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7の扉 グロッシュラー
傍らの白い彼
しおりを挟む私は、ぐるぐるしていた。
うん、最近ぐるぐるしっぱなしでスッキリ放り投げたい気もするのだけれど、ラガシュに報告もしなきゃいけないし、光の方法も考えなきゃいけない。
そして毎日、日に日に寒さは深まり「今日降るか」「明日降るか」という人々の囁きで、そう、私はちょっと焦っていたのだ。
いつもだったら「後でいっか。」とポイしそうなぐるぐるだけど、今回ばかりは祭祀は大切だしあの子達の事がある。
ポイ出来ないのである。
そして、問題は複雑だ。
そう、絡み合っている問題の網にかかって
私は何だか身動きが取れない気分なのである。
そうして、少しでもスッキリ出来ればいいと思い朝食後に防寒をして神殿前の池に、やってきた。
私が「外で祈ればいい」と言った事で思い付いたのはここ、神殿前の池だ。
実際、ここになるかは分からない。それは白い魔法使いに任せてあるから。
でも、ここなら池もあるし川じゃないけど水がある。
そう、祝詞では「川を 涙を 凍らせ 穿て」だから。
そんな訳で祝詞の解釈と、頭のぐるぐるを整理する為にこうして頭を冷やしながら参考までにこの池を眺めているのである。
決して、図書室で発狂しそうになるからでは、ない。
あそこは「キーーッ」ってなっても、騒げないからね………。
実は、私は私なりに自分が何故こうもぐるぐるしているのか、ちゃんと紙に書き出していた。
ベイルート法だ。
でも、余計混乱したかもしれない。
何だか、纏めきれないのだ。
いつもだったら、何となくヒントが降りて来る筈のこの方法。でも今回は、まだ来ない。
「何かやり方が不味かったのかな………。」
とりあえず、並べてみた疑問の数々が其々ややこし過ぎると思う。
・祝詞の解釈
・あの絵と石がある意味
・グロッシュラーの歴史、神によって空が隠された事
・青の本、セフィラは青の家なのか?金じゃないの?
・あの絵の本、長以外の金の家の人の存在(有/無)
・神→いるの?
・元々の祭祀→島の両端、対の神殿と天空の門
昔は祭祀により光が降りて豊かになって、その所為で争いが起きて罰として最終的に「無」になって、それでもやっぱり祭祀をして祈るのだけれどその「祈り」の意味って、何。
ああああああああああああああああああああああ
ってなって、外に、来た。うん。
そもそも、ここに来てからみんなが私に対して意味深な事を言い過ぎだと思う。
「何だかんだいっぱい秘密めいた事喋って「よく考えろ(男声)」とか言ってさぁ~…………。もっとはっきり言ってよ…………。」
そう、みんながみんな、殆どグレーのまま濁している問題が多過ぎるのだ。
まず、そもそもラガシュ。
宿題を出す割には混乱する事を沢山言っていた。
「何か本の光の事だって上手く言わされた感あるし………あの絵と石の事も何か知ってそうだけど「祭祀が終わったら答えに近づくでしょう」とか言ってるし。で、私の解釈を聞きたいとか言うし。」
特大のため息を吐く。
ここに小石があったら投げてるな………。
灰色の砂、投げる程でもない小さ過ぎる小石、白銀の靴の下には加工された様な岩肌が見える。
神殿の灰色の階段を下り、前庭の池の辺り。
私は真ん中から二つに分断されている池の、神殿側に立っている。
まるでコンクリートを型に流し込んで作ったような綺麗な四角の、この池は一体どうやって作ったのだろうか。
誰がこの島を創ったの?
神様?
それも気になる事の一つである。
神は、他の扉から現れた。
えー?だよ、えー?!
どこ?どこの扉?もしかして、私がこれから行く扉のうちのどれかが「神の扉」だったら嫌なんだけど………。
何だかみんなの話を聞いて何故だか神に対してあまり良い印象が無い私。
神なのに。
なんだろう、この世界の神様ってなんか…………。
なんだろな………。
自分の頭の中がわからなくて、またぐるぐるする。
そもそも「神」って何。
いるの?どこに?
この世界の神は、あの絵なの?
本当に?
でも、「信じているもの」が神ならばその理屈は通る。神は自分で決められるのだろうか。
でも、「自分が信じる神様」は自分で決められるって事だよね?
概念としての「神」は分かんないけど。
そもそもさぁ、争いがあって何度も「無に帰して」「罰として空が無い」なんてそんなん、争わないようにする事って出来なかった訳?
「神」なんでしょ?
完璧では無い事を理解しながらそれをそのままにして、そして再び間違え、それにまた罰を与える。
あくまで、傍観者って事?
ん?
