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7の扉 グロッシュラー
見えているものの裏側
しおりを挟む「きっとお前の中では色々な事がくるくると回り、色を変え時には反射し、反転しているのだろうが。」
そう、始まったシンの話。
それは言い得て妙で、今の私の心境をよく表していた。
確かに、沢山の事柄が多面的で七色の解釈が出来て、それがまた其々にくるくると色を変えるものだから、掴みどころが無くて困っているのだ。
「全ての物事には表と裏があり、お前が今見ているものが表なのか裏なのかを知る必要がある。表と裏が混ざるから、反射して見え辛いのだ。」
ふむ?
分かる様な、解らない様な………?
「其々主張している者の「考え」と「歴史」を分断せよ。祭祀が終わったらまず、勉強する事だな。」
えっ。
結局そこ。
でも。
そっか。
確かに。
一度、シンの言った事をきちんと自分に降ろして、噛み砕く。
成る程。
まだ、私は歴史を多くは知らない。
多分、その状態で沢山の人の「意見」を聞いてしまったから混乱しているんだ。
まず、ベースを知らないから、判断出来ない。
何処が、どう繋がっているのか繋げる事も出来ないのだ。
成る程、ね…………。
チラリと白灰の髪を見る。
白いフードから出ているその髪はやはり長く、いつもの、シンの髪の長さ。
それを確認すると安堵して、何となく、向かい側に立ちきちんと彼を見る。
ちゃんと、確認しないといけない。
何でか急にそう感じて、頭から髪、顔、服、ローブ、裾まで見てからの白い靴でチラリとクテシフォンを思い出す。
また赤い瞳を確認しに視線が戻ると、少し険しく変化した赤い珠を見つけて、驚いた。
あれ。
どうしたの?
その、険しい色に変化した赤から戸惑う私に向かって構わず肩に伸びる手、それを反射的に遮る、私。
なんで。
見てるだけじゃ、ないの?
何?どうしたの?私何か、した?
本能的に薄くなったと感じるアザを守ろうとして身体が動く。
きっと今の私はあの金色が入ってこのアザが薄まっているのだと、自然と解っていた。
きっとこの人はまた……………。
延びてくる手を掴み、じっと赤い瞳を見る。
すると、言葉が出た。
「その、白い靴。」
ん?白い、靴………?
下を見る。これ?シンの靴?
赤い瞳を見ると首を振っている。
違うの?何の話??
え?
ウソ。
分かるの?
もしかして?
「そうだ。」
ちょっとおぉぉぉぉぉぉぉぉ
私のプライバシー、プライバシーは?!
何処に?!??
顔が赤いのが、解る。
もう!なんなの?みんな。駄目よそんな乙女心にズカズカと入ってきちゃ。
シンはきっと私の頭の中に浮かんだクテシフォンの靴の事を言っているのだろう。
それにしても、どうして?
見ているだけは、止めたの?
両頬に手を当て、赤くなった顔を冷ます。
静かな灰色の世界に、風は無い。
確かにウェストファリアも風は、殆ど吹かないと言っていた。
静かに佇み、風も無く揺れない彼は人形の様に見える。
とても、綺麗な人形。
…………人形?
………………………………。
?
何かを忘れている気がして
思い出せそうな気がして
考えてみるけど答えは捕まらない
ただ、見つめるその赤い瞳が揺れて彼が人なのだと認識する。
うん?人なんだっけ?石、だよね………??
だが、その後の彼はもう「無」に戻っていて瞳が揺れる事はなかった。
何かが気になるけれど、「私から彼に手を伸ばす事はできない」事が漠然と分かっている私は、そのまま白い彼の後ろ姿を見送ったのだった。
「助けて…………くれたんだよね、でも。」
その日の、夜。
いつもの通り、お風呂でルシアの石鹸の香りに包まれながら雲からキラキラを降らせていた私は、昼間の出来事を反芻していた。
銀盤の上に乗る、マスカットグリーンの石とピンクの石。
二つ並んで可愛くキラキラアピールしている。
いつもの様にボーッと、隣の小さな棚に並ぶ可愛い物たちの順番を並べ替えながらつらつらと考え事をしていた。
このキラキラの小瓶は蒼だからマスカットグリーンの隣にして、小皿は金が入ってるから…ピンクとグリーンの間‥いやシンは白いよね、今回。
石も白いんだよね、多分………。
するとこの銀の小さな像はやっぱり端っこにして、どうして急に確認したんだろう?ってやっぱり気になるよね?
