけれど。

フローレスは「あの子は一族の為に奔走していた」と言っていた。
訊いてみないと分からないが、きっと長と青の家も関係があって、セフィラがその次で、しかしきっと「生贄」にならずに済む方法を探していたに違いない。

自分達が、その「生贄」の輪から抜け出す方法。
誰かが、「犠牲になる」その方法を終わらせる為に。

きっと、彼女なら、そうする。


それは私の中から湧き出る、確信だった。




静かにまた頷いて、真っ直ぐ彼を見る。

そして私は問い掛けた。
彼がきちんと、自分がこれから歩む道を自分の中に落とし込めるように。

もう、青の本の、家の、未来について苛まれなくていいように。

みんなで、未来に進むんだ。


「では。」

「今度の祭祀で家の者に持たせて下さい。そして祭祀後に、また調べましょう。」

「そして必ず。方法は、ある筈。」

下から真っ直ぐ私を見る灰色の瞳に、目を逸らさずに伝える。

「私は「何」にもならないし、束縛されない。あなたも何にも、縛られない。その筈です。きっと、祭祀が成功すればまた新しい道が、拓ける。そうですよね?」

ラガシュもしっかり頷き、応える。
この瞳ならきっと、大丈夫。

「かしこまりました。その様に。」




静かな時が少し、ずれてきっと私の時間が終わりを迎える。




そうしてラガシュにこの空間が移ると、彼はやっぱりニッコリ笑ってこう言った。


「さて。では祝詞の解釈を聞きましょうか。」


やば。

忘れてなかったか……………。


がラガシュの空間に戻った事で、彼はまた飄々とした仮面を被り直し、椅子に腰掛けた。


すっかりその事が抜け落ちていた私は、小さなため息を吐きながら「この人やっぱり、油断出来ない………。」と心の中で、舌を出したのだった。







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