でもそれ、私と一緒じゃない?
つい、昨日、あの白い部屋で考えた事。
「決めるのは私じゃない」
私は選択肢を提示するだけで、選ぶのは各々だという事。
あれ?
同じ?
これ………歴史から学ばない私達が駄目って事………?
だよね………。
まじか。
神よ。
悪かった。私が。頑張ります。はい。
ん?じゃあ「神」は私達を傍観している、と仮定して。
あの絵、は?
あれに力を溜めて、世界を………維持しているというミストラスの説。
そう、それも気になるのだ。
だって多分、私達が祭祀で祈りを捧げるのは「あの絵と石」の筈だ。
真相は、どうあれ。
もー……………ややこしいんだよ………神は一人迄にしてくれないかな………。
でも、ラガシュは絵と石については「祭祀が終われば答えに近づく」と言っていた。
うん、これは後だ。後。
いつの間にか蹲み込んでいた私。
目の前には大きな池、揺蕩う水、雲からの薄い、光。
揺ら揺らと揺れる、その水に浮かぶ光を見つめながらボーッとする。
何となく、思い付いて立ち上がり進む。
あの、真ん中の通路に行ってみよう。
そうして灰色の砂地を進み、石の通路の上に立った。
うーん。ここもいいな………。
真ん中に立つと、神殿が正面からよく、見える。
相変わらず大きな門、太くどっしりと両脇に立つ柱。
旧い神殿に比べて大胆な彫刻、何もかも大きなつくり。大きくなだらかな傾斜の屋根と雲を見つめ、雲よりは大分灰色が濃い歴史を感じさせるその深い屋根の継ぎ目を見ていた。ここはここで、歴史がある。
そんな事を考えていた、丁度その時。
ん?
何かを感じて振り向くと、池の辺りを歩いて来るのはあの、白い彼だった。
なんとなく、そのまま通り過ぎると思っていた彼はそのままこの真ん中の通路に進み、私の隣に立っている。
珍しい。
久しぶりだし。
普段、何してるんだろ??
訊いたら、教えてくれるだろうか。
そして、何故私と一緒にここで神殿を眺め出した?なんで?
これ、話し掛けるべき???
私が突然の白い彼に一人ぐるぐるしていると、隣でフワリと白いローブが揺れた。
ふと、足元を見ると赤い、色が見える。
「あっ。」
あれだ。私の。
すぐさま赤い瞳を見た。
少し、表情が出ているその赤い瞳は私の中の何かを探っている様に、見える。
なんだろう。
どうしたのかな?
しかし私がその色を窺おうとするとすぐに消え、また無表情に戻ったシン。
しかし、急に私の肩を抱き寄せると「ぐい」ともう片方の手で襟元を乱された。
「えっ。」
なに、何?
一瞬、パニックになったけど、彼の目的が分かってすぐに落ち着いた私。
いやしかし、乙女の胸元を急に剥くのは如何なものだろうか。シンじゃなかったら、犯罪ものだ。
そう、彼が私の肩のアザを確かめたのに気が付いた私はチラリとそれを確認した彼を確認して、胸元を戻す。
ん?今の誰も見てないよね…………?
一瞬ドキリとして神殿の方を見たが、誰もいない。
良かったぁ………こんな所見られたら、何て言われるか………。なんだろな………「沢山の男を手玉に取る悪女」とか?
いや、それ寧ろ面白いな………。
いや、でもそもそもあの嫌味な銀のローブとの事がまだ噂になってたらだけど。
それにしても?
また、赤い瞳を窺うが澄ました色を湛えているその瞳からは何の感情も読めない。
これを確認に来ただけなの………?
でも、私の服を着てくれているシンを見て幾分安心した私は何となく、今の漠然とした心境をポツリ、ポツリと話し始めた。
「………ねぇ?シンも、祭祀に出るよね?」
返事は無いが、頷く彼を見てそのまま話を続ける。
「シンも、あの絵に祈るの?そもそも、祝詞の解釈が終わらなくて…。私は光を降らせる為に祈るけど、そもそも祈りって何だろう的な沼にハマっちゃって、よく分かんなくなってきたし。」
「祈るって、何だろうね。人が信じている神様、ここだとあの絵だけど、それとはまた別に神様っているのかな?私達の事、見てると思う?なんで、傍観してるんだろ?面白いのかな?おもちゃじゃないんだけど………。」
つらつらと続ける、私の話が途切れる。
すると徐ろに、白い彼は口を開いた。
「何事にも、表と、裏が、ある。」
うん?
表と裏?
さてそれは私を閃きに導く答えなのか、はたまた更なる沼に引き摺り込む為の切符なのか。
ゴクリと唾を飲み込んで、シンの話を聞き始めた。
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