何か、あったっけ?
お風呂に入る前、ちゃんと鏡でアザを確認した。
すると、以前よりはやはり薄くなっていた、そのアザ。しかしやはりハッキリと残っては、いるのだ。白い肌に、目立つその花の様なアザが。
「多分…………。」
あの、伸びてきた手はもしかしたら私のこのアザをまた濃くしようとしていたに違いない。
それは、何でか分かる。
「嫌なわけじゃないんだけど…………?嫌、なのか??」
拒否、とか、気持ち悪い、とかじゃ、無い。
なんだろうな…………。
でも多分、あの人に触られてまたアレをされたならば、きっとこの金色が塗り替えられるであろう事は、はっきりと分かるのだ。
「うーーーーーーん…………。」
何となくのモヤモヤを引き摺ったまま、またのぼせそうになる前に湯船から上がり、支度をする。
実はあれから意外と抵抗がなくなってエローラのネグリジェは活躍中だ。
お腹のゴムが無い所為か、あの石がいるから暖かいからなのか、心地良く寝られて中々いい感じなのだ。
身体を拭き、着替えてからまたガラスの小瓶を傾ける。
つるりと滑る、綺麗な紅い石。
今日はシンの瞳を見た所為か、いつもはピンク寄りに見えるその石も何だか赤い気がするのは気の所為だろうか。
ヒタヒタとハンドプレスをしながら、赤くなった顔を冷ました時の事を思い出していた。
「あれ?」
来てたんだ。
そう言えばいつの間にか、始めから寝室にいる事も増えた金の石。
まぁ私はどちらでもいいから、気にしないけれど何かの心境の変化かな?とふと気になった。
寝室の扉を開けると出窓に腰掛け外を見ている気焔がいた。
最近、私の服の事が多かった彼は何故か今日は久しぶりのアラビアンナイトだ。
しかし、この格好も結構好きな私は、やっぱり「寒く無いのかな?」とは思ってしまう。
なにやら考えているのか、こちらを見ない彼を放っておいて着替えを片付けたり枝のチェックをしたりする。
そう、あの森のおじいさん達から貰った枝は少しずつだけど葉を増やしている。
早目にどこかに植えてあげたいけど、いかんせんまだ雪も降ろうかという冬。
折角なら春がいいのではないかと思うのだけど、木としてはどうなのだろうか。
でもまだ、最適な場所を見つけられていない。
また、暖かくなったら散策に出かけたいものだけど…………。
夜の薄明かりに雲が動く。
人が動くよりも薄い、そのゆったりとした影にまた視線を戻した。
金の石は何やら考え込んでいる様で、まだ微動だにしていない。
どうしたんだろう。
フワフワした出窓グッズに囲まれる露出の多い服。
なんか、いいな…………。
ベッドに腰掛け、そのままそれを観察し始めた、私。
よくよく見ると、所謂私が「アラビアンナイト」と言っている気焔の格好は露出が多い。
あの、腹巻みたいな布にベストの上半身から伸びる丁度いい筋肉の二の腕。
ウエストが絞られたパンツは少しふんわりして裾がまた絞られ、所謂「鳶職人」の様なパンツ。
片膝を立てて頬杖をついている腕、それに乗る濃い顔立ち、元気のいい金髪。
何だろうな、なんで私は気焔のこの金髪を見ると嬉しくなるんだろう?
綺麗に立つキラキラした髪を見るとなんでか笑顔になるのだ。ピョンピョンしている部分を見ると、自然と嬉しくなる。
「なんだろな、これ…………。」
とりあえず触りたくなって、立ち上がり窓辺へ近づく。
何かを悩んでいるのか、まだ動かない金髪を胸に抱え、そのまま撫で始めた。
今日は、なんだか可愛い気がする金色をフサフサして、フワリと撫でる。
その時によってドキドキしたり、胸がギュッとしたり、ただ温かくて安心したり、今日みたいに可愛かったり。
不思議と変わる感覚を「不思議だなぁ」と思いながら、ただ、撫でる。
うん、撫でるって、大事。
なんだか私は落ち着くし、多分、彼だって落ち着くに違いないのだ。
違い、ないよね??
腕の中から少し出して、金の瞳を確認する。
珍しく、まだこちらを見ない金の瞳。
ん?
どうしたんだろ?
確認する為、正面に座る。
立てられた膝の隣、ぴったりに位置付けて顔を覗き込むが金の睫毛は伏せられたままだ。
むん?
よっこらしょ、と大きな脚を下に下ろして懐に潜り込む。
そうしてやっと少し動いた睫毛。
チラリと私を確認すると、きちんと懐に入れてくれた。
うん?
まだ?
駄目?…………どうしたのかな?
でも。
あれだよね……………。
いつもと違う、気焔。
多分原因はシンだろう。
今日の雲はまた部屋まできっと延びていたし、いつもよりも銀色のキラキラが降っていたから。
いつもはピンクと金色なのに、銀のキラキラが降るものだから私はちょっとはしゃいでいたのだけど。
駄目だったかな…………。
でも。
でもちゃんと、守ったよ?
ほら、見て?
ネグリジェの襟元、リボンを解いて拡げる。
無言で彼の瞳を確認しようと顔を上げると、もう、私には金髪しか見えなかった。
「あっ」
山吹と金の焔、チリっとする感覚、強く腰に回された腕。
首元から来るゾクゾクする感覚に何かがそこから全身へ降りていく。
そのままぐっと彼の膝上に抱えられ首元から喰べられている私は言い様のない感覚に囚われ、全身が痺れていた。
怖くは、ない。
でも時折チリっと弾ける金の中に混じる色の濃い山吹と橙に、彼の気持ちが現れている。
大丈夫。
大丈夫なのに。
でもきっと、そうじゃないんだ。
少し、好きにさせておこう。
しかし、チリチリとする感覚が足の指まで降り、全身がムズムズしてきて、なんだか彼の両手も動き始めている。
ついでに喰べられている範囲も。
ちょ、ちょっと待って。
駄目。
「気焔。」
「んっ!」
私の声に一層強くなった腕の力に、複雑な気持ちになったけどこれ以上は、なんだか私が無理。
力が抜けてきたし、抵抗できるうちに………。
そう思った瞬間、パッと焔が消えた。
同時に私の事も離して、少し驚いた様な顔をして私を見る、気焔。
見開かれた大きな金の瞳が、夜の明かりでも綺麗だ。
そんな呑気な事を考えている私とは裏腹に段々と色が変化する金の瞳。
きっと、無自覚だったのだろう。
何だか渋い顔で私の襟元を直している。
「フフッ」
「笑い事では、無い。」
「どうして?」
「…………。」
少し、眉が下がる。
困った様な色を浮かべる、その金の瞳に近づいて確認する。
大丈夫かな?
蟠り、取れた?
スッキリしたかな?
覗き込むその瞳の色は、微妙だ。
無自覚だった所為か、逆に不安な表情を見せる金の石。
大丈夫、嫌じゃなかったよ?
ちょっと、何だか、あれだったけど………。
なんだろな………ゾワゾワしてむず痒くて。
…………うん。
心なしか萎れた金髪を撫で、そのまま彼の首に腕を回しチカラを伝える。
少し驚いて金の瞳は大きくなったが、もう睫毛は伏せられて腕は私を優しく包んだ。
流れ込む金色が分かる。
このまま、私金色になっちゃわないかな………。
大丈夫かな…………。
ウェストファリアさんに手、触られて「金色になっとる」とか言われたらどうしよう?
キャーーーーーーー!
「煩い。」
一度、私を離すとそう言って咎める気焔。
繋がっているから余計に分かるのだろう、それすら何だか面白くてクスクス笑っているとまた口を塞がれた。
何故だ。
そのまま私を抱き抱え、ベッドに運ぶ。
ふんわりと白いレースと刺繍の布団を掛け、私をいつもの様に懐に収め、髪を梳き始める。
サラリとしたシーツの感触、ふんわりした布団の軽さ、私の腰の上の重い腕。
いつもの感覚にホッとしてぐりぐりと胸元に潜る。
「あまり、そういう事をしてくれるな。」
珍しく文句を言う気焔。
なんで。
不満そうな目を向けると「その目も駄目だ。」と手で塞がれる。
理不尽。
「もう、寝ろ。」
そう言ってまた私の髪を梳き始める。
落ち着いて思い返すと何だか凄いことをされた様な気がして「寝れるかっ!」とカッカしていた私だったが、またまじないでも使っているのか、撫でられた回数を数える前に、すっかり眠りに落ちていた。
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